プッチーニ 「トスカ」 レッシーニョ指揮
昨年にオープンの港区の麻布台ヒルズ。
近くの役所まで行く用事があり寄ってみましたが、クリスマスイルミネーションはこの日の翌日からで、スタッフが慌ただしく準備中のところを拝見しました。
都会から離れてしまったので、早々に行けないけれど、夜はさぞかし奇麗だろうなぁ。
さて、2024年11月29日は、プッチーニの没後100年の命日にあたりました。
1858年12月22日生まれ、1924年11月29日没。
いうまでもなく、最後のオペラ「トゥーランドット」を完成することなく、咽頭がんの手術も功を奏さず亡くなったのが100年前。
ちなみに、ワタクシは、プッチーニの100年後に生まれてます。
中学生のとき、NHKがプッチーニのテレビドラマを放送して、わたしは毎回楽しみにして観たものです。
かなりリアルにそっくりで、吹き替えの声は高島忠夫だった。
中学生ながらに思ったのは、プッチーニがずいぶんと恋多き人物で、ハラハラしたし、またあらゆるものへのこだわりが強く、妥協を許さず、ちょっとワガママに過ぎる人だな、、、なんてことでした。
トゥーランドットのトスカニーニによる初演もリアルに再現され、リューの死の後、悲しみにつつまれるなか、トスカニーニが聴衆に向かって、「先生が書かれたのはここまででした・・」と語る場面で泣きそうになってしまった。
プッチーニ 「トスカ」
トスカ:ミレッラ・フレーニ
カヴァラドッシ:ルチアーノ・パヴァロッティ
スカルピア:シェリル・ミルンズ
アンジェロッティ:リチャード・ヴァン・アラン
堂守:イタロ・ターヨ
スポレッタ:ミシェル・シェネシャル
シャローネ:ポール・ハドソン
看守:ジョン・トムリンソン
羊飼い:ワルター・バラッティ
ニコラ・レッシーニョ指揮ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団
ロンドン・オペラ・コーラス
ワンズワース少年合唱団
(1978.6 @キングスウェイホール、アルバートホール)
これまで「トスカ」を記事にしたことが限りなく多く、最後にリスト化してますが、没後100年にも、やはりこのオペラを選びました。
プッチーニのオペラ、基本、ぜんぶが好きなのですが、いまは「ラ・ロンディーヌ」が一番好き。
でも、初めてのプッチーニは、「ボエーム」や「蝶々さん」よりは「トスカ」だった。
何度も書いてて恐縮ですが、1973年のNHKホールのこけら落としに招聘された第7次イタリアオペラ団の演目のひとつが「トスカ」。
「アイーダ」「トラヴィアータ」「ファウスト」と併せて4演目、中学生だった自分、すべてはテレビ観劇でした。
ライナ・カヴァイヴァンスカ、フラビアーノ・ラボー、ジャン・ピエロ・マストロヤンニの3人で、指揮は老練のファヴリティース。
演出は伝統的なブルーノ・ノフリで、その具象的な装置や当たり前にト書き通りの演技、初めて見るトスカとしては理想的でしたし、なんといっても赤いドレスの美人のカヴァイヴァンスカの素晴らしい演技に、子供ながらに感激しましたね。
以来、トスカは大好きなオペラとして数多くの音源や映像を鑑賞してきましたが、そんななかでも、いちばん耳に優しく、殺人事件っぽくない演奏がレッシーニョ盤。
久しぶりに聴いても、その印象です。
デッカにボエーム、蝶々夫人とカラヤンの指揮で録音してきたフレーニとパヴァロッティのコンビ。
数年遅れて、デッカが録音したが、指揮はカラヤンでなく、生粋のイタリアオペラのベテラン指揮者レッシーニョとなった。
当時、わたくしはちょっとがっかりしたものです。
この録音は78年で、カラヤンは翌79年に、DGにベルリン・フィルと録音。
ザルツブルクがらみでなく、フィルハーモニーでのスタジオ録音で、こちらはリッチャレッリとカレーラスを前提とした商業録音だったので、レーベルの関係なのか、カラヤンの歌手の人選にこだわったのか、よくわかりません。
しかし、じっくりと聴いてみて、この歌手たちであれば、カラヤンでなくてよかったと、いまも思います。
カラヤンならリリックなふたりの主役を巧みにコントロールして、見事なトスカを作り上げるとは思いますが、カラヤンのイタリアオペラに感じる嵩がかかったようなゴージャスなサウンドは、ときにやりすぎ感を感じることもある。
マリア・カラスが好んだレッシーニョ。
イタリア系のアメリカ人ではありますが、アメリカオペラ界の立役者で、全米各地にオペラ上演の根をはったことでもアメリカでは偉大なオペラ指揮者と評されてます。
もちろんカラスとの共演や録音が多かったのが、その名を残すきっかけではありますが、それのみが偉大な功績となってしまった感があります。
歌を大事にした、オーケストラが突出しない流麗な「トスカ」。
このようなオペラ演奏は、最近あまりないものだから、ある意味新鮮だった。
3人の主役たちのソロに聴くオーケストラが、いかに歌を引き立て、歌詞に反応しているか、とても興味深く聴いた。
一方で、プッチーニの斬新なサウンドや、ドラマテックな劇性がやや後退して聴こえるのも確かで、ここではもっと、がーーっと鳴らして欲しいという場面もありました。
当時、各レーベルで引っ張りだこだったロンドンの腕っこきオーケストラ、ナショナルフィルは実にうまいものです。
フレーニとパヴァロッティ、ふたりの幼馴染のトスカとカヴァラドッシにやはりまったく同質の歌と表現を感じます。
嫉妬と怒り、深い愛情と信仰心で、トスカのイメージは出来上がっていますが、フレーニのトスカはそんなある意味、烈女的な熱烈な存在でなく、もっと身近で、優しく、ひたむきな愛を貫く女性を歌いこんでいる。
1幕で、マリオと呼びながらの登場も可愛いし、教会の中で嫉妬に狂う場面もおっかなくない。
「恋に生き歌に生き」は、心に響く清らかな名唱です。
ラストの自死の場も無理せず、フレーニらしい儚い最後を感じさせてくれた。
ヒロイックでないパヴァロッティのカヴァラドッシも、丁寧な歌い口で、あの豊穣極まりない声を楽しむことができる。
この頃はまだ声の若々しさを保っていて、テノールを楽しむ気分の爽快さも味わえました。
わたしには、スカルピアといえば、ゴッピだけれど、それ以外はミルンズであります。
役柄にあったミルンズの声は、ここではときに壮麗にすぎて、厳しさや悪玉感が不足しますが、やはりテ・デウムにおけるその歌唱には痺れますな!
当時、超大ベテランだった、イタロ・ターヨの妙に生真面目な堂守や、脇役の定番シエネシャルも味わい深く、のちに大成するトムリンソンがちょい役で出てるのも楽しいものだ。
アナログ最盛期のデッカ録音、プロデューサーは、ジェイムス・マリンソン。
エンジニアリングにケンス・ウィルキンソンとコリン・ムアフットの名前があり、この頃のデッカならではの優秀録音が楽しめました。
キングスウェイホールとヘンリ・ウッドホール、響きのパーシペクティブや音の芯の強さではキングスウェイホールが、ほかのレーベルの録音でも好きなんですが、おそらく1幕はキングスウェイホール。
この時期のレコード業界はまさに黄金期でした。
「トスカ」過去記事
「マゼール指揮 ローマ聖チェチーリア」
「シュタイン指揮 ベルリン国立歌劇場」
「シャスラン指揮 新国立劇場」
「カリニャーニ指揮 チューリヒ歌劇場」映像
「T・トーマス指揮 ハンガリー国立響」
「コリン・デイヴィス指揮 コヴェントガーデン」
「マゼール指揮 ローマ聖チェチーリア」独語ハイライト
「テ・デウム特集」
「メータ指揮 ニュー・フィルハーモニア」
「没後100年」
カヴァイヴァンスカのトスカ(1973年 NHKホール)
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