ワーグナー 「パルシファル」 飯守泰二郎指揮
東京シティフィルのパルシファルを聴いてきた。初めての日生劇場で不安だったが、前奏曲では空調の音が気になるものの、歌が入ってからは気にならなくなった。しかし音がデッドで響きが少ない。席が前すぎたのか、弦が奏者ひとりひとりの音で聞こえてしまう。響かないから音が溶け合わないのだろう。床のカーペットや椅子を改修すればかなり違うだろうに。今回この劇場を使ったのは文化会館一回ではチケット売切れるが、日生二回なら良いとなったからか? でも席はかなり空いていたが。もしくは、室内楽的な捉え方として上演する意図なのか?合唱に譜面台を許し、あえてオラトリオ風としたため、小劇場でよかったのか? ウーム。かつての日本のオペラの歴史を築いてきた劇場とはいえ、他の条件の良いホールはいくらでもあるんだが・・・・・。
演出は西沢敬一で変わったことがない代わり普通でト書きに忠実。本式上演じゃないからこれで良いのだろう。読み替えを伴った変わったことやろうとした演出をこのところ観せられてたから、かえって安心だった。音楽に集中できるからね。 衣装は折衷的なものだったが、花の乙女はもう少し派手にして欲しかったのと、クリングゾルが石川五右衛門か道化師のようなナリで変だったことが気になった。
聖金曜日の場面は私の理想とする描きかたで、往年のバイロイトのような静的で美しいものであった。最後はパルシファルが聖杯を掲げつつ終わるかと思ったら、聖杯を一応皆に捧げたあと、仕舞い込んでしまい背中を向けてしまった。舞台奥のスクリーンの聖堂の上に地球が上書きしてが現され、皆でそれを見つめるうちに幕となった。当然クンドリーは事切れず聖堂の一員となった。
歌手は全員よい。特に小山のクンドリーが素晴らしい。昨年のオルトルートに先月のマグダレーネといい、この人の存在感は全く舞台栄えする。よどみなく響く声で ドラマテックでありかつ繊細でもあった。 福島のアンフォルタスも立派なもので、オーケストラを圧してホールに苦悩の叫びが響き渡った。同様に島村のクリングゾルも声量では負けていないばかりか憎いくらい悪のクリングゾルだった。
心配だった難役グルネマンツの木川田は予想を裏切る好印象で、甘みのある美しいバスでルックスもなりきっていた。 そして若い竹田のパルシファルはなかなかスピントの効いた高音を聴かせてくれる逸材で、「アンフォールタース。。。」の一声は見事に決まり、アンフォルタスの苦悩を体現する悩めるパルシファルを好演した。ローエングリンやジークムント向きのヘルデン・テノールである。ローエングリンで活躍したポール・フライに似ている。先だってのエリックの青柳の方が重いテノールと感じた。どちらも無理せずに、じっくり役を広げていって欲しいもの。日本人のワーグナーもすっかり世界レヴェルになったものである。
最後に特筆すべきは、飯守泰次朗と東京シティ・フィルだ。日本におけるワーグナーの第一人者の指揮する手兵の毎度感じるやる気と躍動感は、ほかの在京オケでは味わえないものだ。リング、ローエングリン、その他幾多のワーグナー経験と矢崎彦太郎との精妙なフランス音楽の経験から、生き生きとした音楽性が楽員に行き渡っているように感じる。
飯守のワーグナーの実演は名古屋フィル時代からずっと聴いているが、思えばシュタインのバイロイト時代のアシスタントをしていた頃、N響を指揮したトリスタンをテレビで見た覚えがある。まだ大木正興氏が存命で、N響アワーをやっていた時である。 丁寧に拍子を6つに振り分けていたことが印象的で、その冷静さからは今の円熟した熱いワーグナー指揮者の姿は想像できない。
このコンビの来年のワーグナーはどれが来るか? 私は「タンホイザー」と見た。
日曜の午後の公演もさらに充実することであろう。是非お薦め。
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コメント
はじめまして。
僕も日曜日の公演に出かけて感動の余韻に浸るうちにネットで
「パルシファル」と検索してやって来ました。簡潔にして的確な評に感服した次第です。
トラックバックさせて頂きました。
今後とも宜しくお願いします。
投稿: cypress | 2005年11月16日 (水) 18時37分
コメントどうもありがとうございます。パルシファルのすばらしい余韻が消えるのが惜しくて、無謀にも全曲CDを聴きつづけてました。
余韻とともに、前列で無理な体勢をとったせいか、首と肩がやたらに凝った公演でもありました。
投稿: yokochan | 2005年11月16日 (水) 23時53分
あと、言わずもがなですが演出、西沢さんじゃないですよね(^^♪
投稿: cypress | 2005年11月17日 (木) 14時39分
泰次郎さんのライヴ、昨年12月に関西フィルとの『第九』で接する宿願叶いました。やはり予想に違わぬ巨きな音楽が、ザ-シンフォニー-ホールに鳴り響き、言い難い感銘を胸に仕舞いつつ、帰途につきました!
投稿: 覆面吾郎 | 2019年12月 8日 (日) 08時12分