シャーンドル・コーンヤ プッチーニ・アリア集
今夜は、名付けてテノール・シリーズ第2弾として、それこそ「コンヤ」。おそらく、「シャーンドル・コンーヤ」と呼ぶのだろうか。50年代後半から70年代前半にかけて活躍した、ハンガリー出身のテノールで、テノール歌手の分類からすると、「リリコ・スピント」から「ドラマティコ」、ドイツ・オペラでは「ヘルデン」まで行かない「ドラマティツク・テナー」に属する人だ。あまり記録がないため、生年は不明、今、健在かも不明。
この人は、むしろワーグナー・テノールとしての名前の方がピッタリくるであろう。手持ちのCDでの、「ローエングリン(ラインスドルフ)」、「マイスタージンガー(クーベリック)」のほか、「パルシファル」などを得意とし、バイロイトで活躍した。
イタリア部門でも、「ドン・カルロ」「ラダメス」「リッカルド(仮面)」などのヴェルディとプッチーニ全般を持役としていたが、記録は少ない。NHKのイタリア・オペラでの来日もあった。
本日のCDは、そんな「コーンヤ」の「プッチーニ・アリア集」である。テノールによるプッチーニ集は極めて珍しい。しかも、バックが「アントニーノ・ヴォットとフィレンツィオのオケ」なのである。
オーケストラの雰囲気豊かな伴奏以上の伴奏を聴くだけで、このCDは価値があると思う。ほんの数分のアリアにプッチーニが与えたオーケストレーションの妙は、同時代のマーラーにも通じる後期ロマン派の世界を思わせる。カラヤンやメータは濃厚に描くが、ここに聴くヴォットの演奏は、完全にオペラの一場面であることを感じさせつつ、プッチーニのそうした個性をつつましくも表出してやまない。
オーケストラばかり誉めてが先行したが、コーンヤのテノールはワーグナーで親しんだ雰囲気よりは、ずっと柔らかく、リリックである。やや硬質で、不安定感もあるが真摯な歌いぶりは、熱中感の少ないクールなプッチーニとして、今でも充分通じるものかと思う。ちなみに62年録音。とりわけ良かったのが、「ピンカートン」「デ・グリュー」の役か。
得意とするワーグナーの諸役が、真面目役が多い。それだけ清潔感に溢れた歌いぶりなのだが、プッチーニの諸役では不真面目な役柄での歌がかえって面白く聴かせる。
ピンカートンを不真面目と称しては語弊があろうが、それだけプッチーニにおいても真面目な歌いぶりなのである。こんな男が何故・・・・という気持ちを抱かせる、そんな真面目人間コーンヤなのだ。
このCDには、楽しいオマケがある。シュタイン指揮の「ナブッコ」とクワドリ指揮の「アイーダ」のそれぞれドイツ語の場面である。それこそワーグナー・チックな一場面。
かつて日本でも、日本語翻訳でのオペラ上演が普通であった。世界的に音楽家の演奏能力は高まっているわけである。
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