シューベルト「美しき水車小屋の娘」 ヴンダーリヒ
よく晴れた日曜の昼下がり。明日からの美しき5月を前に「美しき水車小屋の娘」を取出した。シューマンも気になったが、まずはシューベルト。「さすらいの歌」なのだから。同時代のミューラーの詩によせたこの歌曲集は、青臭くもあるが、一度は通る憧れに満ちた日々の回顧に満ちている。シューベルトの歌曲集は好きだが、この水車小屋が以外や一番中身が重くてつらい。
全20曲からなるが、元気良くさすらいの旅に出る若者だが、親方の娘に恋をし、恋敵、狩人の出現から陰りある雰囲気になってくる。最後は恋破れ、身を投げてしまうが、水車を回す小川だけがいつも彼を見つめ、優しくつつんでくれる・・・。何も死ぬことはないだろうが、こんな多感な気持ちを今の別次元の若人には理解できまい。
シューベルトが付けた音楽は、抒情に満ちかつ牧歌的な雰囲気をかもしだす魅力に満ちたもので、つくづく歌を紡ぎ出す天才なのだ、と思わせる。
歌は、不世出のテノール「フリッツ・ヴンダーリヒ」の残したDG盤で。
ヴンダーリヒは1966年に階段から落ちて35歳の若さで亡くなってしまった。その若さで、カラヤンやベーム、リヒター等と共演し、そこそこの録音を残した。いかに実力があり、ひっぱりだこであったか。慎重にリリックな役どころのみを大事に手掛け、その端正で清潔な歌いぶりは、今でも充分に新鮮である。
このシューベルトは、亡くなる年の録音で、ニュートラルで淡々とした誇張のない歌は、この悲劇的な主人公の若者に同化せず、さながら小川のようなやさしさをもって見守るような歌唱を聞かせる。そして、ドイツ語の模範的な美しさも実感できる。この人が、もう少し活躍していたら・・・・、という思いは捨てきれない。
ジャケットの良さも特筆。
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