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2006年7月19日 (水)

ワーグナー 「ラインの黄金」 カラヤン

Karajan_rheingold

バイロイトのシーズンを前に、連続ワーグナーもついに「リング」に立ち向かわざるを得なくなった。最高峰を前に足がすくむが、実は一番楽しみにもしていた。4部作を制覇した後の満足感は耐えがたい喜びであるから。
かなり集めてしまったので、1度しか聴いていないものもかなりある。
そんな中から、「カラヤンとベルリン・フィル」を選択した。

「ニーベルングの指環」は舞台祭典劇とした。その4部作の1作目は前夜祭または、序夜と呼び第1夜は次作の「ヴァルキューレ」である。ややこしい。
しかも、作品の成立過程がまたややこしい。
中期ロマンティック・オペラ「ローエングリン」と並行して、ゲルマン伝説に基づく「ジークフリートの死」の作品台本を書き上げた。同時期の構想として、「ドイツ王フリードリヒ」と「ナザレのイエス」を書き進めていたというから驚きだ。後者はのちに「パルシファル」へと変貌していったはずだ。

「ローエングリン」の初演のあてもないまま、自己の活動に日が当たらないことに業を煮やし、政治活動に力を入れ、当局に睨まれスイスに亡命。
「ローエングリン」はリストにより初演され成功するが、構想中の「ジークフリートの死」はその前段「ジークフリート」によりその生い立ちを明かす必要が生じ、さらにウェルズング族の興亡を描くため、「ワルキューレ」が必要となった。さらの、その序である「ラインの黄金」伝説が必要となり、結果として遡った格好で4部作の原案の完成となった。

作曲は「ローエングリン」のあと、原作とは逆に「ラインの黄金」「ワルキューレ」と進められた。同時進行で、政治運動に反対した普通の妻「ミンナ」の理解を得られぬ反動と、豊富な経済援助を施してくれた「ヴェーゼンドンク夫人」への愛情の傾斜、さらに「ショーペンハウエル」の哲学の影響などもあって、「トリスタン」の構想が同時に芽生え、「ジークフリート」の第2幕までで、作曲を中断し、「トリスタン」の世界に没頭することとなった。
さらに「マイスタージンガー」も同時進行した、という「ウルトラ・ハード」振りである。
 まさに天才のなせる技であろう。

「ラインの黄金」は巨大作のなかでは、一番コンパクト。それでも2時間30分という長さで、連続して上演される。演奏する側も、聴く側もトイレには万全を期さねばならぬ。
すべての始まりであるとおり、ここではプリミティブな雰囲気が満ちている。
自然の動機というライトモチーフが導き出される前の低音の5度から始まる。
ここを原始的にもやもやっと始めるのがクナッパーツブッシュだとすると、カラヤンはクリアーに透けて見えるような和音で始める。
この楽劇は、笑えるくらいリアルなライトモティーフに満ちている。序夜だから、みんなスッピンの動機なのだ。自作以降は、いろいろと姿形を変えて登場する動機たちである。

登場人物も、「天上の神々」「地上の巨人族」「地下のニーベルング族」そして「ラインの乙女たち」と主要な対立構造の種族たちがすべて出てくる。
みんな一癖も二癖もある、「あこぎなヤツ」ばかり。リングにいい人はいない。
もっとも悪党してるのが「神々の長、ウォータン」だろう。
金もないのに、巨人達に城を普請させ、代金のカタに美女「フライア」を取られてしまうありさま。しかも彼女を取り返すべく、ニーベルング族のアルベリヒが盗んだ「ラインの黄金」や彼が愛を断念して得た財宝を騙し取る。泥棒から泥棒したわけだ。
この泥棒銭で、城代金を支払った悪い神様がウォータンだ。
ワーグナーは自分に似せて描いたのだろうか?

まあ、そんなことを抜きにカラヤン盤を楽しむわけだが、一聴して、バイロイトのオケと雲泥の差を感じるベルリン・フィルの凄さ。
あらゆる段階の強弱が用意されている。録音芸術ではあるが、歌手をソリストにしたかのような協奏曲的な音楽が展開されている。
カラヤンの意図は明確だ。こんなベルリン・フィルの圧倒的な力を意図的にセーブしたり爆発させたりしながら、歌手もコントロール下に置き完璧な表現を目指している。
ショルティ盤が50年代を引きずった大歌手主体の演奏だったが、カラヤン盤は歌手は大きな個性はないかわりに、美声をあつめ、指揮者主体の演奏となっている。

そんな中で一人だけ、F・ディースカウの頭脳的・知能犯的なウォータンがそうした枠から一歩踏み出しているところが面白い。
ほかの歌手陣は皆完璧に美しく、巧いものだ。

最後のヴァルハラ城への入場の壮麗さは素晴らしい。感動した。

 

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コメント

私のリングのディスクは当然のことながら一種類でカラヤンです。
選択基準は録音がいいこと、歌手が魅力あること、カラヤンへの信頼感でした。
買ったはいいけど果たして何度聴いたのか、時々神々の黄昏のフィナーレを聴いたりします。
今年は久々に通しに挑戦しようかなと思っていますがさて・・・

投稿: びーぐる | 2006年7月20日 (木) 23時15分

こんばんは。カラヤン盤を選択されたことは正解ですね。私のリング1号は、ベームのレコードでして、もう何回聴いたかわかりません。若い頃は、元気も時間もたっぷりあったのでしょうね。

投稿: yokochan | 2006年7月21日 (金) 00時11分

遂に「リング」突入ですね。
CDではサヴァリッシュのみ。反省してハイティンク買い始めました。あと「ジークフリート」だけです。ハイテインク、安定してるし丁寧なんだけど、高揚感がないんだなぁ。でも、今から20年近く前の演奏なのですから当然なのでしょうね。
今の彼だったらもっと凄いことになったかも・・・。
LD・DVDでブーレーズとバレンボイム、ド・ビリー&リセウのクプファー第2演出、腹が立つツァグロセクのシュトゥットガルト歌劇場、ヘンヒェン=アウディの、もっぱら映像でリングにはまる毎日。音だけで「リング」に挑戦ということだと、IANISはめげてしまいます。

投稿: IANIS | 2006年7月21日 (金) 23時07分

IANISさん、こんばんは。映像をたくさんお持ちで羨ましいです。私ははまらないように、慎重に距離を置いてますが、極めて危険な昨今です。
ハイティンクのリングはおっしゃるように高揚感がいまひとつの感があるのと、ムラも感じます。
その点、カラヤンの巧妙さには舌を巻きます。
次はワルキューレですが、出張とか入ってしまうと、挫折しそうになります。シンドイです。

投稿: yokochan | 2006年7月23日 (日) 22時02分

こちらにもこんばんは♪  カラヤンのリングかぁ。  ずいぶん前に処分してしまいました ^^;  何せリングは場所をとるのでねぇ・・・・。  我が家の収納スペースは非常に限られておりまして・・・・ ^^;

>リングにいい人はいない。

まったくです!  これでよく「神話」だなんて言えたものです!!(笑)  ま、神様も人も似たり寄ったりっていうことでしょうか??  もっとも聖人の集まりじゃ物語としてはつまらないですものね♪

投稿: KiKi | 2006年7月28日 (金) 00時31分

kikiさん、ありがとうございます。
私のワーグナー置場は、部屋の高所へ追いやられております。したがって、高い踏み台に乗って目当てのものを探すわけですが、難儀してます。
がさばりますよね。困ったもんです。
「非神話説」はワーグナー自身が、相当性悪だったから訳もないんでしょうね。

投稿: yokochan | 2006年7月28日 (金) 20時51分

yokochanさん、おはようございます。
昨日はゆっくり出来たこともあって久しぶりにワーグナーを聴きました。「ラインの黄金」(ベーム/バイロイト祝祭管盤)です。この記事を見つけましたのでTBさせていただきました。
カラヤンの「リング」は精妙で、オケのパワーが強烈でした。yokochanさんがおっしゃるように「ソリストが協奏曲的に」配置されているのも面白く聴けますね。

投稿: mozart1889 | 2006年11月19日 (日) 05時39分

mozart1889さん、コメントとTBありがとうございます。
カラヤン盤は良くも悪くもオーケストラが主役に感じますね。
そんななかで、フィッシャー・ディースカウだけが、マイペースで思うところを独自に演じているところが面白いと思います。

投稿: yokochan | 2006年11月19日 (日) 23時13分

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