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2006年8月 5日 (土)

エリザベート・シュワルツコップを偲んで

Schwarzkopf 「エリザベート・シュワルツコップ」が8月3日、オーストリアの自宅で亡くなった。1915年生まれ、享年90歳。
70年代にすでに現役引退していたので、あまり便りは聞かれなかったものの、後進の指導に熱心で、日本にも学生の指導にやってきていた。

シュワルツコップというと、切ってもきれないのが、EMIのプロデューサー「ウォルター・レッグ」と「カラヤン」だろう。
レッグは夫ともなったが、ワンマン・エゴタイプの厳しい人物で、シュワルツコップの歌に惚れ込みEMIに数々の録音を残したことの功績は大きい。
レッグが創設した「フィルハーモニア管」に呼ばれていた「カラヤン」も、シュワルツコップの歌唱を高く評価し、3者のプロジェクトも多く残された。
「ばらの騎士」はその代表であろう。

シュワルツコップはリリック・ソプラノの範疇に入るだろうか、優しくも羽毛のような歌声。
単に耳に優しいだけではない。言葉の意味を一語一語慎重に吟味しつくし、歌の背後にある深い意味までを掘り下げる。
その知的な歌いぶりは、作品によってはまると絶大な感動を呼び覚ます。
最も得意としたモーツァルトは、作品によってはちょっと行き過ぎかな、と思われる役柄もあるが、「フィガロ」の伯爵夫人などはたそがれ染まる中に、女らしさを楚々と歌いこんで他の追随を許さない。

Schwarutzkopf2 しかし、何と言っても、R・シュトラウス! それも「ばらの騎士」のマルシャリン。ザ・マルシャリン=シュワルツコップ、こんな図式が私には出来上がっている。
録音が平板なこと、オケがウィーンだったら、というわずかな不満はあるにしても、若いカラヤンとともに、爛熟の世紀末ウィーンの色香を、諦念とわずかな望みの中に漂う希望を鮮やかに表出している・・・・。
こんなマルシャリンを歌いこんだシュワルツコップは最高である。

今回のCDは、そんな彼女のオペラにおける「いいとこどり」の1枚だ。
「フィガロ」「ドン・ジョバンニ」「コシ・ファン・トウッテ」「フィデリオ」「魔弾の射手」「ローエングリン」「売られた花嫁」「ばらの騎士」「ナクソスのアリアドネ」「アラベラ」「オペラ舞踏会」「こうもり」、こんな素晴らしい作品から名唱が収められている。
オーケストラがすべてフィルハーモニアなのも面白い。
 もし、レッグと出会わず、デッカのカルーショーだったら、ウィーンでの録音やワーグナーもあったかもしれない。

「メリー・ウィドー」がないのは残念だが、個人的には、「ばらの騎士」、「アラベラ」のシュトラウスがまったくもって素晴らしかった。
シュワルツコップはオペラばかりでなく、歌曲においても絶大な歌い手であった。
フィッシャー・ディースカウと双璧のたぐいまれなリート歌手。
ムーアのピアノで歌った4枚のソング・ブックが手元にある。じっくりと聴いていこう。

年月の経過と共に、過去から我々に音楽を刻んでくれた名手たちが、一人、また一人と世を去っていく。今年は、ニルソン、ロスアンヘレスと好きな女性歌手が亡くなった。
歌手達は、活躍の期間が限られていて、忘れた頃に巨星が消えてしまう。
その歌手達で私達にすり込まれた、役柄だけを残して・・・・。

ご冥福をお祈りします。

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コメント

シュワルツコップの死はクラシック愛好者のまさに「よき時代」の終焉を告げる出来事とも言えます。カラヤン、バーンスタインの死後クラシック界は急激にテンション・ダウンしましたがもう「今のメンツ」では下降するばかりでしょうね。残念ながら。

投稿: einsatz | 2006年8月 6日 (日) 02時14分

einsatzさん、おはようございます。またご無沙汰しちゃってます。
まったく、おっしゃる通りです。時代の終焉は決定的です。カラヤンのリングを通し聴きしている最中ですが、「神々の黄昏」にいたって、カラヤンの物凄さに改めて驚くと同時にまさに、時代の黄昏を振り返えざるをえません。

投稿: yokochan | 2006年8月 6日 (日) 09時11分

ルックスに影響されすぎかもしれませんが独特の気品がある方ですね。
歌い方はやや古いのかなと感じることもありましたが。

投稿: びーぐる | 2006年8月 7日 (月) 09時44分

びーぐるさん、こんばんは。確かに、モーツァルトあたりでは、今となっては「古さ」を感じる部分もありますね。シュトラウスなんかは、この人の歌がすりこまれてしまっているので、他の人ではどうも・・・。
ということになってしまってます。

投稿: yokochan | 2006年8月 7日 (月) 23時26分

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