ヴォーン=ウィリアムズ 「南極交響曲」 プレヴィン
クールダウン系の音楽をまたひとつ。
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(RVW)の多彩な9曲の交響曲から、7番目にあたる「南極交響曲」、作曲者は「SINFONIA ANTARTICA」というイタリア語の表示を与えた。1951年、80歳という年齢での作品で、驚くべき創作意欲である。
もともとは、その数年前に書いた映画「南極のスコット」に付けた映画音楽であったものを、交響曲に編みなおした。
その映画は、1912年に南極点を目指したイギリス、スコット隊の遭難の悲劇を描いたものらしい。一度音楽付きで観てみたいものだ。
ちなみに、スコット隊に先んじること1ヶ月前には、ノルウェーのアムンゼン隊が南極点に到達している。アムンゼン隊は極点のみをひたすら目指し、スコット隊は途中、学術的な研究や観察を経ながらの進行ゆえに差と悲劇が生じたと言われる。
肝心の交響曲は、大編成のオーケストラによる「南極」の描写音楽という要素に加えて、大自然に挑む人間の努力やその空しさ、最後には悲劇を迎えることになり死を悼むかのような悲歌に終わる。こんな一大ページェントなのだ。
シュトラウスのアルプス交響曲のような楽天的な派手さはなく、常にミステリアスで、悲劇性に満ちた交響曲になっている。
描写の部分では、氷原を表わすような寒々しいソプラノ独唱や女声合唱、滑稽なペンギンや鯨などが表現される。怪我をした隊員が足手まといになることを恐れ自らブリザードの中に消えてゆく・・・、こんな悲しい場面もオーボエの哀歌を伴って歌われている。
最終楽章では、大ブリザードに襲われ壊滅をむかえてしまう。嵐のあとは、またソプラノや合唱が寒々しく響き、全く寂しい雰囲気に包まれる。ウィンドマシンの音が空しく鳴るなか曲は消えるように終わる。
こ~んな情景を思い浮かべながら聴いていると、体感温度は2度くらい下がる。
プレヴィンがRCAに残した全集で聴く。画像はレコード購入時のもので、このジャケットもオリジナルではないが秀逸であった。
プレヴィンの優しくもわかりやすい南極案内は楽しい聴きもの。ヘザー・ハーパーの無機質なソプラノもよい。加えて、この演奏には、作曲者が与えた各章の引用句が語りによって挿入されていて雰囲気が豊になっている。ナレーターなしでの真摯な名演としてハイティンク盤もお薦め。
「希望が無限なように思われる苦難を耐え忍ぶこと。・・・・ひるまず、悔いることなく、全能と思われる力に挑むこと。このような行為が、善となり、偉大で愉しく、美しく自由にさせる。
これこそが人生であり、歓喜、絶対的主権および勝利なのである」(シェリー詩)1楽章の引用句。
「私は今回の旅を後悔していない。我々は危険を冒した。また、危険を冒したことを自覚している。事態は我々の意図に反することになってしまった。それゆえ、我々は泣き言を言ういわれはないのだ。」 遭難後、発見されたスコット隊長の日記。
終楽章に引用された一節。
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コメント
南極という先入観があるからか、ウィンドマシンの効果か、印象に残る曲ですね。
投稿: びーぐる | 2006年8月21日 (月) 22時39分
こんばんは。作曲当時、といっても映画盤が47~8年頃ですが、未知の世界、南極のイメージはこんなものだったんでしょうね。
投稿: yokochan | 2006年8月21日 (月) 22時52分
こんにちは。
すいません、記事がかぶってしまいました。
ウチのはハイティンク盤です。
トラバってみました。
投稿: naoping | 2006年8月24日 (木) 06時57分
こんばんは。4日に渡る東北行脚から帰ってきました。やはりnaopingさんも「南極」ですな。
こりゃ夏にも良し、厳冬にも良しなのです。
私は好きが昂じて、プレヴィン、ハイティンク、ボールト、トムソンの全集を揃えてしまいました。バカですね。
投稿: yokochan | 2006年8月26日 (土) 21時17分
yokochan様今晩は。
アンドリュー・デイヴィス指揮の全集で三度聴いたのですが、私にとっては非常に手ごわい曲という印象をうけました。同じRVWの1番や2番や5番のように素直に楽しめる曲ではないです。大編成のオケにウィンドマシーンも加わるというとどうしてもアルプス交響曲的な派手さや華麗さを求めてしまうからかもしれません。しかも映画音楽が母体なのでどうしても華麗さや豪華な響きを求めてしまう。これだけ大編成のオケを使ってしかもコーラスやウィンドマシーンまで加わっているのにどうしてこんなに地味でくすんだ響きがするのだろうと戸惑っています。何度も聴けば印象も変わってくるかもしれませんが…今は大好きなマーラーの9番やバルトークのカルテットだって初めて聴いたときはうるさいだけでしたし…
ダンとシェリーとコールリッジの詩が朗読されますが、英文科卒なのに3人ともロクに読んだことがないのが我ながら情けないですね…コールリッジの文学的盟友だったワーズワースの詩は好きですが…
投稿: 越後のオックス | 2008年12月10日 (水) 00時49分
越後のオックスさま、こんばんは。
RVWのシンフォニー・アトランティカは、ダメでしたか。
私は初期に無心に聴いた成果もあって、映画的な描写手法が結構気にいり、その旋律が、頭で想像したムードとともに手の内にはいっております。
RVWの交響曲は、なかなかに手ごわくて、その多彩さと意図の不明さにおいては、ショスタコ並みかと思ってます。
ことに番号なしのものは。
いっそ、ナレーターなしの純音楽に徹してお聴きになることもいいかと思います。
投稿: yokochan | 2008年12月10日 (水) 23時40分