R・シュトラウス 歌劇「カプリッチョ」 フレミング
昨晩、NHKBSで、R・シュトラウスの歌劇「カプリッチョ」の放送があった。
当然に録画し、試聴した。NHKにしてはなかなかにやるではないか。
こんなド渋いオペラを放送してくれちゃうとは。これも一重に「ルネ・フレミング」あってのものだろうか。
このDVDは、年内に国内発売されそうであるから、尚のこと得した気分。
2004年に、パリ・オペラ座で収録されたもの。
パリの本格オペラは、バスティーユになってしまったから、この上演がどういういわれかはわからないが、舞台背景をオペラ座の豪華なロビーや舞台そのものに求めていることもあって、特別なプロジェクトだったんだろう。
R・シュトラウス最後で、15番目のオペラは2時間30分にわたって言葉の渦というくらい、セリフに満ちていて、かつ内容も渋く難解で取っ付きが悪い。
音楽は、晩年の澄み切った境地にあっただけに、簡明で透明感溢れるものであり、馴染みやすいので良く聴いていたが、こうして字幕付きで観ると、内容がすらすら解かって実に楽しい至福の2時間30分となった。
本当によく出来ている。若き伯爵とその妹伯爵令嬢のサロンで芸術家達が集う。
作曲家と作詞家は令嬢に想いを告げるが、二人を決めかねる令嬢。
そんな中で、音楽と言葉(詩)のどちらが重要か? 鶏と卵のような議論が、先の二人に舞台演出家と女優を交えてケンケン・ガクガク交わされ、仕舞には舞台演出のひどさまでが非難の対象に・・・・。
そこで、演出家が延々と「劇場の法則」を演説する。
この場面は、「マイスタージンガー」のザックスのようだ。これに皆感動。
そして「調和の女神」たる令嬢がオペラをこのメンバーで作ってみたら、と提案。
伯爵のアイデアで、今日の出来事(音楽と言葉の議論)を題材にすることに。
そこで一同解散となるが、舞台下から何とプロンクターがちょこっと登場。
劇場の中で忘れられた地味な存在、イギリスの名テノール「ロバート・ティアー」の味のある登場であった。
有名な「月の音楽」がここで始まる。
このホルンのソロを伴った素晴らしい音楽は、文字通り月の雫が滴り落ちるような美しさ。
パリのオペラ座のホルンも見事なものだったが、ドレスデンのペーター・ダムや、ウィーンのヘーグナーらの演奏が理想的。
そのあとの、伯爵令嬢のモノローグは、二人(または音楽と詩)を選ぶに選べない心の葛藤と諦念が、シュトラウスの美しい旋律と既出のモティーフがあやなす上質な肌ざわりの音楽で歌われる名品。
結局、答えを出せないまま音楽は洒落た幕切れとなる。
この作品の台本は、作曲者と何と「クレメンス・クラウス」である。
ナチが台頭していた時期の作品だけに、何とも・・・の気分ではあるが、名作に違いない。
ロバート・カーセンの演出は、作曲当時の時代設定と豪華な舞台、人物描写のきめ細かさなど、奇をてらったところなく見事なもの。
ゾフィー・オッター演じる女優が、マレーネ・ディートリヒのようで、彼女に付き添う人物はゲシュタポそのもの。
最後のモノローグを、劇中劇のように扱ったところは秀逸。
肝心の「ルネ・フレミング」、私は時として彼女の濃厚な表現をともなった歌唱がツライ場合があるが、映像を伴い、またシュトラウスとなると別物、その見事さに正直驚いた。
シュヴァルツコップ、ヤノヴィッツ、トモワ・シントウと続いたこの役の系譜に彼女が名を連ねられるか・・・。
もう少し大人の魅力が欲しいところかな。
指揮の「ウルフ・シルマー」は、この曲をキリ・テ・カナワと録音して、ウィーン生まれらしい自信に満ちた演奏だった。
愛聴盤は、「ベームとバイエルン放送響」、枯淡の名演はいずれご紹介。
秋の日のコスモス、娘が撮影。私は家で酔っ払い。不健全なり。
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コメント
シュトラウスのオペラ、5大オペラ以外の映像作品が段々と増えてきて楽しみです。しかも一番渋い「カプリッチョ」だもんなぁ・・・。ここまでくれば次に「インテルメッツォ」や最も舞台化が難しいとされる「ダーナエの愛」も期待しちゃいます。
投稿: IANIS | 2006年9月27日 (水) 20時32分
IANISさん、こんばんは。
そうなんです。うまくすれば全15作品揃うかもしれませんね。でも「グンドラム」と「火の欠乏」は難しいかも・・・・。
話はかわりますが、アバドの公開リハーサルのチケットが当たってしまいました。平日の昼ですが。
投稿: yokochan | 2006年9月27日 (水) 22時40分