ワーグナー 「ニーベルングの指環」 ヴァルナイを偲んで
昨晩は横浜にてすこぶる愉しい時間を過ごすことができました。リベラ33さん、yurikamomeさん、romaniさん、皆様と会合し酒席を持つことができました。こんな素晴らしい機会を企画いただいたリベラさんに感謝感激。クラシックブログの中でも名うての皆様の博識かつ豊富な音楽体験を前にただ恐れ入るばかりでありました。
音楽とその周辺の話題を肴に、ジョッキやグラスを傾ける愉悦は何ものにも変えがたいものがあります。こんな稀な体験ができました。仕事仲間や取引先との酒席とは別次元。
本当に、時間が惜しいくらいでありました。ありがとうございました。
またの機会を是非に。
さて、往年の大ワーグナー・ソプラノ「アストリッド・ヴァルナイ」が9月4日、ミュンヘンで亡くなった。88歳であった。
少し後輩のビルギット・ニルソンに続き、これでまた良き時代の巨星が一人去ってしまった。
ニルソンと同じ北欧スウェーデンの出身とばかり思っていたが、こうして亡くなってみてバイオグラフィーを見てハンガリー人の両親の元にストックホルムに生まれ、アメリカで育ったようだ。「ヴァルナイ」はハンガリー人によくある名前だし、「アストリッド」はスウェーデン系でよくある名前。
私のような年代だと、ブリュンヒルデ=イゾルデ=ニルソン(サロメ、エレクトラ)、こんな図式があって、それ以外はなかなか考えられない強烈な刷り込みがあるのではなかろうか。
これは間違いなく、ショルティとベームのレコードの影響である。
ニルソンの全盛期は、50年代末~60年代で、各社ステレオ録音による各種レパートリーの録音全盛時期と重なる。
ヴァルナイの活躍時期は、ニルソンより少し前まさに50年代そのものであったから、ワーグナーのような長大な作品は、正規録音出来なかった時期だ。
要は正規の商業録音がなかったゆえ、我々日本人には馴染みのない歌手だった。
そんな彼女の歌声が最近次々と復刻され、その素晴らしさに私も開眼したのがつい最近。
クナッパーツブッシュの51年「黄昏」、同じクナのリング(56年)、クレメンス・クラウスのリング(53年)、極めつけはカイルベルトのリング(ステレオ55年、54年)、といった具合にいずれも「ブリュンヒルデ」で驚くべき歌を聴かせてくれている。
55年カイルベルトが破格に素晴らしいと聞くが、これはまだ未取得。
本日は、K・クラウスの唯一のバイロイト・リングから、ブリュンヒルデの登場する名場面をいくつか聴いて見た。
「ワルキューレ」 死の告知、ウォータンとの別れの場面
「ジークフリート」 二重唱
「神々の黄昏」 ジークフリートの旅立ち、2幕の裏切られた後
自己犠牲
聴いていて驚くのは、その声のピーンとした張りと明晰さ。最後まで変わらず、乱れない完璧な歌のフォーム。ニルソンと同質の強靭な声ではあるが、ニルソンの怜悧さはなく、もう少しぬくもりがある。さらに言葉に対する、強い表現意欲。
ヴィントガッセンも絶頂期の声が記録されているが、そのヴィントガッセンすらタジタジになってしまうくらいの説得力に満ちている。
歌手の場合、現役を終え自適生活を楽しんだあげく亡くなるので、遣り残された没後の無念さはないが、聴き手にとっての懐かしい過去が徐々に幕を閉じていくかのような感慨を覚えることになる。
ニルソンやホッター、シュヴァルツコップはその典型だが、ヴァルナイは近時聴き始めたこともあって、過去は過去でも私には、これから味わい楽しんでゆく新鮮な歌手かもしれない。マルタ・メードル(存命)もそうした一人かもしれない。
曲が佳境に入ってついつい長聴きしてしまう。ヴァルナイを聴く趣旨に厳しく立ち戻りながらも、往時の名歌手達とクラウスの明快な音楽を堪能した。
大歌手アストリッド・ヴァルナイのご冥福をお祈りします。
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コメント
おはようございます。
ヴァルナイも亡くなってしまいましたね。残念です。
このごろ、往年の名歌手が次々に故人になってしまいます。時の流れをしみじみ感じます。
投稿: mozart1889 | 2006年9月 9日 (土) 08時55分
この前はとっても楽しかったです。本当にこの次の機会が楽しみでなりません。
それにしても遠くまでご足労ありがとうございました。
皆さんの楽しいお話で時間が経つのがアッというまでした。そんなわけでついつい遅くまで引っ張ってしまい申し訳ありませんでした。
ところで、この歌手の歌っているカイルベルト盤の話がでていましたね。これはなおさら聴いてみなければいけません。
楽しみがどんどん増えていき困っています(笑)。
投稿: yurikamome122 | 2006年9月 9日 (土) 16時04分
mozart1889さん、こんばんは。
そうなんですね、往年の歌手達が徐々に亡くなっていってしまい、ほんとに寂しい限りですね。
歌手の場合は過去を振り返るだけになおさらであります。
投稿: yokochan | 2006年9月 9日 (土) 22時41分
yurikamomeさん、こんばんは。ご足労なんてとんでもない。ああした時間はホントにあっという間にですよね。心から愉しかったです。
カイルベルトのステレオ盤は、今続々リリース中ですが、私も未聴です。音楽の道はキリがないですね。
でも、やめられません。
私の方は、神奈フィル詣でを是非にと思ってます。
投稿: yokochan | 2006年9月 9日 (土) 22時47分
初めまして。Niklaus Vogelと申します。
ヴァルナイ逝去のニュースは、とても寂しいものでした。昨年11月末のジェイムス・キングにはじまり、ビルギット・ニルソン、そしてヴァルナイ…。
ところで、確かメードルは2001年に鬼籍に入られたと思います(享年89歳)…ヴァルナイはまさに、往年のワーグナー歌手たちの最後の生ける星であったようです。
投稿: Niklaus Vogel | 2006年9月10日 (日) 00時09分
ちょっぴし遅れてトラックバックです。
私もカイルベルト盤を聴く前はクレメンス・クラウス盤(むかーしバラ売りで「神々の黄昏」だけやけに高いお金出して買いました。全部聴きたかったけど、我慢して。その後、緑箱の全曲盤が発売されてやっと全曲聴くことができました)を聴いていました。多分、私がヴァルナイを初めて聴いたのはクラウス盤だと思います。
それにしても、音楽仲間さん達と集まれて楽しそうですね!うらやましー(笑)。
投稿: naoping | 2006年9月10日 (日) 12時58分
Niklaus Vogelさん、初めまして、ようこそおいで下さいました。キング、ニルソン、そして少し前のホッターと時間の流れは止めようがありませんね。
いやはや失礼をばしました。メードル女史は既に亡くなってましたか!どちらかというと、メードルは少し古めかしい歌唱ではないかと思ってましたが、ベームのリングにも出てましたね。
またよろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2006年9月10日 (日) 15時01分
naopingさん、こんにちは。
クラウス(緑箱)やカイルベルト(赤箱)のリングは値段も手頃、録音もよしで、なかなか聴き応えありますね。ヴァルナイのイゾルデが聴きたくなり、探してますがヨッフム指揮のGM盤がありそうです。
そうなんです。音楽だけの繋がりによる集いでした。
こういう酒はホントに美味いもんですよ。
投稿: yokochan | 2006年9月10日 (日) 15時14分