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2006年10月22日 (日)

ヴェルディ 「シモン・ボッカネグラ」 アバド指揮

Simon_1 アバドの録音の中でも、非の打ち所のないトップクラスの超名盤CD。

いや、あらゆるオペラ録音で、自分のなかでは5指に入ると思っているうちのひとつが、この「シモン・ボッカネグラ」。
アバドの指揮姿が鮮やかに残影として残っているうちに、これを取上げてしまおう。

スカラ座監督時代、執拗に同じキャストを伴って上演し続けた「シモン」は年を経るごとに完成度が高まっていった。
そしてそのピーク時に伝説的な来日公演が行われた。(1981年)

Simon_2 76年のこのレコード録音も完璧なまでに素晴らしい出来栄えで、一音一音に気持ちとドラマがこもっていて、その雄弁さに驚いてしまう。

前作「マクベス」がレコード・アカデミー大賞を獲得してしまったので、こちらは受賞できなかったが、歌手も含めた完璧さでは、「シモン」の方が上だと思う。
アバドは、この地味な作品の人間ドラマの隅々までに、光をあて、深遠な心理ドラマを作りあげている。アバドがいなければ、そして故カプッチルリがいなければ、「シモン」は埋もれたままのオペラであったろう。
これほどまでに、アバドが心血を注ぐ作品はなかったろう。あと、オペラで名前を挙げれば「ボリス・ゴドゥノフ」「ヴォツェック」「トリスタン」、であろうか。

Scala 81年のスカラ座初の日本公演は、音楽監督のアバドが「シモン」、「セビリアの理髪師」、「ヴェルディのレクィエム」。
同行したカルロス・クライバーが「オテロ」と「ラ・ボエーム」、合唱指揮のガンドルフィが「ロッシーニのミサ」を。
今思えば超々豪華版であった。
歌手も、フレーニ、シントウ、ヴァレンティーニ・テラーニ、ドミンゴ、アライサ、カプッチルリ、ヌッチ、ギャウロフ・・・と綺羅星のごときありさま。
今パンフレットを見てもため息がもれるばかり。

Scala_ticket 当時まさに新入社員であった私が、毎晩繰り広げられる先輩達への付き合いと薄給で、こんな夢の公演に行ける訳がなかった。
会社の付き合いが、すべてに優先される時代であった。
これまた恐ろしき時代。
でも、必死の思いでS席を手に入れたのが「シモン・ボッカネグラ」。

Simon_3 初めて会うアバドに、もうドキドキだった。颯爽と登場すると、会場は完全な暗闇に。これにはビックリ。当時文化会館で二期会のオペラなども観ていたが、非常灯やいくつかの明かりぐらいは点いていた。
ドラマと音楽への集中力を高めようという意図か。
文化会館の壁にオーケストラ・ピットの明かりを受けて浮かび上がるアバドの指揮するシルエット。そして最初の一音からして、そのけた違いの素晴らしさに驚き、心揺さぶられた。NHKのイタリア・オペラ公演ですでに「シモン」は実演経験済みだったが、N響とスカラ座オケのこのあまりの違い。深みのある音からアドリア海の風光が浮かびあがってきたのだ! あとは、もう感心と感動のしっぱなし。

Simon_trtio ストレーレルの名舞台は隙がなく、政治と偶然性にもて遊ばれる人間ドラマを、舞台で見事に表出していたように思う。
 プロローグの終結部の熱狂には大いに興奮したが、忘れ得ぬ場面は、お互いが父娘とわかったときのシーン。ここでアバドは、思い切りオーケストラを響かせ、観る側を感動の渦に引き込んだ。ヴェルディとは思えないような、濃密でロマンテックな場面だ。
 それから、3幕の悪役パオロが民衆のなみいるなかで、自分を呪わなくてはならなくなった場面。合唱も伴い、そのクライマックスで、音楽が一瞬止まる。
アバドが指揮棒を振り下ろし、止めると、舞台は衝撃を受けたパオロだけにスポットが当たり、真っ暗になった。この劇的な場面に鳥肌が立ったのを覚えている。
 終幕でシモンが苦しみのうちに死ぬ場面は、さながらレクィエムのように沈痛で静謐な音楽が展開された。

これらを情熱こめてまとめ上げた、アバドの劇場指揮者としての実力をまざまざと思い知らされた上演だった。
Simon_abbado
そして忘れ得ぬのが、全盛時代のフレーニ・ギャウロフ夫妻とカプッチルリの水ももらさぬ呼吸のあった舞台姿。このうちの男声二人が、もうこの世にいないなんて信じられない。それほどまでに生き生きとした姿が焼き付いている。
歌手生命のはかなさと時間の経過は留めようがない。

心からうれしいのが、アバドは時代とともに、音楽をする仲間は違っても、常に進化しつつ音楽を心から楽しんでいること。

「シモン」ばかりは、アバド以外の演奏は想定できない。ショルティ盤は聴く気もしない。
ムーティすら手を付けなかった。

 

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コメント

 連投失礼いたします。2002年に収録されたアバド指揮のDVDでシモン・ボッカネグラを見始めました。病み上がりのアバドはやせていて頬もこけていて痛々しいですが、音楽への真摯さと集中力は凄いですね。ゲーテのファウストを舞台化(21時間もかかるそうです)したことがある独逸の演出家ペーター・シュタインの演出も素晴らしいです。ところでこのピアーヴェ&ボーイトの台本、独逸の文豪フリードリヒ・フォン・シラーの戯曲「フィエスコの反乱」に少し似ているような気がするのですが、偶然でしょうか。件のシラーの戯曲、岩波文庫で持っています。日本ではシラーの戯曲が上演されるのは珍しいことでゲーテほどには読まれていませんが、ヴェルディのオペラと何か関係があることが分かったらレスをさせていただきます。シラーは日本でももっと読まれてもいいと思うのですが第九交響曲の作詞者としてしかわが国では知られていないのが独逸・墺太利文学のファンとしては少し悲しいところです。シラーやヘルダーリンはもっと読まれてもいいと思うのですが・・・

投稿: 越後のオックス | 2009年11月24日 (火) 23時43分

越後のオックスさん、こんばんは。
アバドは、この作品をDVDを含め、3回残してます。
いまお聞きのフィレンツェ盤も素晴らしいです。
私としては、ストレーレルのこの演出の映像を正規に残してほしかったです。
パリでの上演が、映像化されていますが、画質がすごく悪いとのこと・・・。

手元に、シモンのレコードの解説がないので、判然としませんが、確かシラーのことが書かれていたような記憶もあります。

投稿: yokochan | 2009年11月25日 (水) 00時35分

アバド先生といえば、シモン!
オペラといえば、シモン!
あまりの惚れように、飼い猫にもシモンと名付けた私です(=^・^=)

今夜は81年の東京ライブのCD、聴いています。

私も当時はホヤホヤのOL。
もちろん薄給でしたが、なにせアバド先生8年ぶりの来日とあって、父に泣いてすがっておだてて頼んでチケット代を出してもらいました。
キャストはベストのカプッチッリ&ギャウロフ&フレーニ(このCDもそうです)。
父娘の感動的再会場面と終幕のシモンの死では、涙を抑えきれませんでした。
オペラ観て泣いたのは初めてだったな・・・

NHKで放映されたのを録画してますが、もうボロボロでしょうね。再生すべきデッキも無いし。゚(゚´ω`゚)゚。

月日の経つのは本当に早い。
ギャウロフもカップッチリ大先生も、もう向こう岸に渡られてしまった。
娘の音楽道楽に少ない小遣いをさいてくれた父もまた然り。

でも、この時の名演は永遠に色褪せません。

99年と00年のBPOライブ、VPO、DGのスカラ座盤とCDもいろいろ手元にありますが、やっぱり私は東京ライブが一番なんです。

明日はタマゴ買いに行きます(笑)。

投稿: lilla | 2010年5月12日 (水) 02時57分

lillaさん、こんばんは。
コメントがあい前後してしまいました。
ただいま、北海道中でして、毎日二日酔いで、夕方から蘇るドラキュラ状態なんです。

あの伝説のシモンを語りあえる方がいらっしゃるなんて、なんてうれしいんでしょう!
ネコちゃんもシモンですか(笑)
 30年経った今でも鮮明に覚えているあの舞台。
トリスタンとともに、死んでも忘れません。
主役ふたりに渋いまでの名演技に名歌唱もそうです。
あの頃は、若かったんですねぇ、アバドも私(たち?すいません)も。
 いまいちど、スカラ座で取り上げて欲しいですね、アバドのシモン!

卵、いいなぁ~

投稿: yokochan | 2010年5月13日 (木) 22時38分

こんばんは、ご無沙汰です(__)

同じパンフレット、持ってますよ
聴いたのはクライバーの「ボエーム」でしたが。
ロビーではNHKの後藤美代子アナを間近に見たりしました。

月日のたつのは早いものです
当時、32歳でした(^_^;)

投稿: パスピエ | 2011年9月12日 (月) 20時47分

パスピエさん、こんばんは。
こちらこそ、どうも御無沙汰でございます。
厚いですよね、残暑と呼んでよろしいのでしょうか・・・、お見舞い申し上げます。

あのときの「ボエーム」を観劇されましたか!
FMとテレビ観劇でした。
クライバーは、シモンの客席で見かけたような記憶が残ってます。
スゴイ時代でしたね。
そして後藤さんの博識と美声は憧れでした。
数年前、若杉さんの追悼式での司会で、ほんとうに久しぶりにその声を実際に耳にしました。
相変わらずのお声でした。

年月は経ちますが、当時の記憶は、昨日・一昨日のものよりも鮮明です。
ある意味悲しいのですが・・・・・。

投稿: yokochan | 2011年9月13日 (火) 23時13分

初めまして。偶然、この記事に目が留まりました。
時期を逸した書き込みをご容赦ください。
わたくしも社会人初年度にこの公演とオテロを体験しました。
(当時、チケットはプレイガイド前に徹夜して購入しました)
非常灯も消灯した中、壁と天井に映るアバドの指揮姿、
アドリア海の波を描写する音のさざ波、
パオロに「呪われよ」と声を投げつけた際の金管のトリルと
オケと合唱の爆裂、みなみな記憶の通りでございます。
この記事のお蔭でその記憶を甦らせることが出来ました。

投稿: danilo | 2015年1月 7日 (水) 04時59分

daniloさん、こんにちは、そして、こちらこそ、はじめまして。

1981年のあのライブを共有し、共感いただいたことに、まずは、感謝感激。

金欠でしたのと、クライバーよりは、アバドの一心で、この演目しか目もくれず、飛び込みました。
観劇のその日が生放送の日でしたので、再放送での録音となりました。

FM放送は、いまや海外のものばかりですが、かつての、世界各地の上演の放送に、渇望を癒された日々。
そして、外来オペラは、ほとんど、NHKが絡んでくれた時代が懐かしいです。。。

投稿: yokochan | 2015年1月 7日 (水) 22時56分

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