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2006年10月25日 (水)

モーツァルト 歌劇「イドメネオ」 新国立劇場

Idomeneo

モーツァルトの歌劇イドメネオを観劇した。
音楽だけは、ベームのCDで何度か聴いているが、始めて観るオペラである。このかなり渋く長いオペラセリアを、メモリアルイヤーとはいえ新国はよく取り上げたもんだ。
だからシーズン当初から気になってはいたし、ルツェルンもあるし、どうしようかと思っているうちに間近になってしまった。
 決心したのは、某新聞で読んだ今回のイダマンテ役、藤村実穂子のインタビューと写真だった。ワーグナー以外への意欲と 、ボーイッシュに髪を短く刈りこみ、いわゆるズボン役に賭ける意気込みが感じられ、これは観なくてはとなった次第。
そして藤村さんと同様に注目は、タイトルロールのトレレーヴェンとエレクトラ役のマギーであった。そう、3人ともワーグナー歌いなのだ。そして始終共演している気心知れた仲間らしい。

そんなことで、モーツァルトの音楽を聴いてやる、というよりは、歌手に注目という、ちょっと不順な動機で劇場の席についた。音楽が始まると、序曲は小手調べとしても、のっけからから素晴らしいレシタティーボとアリアの連続ですっかりモーツァルトの音楽そのものに引き込まれ、夢中になってしまった。いまさらながらに、モーツァルトって何てこんなに旋律が次から次へと泉のように湧き出てきるのだろう。
まさに無尽蔵という言葉が相応しい。
素晴らしい音楽の連続に、舞台・演出にことさらの閃きがなくとも充分に楽しめる。

筋はちょいと荒唐無稽で、ギリシアのクレタの王「イドメネオ」が、宿敵トロイとの戦争に勝ち帰還中、嵐に会い生死を危うくする。そのとき、海の神「ポセンドン(ネプチューン)」に、助けを請う。このときの条件が、最初に会った者を生贄として差し出すというものだった。
 運命はいたずらで、何と数十年ぶりにまみえる息子「イダマンテ」と真っ先に出会ってしまう。王で父のイドメネオの苦悩と、そんなことを知らないイダマンテの父に冷たくされる苦悩の葛藤が描かれる。
 ここにイダマンテを愛する「イーリア」とそれに横恋慕する「エレットラ」の恋の三角関係もからみ、かなり心理的な劇ともなっている。
 最後は、息子を屠る決心をした父が剣を取るところに、イーリアが割って入ると、神の声が厳かに響く。「もういい、わかったよ。愛の神の勝利よ。父は引退し、息子はイーリアを妃に迎え、王を継ぎなさい」とのご託宣が下る。
 これには、エレットラはむちゃくちゃ激怒。ふざけるな、侮辱するな、もういい。死んだ弟オレストのところに行ってやる・・・と、ともかく怒りまくる。(はは~ん、このエレットラって、あのエレクトラだったん)
この気の毒なエレットラは、最初から最後までともかく怒りどおし。最終的に切れてしまい、場外退場となってしまう。
 怖い人がいなくなって、舞台はやれやれ、ほのぼのと引退の辞を述べるイドメネオと愛を称える合唱で幕となる。

この息子を生贄として、殺さざるをえなくなる物語は旧約聖書の「アブラハムと苦労して授かったイサク」の物語に酷似している。(公演プログラムでも指摘)
 神が人間を試すかのように、自身への絶対忠誠を諮らしめる場面である。
剣やナイフを振り上げたとき、「ちょっと待った」と時代劇のヒーローよろしく登場するので、「何だかなぁ」ではあるが、モーツァルトの音楽にそうした??要素はまったくなく、終始霊感に満ちた美しさであった。

舞台は、可も不可もなし。神殿の赤と黄、海の青の3色が印象的。円柱を左右に配し、クレタ風の模様がそれらしく、シンプルながらまずまずに思った。
選出は、チュ-リヒで活躍した「アサガロフ」で、そういえば今年「カヴァ・パリ」を観ていた。演技は、やや時代めいた動きが気になったが、これはセリフがやや冗長なため、致し方ないのかもしれない。
合唱が活躍する作品でもあるゆえ、時にオペラというより、オラトリオを舞台に乗せているかのような気もした。これもひとつの狙いかもしれない。

歌手で素晴らしかったのは、藤村実穂子。あんな小柄な女性なのに、声と舞台姿に大いなる存在感がある。その声は優しく暖かで、彼女の歌うブランゲーネやワルトラウテのようなぬくもりを感じさせてくれた。テノールで演じられることもあるが、彼女を聴いてしまうと、元々カストラートに書かれた作品だけに、この役は女性の方が適任ではないかと。
 そして、いつも怒ってばかりのマギーは、その舞台栄えする美しさ以上に、声にハリとドラマテックな輝きがあって、最後にぶちきれるところの難解なアリアは素晴らしいものがあった。CDに聴くエヴァやエルザとは別人のようだった。(エルザは相当に素晴らしい!)
 初めて接したイーリアの中村恵理は、掘り出しもの。このオペラで一番美しいアリアを3曲も与えられている役を、その役柄通り、可愛くやさしく女性的に歌い演じた。
 トレレーヴェンは、少し精彩なかった。重ったるく感じた。しかし歌いどころが少なく、むしろ、オケ付きレシタティーボの場面が多く、そこでかなり劇的な要素を必要とすることから、もっさり系のこの人の起用が生きていたように感じた。

指揮のエッティンガーは、バレンボイムの秘蔵っ子。珍しさやまばゆさはないが、ほとんどが始めてと思われる経験の聴衆に、わかりやすく、かつ精妙な演奏で、好感度高かった。

てなわけで、結構楽しめた「イドメネオ」であった。

NHK・BSで「ハーディング/スカラ座のイドメネオ」が金曜深夜に放送される。
先般の「マーラー・チェンバー」で驚嘆しただけに、こちらも楽しみ。

新国の今後は、オーソドックスすぎる演目が並ぶが、「フィデリオ」(バイロイトの新ジークフリート、グールド登場)、「オランダ人」(次世代ウォータン、ウーシタロ登場、牛太郎じゃありません)、「ばらの騎士」(P・シュナイダー指揮)、「蝶々夫人」(次期監督・若杉弘指揮)、「西部の娘」(K・ヴァネス)等々、このあたりは絶対観たい。

それにしても、時間と金が・・・・・。

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コメント

藤村美穂子、良かったですか?新国も捨てたもんじゃないと再発見なさったことでしょうね。
昨日買ったアルミンクの「大地の歌」と故ジョルダンの遺作「トリスタンとイゾルデ」にも出ていて、「告別」の歌の深い情感(クレンペラーのルートヴィヒ以来の素晴らしさ!)やブランゲーネのイゾルデ役を食うような存在感に圧倒されました。
新国では12/3、コンセルトヘボウの前に観劇。「オランダ人」では、モネ劇場の「オランダ人」のゼンタを歌ったアニヤ・カンペも注目です(僕も3/1観にいきます)。「バラの騎士」+「ファルスタッフ」はたまたま2日間に亘って上演されますのでこれもゲットしました(6/20+6/21)。
しかし「トリスタン」観にいきたいなぁ。やっぱり、シュターツカペレ・ベルリンでしょうか・・・。

投稿: IANIS | 2006年10月29日 (日) 23時53分

キース・ウォーナーのトーキョー・リングでも、藤村さんはひときわ輝いてました。新国には彼女にどんどん諸役をチャレンジさせてもらいたいものです。
 そうなんです、新国もいいですが、外来もすごいですねぇ。
ベルリンの「トリスタン」は必須ですし、ルイージのドレスデンの「タンホイザー」と「ばらの騎士」、そしてW・メスト!とチューリヒが「ばらの騎士」です。さらにシチリアのマッシモ劇場まで来るみたいです。
 まったくもって困った次第です。

投稿: yokochan | 2006年10月30日 (月) 22時20分

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