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2006年11月 8日 (水)

ワーグナー 「ラインの黄金」 ドホナーニ

 

Rheinold_dohnanyi

ワーグナーを聴かないと中毒症状が出る。
ワーグナーの毒を恐れ、それを避ける方は多いけれど、私はもうすっかり毒がまわっているので、しばらく離れると呼ばれなくてもちゃんと回帰する。
忠実な僕なのである。

今回は「ニーベルングの指輪」通しチクルスである。それも4部作バラバラ・リングである。

バラバラ・リングその一の「ラインの黄金」は、ドホナーニクリーヴランド管弦楽団のデッカ録音のCD。
1993年にクリーヴランド管の本拠セヴァランスホールでの録音。
80年代から90年代半ばまで、デッカはマゼールに次いで、ドホナーニとクリーヴランドの録音に大いに力を入れ素晴らしい音の録音を次々に残していったものだ。
いくつものプロジェクトの仕上げのように、私を歓喜させたのが「ニーベルングの指環」全曲チクルス。アメリカの誇るスーパー・オケによる「リング」、しかもデッカの名録音ということもあって、コンサート形式の定期演奏と並行して録音されるリングに期待が高まった。

ところがこれが見事な尻切れトンボ!「ラインの黄金」と1年後の「ワルキューレ」までは録音されたが、その後は止まってしまった。それどころか、いくつか進行中のチクルス、ブルックナーとマーラーなどもオシマイ。ドホナーニやクリーヴランド管自体も録音メディアから遠ざかってしまった。
 なんと残念なこと。クリーヴランドはアメリカオケのご多分にもれず、ギャラやユニオンの問題からレコード会社が敬遠しているのであろうか、将来ドイツ音楽界の雄「ウェルザー・メスト」の録音がひとつもない。

ドホナーニも退任後、フィルハーモニアと北ドイツ放送というやや地味な地位にあって、近況は放送録音でしかうかがわれない。ライブ放送でベートーヴェンを聴いたが、これがなかなかに良かった。情感に乏しく味気ないという印象が時にあったが、ドイツのオケを振ったその演奏はキリリと正しいベートーヴェンだった。もったいない。

 

Rheingold_dohonanyi

ドホナーニの80年代のオーケストラ曲の録音には、時として完璧・潔癖すぎて面白くないという印象があった。ただ、ドヴォルザークには不思議なほど情感や情熱が溢れていたし、バルトークの怜悧な響きは印象に残っている。
しかし、私はドホナーニはオペラの人と思っている。いずれレヴューしたいが、80年代、ハンブルク・オペラを率いて来日したおりの「魔笛」と「影のない女」を観た。その時のシュトラウスの素晴らしさが忘れられない。
錯綜する巨大サウンドをスッキリと整理して、かつドラマを感じさせるような劇的な音楽を文化会館一杯に鳴り響かせた。

前段が長くなったが、そんなドホナーニの「ラインの黄金」は明晰で、どこまでも見通しが良い。ガガァーと威圧的にオケが鳴るところは皆無。しかし、神経質でも、貧血的でもなく、巨大なドラマの開始とも言える叙事的な大らかさもあると思う。
こうしたオペラの呼吸を感じさせるところが、ドホナーニの素晴らしさだろうか。
 予想通り、いやそれ以上にオーケストラの優秀さにビックリだ。
冒頭のプリミティブな前奏曲からして、音の明晰さで際立っている。こんな前奏はカラヤン以上かもしれない。各ライトモティーフもおもしろいくらいに、明確に聞こえる。
この演奏の主役は優秀なオーケストラかもしれない。

  ワーグナー 楽劇「ラインの黄金」

   ウォータン:ロバート・ヘイル      
   アルベリヒ:F・ヨーゼフ・カペルマン
   ローゲ  :キム・ベグリー        
   ミーメ   :ペーター・シュライアー
   フリッカ  :ハンナ・シュヴァルツ    
   フライア  :ナンシー・グスタフソン
   ファゾルト:ヘンドリック・ローテリング 
   ファフナー:ウォルター・フィンク


主な配役はこのとおり、オケが主役とかいいながら、なかなかの顔ぶれ。
なかでも、実演で接し、その演技と舞台栄え、なめらかな美声をすっかり気にいってしまった、ヘイルのウォータンが素晴らしい。

素晴すぎる録音は、普通に鳴らすと近所迷惑。効果音もそこそこ入っていてドッキリ。
ニーベルハイムの奴隷(?)たちの叫び声は強烈で、お隣さんからパトカーでも呼ばれてしまいそう。ドンナーのハンマーと雷鳴も極めてリアル。心臓の弱い方はお気をつけ下さい。
そして、ワルハラ城への入場のオーケストラの壮大な響きは快感。

次作「ワルキューレ」は、何としたことか入手できず仕舞で廃盤。まだ聴いたことのない「幻のワルキューレ」になっちまった。
ヘイルのウォータン、エルミングのジークムントが聴けるというのに・・・・。
クリーヴランドの定期では、その後間をおいて「ジークフリート」「たそがれ」が上演されたらしい。
会社存続の危機はあったにせよ、デッカの弱腰には困ったもの。

バラバラ・リング、次の「ワルキューレ」は一番個別性が高く録音も多い。さてさて。

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コメント

ドホナーニのシリーズ、全くの尻切れトンボでした。残念です。マーラーやブルックナーなど、精緻な演奏で楽しみでした。また、ドヴォルザークの切れ味鋭い、男臭い演奏は素晴らしかったです。
この頃ドホナーニの録音がないのは寂しいですし、クリーヴランド管のCDも見かけないですね。

投稿: mozart1889 | 2006年11月 9日 (木) 06時00分

mozart1889さん、コメントありがとうございます。
各社のリストラ・尻切れトンボには泣かされますね。このコンビはそのひとつの典型のような気がしますです。マッタク。

投稿: yokochan | 2006年11月 9日 (木) 14時04分

yokochanさん、このたびは拙ブログをリンク登録していただきまして、まことにありがとうございましたm(_ _)m

> 次作「ワルキューレ」は、何としたことか入手できず仕舞で廃盤。

私と逆ですね(笑)、「ワルキューレ」入手したのですが、「ラインの黄金」を買い逃してしまいました。

クリーヴランド「リング」が完結しなかったことはまことに残念であり、ヘップナーのジークフリートを聞く機会を逃してしまいました。(実演で誰がジークフリート役を歌ったか知らないのですが、レコーディングではヘップナーが予定されていたはずです。)

「ワルキューレ」以降の続編も楽しみにしております!

投稿: Niklaus Vogel | 2006年11月10日 (金) 22時10分

こちらこそありがとうございました。
いいなぁ。ワルキューレお持ちなんですね。
リングのスタジオ録音なんて、私が生きている間、いや人類史上、もう実現しないんでしょうね・・・・。

投稿: yokochan | 2006年11月11日 (土) 01時24分

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font color=#639048Bワーグナー作曲: 楽劇「ラインの黄金」  Robert Hale(Wotan)、Hanna Schwarz(Fricka)、Nancy Gustafson(Freia)、Eike Wilm Schulte(Donner)、Thomas Sunnegardh(Froh)、Kim Begley(Loge)、Peter Schreier(Mime)、Elena Zaremba(Erda)、Franz-Jo..... [続きを読む]

受信: 2006年11月30日 (木) 17時36分

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