ワーグナー 「ワルキューレ」 メータ指揮
リング第1夜の「ワルキューレ」を思うとき、気持ちの高揚を押さえられない。指環の権力争いから少し離れ、愛憎のドラマに満ちていて、兄妹・男女・夫婦、そして親子の愛の関係がそれぞれに描かれている。
キワモノの関係もあり、こんな関係は、子供には説明できない。
しかし、親子の別れを最後の頂点とするウォータンとブリュンヒルデについては、娘を持つ身としてはほとんど同化しかねないくらいに入れ込んでしまう。世のおとうさんは、娘にはからきし弱いの。
「ワルキューレ」はリングの中でも、ドラマ的に完結感があるから、単独の上演もよく行われる。外来でも、ミュンヘン、メト(2回も)、ベルリンとかなりやっている。
録音も単独ワルキューレがいくつかあるが、今回はその中から、「メータとバイエルン国立歌劇場の2002年ライブ」を取り出した。
このCDはFARAOという正規レーベルから出ていて、録音が素晴らしくいい。もちろんライブで盛大な拍手も入っている。そしてジャケットやリブレットも豪華。
ミュンヘンのライブをじゃんじゃん出して欲しいもんだ。
まず、ジャケット。これ私が使わせていただいている本ブログのイメージそのもの。
舞台に突き刺さるノートゥンクは、オペラの臨場感を楽しく伝えてくれる。
バイロイトの祝祭劇場の内部をそのまま舞台装置にしてしまった「ヴェルニケ」の演出で始まったリングだが、演出家の急死でこのワルキューレはヴェルニケの意向を汲んだ「レーマン」の演出となったらしい。現在は、「オールデン」の少し過激な演出にとってかわっていて、写真で見る限り「トーキョー・リング」を思わせるようなアイデア満載のリングのようだ。
ジークムント:ペーター・ザイフェルト ジークリンデ :ワルトラウト・マイヤー
ウォータン :ジョン・トムリンソン ブリュンヒルデ:ガブリエレ・シュナウト
フリッカ :藤村実穂子 フンディング :クルト・リドゥル
どうです、素晴らしい理想的なキャスト。
どの歌手も火のうちどころがない。ザイフェルトは幾分リリカルだが、ピンと張ったハリのある声は若いジークムントを感じさせる。ただ、私はこの役には陰りを帯びた声が相応しいと思う。そう、やはりジェームス・キングなのだ。エルミングもそう。
マイヤーのジークリンデに、そうしたウェルズング族の陰りの部分を見る思いがする。
この人の中音域の色っぽさは妖しく美しい。
定評あるトムリンソンのウォータンは安定感抜群。個人的には、その声はあまり好きではないが、永年の経験で考え、練り上げられた表現が随所に聞かれ、「ほほう」という場面も多々あった。
最近日本でもお馴染みのシュナウトもいい。
そしてなんといっても、藤村のフリッカ。鬼嫁(ひぇ~!!)風のフリッカでなく、夫の愛の喪失に堪える気丈さを感じさせる。ドイツ語の明瞭さも他の歌手以上かも。
メータの指揮は、メリハリが効き、ダイナミックで、わかりやすい。こんな一般的な印象は、ここでもほぼあてはまる。しかし、私はこの録音に、歌手の呼吸を読み、舞台と一体化し、ドラマを音で語るオペラ指揮者としてのメータを強く感じる。
一時代前の重厚長大なワーグナーでもなく、ショルテイの熾烈さやカラヤンの雄弁なロマンティシズムとも違う。音は明るく豊穣、粘らずスッキリ感があり、音はクリアである。
いろんなワーグナー演奏があるけれど、極端な例として、従来の巨匠型の路線はバレンボイム(最近聴いてないので推測含み)で、一方のアバドに代表されるような新しいワーグナー、それは音のひとつひとつに光をあてて輝かせてみせる演奏。メータはどちらかといえば、後者に近いような気がする。
ミュンヘンの歌劇場のオーケストラの優秀さは、良く知られていて、昨年のR・シュトラウスは素晴らしかったが、このワーグナーも南ドイツの明るい音色で、メータの指揮に彩りを添えている。
今年、メータはミュンヘンのポストを退任したが、その時のお別れコンサートの画像が歌劇場のサイトに載っていた。
いつものお得意の感謝のポーズと傍らのバレンボイムとのキテレツなダブル・二人ばおり風の指揮!
ミュンヘンの後任は、デジタル指揮者「ケント・ナガノ」。
伝統と暖かな音色の素晴らしいオーケストラとどう導いてゆくか?
舞台では斬新さの目立つ昨今だけに、音楽面も変わってしまうのだろうか?不安と期待、おそらく数年のうちにまた引越し公演が実現し確認できるかもしれない。そしてメータにはもっと活躍してもらいたいぞ。
さて、「バラバラ・リング」、次の「ジークフリート」は問題だ。一ひねりしなくちゃ。
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コメント
yokochanさん、こんばんは!
メータはバイエルン州立歌劇場を退任したのですね…最近どうも世情に疎くなっております。
さて、このメータ盤は1度聞いたきりでお蔵入りしていますが、今度またしっかり聞いてみます。その流麗さに魅せられたものの、あまりにいい加減に聞いてしまいました(汗)。
> 次の「ジークフリート」は問題だ。一ひねりしなくちゃ。
G(ゴルゴ13ではありません(爆))でしょうか…
投稿: Niklaus Vogel | 2006年11月12日 (日) 20時18分
Niklaus Vogelさん、こんばんは。コメントありがとうございます。
私はメータのワーグナーに不安を抱いていましたが、昨年の「マイスタージンガー」といい、この「ワルキューレ」といい、耳あたりはよいが、ドラマとしての息づかいがなかなか的を得ていて、悪くないな、という印象です。
実を言うと、ジークフリートは白紙です。この作品だけ録音する物好きもいませんから。ど~しましょうかねぇ??
投稿: yokochan | 2006年11月13日 (月) 22時51分
素晴らしいですね‥メータのワルキューレ。トムリンソン、リング通しの日本初演の上野で、サルミネンとダブルでハーゲンでしたね。マッキンタイアがヴォータンでしたね。いずれにしてもメータのこのミュンヘンのワルキューレは素晴らしい出来です。録音も最良です。
投稿: カワサキヤ | 2016年8月22日 (月) 22時22分
カワサキヤさん、こんにちは。
私が観た番は、サルミネンのハーゲンでしたが、トムリンソンもともに息の長い歌手ですね。
メータは、できれば、バイエルンでリングの録音を残して欲しかったですね。DVDの方は未視聴です。
投稿: yokochan | 2016年8月27日 (土) 11時52分
ご無沙汰しております。
バレンシア・リングと呼ばれている
メータ指揮のDVD、鑑賞しましたが、
私的にはメータにしてはイマイチな出来栄えの演奏でした。
レヴァインのDVDよりも遅めのテンポをとっており、
往年の巨匠たちのような気宇壮大な演奏を目指したのだと
思うのですが、志倒れで終わってしまっているような気が
しました。
なら近年のメータがダメダメなのかというとそんなことは
なく、2013年にイスラエルフィルを指揮した
ブルックナー8番は(出てもあまり話題にならなかった
ディスクでしたが)「ブルックナー演奏史上に残るので
は?」と思うほどの気合の入った力演でした。
70年代は何をやってもよく、80年代は、大半の演奏が
ヘタレ、90年代以降はヤレバできる子というのが
私の「メータ観」です。
ロスフィル時代のハルサイを最近やっと聴けた
のですが、すごい演奏ですね!
ロス時代のブルックナー4番がもうすぐCDで復活
するそうですが、これも楽しみですね。
投稿: 越後のオックス | 2016年8月28日 (日) 16時59分
越後のオックスさん、ご返信遅くなりました。
メータは、ご指摘のとおり、ロス時代が鮮やかなデッカ録音も含めて、一番輝いていたと思います。
ニューヨーク時代は、CBSとの相性もオケのそれとともにイマイチ。
ミュンヘン時代は良好で、ウィーンとベルリンともいい関係、そして音楽史にも残る長期政権にあるイスラエルとはもう会阿吽の関係ですね。
ともかく、いつまでも元気なメータです。
投稿: yokochan | 2016年9月22日 (木) 20時16分