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2007年2月11日 (日)

R・シュトラウス 歌劇「ダフネ」 二期会公演・若杉弘指揮

Rstrauss_daphne_nikikai 待望のR・シュトラウスの歌劇「ダフネ日本初演を観劇できた。
ワーグナーと並んで、シュトラウスのオペラ好きを自認するワタクシにとって、何が何でも立ち会わなくてはいけない上演だった。
若杉先生が中心となって、ここ数年、日本お披露目のシュトラウス・オペラがいくつか上演されている。「カプリッチョ」と「インテルメッツォ」を逃したのがあまりに大きいが「エジプトのヘレナ」と「ダナエの愛」が聴けた。
素晴らしい思い出になっていて、今回の「ダフネ」もいやがうえにも期待が高まっていた。

15作あるシュトラウス・オペラの13作目。1937年、ナチス全盛の時、日本では日中戦争勃発の時。こんなすさまじい時期の作品につけられたサブタイトルは「1幕の牧歌的悲劇」である。
 ホフマンスタールとの黄金時代のあと、ツヴァイクらを経て才気的には怪しかった、グレゴールの台本によって製作された、得意のギリシア劇。

簡略は、次のとおり。

「葡萄祭」を前にしたオリンポス山の川岸、「ダフネ」は自然の中で、その自然とともに過ごし、人間社会や男女のドロドロした世界とは無縁の中で暮らしている。
 幼なじみの「ロイキッポス」は、大人社会に目覚め、「ダフネ」に強く言い寄るが、「ダフネ」は冷たくあしらう。
「ダフネ」の下女たちは「ロイキッポス」をけしかけ、女装させ、「祭のどさくさ」を進める。
 一方、神「アポロ」が現れる。うらぶれた羊飼いのなりをしているが、「ダフネ」の父「ペエナイオス」は「ダフネ」に彼の世話を命じる。
人間界に降りてきた「アポロ」は自分の妹にそっくりだと、「ダフネ」にいいよる。
兄妹以上の怪しい接し方に「ダフネ」は違う!と拒絶。
 ディオニソスの祭では、女装した「ロイキッポス」が「ダフネ」に接近するが、これを見て怒った「アポロ」は神を愚弄するなと、大怒り・・・・。
哀れ「ロイキッポス」は「アポロ」の放つ雷に打たれ倒れてしまう。それを救えなかった「ダフネ」は彼の愛に応えることができなかったことを激しく後悔し、「ロイキッポス」をかき抱き涙に暮れる。 この光景を見た「アポロ」は人間界に関与してしまい、人間を殺してしまったことに自責の念にかられる。そして、純粋な生き方を失ってしまった「ダフネ」のために、彼女を永遠の緑たる「木」に変え、その枝から出来た冠(月桂樹)が誉の対象となるようにと、父「ゼウス」に依頼する。
「ダフネ」は月の光を浴びながら、月桂樹の木へと恍惚のうちに変容してゆく・・・・・・。

    ペナイオス:池田直樹     ゲーア:板波利加    
    ダフネ :釜洞祐子       ロイキッポス:樋口達哉
    アポロ :福井 敬       その他 
      若杉 弘 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団   
      演出:大島早紀子     メインダンサー:白河直子

二期会のドイツものの最上の布陣。そして新国でもお馴染みの面々。脇役もベテラン・新人がしっかりと固めている。
大きな歌いどころが前半・後半にある釜洞さんは出だしが押さえぎみだったが、ロイキッポスの死における迫真の歌唱はまったくすばらしく胸を打った。
福井氏のアポロは「エジプトのヘレナ」でも感心したが、よく伸びる声はシュトラウス後期の作品にうってつけ。樋口氏もこのところ始終舞台姿を目にし、日々進化している様子が伺え、楽しみな存在。

そして音楽面の要は申すまでもなく。若杉先生の繊細かつ舞台の呼吸を読んだ指揮振りだろう。「ダフネ」のオーケストラ部分は、軽やかさと晴朗な繊細さ、それに加えて劇的な音響も要求される難しい部分だ。それをものの見事に表わしきっていた。
世界のどこをとっても、こんな素晴らしいシュトラウスを振れる指揮者はいないのではないか?

こんな渋いオペラなのに、文化会館は満席。1時間40分の上演時間中、聴衆はじっと舞台に釘付けだった。
私のお隣りのスノッブ風の「おばあさま方」。「このオペラはダンサーがかなり活躍するのよねぇ」・・・・・・「え? ぇ?」そうなの?音でしか聴いたことがないけど、そうだっけ?

Daphne_nikikai この公演の演出の大島さんは、演出・振り付けと紹介があるとおり、メインダンサーの白河さんと組んでのバレエ・コンテポラリーダンスの演出の旗手であるらしい。
私はこちら方面は極めて弱いが、シュトラウスが指定したわけではないパフォーマンスを取り入れたこの演出の意図は大いに評価されるだろう。世界的にも誇れる舞台であろう。
 ただ私としては、「過ぎたるは及ばざるが・・・・」の感を若干いだいたのも事実。
あのダンスは皆唖然とするほど見事だったし、事実、美しかった。ラストは特に・・・・。
シュトラウスの音楽を愛する身とすると、あの精妙・完璧な音楽にしっとりと浸かりたかったのに、素晴らしいとはいえ、舞台の隅々に展開されるダンスが少し目に余った。
いい音楽が鳴っているのに、背景の舞台措置がガタゴトと音を立てて移動するのも考え物だ。歌手達の動きもきめ細かく、舞台のあらゆるところで動きがあるから気が抜けない。

こんなことを書いたが、深読みや読み替え演出よりは、よっぽど作者の意図は汲んでるし、美しい舞台であったのは事実。
舞台と音楽の融合、なかなかに難しいものだ。

ダフネがどのように変容していったか、あと二日舞台はあるし、テレビも入っていたから、是非お楽しみに・・・・・。
前述のお隣りの「おばあさま」、途中気持ちよさそうにうつむいていたが、音楽が終わると、「何てきれいな音楽でしょう」、とお仲間と話しておられた。
 私は、後半は素晴らしい音楽に涙が止まらなかった。

閉幕後、いつもお世話になっています「IANIS」さんと、本日の舞台を中心に音楽談義を咲かせながら一献傾けました。舞台以上にまた楽しいひと時でした。
IANISさんは、「ハイティンク、ポップ」のダフネ、私は「ベーム、ギューデン」のダフネです。
それぞれこの作品の名演のひとつ。

   

    
    

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コメント

TB成功したかな?
私も昨日行きました。いやー、面白かったですね。歌手もみんなよかった。まー、舞台はやりすぎ盛りだくさんの感もありますが、こんなでも全曲イビキかいてた聴衆もいたっていうのも事実であり(なんで?)。私の周辺は何故かダンス関係のご家族の方が多くいらっしゃってまして、ダンスのことしか喋ってなかったです。シュトラウスはどこへ行ってしまったの?

投稿: naoping | 2007年2月11日 (日) 09時00分

おはようございます。私は11列目でしたよ。声をかければよかった(どうやって?)
まったく同感。シュトラウスの音楽を見つけるには、「目をつぶる」しかないと思い、何度か試みましたが、舞台が気になる。
エンディングの舞台背景はキレイでしたね。
でも拍手が早すぎる。ちょっとムカツキました。

ワーグナーの使徒「飯守先生」もいました。新国のリングのとき「若杉・飯守」両先生がいつも談笑してまして、私はそばで盗み聞きしたものです。
「ふたりはなかよし」いや、大学の先輩・後輩なんですね。

投稿: yokochan | 2007年2月11日 (日) 09時32分

私は出張ついでに上京し、偶然チケットを格安で当日手に入れ予定外で2日目の上演を聴きました。開演ギリギリに入場し殆ど予習もなく字幕も4階で見づらかったので筋書きがよく分からないまま演奏や舞台を鑑賞していたのですが、このエントリを拝見してお蔭様でなるほどそういうことだったのかというのが、今頃よーく分かりました。ありがとうございます!

投稿: yskw | 2007年2月12日 (月) 17時19分

yskwさん、こんにちは。
いいご出張になりましたね。
舞台はともかくとして、あの素晴らしい音楽が聴けたし、日本に生で初めて鳴り響いた瞬間に立ち会えたのですから!

ほんとうは、もっと演出のことなど書きたかったのですが、長文になりそうで、断念しました(笑)

投稿: yokochan | 2007年2月13日 (火) 12時18分

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