R・シュトラウス 歌劇「ナクソス島のアリアドネ」 サヴァリッシュ指揮
作曲年代を追ってのR・シュトラウスのオペラシリーズ。
6作目において、前作までの「楽劇」の呼び名を改め、「歌劇」に復元した。
「ばらの騎士」の翌年1911年に着手、この時はホフマンスタールの台本によりながら、モリエールの「にわか貴族(町人貴族)」劇中劇として書かれたが、あまり評判よろしくなく、1916年に改作したもの。
改作は、「影のない女」の合間になされている。
序幕と「ナクソス島のアリアドネ」からなるが、ややこしいことに、劇中劇(アリアドネ)の始まる舞台前の関係者たちによるバタバタ劇の序幕付き、ということになる。
序幕 時は18世紀ウィーン。金持ち貴族の大広間。本日の歌劇の下準備に忙しい。
ここでは、メゾによる作曲家がかなり主役。歌劇のあとに高名な舞踏家「ツェルビネビッタ」に踊ってもらうことになり、作曲家は落胆。舞踏の先生がプリマドンナよりは、ツェルビネッタの方が期待されているんだと、作曲家や音楽教師の反論を呼ぶ。そんなこんなで、作曲家はツェルビネッタの機転で元気を出し、オペラの変更を決心する。
オペラ ナクソス島にひとり残されたアリアドネは嘆き悲しみに暮れる。
それを慰める道化、そしてツェルビネッタ。楽しい歌に踊り。ここでツェルビネッタが「人生と愛」について長大なアリアを歌う。
それでも、気の晴れないアリアドネ。そこにバッカスが晴れやかに登場。当初、死の神と思ったアリアドネだが、バッカスの接吻!でメロメロに。バッカスは「愛の神」なのだ。
そんなこんなで、劇的に盛上りを見せ、やがて静かに幕となる。
あらすじは、ちょいと何だが、ここに付けられた音楽はまぎれもなく超一流の作曲家の手によるものだ。前作で、強烈に鳴り響く刺激的な音響と決裂し、優美・華麗なサウンドに大きく傾いたシュトラウス。さらにアリアドネでは、オーケストラを32人編成にまで刈り込んで、古典的で軽妙・洒脱、かつ精緻な音楽造りを目指した。
歌詞は洪水のように溢れ難解だが、音楽は耳に優しく心地良い。
聞かせどころ、ツェルビネッタのアリアや、ワーグナーの二重唱のような終幕などは、誰が聴いても楽しめる部分に思う。
アリアドネ:アンナ・トモワ・シントウ バッカス:ジェイムズ・キング
ツェルビネッタ:エディタ・グルベローヴァ 作曲家:トゥルーデリーゼ・シュミット
音楽教師:ワルター・ベリー
ウォルフガンク・サヴァリッシュ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(1982年ザルツブルク音楽祭)
1979年にディーター・ドルンの演出、「カール・ベーム」の指揮で始まったプロダクション。
FMのエアチェック音源を持っているが、晩年の枯淡の境地のベームが熱く燃えた演奏だった。そのベームが亡きあと、指揮を引継いだのが「サヴァリッシュ」。
シューベルトのコンサートでもベームの指揮を継ぎ、もの凄い名演を残している。
このアリアドネは、サヴァリッシュらしく理路整然とキッチリした中に、シュトラウスのそして、ウィーンフィルの微笑みが垣間見られ、なかなかに味のある演奏。
録音がまた実に鮮明でよろしい。
歌手は主役級以外は、実力派がしっかりと固めていて万全。
もちろんグルベローヴァは素晴らしすぎる。さらに素晴らしい「ナタリー・デッセイ」を知ってしまったが、この当時はもう最高級の歌唱であろう。
シントウとキングのコンビももちろんよろしいが、キングは「バッカス」の楽天よりは「皇帝」のシリアスさのほうがいいかも。
そして亡きシュミットの作曲家がほんとにいい。知的ながら情熱溢れる相反する心情を見事に歌っている。
この作品には名演多し。実はわたし、「ケンペのドレスデンと超豪華歌手陣」が最高と考えます。
そして、「ベームとジェス・トーマス」「ショルティとルネ・コロ(なんでマーガレットじゃなくて、レオンタインなのだ!)」「シノーポリとデッセイ!!」「カラヤンとシュヴァルツコップ」。
どれもこれもイイ。
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コメント
こんばんは
この演目は大好きなオペラの1つです。
グルヴェローバのツェルビネッタもいいですね。(昔は垢抜けない田舎娘という感じだった印象にも好感持てます)
やはり名盤だと思います。
投稿: おぺきち | 2007年3月18日 (日) 19時12分
yokochanさま お早うございます。
『ナクソス島のアリアドネ』良いですよね、最近では、シュトラウス野中のオペラの中で、『カプリッチョ』と共に、一番良く聴いています。
挙げられていないものでは、レヴァイン盤も良いですよ。とりわけ、作曲家の、アグネス・バルツァさんの歌は素晴らしいですよ。この曲の中では一番好きなところです。それに、2部のオペラになってからの妖精の歌ですが、バーバラ・ボニーが若い頃に出演していて、もの凄く美しい音楽になっています。
私もケンペ盤好きですね、良く聴きます~。
ミ(`w´彡)
投稿: rudolf2006 | 2007年3月19日 (月) 04時00分
こんにちわ。ブログを始めてまだ2ヶ月で、お手本としてよく拝見させていただいています。アリアドネはぜひ実演で見たいオペラです。ディスクではベーム、カラヤン、ケント、あとひとつグルベローヴァとノーマンがうたってるマズアのものを聴きました。ナタリー・デッセイは知りませんでした。今度手に入れてみます。サヴァリッシュの実演では、マイスタージンガー、オランダ人、影のない女、フィガロ、カルミナブラーナを聴いていますが、オランダ人が一番よかったような気がします。昨日、タンホイザー行ってきました。
投稿: サモトラケのニケ | 2007年3月19日 (月) 20時56分
おぺきちさん、こんばんは。出張続きで遅くなりましたぁ・・・。
この作品のファンは多いですね。CDも名盤が目白押し。
そしてグルベローヴァはもう伝説的な名唱ですね。
最近ではデッセイ、そしてプティボンに期待がかかります。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2007年3月20日 (火) 23時19分
rudolfさん。毎度ありがとうございます。
rudolfさんと私、好みの分野が似通ってらっしゃるので、いつもうなづきっぱなしです。バルツァの作曲ですか。良さそうですね。
そういえば、今年大阪二期会が飯守さんの指揮で上演しますよ。
無理やり出張してしまおうと目論んでます(笑)
投稿: yokochan | 2007年3月20日 (火) 23時22分
サマトラケのニケさん、はじめまして。ようこそおいでくださいました。
貴ブログ拝見しました。素晴らしいですね!私を刺激する分野満載じゃありませんか。私のブログを参考になんて、恥ずかしい限りです。
こちらこそ、勉強になります。
私もアリアドネの実演を何とか、と思ってまして、大阪二期会に行ってしまおうかなどと、目論んでます。
実演の体験を拝見しますと、私と同じ公演をかなりご覧になってらっしゃいます。
またどうぞよろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2007年3月20日 (火) 23時34分
ショルティ盤のプリマドンナ・アリアドネ役のL・プライス、確かにこの全曲盤の配役上の、ウィーク・ポイントとなっていた感は、否めません。同時期にメータ指揮のIPOの伴奏で、やはりDeccaにヴェルディ・アリア集のアルバムも、当時の専門誌の広告欄に、載っておりましたけれども‥。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年11月18日 (水) 13時34分
カラヤンがBPOを振り、EMIにヴェルディの『イル・トロヴァトーレ』の再録した際の配役表を見て、愚生もプライスをウェールズ出身のマーガレットとばかり思い、早とちりした覚えがございます(笑)。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年11月18日 (水) 18時17分
伝説級のソプラノ、プライスをMETのストリーミング配信でその舞台引退公演で視聴しましたが、貫禄たっぷり。
でも耳は辛かったです。
投稿: yokochan | 2020年11月21日 (土) 07時04分
故・高崎保男さんが雑誌月評で、『英国デッカはどうやら特別の敬老精神も持ち主と見え、これまでもフラグスタートやホッター等、第一線を退いた名歌手をスタジオに呼び寄せ、彼らの枯淡の境地を示す録音を、産み出して来た。』と、称賛半分皮肉半分のようなコメントを、書いて居られた覚えがあります。先日触れました二点の録音も、その産物でありましょうか。RCAがレヴァイン指揮のヴェルディ/『運命の力』でレオノーラを歌って貰ったのは、このレーベルに大きな寄与をもたらしたこのプリマドンナへの、最後のはなむけでしょうけれども‥。
投稿: 覆面吾郎 | 2020年11月21日 (土) 09時14分