「ペーター・ホフマン」 ワーグナーを歌う
ワーグナーを聴く楽しみは、長大な楽劇を骨の髄まで染みとおるように聴くのも良いが、ソロ歌手達の名唱で、名場面のサワリを聴くのも充分に楽しい。
序曲・前奏曲だけだと、続きが欲しくなるが、歌付きだと満足感が味わえる。
今晩は、容姿もその歌声も極めてかっこいい「ペーター・ホフマン」の残したワーグナー曲集を久しぶりに取り出してみた。
1983年の録音で、日本盤がCBSソニーから出てすぐに買い求めた。
当時はCD1枚が3800円もした。今思うと、よく買えたものだ。というか、CDなんて、月に1~2枚しか買えなかった。その分、大事に何度も何度も聴いたわけ。
それはそうと、1944年生まれのホフマンを始めて聴いたのが、1976年のバイロイト放送。そう、あのシェロー=ブーレーズのバイロイト100年のセンセーショナルなリング。
激しいブーばかりが、やたら印象にのこったが、ジークムントを歌ったホフマンの素晴らしい声に驚いた。
J・キングを無二のジークムントと思い込んでいた自分にとって、そのクリアーな声には魅了された。
その後、主としてバイロイトでの放送を通じ、「ジークムント」「パルシファル」「ローエングリン」「トリスタン」「ヴァルター」などをエアチェックして楽しんだ。
「コロ」「イェルサレム」と並んで、「3大ヘルデン・テノール」を謳歌したものだ。
カラヤン、ショルティ、バーンスタイン、レヴァインなどの大物からもひっぱりだこになり、CDも豊富に残されている。
若い頃から、歌っていたロックの分野でも活躍したマルチぶりであったが、私などワーグナーは声の負担が大きいから、無理して欲しくないな、と思っていたのだが・・・・・。
そんなホフマンも、90年代に入ると、歌唱が安定せず、不調の連続になってしまい、第一線から姿を消してしまうことになった。
悲しむべきか、パーキンソン病に犯されていたのである。
この病さえなければ、ジークフリートにタンホイザーといったロールへのチャレンジが待ち受けていたのに・・・・・。
「マイスタージンガー」「ワルキューレ」「ジークフリート」「リエンツィ」「タンホイザー」
「ローエングリン」それぞれの聞かせどころが、収録されている。
伴奏は、若きイヴァン・フィッシャー指揮のシュトットガルト放送響。
兄アダムがバイロイトで活躍し、自身はブタペストの重鎮となった。
ホフマンの声は、先にふれたように、クリアーでかつ力強いハリを伴なったもので、コロのような甘さのかわりに、陰りを感じさせるものだ。
その点では、ジークムントにピッタリで、キングと並んで、最高のジークムントだと思う。
小柄ながら、貴族のような容姿と、男ながら憎らしいまでのセクシーさは、ボッテリした往年のワーグナー歌手には全くない要素だった。
映像で観るジークムントとローエングリンには、まったく惚れ惚れとしてしまう。
白いシャツを着たジークムントに、大きな月を背景に眩いばかりに登場するローエングリン。
不世出の名ヘルデンテノールを聴きながら、今宵はグラスの酒がやけに進む。
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コメント
おはようございます。
ペーター・ホフマン、ホンマにカッコイイ歌手でした。素晴らしいヘルデン・テノールでした。
あまりにカッコイイのでポピュラー畑にも行ってしまいましたが、このCDは今も懐かしく取り出します。
いや、しかし当時は3800円、高かったですよね。これも涙が出るような懐かしさです。
投稿: mozart1889 | 2007年3月 7日 (水) 06時26分
mozart18891さん、コメントありがとうございます。
いやぁ、まったくおっしゃる通りで、ホフマンはカッコよすぎで、短命でした。そしてCDは高かった。
CBSの3800円はいい方で、4000円やごく初期は4500円なんてのもありましたよね。
価格が10分の1に下がったものも珍しいのではないでしょうか?
でも芸術の中身は変わってませんが。
投稿: yokochan | 2007年3月 7日 (水) 22時00分
こんばんは。
マイ・ファースト・ジークムントは多分、バイロイト=ブーレーズのP・ホフマンだと思います。いやー、かっこいいですね。DVDではつい彼ばっかり見てしまいます。あー、でもパーキンソン氏病だったんですか。知らなかったです。なんだかショックです。最近ジークフリート・イエルザレムもめっきり名前を聞きませんがどうしたんでしょう?
投稿: naoping | 2007年3月 7日 (水) 23時29分
nopingさん、こんばんは。
私のファースト・ジークムントはキング師です。その後、バイロイト放送ではゲルト・ブレンアイスなんていうヘナヘナのジークムントだったもんで、ホフマンのキリリと引き締まったジークムントにはえらく驚きましたよ。
イエルザレムも聞きませんね。数年前、N響のエレクトラに出てましたが、それっきり。そこへいくと、R・コロは自分をセーブしつつ頭髪以外は長命を誇った歌手でした。
投稿: yokochan | 2007年3月 8日 (木) 00時22分
yokochanさま お早うございます。
ちょっと遅れコメントですが~。
ペーター・ホフマンさん、パーキンソン病だったんですね、知りませんでした。レヴァインとの「ローエングリン」リザネクさんも歌っておられるので、欲しいなっていつも思っているんですが~。
ヴィントガッセンさん、キングさんは長く歌った方なんですね~
ミ(`w´彡)
投稿: rudolf2006 | 2007年3月 8日 (木) 06時16分
rudolfさん、おはようございます。
私もホフマンの病は最近になって知ったんです。
彼のHPでも病気のことが書かれてました。
悲しいことですが、ホフマンは充実期にいい録音を残してくれたのが嬉しいですよね。
ヴィントガッセン、キング、コロと長い歌手生命を保ちましたね。
投稿: yokochan | 2007年3月 8日 (木) 07時46分
ひさしぶりにおじゃまします。このCD、今も時折聴いていますが、何度聴いてもいいです。
>CDも豊富に残されている
コロ、イェルザレムにははるかに及びません。彼らと違って録音に熱心じゃなかったみたいですね。ポピュラー活動があったというのも一因でしょうけど。マイスタージンガーの正規盤がないのと、パルジファルの映像がないのが一番残念です。他にもいろいろと聞きたい、見たいものありますけど。
>小柄ながら、
映像、確かに小柄に見えますが、身長185cm、肩幅63cmと伝記にありますし、「暗い、セクシーな声の大男」という記述もあります。
投稿: edc | 2007年3月16日 (金) 22時29分
euridiceさん、こんばんは。ようこそおいでくださいました。
この1枚はほんとに宝物のような1枚です。
いつも教えていただくことばかりで恐縮してます。
「暗い、セクシーな声の大男」ですか、映像で観てると小柄に見えてしまうのは、他の方々がさらなる大男・ジャイ子さんだったのでしょうか。
カラヤンとのザルツブルクのパルシファル映像が、どこかに潜んでいそんでいるといいのですが。
投稿: yokochan | 2007年3月17日 (土) 01時04分
yokochanさん、とんでもありません。
>映像で観てると
これって、はじめて映像を見たころ、お友だちとそんな話をしたことがあります。やはり共演者が同等かそれ以上に大柄だということと、バランスが取れた体格、まったく肥満したところがないせいで、画面では一見小柄に見えるのだと思います。
逆の現象ですが、テレビや映画でしか知らなかった人を目の当たりにすると、一瞬とても小さく感じませんか? スクリーンやテレビ画面でのサイズ感って、実際より大きく認識させるようです。何度かそういう体験がありますが、いつだったか六本木でシルベスター・スタローンをみかけました。ほんとに小男に見えて驚きました。アメリカンクラブで卓球をしてるのを見たという知人が、「トム・クルーズってものすごいチビ!」って興奮して報告したこともあります^^; お二人ともいわゆる大柄な方ではないようですけど、それにしてもチビはないでしょ?
舞台映像というのは、撮り方によって、別の尺度が生じるような気がします。
長々とつまらないおしゃべり、失礼しました。
投稿: edc | 2007年3月17日 (土) 08時43分
eurideiceさん、なるほどです。
スポーツ選手は別として(むしろ大きく見える)、確かに芸能人とか小柄に見えますね。
それと、指揮者。映像で見るとオーケストラの前ではでっかいのに、コンサートで、指揮台を降りちゃうと小柄だったり、職業や役回りにもよるかもしれません。
どうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2007年3月17日 (土) 14時21分
またおじゃましました。おずおず...^^;
>ジークフリート・イエルザレム
1940年生だそうですから、もう70歳のほうが近い年齢ですね。現在ニュルンベルク/アウクスブルク音楽大学の学長。ホフマンと違って、平穏な人生というところでしょうか。
投稿: edc | 2007年3月18日 (日) 14時39分
おはようございます。どしどしお邪魔くださ~い(笑)
イエルザレムも70近くなんですね。
あの人は正真正銘デカイですよね。コンサート会場で見かけ横にならんだことがありますが、デカかった!です。
投稿: yokochan | 2007年3月20日 (火) 09時24分
お言葉に甘えて・・ ずれてますが、大きさ関連の話題をTBします。それから、ついでに下記は私のHPの写真にリンクしています。上はバイロイト音楽祭の余暇にテニスをする歌手たち。左から、ホフマン、ゾーティン、イェルザレム、エーゲル(ローエングリンチームとラインの黄金チームだそうです)中、ホフマンとバレンボイム。下、ホフマンとレヴァイン。
http://www.geocities.jp/euridiceneedsahero/image/8333.jpg
http://blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_6c0/euridiceneeds/4441542.jpg
http://blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_6c0/euridiceneeds/4471023.jpg
投稿: edc | 2007年3月25日 (日) 17時49分
euridiceさん、ようこそ! TBありがとうございました。
大と小のなかなかに興味深い記事、おもしろく拝読しました。
水泳パンツの話はなるほどです。昨日のローエングリンはウエストも問題でしたので、水泳パンツチェックは大事なことです・・・。
ご紹介いただいた、写真。見入ってしまいました。
特にバレンボイムとのツーショット。顔も含めて子供状態に唖然。
レヴァインも横にデカイだけなんだ。奥にいるエステスはデカそう・・。
投稿: yokochan | 2007年3月25日 (日) 21時14分
こんばんは…
このCDはもう買えないのですよね。。。。
一目お会いしたかったのに、どうしてわたくしを置いていってしまったの!?と一言申し上げたいくらいです。こちらでお元気なお顔を拝見できて嬉しい反面、二度とこういう姿は見られない悲しさが隠し切れません。
投稿: moli | 2010年12月 2日 (木) 00時53分
moliさん、こんにちは。
今朝まで、ホフマン氏がいなくなってしまったことを知りませんでした。
ショックです。
現役を引退しての闘病生活。
神に召されてしまいました。
今宵は、ワーグナーを聴いて偲びたいと存じます。
投稿: yokochan | 2010年12月 2日 (木) 12時31分
moliさん、横から失礼します。
>このCD
日本のアマゾンには、いくら何でも?!の値段の中古が載っていますね。
ヤフーオークションに輸入盤が一枚出品されています。是非落札なさってください。
投稿: edc | 2010年12月 3日 (金) 08時55分
euridiceさん
えーーっ、すごい値段ですね!
moliさん、うまく入手されるといいんですが。。
投稿: yokochan | 2010年12月 4日 (土) 16時24分
edc様、yokochan様
こんにちは。
今まで気がつかずにおり、失礼いたしました。
実は、法外なあのお値段のページをかなり前からお気に入りに入れておりました(いじらしい乙女心!?)。
今月初めに何気に覗いてみるとドイツからの発送ですが新品・送料込みで、なんとなんと2698円!
数日前に届いてずっと聴いております
投稿: moli | 2011年2月18日 (金) 11時11分
moliさん、こんばんは!
まぁ、ついに手にされたのですね。
新品購入なによりです。
昨年、亡くなってしまいとても残念なのですが、病から解放されたホフマンは、大ワーグナーにもその歌声を聴かせているかもしれませんね。
このCD、わたしも最高の宝物なんです。
投稿: yokochan | 2011年2月19日 (土) 01時11分
お久しぶりです。それに旧〜〜記事へのコメントでごめんなさい。昨秋発売の、ペーターホフマンの弟さんの本をのろのろと読んでいるのですが、びっくりの話がありました。知らなかったのは私だけ?なんてことかもしれませんけど・・
このアリア集の「ローマ語り」、ヴォルフラムのバリトンの名前まで載っていますけど、このバリトンの正体はホフマン自身なのだそうです。ウッソー?!エッ?!というわけで、じっくり聴いてみました。そう言われれば、そのようでもあります。 yokochan も是非、再聴してみてください。
記事TBします。いい加減で下手な訳、お恥ずかしいですが、ご容赦願います。
投稿: edc | 2013年2月 8日 (金) 14時21分
euridiceさん、こんばんは。
こちらこそお久しぶりです。
寒いですね。
そして驚きの情報をありがとうございます。
TBもありがとうございました。
ほんのちょい役のここでのウォルフラムですね。
ずっと気にせずにいました。
週末に家に帰ったおりに、是非にも確認したいです。
ちょうど、タンホイザーをとりあげようかというタイミングでした。
そしてタイミングというものはあるものですね。
数日前、某中古店で未入手だった「Monumennts」を見つけ購入しました。
ハリのある力強い声を楽しんでます。
近く記事にしようかと思ってます。
投稿: yokochan | 2013年2月 9日 (土) 01時01分