プッチーニ 「西部の娘」 新国立劇場
21日(土曜)に、新国立劇場にて、プッチーニの「西部の娘」を観劇した。
新国の公演記録を見るとさすがに人気作曲家、主要作品はほとんど取上げられていて、レパートリー化している。
そんな中で、上演されてなかったのが、この「西部の娘」と「三部作の一部」と「エドガー」「ロンディーヌ」など。
こうした地味な作品にもプッチーニらしい美しさとオーケストレーションの素晴らしさが満載なので、今回の新国の上演には、大いに敬意を称したい。
この作品、かつて「メータ」のCDを取り上げたが、舞台設定がアメリカ開拓時代で効果を狙いすぎなのと、劇の仕立てが少し陳腐なところから、音楽は素晴らしいが全貌がどうもよくわからない。
粗筋や音楽の内容は、以前の記事を参照くだされ。
こんな印象を持ちながら、劇場に向かった。
プッチーニ 歌劇「西部の娘」
ミニー :ステファニー・フリーデ
ジャック・ランス:ルチオ・ガッロ
ディック・ジョンソン:アティッラ・キッシュ
ニック:大野光彦
アシュビー:長谷川顕
ソノーラ:泉 良平
ウルフ・シルマー指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
演出:アンドレアス・ホモキ
(2007.4.21 新国立劇場)
こんなメンバーに、演出のホモキ・・・、うん?私は初めてだが、この人はユニークな演出をする人と聞いている。
パンフを見ると、時代設定を現在に置換えているという。ふ~む。
(段ボールの吊首台のジョンソンさん)
幕が開くと、なるほど舞台には、今風のなりをした若者がスーパーの、それもウォルマートのような大型スーパーで使うような、大きなカートに、いろんなものを積んで、客席を見ている。その人物たちは世界中の国籍の人々。
アメリカ人、日の丸の鉢巻や刺青の日本人、ターバンを巻いたインド人、中国人、ユダヤ人、南米風に黒人に・・・・・。
ホモキによれば、東京での上演を意識し、祖国を失ったもの、移住者の心の悲しみを描こうとしたという。
これはこれで、すんなりと受け入れられる自然さがあった。
舞台は、極めて多量の「段ボール箱」に埋め尽くされていて、メーカーの「レンゴー」の政策協力という。
この特殊に強化された段ボールは、登場人物が階段のようにして乗り降りもするし、蓋を開けて中に隠れたりもする。
驚いたのは、段ボールの壁が部分的にバタンと倒れ、通路が出来てしまったこと。なかなかのアイデア。
縦横と数えて掛け算したら、1100個いやもっとたくさんあったのかしらん?
人々は金鉱に働く労働者ではなく、大工場に出稼ぎにきた労働者なのである。
悪役ランスは、アメリカンの悪漢ポリスだし、盗賊の首領ジョンソンはジーンズにネルのチェックシャツのトラック運転手のよう。ミニーは、上下のつなぎだし、おめかししたときは、赤い靴の完全なアメリカン・ガール。
わかりやすく、楽しい演出だった。
でも原作通り、西部の舞台が見たかったな。
歌手は、ミニー役の「キャロル・ヴァネス」が早くから降板したが、主役3人は、実に良かった。
特に、ランスの「ガッロ」!アバド盤のフィガロのいい人とは、大違いの憎憎しさ。
声もよく響きわたり、悪いポリスぶりに徹していて、この人が一番拍手を受けていたように思う。
ミニーの「フリーデ」は、出だしがイマイチだったが、1幕後半から調子を上げ、やわらかなやさしい女と鉄火場女の二面を歌い出さねばならない難しい役をよく歌っていた。
経歴によれば、ジークリンデやブリュンヒルデ、サロメも歌うそうだから、これは期待。
ジョンソンの「キッシュ」はもう少し力強さも欲しいがまずまず。
男性合唱の正確さ、うまさも新国のもはや定番。
そして東フィルがまたうまかった。
オペラ指揮者としての「シルマー」は、ワーグナーや後期ロマン派が得意だが、このプッチーニもよかった。
音楽を完璧に把握し、オケと歌手への指示もかなり細やかに出していて、安心の要のようだった。
今回の舞台で、「西部の娘」がより身近になった。面白かった。
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コメント
これもって、ほとんどのオペラがそうですが、レーザーディスクとテレビ視聴が初体験のオペラ。音楽が全然ピンと来ないので、お芝居として楽しんで終わりでした。
新国に登場で、思いがけず最終リハーサルに行き、久しぶりに取り出しましたが、相変わらずです。生舞台未経験のオペラは行くことにしているので、シーズン予約済みということで、最終日にも行きます。最終リハーサルのびっくりをアップしてますのでTBします。
>「レンゴー」の政策協力
え?!政治絡みだったの?!なんて一瞬?!!!
「レンゴー」が「連合」に見えちゃいました^^;;
投稿: edc | 2007年4月23日 (月) 07時17分
こんにちは、コメント・TBありがとうございます。
ゲネプロ行かれたのですね。
映像では、NHKでスカラ・メトをチョロ見しただけですので、実質的に今回が初めてでした。それなりに楽しめましたが、段ボールは味気ないですな。
ははは、時節柄メーデーも近いですし、労働者の物語と化していたわけですから、さもありなん(笑)
投稿: yokochan | 2007年4月23日 (月) 11時08分
こんばんは
ダンボールとは驚きの演出ですね。
新国の演出はカナリ興味があります。
私は未だ未開拓オペラの1つ。実際の舞台を見てみたいです。
ダンボールの数を数えたyokoさん
好きです
投稿: おぺきち | 2007年4月24日 (火) 23時35分
おぺきちさん、こんばんは。
「西部の娘」は私にとって手ごわい作品でしたが、実際に舞台で見て親密なオペラになりました。
こういうオペラを、新演出で観れるのも新国の功績ですね。
段ボールのエコ演出には私も驚き。そして数を数えてあまりの数にビックリでした。頭の中で計算してたら、音楽はすっかりお留守になってしまいました(笑)
投稿: yokochan | 2007年4月25日 (水) 00時40分
最終日、行ってきました。今度は音楽がすう〜〜っと入ってきて、いかにもオペラ!という感じで大いに楽しめました。あらたな記事、TBしますのでよろしくお願いします。
投稿: edc | 2007年4月28日 (土) 20時07分
euridiceさん、こんばんは。
最終日行かれたのですね。かなり予習を積んでいかれたとのこと、慣れない作品には、そうした聴く側の努力も必要ですよね。
でも本当に頭の下がる思いです。
機会があれば、段ボールじゃなくて、西部の酒場の舞台を見てみたいです。
投稿: yokochan | 2007年4月28日 (土) 23時18分
yokochan様
東京ででも、このオペラの上演は、1963年の第四次NHKイタリア・オペラ公演での、本邦初演以来だったので、ありましょうか。録音・録画のソフトは割りにございますので、飛び切りレアな演目では無いにしても、私ごときはおそらくこのオペラの実演の舞台は、拝めないままあの世に旅立つ志儀に相成りそうで、御座います。
投稿: 覆面吾郎 | 2022年8月14日 (日) 18時03分
西部の娘は、台本がやや陳腐ながら、日米中と各国情緒満載のオペラを残したプッチーニだけに、音楽は極めて素晴らしいと思います。
マゼールとスカラ座の日本公演もあったかと思いますが、新国でもその後は再演なしです。
投稿: yokochan | 2022年8月19日 (金) 08時38分