R・シュトラウス 歌劇「影のない女」 ショルティ指揮
映像の方は、没後10年の「ショルティ」が1992年にザルツブルクで指揮した上演のライブで観劇。
このオペラは、劇の仕立てが複雑なだけに、舞台を一度じっくり観ないとその全貌がさっぱりわからない。
というか、シュトラウスのオペラは殆どそういうことが言えるかもしれない。
皇帝 :トマス・モーザー 皇后 :チェリル・ステューダー
乳母 :マリアナ・リポヴシェク 使者 :ブリン・ターフェル
バラク:ロバート・ヘイル 皇后 :エヴァ・マルトン
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演出:ゲッツ・フリードヒ
こちらのキャストも強力で、昨日のサヴァリッシュ盤より少し若返っているが、ステューダーは共通している。
舞台は一様に暗い。お伽の世界だからか。ゲッツ・フリードリヒの作り出す舞台は、いつも近未来的な不思議空間を思わせる。その無機質ぶりが、音楽と乖離する直前に止まってこうした作品では絶妙の緊張感をかもし出す。
第3幕は、横に広いザルツブルクの空間を見事に活かし、なかなかにファンタステックな舞台で、引き込まれた。
皇帝は、リリックテノールからヘルデンに飛躍した頃のモーザー。生真面目な一直線の声は個性はないが、力強く安心できる。
皇后のステューダーは、カバリエほどではないが、結構立派なお体。歌は立派だけれど、同情しておろおろする様がかえって滑稽に。CDの方がいい。
皇帝夫妻より、ここではバラク夫妻が素晴らしい。
ヘイルは、リング公演のウォータンを観て、舞台栄えする姿と美しくよく響く声が気に入っていたバス・バリトンで、このバラクも人の良さと、妻への愛情に満ちた名唱。
その妻マルトンも渾身の歌。ドラマティックな要素の高いこの役、2幕でバラクに本心を訴えるところなど、感動ものだった。
さらに、狂言回し的な乳母、リポヴシェクの憎くも、皇后を偏愛する様を凄まじい声で歌っていて、これにも二重マルだ。
この5年後には、没してしまうことになるショルティは、元気満々。
いつものように、ぎくしゃくした指揮ぶりだけれど、シュトラウスの円熟の作品の面白さをあますことなく描きだしていると思う。指揮姿と出てくる音楽が一致しているのは、2幕最後の超ドラマティックなエンディング。あとは、ウィーンフィルのまろやかな音色が楽しめる寸法だ。ショルティ晩年の境地だろう。
思い出の公演は、1984年「ハンブルク国立歌劇場」の来日公演。
当時の総監督「クリストフ・フォン・ドホナーニ」に率いられての大規模な公演で、「影のない女」の日本初演と斬新な演出の「魔笛」、バイロイトで活躍していた、「ネルソン」指揮の「ローエングリン」の3演目を取上げた。
ドイツオペラ好きにとって、よだれものの演目で、当時会社に入ってちょっと余裕の出た独身貴族の私は、全演目S席観劇という、今思えば途方もない快挙をしてのけた。給料は、酒と音楽に消えてゆく楽しい思えば日々だった。
これが当時のキャスト。これまた素晴らしい。
リザネックは当時もう30年以上も皇后を歌い続けていたが、その感情移入の凄まじさは、声の衰えをまったく感じさせない見事なものだった。
そして、G・ジョーンズの圧倒的な声。低音の魅力は実際に聴くと実に素適だった。皇帝のシェンクもすごい声量で、耳にビンビン来た。
素晴らしいヘルデンだったのに、録音が残されず残念な人だ。
そして、そしてですよ、私の目当ては、「デルネシュ」。
ブリュンヒルデやイゾルデの彼女がメゾに転向して、日本に初登場した。おっかない厚化粧をしていたので、写真で見ていた美しいイゾルデの面影はないが、声はあのデルネッシュ。ちょっとイヤな役だけれど、やはり名歌手。舞台に華があった。
3幕での、皇后の葛藤の場。金色に輝く泉が、皇后の顔に映り、キラキラとして見えた。
リザネックのここでの歌唱は、忘れがたいほど感動した。
真近で見るドホナーニの指揮は、まさにオペラ指揮者のそれ。オーケストラを完璧にコントロールして、歌手と舞台に鋭い視線を送りつつ指揮していた。
かつての歌劇場の引越し公演は新鮮だったなぁ。
今は多すぎるし、演出が疲れちゃうし、だいいち高すぎて
手がでない。
その分、「オペラ・パレス」で我慢するか・・・・。
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コメント
さすがに見たことない盤ばっかりとりあげてくれますね。
いやー、ちょうど偶然、ハンブルグのタンホイザーを、今日上げたところですけれど、ついでに1984年の来日公演のことにも触れました。ドナートと握手しました。(自慢!)バイエルン・サヴァリッシュの方も行きました。まだ、めずらしかった影のない女は、対訳を送ってくれましたよね、確か。
あんまり「影のない女」出さないでくださいね。私の数少ないレパートリーなのに。
投稿: サモトラケのニケ | 2007年4月16日 (月) 17時20分
こんばんは
ショルティ盤はCD/LD共に持ってます。ですがLDはプレーヤーが数年前から壊れたまま。かといって修理に出す気もなく、じゃDVDに買い替えるか(ソフトの方)というと、それも勿体無い気がして・・・。というわけで、サヴァリッシュ盤購入リスト入りです。
投稿: HIROPON | 2007年4月16日 (月) 23時35分
サマトラケのニケさん、こんばんは。
ごめんなさい、また変形「影なし女」を今晩出しました、これでしばらく打ち止めです(笑)
私も対訳を送ってもらいましたが、カットがいろんなところにあったり、なかったりで、困った対訳でしたが大いに助かりました。
投稿: yokochan | 2007年4月16日 (月) 23時42分
こんばんは。
ありゃ~ハンブルク。これですか、ウワサの。この公演は行ってないのです、だってまだ学生だったし(うっ)。それにしても女声がすっごい!!ロベルト・シュンクもいいですね。(サヴァリッシュ盤ジークムントですね!)
ところで私、ヨーロッパの普通の演出の「影の無い女」(どこの東洋だかわからない版)を生で見てみたことがありません(っつーかサヴァリッシュのしか見たことないし)。また、将来の希望としてはとにかく新国でやってもらいたい(ポップでアートな演出とか)。もしくは、演奏会形式で抜粋でもいいからとにかく生で聴きたい。うーん、ムリかな?
投稿: naoping | 2007年4月17日 (火) 00時11分
HIROPONさん、こんばんは。
LDは壊れるとやっかいですね。でもあのLP大のLDは存在感があって、所有する喜びがありましたよ。
ショルティのDVDは、HMVのセールで格安に購入しました。
いい時代であります。
そして、サヴァリッシュ盤の購入リスト入り、大いに賛同いたします。
ありがとうございます(何のことはありませんが~笑)
投稿: yokochan | 2007年4月17日 (火) 00時11分
naopingさん、こんばんは。
へへっ、これですよ、噂のハンブルク。
ご指摘の女声3人はもう最高でしたぁ(リザネックもいいもんですよ)
そうなんです、新国いや、オペラ・パレスとかいうところでの「若杉の影なし女」をみんなでリクエストしましょう。
アルミンクのすみトリでもいいですしね。
投稿: yokochan | 2007年4月17日 (火) 00時24分
yokochanさま お早うございます
お久しぶりです。
リザネクさんの皇后、聴かれたんですね、羨ましいな~
私は、前夜祭のようなコンサートで、「ヴァルキューレ」一幕第3場の2重唱を聴いたことがあるだけです。
でも、凄いメンバーだったんですね
本当に羨まし限りです
聴きに行きたかったな、行けば良かったと
ミ(`w´彡)
投稿: rudolf2006 | 2007年4月20日 (金) 07時23分
rudolfさん、こんばんは。
リザネクは舞台では、なかなかの存在感でした。
ヴァルキューレの3場は、私も聴いてます。
名歌手が出演した、ガラ・コンサートではなかったと。
ジークムントは、イエルサレムで、指揮がスペインのガルシア・ナヴァロでした。あの時も実に良かったです。
ベームのCD、ダブル買いですか、私の人のことは言えません・・・・。
投稿: yokochan | 2007年4月22日 (日) 00時46分