R・シュトラウス10作目のオペラは「アラベラ」。
黄金コンビ、ホフマンスタールとの共作も7作目にして、これが最後となった。
1929年から32年にかけて作曲、シュトラウス68歳の年に完成。
台本の優秀さを得て光るシュトラウスの抜群の作曲技法。
ギリシア神話の時代の荒唐無稽な筋立ての前作「エジプトのヘレナ」とはうって変わって、「アラベラ」は、絢爛たるウィーンを舞台にした喜劇ともとれる洒落たドラマとなった。
第1幕
「1860年のウィーン、退役の大尉ヴァルトナー伯爵は見栄っ張りでカード好きの浪費家。一家は破綻の窮状にありながら、高級ホテルに暮らしている。妻アデライーデは占い好き。占い師によれば、娘アラベラに金持ちの求婚者が現れると。
アラベラには、ズデンカという妹がいるが、娘二人を貴族の娘として養うには金がかかるので、男装させて、弟として通っている。
アラベラは美女だったので、3人の伯爵から求婚されているほか、若い軍人マッテオも熱い思いを寄せている。このマッテオの親友として振舞うズデンカだが、彼女は密かにマッテオを愛しているが、自分を殺してマッテオのために大好きな姉と一緒になることを思い、偽の手紙などを書いていじらしい企みをしている。
アラベラは誰にも興味を持てず、ただひと目みた目の大きな旅人風の男に憧れをいだいている。
父伯爵は、破綻の苦しみから、大金持ちの戦友マンドリーカに娘の写真を添えて手紙を出していたが、やってきたのは伯父の死で遺産を相続した甥であった。
アラベラの写真を見て、ひと目惚れして都会に状況してきたわけ。
第2幕
「フィアカー舞踏会の会場。会場で出会ったアラベラとマンドリーカ、二人はすぐに恋に落ち、アラベラは娘時代に別れを告げるため、1時間だけ舞踏会の女王となることの了承を申出る。3人の伯爵にお別れを告げ、ワルツを踊る。それを胸を焦がしながら見つめるマッテオ。自殺をもほのめかすマッテオを心配したズデンカは、姉からとして部屋の鍵を渡す。この場面を盗みみたマンドリーカ! もう嫉妬に狂いまくり、騙されたと踊り子フィアーミリと乱痴気騒ぎになる。そこへ、伯爵夫妻がやってきて、真偽を正そうと家(ホテル)へ帰ろうということに」
第3幕
長い前奏曲のあと「二階の部屋から、マッテオが事足りて身を整えておりてくる。そこへ、舞踏会を中座したアラベラが帰ってくる。姉と思い込んでいるマッテオは、アラベラのよそよそしさが理解できないうえ、さらに情熱的に言い寄る。
ここに伯爵夫妻とマンドリーカが帰還。この様子を見たマンドリーカは、アラベラを侮辱するかのような言動を吐くが、何もわからないアラベラには事実を述べる以外にどうしようもない。この騒ぎに飛び出して来たズデンカ。ドナウ川に身を投げるなどと叫ぶが、すべてを理解した姉は、妹を優しく抱きしめる。ズデンカが一番が立派なのよ、というセリフにはグッちくる。
これを見たマッテオは、アラベラへの愛を諦め、ズデンカをいとおしく思うようになる。
マンドリーカは、この若い二人の結婚を許すように伯爵にとりなす。
アラベラは、泉の水を一杯所望し、マンドリーカを残し、皆引き上げる。
自分を見向きもしなかったアラベラが許してくれないのは当然と失望のマンドリーカのもとに、アラベラが水をもって降りてくる。もう水を飲んであらたな気持ちになることはないので、これを飲んで欲しいと。マンドリーカの故郷では、花嫁が承諾のしるしに花婿に水を捧げる風習があるという。二人は抱き合い、アラベラは部屋に駆け上がり、マンドリーカは幸福に満たされて幕となる」
誤解が呼ぶ、悲喜こもごものドラマ。
主役は二人の姉妹。ここでも女声好きのシュトラウスらしく美しい二重唱が散りばめられている。「ばらの騎士」や「アリアドネ」と同じくするズボン役。でもズデンカは本物の女性であるが。アラベラは、マルシャリンやダフネ、カプリッチョの令嬢などと同一線上の歌手によって歌われ、ズデンカはスーブレット役。
それをとりまく、二人の恋人役。特にバリトンのマンドリーカにも聞かせどころが多い。ヴァラキア(ルーマニア方面)地方の粗野さと純情さを兼ね備えながら、情熱に満ちた歌がたっぷりある。朗々としたカヴァリエバリトンがいい。
2幕の二人の二重唱には陶然としてしまうくらい素晴らしい。
一方のマッテオは色男役のテノール。頼りなげな情熱テナーでも充分。
アラベラ :グンドゥラ・ヤノヴィッツ マンドリーカ:ベルント・ヴァイクル
ズデンカ :ソーナ・ガザリアン マッテオ :ルネ・コロ
ヴァルトナー:ハンス・クレーメル アデライーデ:マルガリータ・リロヴァ
フィアカーミリ:エディタ・グルベローヴァ 占い師:マルタ・メードル
サー・ゲオルク・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演出:オットー・シェンク
これは、1976年頃に収録されたビデオ映画である。
まずはその素晴らしい配役に感嘆。
そして常に室内で行なわれるオペラだけに、時代を思わせる美しく豪華な内装にもうっとり。そして、デラ・カーザの映像がないだけに、声と、少しトウがたったがその美しい容姿が理想的なアラベラのヤノヴィッツ。その怜凛とした美声は、やはりシュトラウスにこそ相応しいと思う。表情のひとつひとつまで気持ちのこもった演技にも驚き。
若きヴァイクルもその美声を惜しげもなく発揮しまくりで、バリトンを聴く喜びはここに至れりって感じ。同様の喜びは、コロにも言える。ワーグナー諸役を歌う時と違って、甘い美声をコントロールすることなくひけらかせている。かわいいカザリアンもいい。
そしてちょい役に顔を出している、グルベローヴァと懐かしいメードルらの存在感。
ショルティの普段の硬直的な指揮ぶりは、画像を伴なうとまったく気にならない。
それどころか、2度に渡ってウィーンフィルの貴重なアラベラを残したショルティは、この作品によほど愛着があるみたいだ。やわらかなタッチで、シュトラウスの目のつんだ澄み切った抒情を描いている。でも、3幕の前奏曲はちょっと張り切りすぎかも。
以前発見したビデオをDVD化しての試聴。われ、正規盤の復活を望む。
ほかの愛聴盤は、ショルティ、カイルベルト、サヴァリシュ、ティーレマン(DVD)。
NHKで放送されたサヴァリッシュの公演は、ポップとヴァイクルの素晴らしい舞台だった。
そのビデオは家のどこかに埋もれていて、いずれ救出せねばならない。
ともあれ、この愛らしいオペラが大好きである。
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