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2007年7月 1日 (日)

R・シュトラウス 歌劇「エジプトのヘレナ」 クリップス指揮

Strauss_helena R・シュトラウス第9作目のオペラは、お得意のギリシア神話の時代に題材を求めた「エジプトのヘレナ」。
朋友ホフマンスタールとの共同作品。
面白いもので、シュトラウスは、性格や内容の異なる作品を交互に書いたように思う。
前作は、ドメステックな「インテルメッツォ」だし、その前が壮大なお伽話の「影のない女」、さらにその前が小編成オケによるギリシア神話題材「アリアドネ」・・・・、といった具合に。

エジプトのヘレナ」は、1924~27年にかけて作曲され、28年にF・ブッシュの指揮で「ドレスデン」初演された。欧米でも上演機会が少なく、70年代のウィーン(当ライブCD)、80年代のミュンヘン(サヴァリッシュのシュトラウス全作上演の快挙)、2000年代のザルツブルク演奏会形式上演。これらに混じって、2004年に二期会が、日本初演上演をして遂げた!
Helena_nikikai Helena_5 二期会と若杉氏との熱意溢れる素晴らしい舞台だった。
主役の横山恵子と福井敬の日本人ばなれした声に感嘆。

そして何よりも、シュトラウスの豊穣なサウンドに酔いしれることが出来た。
サヴァリッシュの放送音源と、今回のCDでかなり学習してから、舞台に挑んだが、生で聴くシュトラウスはまた格別。
思い出に残る体験であった。

物語の前段・・・・絶世の美女ヘレナに目がくらんで、彼女を奪ったトロイアのパリスから、妻を奪還しようとスパルタ王メネラが仕掛けた、10年におよんだトロイ ア戦争に勝利し、帰還する二人。メネラスはヘレナを愛しながらも、不貞の妻が許せない。
ヘレナはゼウスが人間の女に生ませた半神、メネラスは人間。

第1幕
「海神ポセイドンの愛人アイトラの宮殿、アイトラは世界のすべてを見渡せる全知の貝で、ヘレナを見て同情し、助けてあげようとする。アイトラはこのオペラの狂言まわし的存在。
彼女はヘレナに過去を忘れる秘薬を飲ませ、悩むヘレナを悩みから開放する。
 一方、旦那はまだ怒りが収まらず、幻影でまたパリスを殺したと思い込んだりするが、眠るヘレナを見て、さらにアイトラから秘薬を飲まされ、清純な妻と再会した喜びに震える。
二人は、世間から遠いアトラスの山に行くこととなる。」

第2幕
「アトラスの山中、ヘレナは第二の新婚の喜びを噛みしめ、素晴らしいアリアを歌う。
だが、メネラスはまだ錯乱していて、へレナの求愛を拒んでしまう。
アイトラの命を受けた、地元の首領親子(アルタイルダ・ウド)が、ヘレナに忠誠を誓いにやってくるが、二人はヘレナをひと目みてぞっこんになってしまう。罪な女である。
息子の歌う美女を称える歌も実に魅力ある音楽。
これを見たメネラスはまた不快。息子と狩にでて、彼を憎きパリスとダブらせて殺してしまう。嫉妬とは恐ろしいものだ。
こんなことばかりなので、ヘレナは憂えてしまい、逆に現実を直視するために、すべての記憶を回復する薬を調合させ飲む。メネラスにもその薬を勧めるが、妻の幻影が勧めているのかと思い込み、いっそ死んで本当の妻に再会しようと、潔く回復薬を飲む!
二人の記憶がまざまざと蘇えり、メネラスはヘレナを嫉妬のあまり殺そうと剣を振りかざすが、二人は見つめあい彼女への愛を取り戻し剣を捨て真の和解に達する。
首領の親父がヤケクソに、ヘレナを強引に連れ去ろうとするが、アイトラが愛人ポセイドンの助けを乞い親父は敗退する。
そこに、ヘレナとメネラスのかわいい娘ヘルミオーネが登場。
親子が愛情とともに揃い、スパルタへ帰郷の旅にでる。音楽は歓喜のうちに終わる」

かなり複雑な筋立てなので、長文となってしまったが、要は「夫婦和解」の遠大な物語である。「インテルメッツォ」とも共通の話題を超世界的視野で捉えたもの。
何もここまで・・・・・、という気もするが、音楽がいいから、まぁいいや。
時代はヴォツェックやピエロリュネールを生み出していたのに、保守的なシュトラウス・サウンドはここでも全開。甘味・陶酔・繊細・熱狂の世界を大オーケストラが奏で、ワーグナーばりのタフな歌手達を要する。
しかし、題材にも現れているように、明快で澄んだ地中海的な世界も拓かれていて、以降ますます澄み切った境地を目指して行く。

  ヘレナ :グィネス・ジョーンズ     メネラス :ジェス・トーマス
  アイトラ:ミミ・コルツェ         アルタイル:ピーター・グロソップ
  ダ・ウド:ペーター・シュライアー    全知の貝:マルガリータ・リローヴァ
  ヘルミオーネ:エディタ・グルベローヴァ
      ヨーゼフ・クリップス指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団
                        演出:ジャン・ピエール・ポネル

Helena_wien 1970年のウィーンライブは、ジョーンズの豊穣たる声とトーマスの輝かしい声、グロソッの憎々しさ、シュライアーの無垢な歌、さらにちょい役でグルベローヴァまで登場する素晴らしいキャスト。とりわけジョーンズとトーマスは最高、ワーグナー好きならシビレます。
そして、ウィーンの個性的な音色満載の、名匠振るオーケストラ。
録音はれっきとしたステレオで、かなりいい音で楽しめる。

ジョーンズはこの作品を得意にしていて、のちに、ドラティ/デトロイト響でのデッカ録音があるが廃盤ゆえ未聴。どうもそちらも素晴らしいらしい。
海外では、メトでF・ルイージが上演したらしい。
どうも、ケンペやサヴァリッシュ、シノーポリのシュトラウスの伝統を継いでゆくのは、ファヴィオ・ルイージとティーレマンらしい。

  

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コメント

僕が持っているのはその廃盤のほうです。
シュトラウスの音楽、ゴージャスな響きの中にところどころ後年の「ダフネ」のテイストがあることに最近気がつきました(それだけ「ダフネ」体験が生きているということ)。
ジョーンズのセクシーな舞台衣装が・・・。それはともかく、豊麗で凛としたデイム・グウィネスのタイトル・ロールはやはり傑出したドラマティック・ソプラノなんだなぁと実感させられます。これを録音した当時(1979年録音)は、ご承知のとおりバイロイトでブリュンヒルデを歌っていた絶頂期であります。録音のジョーンズのほうはバイロイトのステージほどにはヴィブラートが気にならず。
オーケストラを統率するドラティも強靭でありながら、しなやかさを失わない素敵な解釈でありました。

投稿: IANIS | 2007年7月 2日 (月) 21時28分

IANISさん、毎度こんにちは。
いやぁ、ドラティ盤うらやましいです。この作品は分離のいい録音できくと最高だと思います。
70年のデイム・ジョーンスもピチピチしてて素晴らしいですが、最円熟期のものを是非聴きたいものです・・・・。

シュトラウスの作品を年代を追って聴いてくると、一進一退はありますが、確実に晩年のダフネ・カプリッチョの世界に向かっていくのがよくわかります。
今回のヘレナで痛感しました。ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2007年7月 3日 (火) 00時04分

コンバンワ。こちらも拝読しました。最近よく釣られマス(笑)

このオペラは全く聴いたことが無いので、何ともコメントがしづらいのですが、グロソップですかぁ(*´∨`)エヘヘ
あの声でシュトラウスをどんなふうに歌っているのやら。いやなんか、容易に想像できちゃいそうな気もするんですけど(笑)
買わなきゃいけないアイテムがイッパイで幸せです。

投稿: しま | 2007年7月 3日 (火) 23時35分

しまさん、こんばんは。
こちらにも釣ってしまいまして、あいすいません。
筋は荒唐無稽で信じがたい内容ですが、シュトラウス好きには堪らない音楽がついてます。

グロソップは、憎まれ役ですが、いつもペコペコしていて、逆に憎めない役でもあります。最後は息子が殺されちゃったのに、「お見それしました」とばかりにすごすごと退散してしまう気の毒な悪役なんです。
ブックレットに顔を黒くした、トルコ人風の役柄写真が載ってます。
ちょっと笑えますよ。(また煽っちゃいましたか・・・)

投稿: yokochan | 2007年7月 3日 (火) 23時57分

こんにちは。釣られたしまさんに釣られて、また出てきてしまいました。
ギネス・ジョーンズ&ジェス・トーマス出演に、大いに興味をひかれますが、この作品は未経験です。ちゃんとCDを買わないとジャケット、リブレットは見られないのですが、音だけでしたら、例のところにあがってます。アドレス欄にURLを入れます。

投稿: edc | 2007年7月 4日 (水) 08時45分

euridiceさん、こんにちは。
ようこそ! 釣り甲斐がありました(笑)
作品ゆえに、お引きになるかもしれませんが、ジョーンズとトーマスのコンビに、グロソップ、シュライアー、ウィーンのオケとくれば、もう私はへろへろでした。ドラティのデッカ盤も素晴らしい様子で、この作品にハマってます。一度お試し下さい。
URLご案内ありがとうございます。じっくり取り組んでみます。

投稿: yokochan | 2007年7月 4日 (水) 23時14分

このオペラ、Decca原盤のドラティ指揮の国内初全曲盤、ボックス・デザインがヘレナに扮したジョーンズのアップで、強烈な印象の覚えがございます。DGのシュトラウス・オペラ全集輸入盤ボックスに含まれ、何とか入手は果たしました。ただ、耳馴染みになるほど、まだ聴き込めてはおりません。脱線ですが、この一組『グントラム』はクェーラー指揮のSony原盤、『インテルメッツォ』はザワリッシュ指揮のEMI原盤を借用している旨、明記されておりまして、御交渉の手間さぞかし‥と、思いました次第です。LP時代に馴染みの音源は、ショルティ指揮の『エレクトラ』くらいのこのセットでありますが、徐々に確実にモノにして行きたい思いです。

投稿: 覆面吾郎 | 2021年8月15日 (日) 02時29分

ドラティ盤は入手済みでして、現在進めている2度目のサイクルで取り上げる予定ですが、デトロイト響のうまさが傑出してます。
シュトラウスならではの、光彩陸離たる音楽かと思います。
ワーグナーは可能ですが、ひとつのレーベルでシュトラウス全集を作るのはまったく難しいですね。
サヴァリッシュがなしえなかったこと、シノーポリが存命だったら可能かもしれなかったこと、などが残念なことです。

投稿: yokochan | 2021年8月17日 (火) 08時50分

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