プレヴィン指揮 NHK交響楽団 ラヴェル
プレヴィンとN響のオール・ラヴェルプロを聴く。
実に洒落たラヴェル三昧の一夜。
組曲「マ・メール・ロワ」
ピアノ協奏曲
ピアノ:ジャン・イヴ・ティボーデ
バレエ音楽「ダフニスとクロエ」全曲
マザーグースのお伽話の世界、ジャジーな都会の音楽、ギリシャ神話の地中海的な世界、という具合に、一口にラヴェルといってもバラエティー溢れる玉手箱のような多様性に富んだ曲の配列。まったく、ラヴェルという作曲家はこ憎らしいほどに天才的だ。
その世界を、いまや名コンビともなったプレヴィンとN響が鮮やかに描きわけてみせた。
ホールに余裕なく駆け付けると1曲目が乗り切れないことが多いが、今回はバタバタ到着にも限らず、夢想的なマ・メール・ロワの音楽に難無く入り込むこてができた。プレヴィンの柔和な微笑みが隅々までゆきわたった桂演。
「美女と野獣の対話」でハープがグリッサンドで魔法の解けた様子を奏で、ソロヴァイオリンがそれに応えたとき、あまりの美しさに鳥肌が立ってしまった。
「妖精の園」の最後、じわじわ盛り上がっていくとき、こちらも幸せな心地が高まって、音楽が鳴り終わったとき、心が解放されたような思いを味わった。
ピアノ協奏曲は、スラリと長身のカッコ良すぎのティボーデ君の登場で、洗練された都会的なムードに一新された。(それにしても足ながぁ~、服もオッシャレ~)好々爺のプレヴィンが小さく見え、孫とおじいちゃんみたい。
その姿の通り、スタイリッシュで粋なピアノを奏でるティボーデ。難しいヶ所もスイスイすらすらと弾きまくり、スピード感溢れる終楽章などは引き込まれるような興奮を覚えた。
それ以上によかったのは、甘くも抒情に満ちた第2楽章。冒頭の長いソロの豊かな歌。
どこまでがラヴェルの書いた曲か、それともティボーデが即興的に弾いているのか、わからないくらいに自発性に満ちた小粋なピアノ。
そしてプレヴィンの指揮のもと、N響の管が素晴らしく輝いていた。ダフニスでも素適だったが、オーボエダモーレの女性(池田嬢)。喝采を浴びていた。
休憩後の大曲「ダフニスとクロエ」全曲は、合唱を入れない、オーケストラだけの演奏だった。
最初は、ちょっと残念に思ったが、曲が進むうちにそんなことは気にならなくなったし、中間部の戦いの前の神秘的な合唱によるアカペラの部分は、菅楽器によって奏されていて、違和感は全然感じることはなかった。
プレヴィンの棒はあわてずさわがず、ゆったりめのテンポでじっくりと進められる。
冒頭から、シルキーな弦にマイルドな木管、輝かしさを押さえた金管、そんなプレヴィンのかもし出すムードに包まれ、あっというまに50分間が過ぎてしまった。
華やかさとは縁遠い、むしろ渋さをも感じるラヴェル。
デュトワが指揮すると、もっとキラキラしたり、艶やかさ、クールさが出るが、プレヴィンのもとでは、以外に低音が豊かに感じ、その上に暖色系の柔らかなサウンドが乗っかっているように聴こえる。色に例えると、デュトワはブルーやグリーン、プレヴィンはオレンジやブラウン。どちらも、ラヴェルの芳香が立ちのぼってくる演奏だと思う。
「夜明け」以降の第二組曲に入ると、聴衆もオケもプレヴィンの棒に釘付け。
輝かしい夜明けの、晴朗で健康的な気品。ワタシはシビレました。
「全員の踊り」は、着実な盛上げで、聴いててドキドキしてしまう。
そして、ついに歓喜の爆発で興奮の坩堝は頂点で、開放された。
最後の一音、印象的な決めかたで、文字通り、見事に決まった!
曲が終わると、ブラボーの嵐、プレヴィンはオケを称え満足そうに拍手していた。いい光景だった。このコンビを毎年聴きたいものだ。
来週は、ラフマニノフ!奇跡のチケット・ゲットに顔は緩みっぱなしのオイラです。
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コメント
至福のひととき、おめでとうございました。
ティボーデの協奏曲、はまっていたでしょうね。以前、新潟の県民会館ていうタモクテキほーるで、デュトワ&フランス国立放送が来県した折、ラフマのパガニーニ狂詩曲を弾くのを聴いていまして(あの曲も結構、リズムがジャジィーです)、敏捷なリズム感に舌を捲きました。ソックスは赤でしたか?池田嬢、可愛いですよね。僕もテレビで彼女を観られるのが楽しみ(親父だよなぁ・・・)。
えっ!「ダフニス」全曲に合唱が入らない?!そんなアホな。それじゃ、わさびの入らない寿司みたいなもんじゃないですかっ!しかし、そのような過酷な状況の中、yokochanの心を魅了しつくしたんだから、プレヴィン、恐るべし。いずれBSでオンエアされるだろうから、エアチェックしなければなりませぬ。
ちなみに、私、今日仕事を休んで、本拠地の「アフタヌーン・コンサート」にいってきました。30分ずつのリレー・コンサートではありますが、隠れファンであります高橋多佳子さまの演奏(「亜麻髪」、「夜想曲Op.9-2」、「オンディーヌ」、「波をわたる聖フランシス」)をようやくりゅーとぴあで聴けました。カンムリョー!綺麗だったぜ!
投稿: IANIS | 2007年9月15日 (土) 01時27分
IANISさん、こんにちは。
色男ティボーデ君の靴下までは、確認できませんでしたが、白いシャツの襟をたてたスリムなジャケット姿は、多くの女性を魅了してました。
そして、さび抜きのダフニスになるかと思われましたが全然気になりませんでした。むしろ音が拡散せず、凝縮された感あります。
10月のBS放送をお楽しみにどうぞ。
以前おっしゃっていた、高橋多佳子嬢をお聞きになったんですな。
彼女のブログ見ました。美人ですね。終演後、寿司を食べたって書いてありました(笑)
投稿: yokochan | 2007年9月15日 (土) 08時09分
そうなんですよyokochan様、プレヴィンでなくて申し訳ないが、彼女のお母さんの実家が新潟県の加茂市(コンサートでは「おじさん、おばさんの家から来ました」と、ゆーておりました)のご出身なんだそうです。そいでもって、ご自分は「横浜」でお育ちになったそうで。なんか縁を感じるなぁ。結構新潟出身の人って横浜に住まうのですね。私の弟も横浜に住んでおりますが(そのうえ兄貴は千葉県は船橋に居住)。
プレヴィン、3つのコンサート、全部オンエアですね。合点承知。全部録らせていただきます。
投稿: IANIS | 2007年9月15日 (土) 11時18分
「ダフニスとクロエ」合唱無し!?
特に後半の、不気味なくらい神々しい合唱部分が印象的(子どもの頃、初めて聴いた時はメチャクチャ怖かった)なので、ワタシもすご~く気になります。聴いてみたいワ。
>(ラヴェルの)芳香
ホント、そんな感じですね。ラヴェルって。yokochanさんの表現力には毎度ながら脱帽です。普段は歌付きの音楽しか聴いていませんが、こちらに来るとオケだけのCDを聴きたくなっちゃいますよ。
「ダフニスとクロエ」はデュトワさんのがあるので、久々に引っ張り出してみようかな。
ブルーとグリーンをイメージしながら(*´∨`)
投稿: しま | 2007年9月15日 (土) 20時39分
IANISさん、高橋嬢は加茂のご出身なんですか。一度だけ行ったことがあります。そしてIANISさんも、神奈川・千葉に縁がなにかとおありなんですね。次回は神奈フィルと、ニューフィル千葉でもハシゴしましょうか(笑)
投稿: yokochan | 2007年9月15日 (土) 21時41分
しまさん、こんにちは。そうなんです、合唱なしの全曲は極めて珍しいと思います。ご指摘の中間部のアカペラの部分は、子供などに聞かせると震え上がってしまいます。また、夜のドライブ中などに同乗者に聞かせたら、ホラーかスリラーの場面のように効果満点です。
おっと、女性の方にこんなことを、アタクシったら・・・・。
お褒めいただき恐縮です。感じたままを恥ずかしげもなく書き散らしているだけなんです。
ラヴェルって、演奏によって印象がいろいろで、楽しいです。
七色仮面か、カメレオンであります(笑)
投稿: yokochan | 2007年9月15日 (土) 21時57分