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2007年9月 8日 (土)

R・シュトラウス 「ばらの騎士」 チューリヒ歌劇場

Zurich_2ウィーン国立歌劇場の次期音楽監督、フランツ・ウェルザー・メスト率いる「チューリヒ歌劇場」の来日公演に赴いた。
オーチャードでのオペラは初めてのワタクシ、オケピットは浅く、メストの指揮姿も上半身が出ているので、そのオーソドックスながら冷静・的確な指揮ぶりがよくうかがえる。


「ばらの騎士」は同一メンバーで、放送もされたし、DVDも売っているが、いずれも未視聴。時折、妙ちくりんな動きや小道具が気になったが、美しい舞台ではなかったろうか。

舞台奥のすり硝子の大きな窓。うすいペパーミントグリーンの壁と同色のマルシャリンのドレス。赤毛の長い髪と上に羽織ったガウンがとてもステキなシュティンメ。時間の経過に不安になりアンニュイに浸る場面、音楽の素晴らしさとともにもっとも好きなところだ。最後は、床に猫のように丸くなってしまって幕となった。もちろん、私は涙がホロリと・・・。
 動物売りや教会寄付たちが現れる場面での、イタリア歌手は、巨大なびっくり箱のなかから中国風に登場。機械仕掛けの人形よろしくギクシャクとした動きながら、その歌声の立派さに驚き。

257_82590015_2 2幕は、アレレの厨房が舞台。華やかな銀のばらの献呈がこれとは?
コックやメイドたちが、忙しく働き、ゾフィもその一人だし、父のファーニナルもコック長兼オーナーっぽい。こんな不思議な空間で行われる献呈の場面。ゾフィはおどおどと、ドアの隙間から顔を出したり、隠れたりのハニカミ娘状態で、身分がグレードアップする喜びと恐れがよくでていた。シンデレラ症候群なんだ。ところが、バラの香料を嗅いでから、俄然自己の意思でもってオクタヴィアンを見つめだす。二人のあの超美しい二重唱が始まると、厨房の人々の動きが静止してしまう。これも素晴らしいシーンだ。

この幕でも、上部に磨りガラスがあって、そこを通して行き来する人物が透かし彫りに見える仕組みになっていて、効果をあげている。オクタヴィアンの従者が、ヨタヨタの爺さんだが、オックス男爵が歌う有名なワルツが始まると、しゃきっととして、踊りまくる。幕の最後にも登場して、ひとしきり踊ったあと、椅子に放置された銀のばらを愛おしく眺めながら、オックスの歌の終了とともに、眠りこける。
後でマルシャリンがつぶやく「男の本性がわかったわ・・・」という場面、オックス、そしてオクタウ゛ィアン、さらにこの爺さんも、若かりし頃を捨て切れない。男はみんなこうしたもの。なぁるほどな!
257_82590023 終幕では、1幕目と同じ舞台。
死神装束や昆虫の給士たちが登場し、なんだかわかんない雰囲気。
ちょっとやりすぎの感もあったが、最終場は実に感動的。
マルシャリンが身を引き、若い二人が手を取り合っている場で、ひとり窓に寄りかかり外を見つめる。そして二人を抱きしめ、ひとり寂しく退場する。
男は背中で演技する、とかいうが、このマルシャリンはよく寂しい背中を演じていた。
小姓がハンカチを拾いにくる洒落たエンディングは、マルシャリンが落としたレースには目もくれず、外にいるすりガラス越しの主人マルシャリンとガラス越しに手を合わせて幕となった。

  マルシャリン:ニナ・シュティンメ       オックス男爵:アルフレト・ムフ
  オクタヴィン:ヴェッセリーナ・カサロヴァ  ゾフィー :マリン・ハルテリウス
  ファーニナル:ロルフ・ハウシュタイン    歌手   :ピョートル・ペチャーラ

    フランツ・ウェルザー・メスト指揮 チューリヒ歌劇場管弦楽団
          演出:スヴェン=エリック・ベヒトルフ

主要メンバーがDVDと同じ。2003年以来の気心の知れたメンバーは、チームとして抜群。互いに聴きあい、間も阿吽のタイミングとなっているのだろう。
重唱のバランスの素晴らしさは言うことがない。
なかでもシュティンメが、大いに気にいった。美しく通る声は、優しく温もりがある。
バイロイトのイゾルデも無理をせず、等身大の美しい若い女性として歌い演じてた。
北欧からは、いい歌手が出るものだ。
カサロヴァのオクタヴィアンもはまり役だけって、生き生きとした演技に歌唱。
贅沢を言えば、先だっての新国のオクタヴィアンの方が・・・・。
ワーグナーやシュトラウスのバリトンロールでお馴染みのムフのオックス、この人の声も実に美しい。ゾフィーもカワユク、お人形さん的でなく存在感あった。

そんでもって、W・メストのすっきり早めのテンポで、てきぱきとした指揮が良い。
随分と音を押さえていることは、その指揮ぶりからわかる。
でも終幕の感動的な3重唱では、まるでカラヤンをも思わせるような高揚感を味わうことが出来た。舞台をよく把握し、オペラの呼吸を呼むことのできるメスト。
次期ウィーンの顔として、またウィーンの面々を引き連れてくることだろうが、この味のあるチューリヒのオペラも振りつづけて欲しいもの。
クリーヴランドでも成功を収めている私と同世代のマエストロ。
ウィーンで少し揉まれるだろうが、オケの色を身に付けて、もうちょっと情の部分を表現するようになったら、さらに大物になるだろうな。

新国のJ・ミラーの名舞台とはまた違った意味で、大いに楽しめたオペラであった。
来る「ドレスデンのばら」、「琵琶湖のばら」、「横浜のばら」・・・・、それぞれどうなんだろう。
今年の「ばら戦争」は、私はこれにて打ち止めだけど・・・・・・・・。

開演前、隣接する東急デパートを歩いていたら、売場の角を曲がったところで、若杉弘先生と出会い頭に遭遇。とたんのことで、始終コンサートで見知ったお顔なのに、こっちもボケてきているから、どっかで見たことある人だな、と一瞬思い、「こんにちは」っと言ってしまった。若杉さん、キョトンとしてましたわ。はは・・・。そりゃそうだ、むこう様からしたら、知らない人だもの。
こちらも、新国の総監督として期待しておりまする。

アフターオペラは、いつもお世話になっているromaniさんと、おいしいビールを飲みながら歓談。素晴らしい舞台と秋の音楽シーズンの始まりを楽しく語り合いました。



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コメント

おはようございます。
私も同じ日に行きました・・・ま、それはこれから感想を書こうということで色々考えているところであります。
それより、若杉先生とばったり!しかも挨拶!私も昔文化村のカフェの外の席で岩城宏之さんと出っくわしたことがあります。ま、挨拶はしなかったですが。渋谷は油断しちゃダメですね~。

投稿: naoping | 2007年9月 9日 (日) 08時03分

またまた若杉御大に遭遇ですか!
羨ましい!
僕ならサインゲット&マラ9のダメ出しですヨ。

投稿: リベラ33 | 2007年9月 9日 (日) 08時40分

naopingさん、おはようございます。
やはりいらしたんですね。そんな気がしてました。
いい舞台でした。観客もグッド。シュティンメにブラボーしちゃいましたよ。
若杉先生は、幕間のビュッフェでビールを飲んでいたら、ここでもひとりでウロチョロされてましたよ。仲の良い後輩、飯守さんがいないもんだから寂しそうでした。指揮台を降りるとお歳相当に見えました。

投稿: yokochan | 2007年9月 9日 (日) 09時32分

リベラさん、おはようございます。
またまた遭遇。この先生との遭遇率は飯守氏と並んでトップクラスです。
ワーグナーものになると、二人仲良く歓談しているのが見かけられます。
そうか!ホールの外だから、サインぐらいはOKだったかもしれませんな。
でもさすがに、去年の今頃のマーラーはいまひとつだった・・、何てワタクシ言えませんわ。

投稿: yokochan | 2007年9月 9日 (日) 09時37分

こんにちは。
今年は本当に「ばら」の来日が多いですね。
「ばら」は嫌いではないはずなのに、まだ1度も行っていません。ボエームと同じく、聴き飽きた感があるのかもしれませんが……でもこういう流れには乗っておいたほうがいいのかしら?なんて思う今日この頃です。

ボエームといえば、ご帰還されてからパヴァ&カラヤンのCDお聴きになりましたか?
ワタシはここ数日こればかりかけています。何度聴いてもため息がでてしまいます…。

投稿: しま | 2007年9月 9日 (日) 12時32分

こんにちは。ありゃ、また同じ日だったんですか。これじゃ、ナタリーの時に会うかも知れませんね。
演出はともかく、演奏はよかったです。特にシュテンメは、これからも来日したらぜひ聴きたいです。1階席に座ったときは、ステージまでが遠いと思ったのですが、3階だと意外に近いと感じました。ここはまだ2回目です。

投稿: にけ | 2007年9月 9日 (日) 19時28分

しまさん、こんにちは。
ばら、ばら・・・・ばら騎士だらけですが、私はこれでたぶん打ち止め。
聴くたびに音楽も台本も、よく書けた作品だと思います。
ワーグナーとシュトラウスは行かなくては、と思い込んでますもんで・・・。

パヴァロッティは、「冷たい手を」だけ聴きました。
この頃の彼は、ストレートでほんとに素晴らしかったです。
体がもっと大きくなってしまってからは、歌いくずしが目立ったり、わがままも目立ったりで、どうも・・・・。
いずれにしても、イタリアンな偉大なテナーでしたね!

投稿: yokochan | 2007年9月 9日 (日) 22時10分

にけさん、同じ日だったんですね。
私もシュティンメが大いに気にいりました。舞台姿もいいし。
イゾルデを生で聴いてみたいものです。
そしてオーチャード、評判ほど悪くないな、との印象でした。
ナタリー様、楽しみですね。

投稿: yokochan | 2007年9月 9日 (日) 22時43分

こんばんは。
土曜日は、お疲れのところお付き合い頂き本当にありがとうございました。
この日の公演は、私にとっても決して忘れることのできない舞台になりました。
大好きなオペラがひとつ増えたことが、なにより嬉しいです。

シュテンメも大器の雰囲気を漂わせていましたし、ハルテリウスの初々しさも印象に残っています。
今回のチューリッヒの『ばらの騎士』は、10年後に伝説になっているかもしれませんね。
そんな素敵な公演でした。

投稿: romani | 2007年9月10日 (月) 22時58分

romaniさん、こんにちは。
こちらこそ、お付き合いいただき、とても楽しかったです。
romaniさんの、ばらの騎士へのしこりが払拭されて、とてもよかったです。それだけ、説得力と魅力に溢れた舞台でした。
あのチームワークは、ちょっと真似できないものですね。
伝説とならんことを期待しちゃいます。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2007年9月10日 (月) 23時25分

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