ブリギッテ・ファスベンダー アリア集
今年のような異常に暑い夏でも、お彼岸になるとちゃんと咲く「彼岸花」。曼珠沙華(まんじゅしゃげ)とも呼ぶこの花は、不気味に毒々しい雰囲気。
それもそのはず、有毒植物で、これを嫌う地中の動物が近づかないそうな。墓の周りに植えられたのも、ちゃんと云われがあるんだ。
畦道や、道端に群生している強い花。
ブリギッテ・ファスベンダーは、C・ルートヴィヒのあとの世代のドイツのメゾの代名詞ともいうべき名花であろう。
1939年ベルリン生まれ、ここ数年は活躍の声が聞かれないが、7~80年代は各地で引っぱりだこの人気歌手の一人だった。
父親が有名なバリトン歌手であっただけに、恵まれた環境と素質に恵まれ、生まれるべくして生まれた根っからの劇場の人。
そして歌曲においても、味のある歌唱は印象深い。
しかし、ファスベンダーといえば、オクタヴィアン、ケルビーノ、オルロフスキー、ブランゲーネ、ヴァルトラウテ、作曲家、セストなどの諸役が極め付きのように思い浮かぶ。配役と直にイメージが結びつく意味でも稀有の歌手かもしれない。
ボーイッシュな外観もあったことから、舞台や映像で体験すると、彼女がその役の定番として、すり込まれてしまう。
一方、CDで歌声だけ聴いても、彼女の声は強くて耳に心にビンビンと届いてくる。
後輩のアンネ・ゾフィー・オッターが同じようなレパートリーだが、オッターはもっと淡白でアッサリ系。先輩クリスタ・ルートヴィヒは、広大なレパートリーに頭脳的なまでの適応力を持って取り組んだ、どちらかといえばドマラマティコ系。
その間の、ファスベンダーは先輩・後輩の中間。適度にドラマテックで、表現も適度に濃い。そしてその感情表現はなかなかのものと感じ入ってしまう。
選曲がシブイ。
ヘンデル 「ジュリオ・チェザーレ」 グルック 「オルフェオとエウリディーチェ」
モーツァルト「皇帝ティトゥスの慈悲」 ベルリーニ「カプレーティとモンテッキ」
チャイコフスキー「オルレアンの少女」 ビゼー 「カルメン」(セギーディリャ)
サン・サーンス 「サムソンとデリラ」 マスネ 「ウェルテル」
ワーグナー 「神々の黄昏」
ハンス・グラーフ指揮 シュトゥットガルト放送交響楽団(83年録音)
しかも、これらのオペラから有名アリアでない部分が選ばれている。
ティトゥス、サムソン、ウェルテルらがそうである。
「神々」からは、ブリュンヒルデに語りかけるヴァルトラウテの長大なモノローグである。
これら多彩な役柄に対する柔軟な歌唱は、聴いていて実に納得できるもので、彼女の聡明さが伺える。あまりに渋い選曲ながら、やはり私はワーグナーが一番聴き応えがあった。
加えて、グラーフの指揮がいい。この指揮者はもっと注目されていいと思う。
N響にも来たオーストリアの指揮者だが、ムラヴィンスキーにも学びロシアものも強いし、本国系ももちろん、ユニークな個性の持主なんだ。
ボルドーとヒューストンという米・仏2国のオケで活躍中の才人。
それにしても、このジャケット怖くねぇ~?
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コメント
ブリギッテ・ファスベンダーのアリア集、これ懐かしいLPです。オルフェオ・レーベルが日本で発売され始めた頃の輸入盤で、すぐに買いました。
選曲が渋いですね。ファスベンダーの声が好きで買いましたが、当時はまだまだ初心者、その渋さに面食らいました。カルメン以外は聴いたことがない曲ばかりでした。
思い出深い1枚です。レコード棚に今もひっそりと並んでいます。
投稿: mozart1889 | 2007年9月27日 (木) 08時02分
mozart1889さん、こんにちは。コメントありがとうございます。いやぁ、レコードでお持ちですか。
レコードだと、このジャケットはさらにインパクトありそうですね。オルフェオレーベルはいい音源を沢山抱えているのですから、そろそろ廉価盤シリーズでも出してほしいものですね。
それにしても渋いですよね、この選曲。
ファンがいらっしゃって、とてもうれしいです。
投稿: yokochan | 2007年9月27日 (木) 17時01分
ブリギッテ・ファスベンダー、アリア集は聞いたことがありませんけど、好きです。シューベルトの冬の旅がとても気にいってます。
彼女の記事をTBしますので、よろしくお願いします。
投稿: edc | 2007年9月28日 (金) 19時38分
euridiceさん、こんにちは。
ファスベンダーの冬の旅は映像があるんですね。
CDも未聴です。なにか独特の存在感のある彼女ですね。
TBありがとうございました。
投稿: yokochan | 2007年9月29日 (土) 01時02分