スパス・ヴェンコフ ワーグナー・アリア集
街をさまよい中出会った、イケメン犬。
すがすがしい、ナイスなワン君。
いいなぁ、おまえ、もてるだろ。
最近は見た目重視の社会。
「おかしいぞ」
「おまえにはまだ早い」
わんこも、にゃんこもカワユイやつばかりがもてる世の中。犬社会も大変なだろな。
こちらは必ずしもイケメンとは関係なさそうだが、声だけは実にいい男の、スパス・ヴェンコフ。
ヴェンコフが突如注目を集めたのは、彼のキャリアの後半ともいっていい、1976年。
バイロイトでカルロス・クライバーのトリスタンが74年から始まったものの、リゲンツアのイゾルデは絶賛されたものの、ブリリオートのトリスタンは散々の評価で、クライバーが降りてしまうのではないかと噂されたりもした。
(今聴いてみて、不安定だけどそんなに悪くないブリリオート。)
その危急を救ったのが、突如現れたヴェンコフのトリスタンだった。ここでようやく、「カルロスのトリスタン」は完璧なものになったが、予定の3年でシュタインと交代してしまった。
ヴェンコフは、ブルガリア出身。マルチな才能の持主で、ソフィアの大学では法律を専攻し、法律家を職業としてスタートする一方、出身地のオペラ座のオケのヴァイオリニストとしても活躍していた。さらに、バスケットボールとチェスの名手ともある。
オペラ座で第二ヴァイオリンを弾く一方、コーラスにも参加し、正式に歌の勉強を重ねて50年代から60年代にかけて、オペラ歌手としてデビュー、役柄もアルフレートやピンカートンなどから徐々に広げて行き、同時に西ドイツに活躍の場を求め、数々のロールをレパートリーにしていった。
そう、こうしてみると、すごいキャリアをベースにした積上げ人生が見事花ひらいたの感がある。もちろん、豊かな才能あってのものだろう。
その後、バイロイトでは、トリスタン、タンホイザー、パルシファルなどを歌い、ベルリンを中心にワーグナーではなくてはならぬ存在として80年代半ばまで活躍した。
日本には、スウィトナー時代のベルリン国立歌劇場の引越し公演で「タンホイザー」を歌った。これはNHK放送されたし、同じメンバーのCDも出てる。
ブロムシュテットとN響のトリスタン2幕の演奏会形式公演にも登場している。
ウィーン国立歌劇場のトリスタン公演で、私は期待してNHKホールに出向いたが、キャンセル。代わりは、たよりないG・ブレンナイスだった・・・。
ということで、ヴェンコフは私にとって幻のような存在。
「パルシファル」、「ジークフリート」森の場面、「タンホイザー」、「トリスタンとイゾルデ」
ハインツ・フリッケ指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(1977年録音)
お得意のロールばかりを、バイロイトデビューの頃に録音した1枚。
これが実に聴き応えがある。トリスタンは3幕の長大なモノローグが25分にわたって収められている。
このトリスタンを聴いて、数日前のトリスタンが呑気な声に聴こえてしまう。
切実で真摯、それでいて切羽つまったような熱狂の度合いも強い。
強靭な喉に恵まれた音楽性、クレバーな自己制御と爆発力。
最強のトリスタンの一人といっていいかもしれない。
70年から80年代、カラヤンやショルティのワーグナー録音にはついぞ登場しなかったヴェンコフ。スター主義のメジャーレーベルは見向きもしなかったから、ほんとうに貴重な1枚なんだ。肉太のヘルデンテノールとは、完全に一線を画したピーンと張りつめた強い声。
バイエルン放送局に眠る数々の音源の復刻が待ちどおしい。
オーケストラの音色が、録音のせいもあるが、随分と渋い。
先般のバレンボイムの元では、ベルリン・フィルにも匹敵するような音色の美しいスーパーなオケになっていたのに。楽器の違いや、環境の変化によって変化せざるを得ないであろう。タンホイザーのローマ語りのオーケストラのくすんだ響きを聴いていて、そう思った次第。
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コメント
こんにちは。
>ピーンと張りつめた強い声
いいですね。バイロイトの映像(タンホイザー)しか、ちゃんと聴いたことがないと思います。トリスタンは何か聴いたはずですが、たぶん音が悪いとかで印象に残っていません。バイロイトの映像をTBしますので、よろしくお願いします。
ずいぶんと多才な方なんですね・・外見も相当に良いほうだと思いますし^^!
投稿: edc | 2007年10月22日 (月) 09時05分
euridiceさん、こんにちは。
ヴェンコフのそれこそちゃんとした録音がないのは、極めて残念なことです。もう15年以上前に購入した1枚ですが、久しぶりに聴き直して、おおっ~と思うことしきりでした。
そしてじっくり経歴を呼んだら、先の通りでした。
ホント多才ですね。
そしてじっくり写真を見たら、困ったような顔をしながらも、憎らしいけど、いい男ですね。
すみません、訂正します!
投稿: yokochan | 2007年10月22日 (月) 22時55分
いやぁ、ヴェンコフのソロ盤があるとは知りませんでした。わたしは83年のベルリン国立歌劇場来日公演が、初オペラだったんですが、『フィデリオ』にしてしまい後悔しています。フロレスタンがヴェンコフだったんですが、タンホイザーの方がどんなに良かったか。ウイーン国立歌劇場のときは、代役ゲルト・ブレンアイスでしたが、代わりにテオ・アダムが出たから我慢しましょう。『フィデリオ』はもの凄く、超弩級によかったのですが、感動でなにがどういいのかさっぱりわかりません。
投稿: にけ | 2007年10月23日 (火) 23時35分
にけさん、こんにちは。遅くなりました。
この1枚は私の秘蔵のお宝です。こうしたものは、発見したら即買わないと、二度と見かけなくなってしまいます。
素晴らしいタンホイザー・パルシファル、そしてトリスタンであります。
でも、フロレスタンが聴けてうらやましいですよ。
そして私もウィーンの引越しトリスタンを観ましたが、テオ・アダムのマルケは素晴らしかったですね。
ブレンアイスはなんとも・・・・。
投稿: yokochan | 2007年10月25日 (木) 13時01分