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2007年10月14日 (日)

ワーグナー 「タンホイザー」 新国立劇場

Tannhauser_2 新国立劇場のシーズンオープニング演目、タンホイザーを観劇。若杉芸術監督下の今シーズンは王道演目主体に和製もの、現代ものを絡める、だれもが納得するプログラミング。まずは基本レパートリーを定着させ、ほんとうの若杉さんらしさは来シーズン以降から出てくるのではと。

注目の船出ながら、タイトルロールが早くから、ミルグラムからボンネマへと変更になってしまった。このボンネマは、若杉さんの指揮でオープンした新国のお披露目ローエングリンのタイトルロールでもあったけど、その時もザイフェルトの代役だった。因果は巡る。今回の2度目の晴れ舞台はいかなることに。 ほかのキャストがバイロイト組と一昨年のマイスタージンガーチームで強力なだけに歌手では注目の一人だった。
演出はペーター・レーマン、ヴィーラントやウォルフガンクのもとにいただけに、オーソドックスな内容が予想され、まさにその通り。読み替えや過激なものが多いなか、ちょっと一安心。でもちょっと面白くない、とわれわれも贅沢になったもんだ
Photo 贅沢といえば、舞台装置や衣装にも金がかけられている様子。ホモキの段ボールやジーンズとはえらい違い。プログラムのレーマンの解説によれば、「ワーグナーの音楽がすべてを書き尽くしている、タンホイザーを通して芸術家という人間のありかたを示し、同時に芸術家が人間であることを示すことが目的である」、と。
時代設定や人物の背景は原作そのままに、舞台はアクリルの様々に形を変えるモニュメントが時にヴェーヌスブルクになり、森になり、白の円柱になったりで、これに照明があたって、そこそこの効果を出している。そして、舞台の奥にはスクリーンがあってヴェーヌスブルクの場面だけ、ダンサーやヴェーヌスの姿を大映しにしていて妙にデフォルメしている。森やステンドグラスはいいけど・・
こうしたコンセプトだから、タンホイザーの基本事項は当然しっかり押さえられている。救済の背景にあるキリスト教的アイテム、大きな十字架にステンドグラス、巡礼者たち、祈りなど。それから、緑の美しい森~(この場面、ヴィーラント演出の写真で見たような。)
それと、ヴェーヌスとエリーザベトの表裏一体性。

エリーザベトは歌合戦のタンホイザーの歌に喜々として拍手してしまう。
Photo_3  3幕の祈りでかつて邪念に取り付かれたことを悔いるが、2幕でことが発覚するまでだが、これほどまでに喜ぶエリーザベトは珍しい。余計にその後の転落との対比が生きてくる。
そして音楽だけでも、いつも感動する場面だが、孤立するタンホイザーをかばうエリーザベトの歌と演技にホロリとなった。歌合戦の後半から、このあたりの群集の動かし方は見事なものだった。
群集といえば、合唱は相変わらず超素晴らしい。
でも中世貴族のなりは、どうも日本人には似合わないな。おばQやキョンシーのように見えちゃった。
ついでにお叱り覚悟で言っちゃうと、ヴェヌスブルクのバレエダンサー達は、最初出てきたとき、「小島よしお」かと思ってしまった・・・・。
冗談はともかく、最終場面、枯れた枝に新緑が生え、素晴らしい合唱を背景に、こと切れたタンホイザーの上に領主が枝を置いて、タンホイザーのみにスポットライトがあてられ、幕となった。このエンディングが私としては実によかった。
この場面と素晴らしい音楽に、聴衆は拍手を忘れ、オペラに珍しく、しばしの静寂が訪れた。私は、ささやかながら、ブラボーを一言。
実にいいエンディングとその余韻だった。

 領主へルマン:ハンス・チャマー      タンホイザー:アルベルト・ボンネマ
 エリーザベト :リカルダ・メルベト     ヴェーヌス  :リンダ・ワトソン
 ヴォルフラム:マーティン・ガントナー   ヴァルター  :リチャード・ブルンナー
 ビテロルフ :大島幾雄           ハインリヒ  :高橋 淳
 ラインマル :小鉄和広           牧童     :吉原圭子

  フィリップ・オーギャン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
                   牧阿佐美バレエ団
                   演出:ハンス=ペーター・レーマン        

気になるボンネマだが、遠めがR・コロ似である。コロ似だけど、声は全然違う。
やや発声にクセを感じ、言葉が不明瞭になり音程が怪しくなるきらいもある。だが、ここぞという場面での猛進ぶりはなかなかで、ローマ物語での絶望と自暴自棄ぶりは、壊れ行く芸術家としてなかなかのものと思った次第。
Photo_5  これに対する常識人代表・いい人代表好人物のウォルフラムのガントナーが実によろしい。以前のベックメッサーとはまったく異なる人物像を、明るくよく通る声でウォルフラムの理想像として築きあげている。ロドリーゴとならんで、私の好きなバリトンロールだし。
そしてバイロイト現役組の、女性二人、ワトソンの強靭でありながら、ヴェーヌスらしからぬ暖かみある声は素晴らしかったし、メルベの真摯なエリーザベトは終止落ち着いていて、舞台をリードしてしまうかのような貫禄と気品があった。メルベトの素直な声は、きっとジークリンデにもぴったりだと思う。
チャマーの領主へルマンもいい。

初めて聴いた、フランス人ワーグナー指揮者、フィリップ・オーギャは、期待以上によかった。今風の明晰で重心が上のほうにあるワーグナーと感じたが、ここぞとばかりにオケを鳴らしこんでメリハリもあって、聴き応えあるオーケストラだった。カーテンコールで、真っ先にオーギャンが出てきて、一同手をとりあって喝采を浴びている様子をみて、ボンネマの調子を察した指揮者の配慮かと・・・・。
序曲の途中からバッカナールに入るウィーン版による上演。

2階桟敷席に、ひとり観劇する若杉芸術監督の姿あり。
終演後は、ロビーでおいしそうなオードブルとお酒が準備されていた。いいなぁあ。

071014_132817 でも休日だから、今日は開演前にオペラシティにある、ロンドンパブ「HUB」でフィッシュ&チップスとエールビールを1杯。
明日は難物オペラが月曜というのに控えている。
トリスタンへの道は、シェーンベルクを通って逆走しなくてはならない。

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コメント

むしろ知らないテノールで見たかった聴きたかったので、また代役、ボン寝間→ボンネマ登場でちょっとがっかりしてたのですが、期待が高まります・・ 観てきたら、またおじゃまします^^!!

投稿: edc | 2007年10月15日 (月) 08時17分

euridiceさん、こんにちは。一足お先に観てまいりました。いろいろ書いてしまいましてすいません。
ボン寝間君、それこそ寝間着のような格好ですよ(笑)
どうぞお楽しみ下さい。またのお越しをお待ちしております。

投稿: yokochan | 2007年10月15日 (月) 12時00分

こんにちは。
オバQ、キョンシー、小島よしおって・・・私の大好きなものばかりじゃないですか。小島よしおダンサーズがあの音楽にあわせて乱舞しているところを想像しただけで、ぞくぞくします。

投稿: naoping | 2007年10月15日 (月) 19時02分

今頃は「モーゼ」の刺(ん)激的な音響に耳が痺れていることでしょう(羨)。
「タンホイザー」、いずれ再演されるでしょうから、そのとき観にいくとします。「トリスタン」、他のワーグナー・オペラと違って、新ウィーン楽派やマーラーから遡上するのが近道なのですね、やっぱり。

投稿: IANIS | 2007年10月15日 (月) 23時42分

naopingさん、こんにちは。
ずらり勢ぞろいの感ありまっせ。
笑いをこらえる前に、音楽に感動してしまい、いまひとつお笑い系に徹しきれません。
本日、リンデンのモーゼとアロンを観て上には上があるものだと感じました。
でも、タンホイザーはこれでいいのだ、との思いも強いですし、バイロイト仕込みの伝統の美しさを感じた次第ですね。

投稿: yokochan | 2007年10月16日 (火) 01時53分

IANISさん、毎度どうも。
頭の中が12音ですわ。バレンボイムの体臭を嗅いでしまったかのような情念のモーゼに、社会派的なムスバッハ演出。
これを観てしまうと、新国タンホイザーは、まだまだの感があります。以外と、我々聴衆は体制が見ているより進化しているんじゃないでしょうか!
タンホイザーの終幕の静寂に、モーゼの集中力と爆発的な拍手に、私は日本人の音楽享受のすごさを感じましたね。

投稿: yokochan | 2007年10月16日 (火) 02時01分

こんにちは。
うれしい予想外れでした。胸がいっぱい、目頭が熱くなるとは思いもしませんでした。ほんとに良い舞台でした。

TBしましたので、よろしくお願いします。

投稿: edc | 2007年10月17日 (水) 22時47分

eurodeiceさん、新国ではタンホイザー、渋谷ではトリスタンと、同じ時間に!
東京って異常にすごいですね。
<うれしい予想外れ>
すごくわかるような気がします。ボンネマ君は進化してますね。
ほかの歌手もみんなよかった。
エンディングも、よかった。
シーズンオープニングに相応しい内容でしたね。
TBありがとうございます。

投稿: yokochan | 2007年10月18日 (木) 22時10分

こんにちは。
タンホイザー@新国ですが、いくら折衷版とはいえ、版とは関係ないと思われる2幕終盤の重唱・合唱部分をばっさり短縮したことは、大不満でしたね。
それにしても、相次ぐ主役級クラスの降板には、開いた口がふさがらない・・・

投稿: さすらい人 | 2007年10月21日 (日) 11時18分

さすらい人さん、こんにちは。
確かに2幕の終盤は歌手が頑張っただけに、少し完結に過ぎたようです。ミルグラムは聴いてみたかっただけに残念でしたが、ボンネマは以外によかったと思います。
次月の指揮交代のドレスデンはどうなることでしょうか?

投稿: yokochan | 2007年10月21日 (日) 14時14分

こんばんは。

今回の新国では、何よりもメルベートという素敵な歌手を聴けただけで、大変満足している私です。
(我ながら単純ななぁ)
エルザもエヴァも、是非彼女の歌で聴いてみたいですね。

ところで、先日録画しておいたチューリッヒオペラのタンホイザーを観たのですが、これまた実に素晴らしかったです。
ザイフェルト・クリンゲルボルン・トレーケル・ムフという素晴らしいキャストに加えて、ウェルザー=メストの作る音楽が幻想的でかつ力強さにも不足しないという、絵に書いたような名演奏だったと思います。

いっそう「タンホイザー」が好きになりました。

投稿: romani | 2007年10月24日 (水) 23時45分

romaniさん、こんにちは。
私もその単純なクチです(笑)
おっしゃるように、エルザ・エヴァそしてジークリンデを追加で聴いてみたいです。
チューリヒのタンホイザーですか!
以前から気になってる映像です。マイスタージンガーは購入しましたが、まだ見てません。
メストとチューリヒでしたら想像するだけで、うれしくまってしまいます。ということで、さっそくHMVへ行きます。

投稿: yokochan | 2007年10月25日 (木) 13時09分

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