« ワーグナー オペラ管弦楽曲 バレンボイム指揮 | トップページ | ベートーヴェン 交響曲第9番 シノーポリ指揮 »

2007年10月 7日 (日)

R・シュトラウス 「平和の日」 シノーポリ指揮

Friedenstag














R・シュトラウスのオペラシリーズ

全15作の第12作は、「平和の日」。

この訳語は、ちょっとおかしくて、「講和記念日」とも訳されるが、「平和記念日」でも変だし、なんともいい邦訳がないもんだ。
とりあえず私的には、シュトラウスのオペラっぽい響きがすることから、「平和の日」にしておく。
1936年から40年にかけて、まさにナチス政権下において作曲された。
ホフマンスタールの死を受け、前作「無口な女」では、作家シュテファン・ツヴァイクとの良好な関係を築き、その次の作品として、この「平和の日」の構想をツヴァイクは、シュトラウスに示していた。
シュトラウスもその気で、二人の間でドラマの詳細のやり取りが始まったが、なかなか意見が合わず、遂にはツヴァイクとの共作を断念せざるを得ず、そのアイデアは、ヨーゼフ・グレゴールに引継がれ完成された。
 作曲の前後に、シュトラウスは当局を揶揄したツヴァイクとの書簡が発覚し、帝国の要職を解かれてしまう。
ツヴァイクはユダヤ系ゆえ、国外に逃れ自決することになる。

Strauss_dg










平和をモティーフにしたオペラが、引き起こす悲劇は皮相である。
ナチスの元で、このような反戦平和希求ドラマが書かれ上演されたのが不思議ともいえるが、逆にナチスにシュトラウスはプロパガンダとして利用されたことにもなる。
でもこの劇の本質は、やはり真の平和希求であり、ユダヤ人ツヴァイクの求めたところに他ならず、シュトラウスは心から純粋な思いで作曲したに違いない。

 <時は1948年10月24日の夜明けまじか。
ドイツのカトリック信仰のとある町。
周囲は北からのプロテスタント軍が包囲し迫り、それを守る城郭の広間が舞台。

守備隊が街の荒廃や燃える農家を見て絶望に嘆いている。
一方、司令官は日夜毅然として地図を睨んで検討している、それを見習えとも言っている。
皇帝からの手紙を持って包囲をくぐり抜けてピエモンテ人(イタリア)がやって来て、イタリア語の美しいアリアを歌う。
これを嘲笑する軍人たち。
 やがて、町から市長や老司教たちに率いられて市民たちが、要塞になだれこんできて、司令官に降伏して開城するように懇願するが、司令官は勝利のみを求め、これに耳を貸さない。
さらに、前線の兵士がやってきて、火薬も濡れ、武器も錆び戦えない、城の武器庫の最後の弾薬を使わせてくれと告げるが、ここでも司令官は、その弾薬は最後まで残しておけと厳しい。
ここで、皇帝からの手紙が読まれるが、内容は町を死守し確保せよ、というものだった。
これに絶望した市民たちは罵声をあびせ、司令官も混乱するが、正午に決定を下すから戻って待つようにと収める。
そして、市民がいなくなると、兵士たちに、よく戦ってくれた、弾薬を積上げて導火線を付けるように命じ、曹長には、かつて自分を助けてくれた礼を述べ、皆で城を出て生き長らえてかまわない、と演説する。
しかし、すべての兵士たちは、それを拒絶し、それぞれの持場へ去る。

一人、司令官夫人マリアがやってきて、雰囲気から状況を察知し、私は夫とではなく、戦争と結婚したのだ。
夫への愛を歌うが、彼が微笑を忘れて久しいことを嘆く。(ここは長大なアリアである)
そこへ、司令官がやってきて情熱的な二重唱となり、マリアは運命をともにする決意をする。

砲声が響き、いよいよ玉砕となった時、遠くから鐘が響く。
その鐘がいたるところで鳴り始める。
敵兵たちが、銃に花冠をつけ、白旗をあげて近づいてくる。市民達も城に近づいてくる。
これを罠だと、信用しない司令官。
ついに敵ホルシュタイン人の司令官がやってきて、これまで勇敢に戦った司令官に敬意を評し会いたいと進み出る。
講和条約が結ばれ、30年戦争は終わったのだ。
しかし、頑なな司令官は、敵の宗教を侮蔑しこれまでの憎しみを述べ、剣を抜く。
ホルシュタイン司令官も応酬し、剣に手をかけるが抜かない。
ここに割って入るのが妻マリア。
今までのことが何だという、この人を送り出した道を見よ、そこにある主の姿を見よ、と平和を説く。
これに感じ入った二人の司令官は、抱擁をかわす。
最後に二人の司令官、マリア、すべての市民、兵士たちが平和と和解の喜びを歌い、眩いばかりの大きなクライマックスを築いて曲は終わる>

全曲が77分あまりで、CD1枚にピタリとおさまるコンパクトオペラ。
でも合唱は入るし、登場人物もたくさんいる。オーケストラも久々のフル編成で、賑々しい。
まるで、オラトリオのようなオペラで、これがなかなか上演されないのもわかる。
でも、妻マリアのアリアとニ重唱はシュトラウスらしい情熱と甘味さの交じり合った私好みの場面だし、最後の邂逅の場面の高揚感とエンディングも素晴らしい。
イタリア人のアリアはまるで、「ばらの騎士」を思い起こす。

シュトラウスは、次作の「ダフネ」とのセット上演を考えていたが、1938年のK・クラウスによるミュンヘン初演では、ベートーヴェンの「プロメテウス」と合わせて上演されたらしい。
この時の司令官役は、H・ホッターだから驚きだ。
ちなみに、ベームが「ダフネ」を初演した時には、この作品が一緒に舞台にのったという。

  R・シュトラウス 「平和の日」

     司令官:アリベルト・ドーメン  
     マリア :デボラ・ヴォイト
     曹長  :アルフレート・ライター  
       ピエモンテ人:ヨハン・ボータ
     敵司令官:アッティラ・ユン    
     市長  :ジョン・ウィラース

 ジョゼッペ・シノーポリ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
               ドレスデン国立歌劇場合唱団
                    (1999年録音)

短いが、この一見まとまりにかけるオペラに、シノーポリサヴァリッシュの名盤が残されていることは幸いである。
どちらも献身的で素晴らしい名演なのだ。
サヴァリッシュ盤のほうが配役が豪華(ヴァイクル、ハス、ローテリング、モル、シュンク)で、88年のミュンヘン・シュトラウス全作品上演時の記念碑的なライブで熱気に満ちている。
しかも、東西融合直前ということも意味ある1枚。
でも、今日は入手難のシノーポリ盤を取り上げた。
スタイリッシュな中に透明感あふれるシュトラウスを聞かせるサヴァリッシュに対し、シノーポリは、音符のひとつひとつが肉厚でありながら、すべてが見通しよく明晰なシュトラウス・サウンドを聞かせてくれる。
それにしても、シノーポリの死は痛い。
ワーグナーとシュトラウスに独自の演奏を築きつつあった途上だった。
現在は同じイタリアンで、ルイージとガッティが頼りだ。
ドレスデンの音はいつになく豪快だが、弦管金の融合が美しい。
そして歌手陣は、渋い実力派だが、ヴォイトがいい。
シュトラウス好みの役柄を女性的な面から芯のある女性への変貌をよく歌いだしている。
ドーメンのいくぶん陰りのある声は、かたくなな司令官に妙にピタリとくる。
流麗なヴァイクルより、適役。

今回の12作目は、短編ながら、長文になってしまった。
日本ではまだ未演かもしれない。若杉さんあたりで、演奏会形式でもいいからやって欲しいものだ。盛り上がること、うけ合いだから!

※これで、全15作を取り上げたけれど、作品順にあと3作行きます。(目標年内完結)

|

« ワーグナー オペラ管弦楽曲 バレンボイム指揮 | トップページ | ベートーヴェン 交響曲第9番 シノーポリ指揮 »

コメント

yokochanさま こんにちは

先日は、お見舞いのコメント、ありがとうございました。
もうあんな経験はしたくないです。ですが、ああいう事故で亡くなっておられる方もおられることを考えると、自分が運転するときも細心の注意をしなければならないなと思っています。

シュトラウスの、このオペラ、シノポリのCDが発売されたときに購入しました。そのときと、吉田秀和さんが「音楽の楽しみ」で放送されていたとき以来聞いていません、爆~。どうも、とっつきが悪くて~。筋書きもこのブログでようやく分かった感じがします。
一度、ゆっくりもう一度聴いてみようかなって思っているところです(と言いながら、どうしても好きな「カプリッチョ」や「ナクソス」を聴いてしまうんですよね)。

ミ(`w´彡)

投稿: rudolf2006 | 2007年10月 7日 (日) 16時59分

rudolfさん、こんにちは。私は仕事柄、各地で車の運転をしますが、防ぎようもないことには閉口しますね。お互い気をつけましょう。

「平和の日」はおっしゃるように、とっつきが悪いです。
事実シュトラウスとしては霊感に欠けるようにも思われます。
でもなんだかんだで、楽しめましたよ(笑)
やっぱり、いいもんです、シュトラウス!
他の作品のように聴いてみて下さい(笑)

投稿: yokochan | 2007年10月 7日 (日) 23時05分

ついに到達しましたね、剣が峰。「平和の日(講和記念日)」までブログに書く人はあんまりいないだろうなぁ。まがりなりにもシュトラウス・オペラ全曲、僕も持っていますが、「平和の日」はサヴァリッシュでありんした。でも、仰るとおり、なんだか収まりが悪りぃー。短すぎるんじゃないだろうか、とも思うんであります。
(昨晩の「トリスタンとイゾルデ」の音楽が頭の中で唸っているまま書き込みました。すんません。)
あとは「ダフネ」、「ダーナエの愛」、「カプリッチョ」。「ダーナエの愛」は誰を取り上げるのか楽しみです。

投稿: IANIS | 2007年10月 9日 (火) 07時52分

IANISさん、トリスタンよかったご様子で、なによりです。
私はNHKホールが難敵です。

このオペラを取り上げる物好きは、あと一人いらっしゃいますが、珍しいでしょうね。
晩年の境地が感じられないのが歯がゆいですが、これはこれでオケがよく鳴ってスゴイ作品に思います。
あと3作、いい作品ばかりですので、悩んでますよ(笑)

投稿: yokochan | 2007年10月 9日 (火) 22時17分

「あと一人」・・・。うーむ、やはりシュトラウス・ファンはコアだ。オペラじゃなくオラトリオというのは言いえて妙。それじゃあまるで「フィデリオ」。
激情が暴風雨となって吹き荒れる「トリスタン」、感想を楽しみにしてます。僕の方はあと2週間ほど他いろいろ書いてHPアップしますが、naopinさんの「音源雑記帖」とコングラのほうに書き込みさせてもらいました。

投稿: IANIS | 2007年10月 9日 (火) 23時38分

yokochanさん すいません、今頃ですがTBさせて頂きました。シノーポリ盤かサヴァリッシュ盤が欲しいのですが、どれも廃盤みたいですね。

投稿: naoping | 2007年10月10日 (水) 06時24分

IANISさん、こんにちは。もうおひとかたから、TBいただきました。
急場の回避、妻の活躍、最後の大団円などは、まったくフィデリオであります。解説にも書いてありました。怒涛の激情!いやはや楽しみ楽しみ♪どもそのまえに不可思議モーゼと新国タンホイザーがあります。
ちょっと入れすぎました。

投稿: yokochan | 2007年10月10日 (水) 07時39分

naopingさん、こんにちは。TBありがとうございます。こういう作品は即買いしないと、すぐに消えちゃいますね。KOCH盤も希少です。わたしは、あと若杉実演を強く望みます。

投稿: yokochan | 2007年10月10日 (水) 07時57分

 お早うございます。
私はサバリッシュ盤しかもっておりません。
シュトラウスのオペラの中で最も手ごわい作品の
一つですよね。
これから何度も聴かねばなりません。
IANISさんは私と同じ越後の方だったのですね。
長岡新潟間を往復しておられるのだそうで。
お父様の病気が快癒されることを祈っております。

私、独逸語検定4級の資格を持っておりますが、
今年の秋に3級に挑戦したいと思っております。
ブログ主様は独逸語はどのくらいお出来になりますか?
独逸語のオペラを沢山聞いておられるので
かなり出来るのではないでしょうか?
文法が英語よりも難しいですよね。
私は独逸語のキツイ響きが結構好きです。
フランス語の響きはいっちゃなんですが、
少し間抜けな感じがします(笑)

投稿: 越後のオックス | 2010年1月16日 (土) 09時14分

越後のオックスさん、こんばんは。
またもや過去記事発掘ありがとうございます。
自分でも読み返してみて、久しぶりに聴いてみたくなりました。こういたことはよくあることでして、自分の記事に感心したり、恥ずかしくなったりで、再聴するとその印象もまた変わってしまったりもします。

IANISさんは、新潟の方ですよ。
私なんぞ、足元にも及ばない造詣の深い方でs。

独語は、大学の一般教養止まりで、会話なんぞおぼつきませんよ(涙)

投稿: yokochan | 2010年1月17日 (日) 16時02分

yokochan様
このシノーポリ盤、聴きました。R・シュトラウス生誕150年記念でしたか、DGが一部SonyとEMIの音源もお借りし、全オペラ作品を纏めた一組です。『平和の日』、『ダフネ』、それに『カプリッチョ』巨匠晩年の諸作はなかなか手強いです。むしろ早い時期の『フォイヤースノート』(と申しましても、一連の交響詩は全て世に問うた後らしいですが)の方が、楽しく聴き通せました。尤もアカンタ原盤のフリッケ指揮の盤を、既に聴いて居たのもあったかも、知れませんけれども‥。

投稿: 覆面吾郎 | 2022年3月 6日 (日) 10時12分

2023年4月の二期会公演が近くなりましたね。
メルクルがいいキャストと録音すれば、両盤に匹敵するか、あるいは凌駕するかもしれませんね。

投稿: YS | 2022年12月12日 (月) 16時12分

YSさん、コメントありがとうございます。
セミステージ上演ですが、二期会の公演、楽しみですね。
自分の15年前のこのブログで、演奏会形式での上演を希望していて、いまさらながらに驚きました(笑)
シュトラウス作品を数々初演してきた二期会に感謝です。

投稿: yokochan | 2022年12月14日 (水) 09時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: R・シュトラウス 「平和の日」 シノーポリ指揮:

» R・シュトラウス「平和の日」 [音源雑記帖]
R・シュトラウス:歌劇「平和の日」アレッサンドラ・マーク(Sop) ジョージ・シ [続きを読む]

受信: 2007年10月 9日 (火) 13時39分

« ワーグナー オペラ管弦楽曲 バレンボイム指揮 | トップページ | ベートーヴェン 交響曲第9番 シノーポリ指揮 »