F・ルイージ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団演奏会
NHK音楽祭の一環、ファビオ・ルイージ指揮のドレスデン国立歌劇場管弦楽団を聴く。
ウェーバー 「魔弾の射手」序曲
ワーグナー 「さまよえるオランダ人」ダーラントのアリア
Bs:クルト・リドゥル
ウェーバー 「オイリアンテ」序曲
R・シュトラウス 「ダナエの愛」 第3幕間奏曲と最終場
Br:ハンス=ヨアヒム・ケテルセン
ワーグナー 「ワルキューレ」 第1幕
S:エヴリン・ヘルリツィウス
T:ヴォルフガンク・シュミット
Bs:クルト・リドゥル
ファビオ・ルイージ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
(11.14@NHKホール)
劇場音楽をテーマにしたNHK音楽祭。ドレスデンにうってつけのプログラムは、私にとっても、ヨダレがでそうなご馳走演目ばかり。ウェーバーが、ワーグナーが、シュトラウスが指揮した由緒あるオーケストラが聴けるんだから、ホールがどうのこうのいってらんない。
でもね、魔弾の射手はホールの堅い響きが気になって、いまひとつオーケストラの鳴りがよくないように感じた。
先週聴いた、県民ホールの美音はどこへいったのだろう?と不安になってきた。席によって響きが全然違うこのホールは、やっぱり手強い。
ルイージのメリハリの効いた躍動感あるウェーバーは、爽快だ。でも響きが少なく、ドイツの深い森がこだまするかのようなシュターツカペレサウンドが聴かれない。
ついでリドゥルの歌うダーラントの歌から、ホールのことが気にならなくなった。やっぱり歌が入ると違う。美しくなめらかな声の持ち主リドゥルの素晴らしい声がビンビン響いてくる。演奏会でこのアリアが取り上げられるのも珍しいが、ウェーバーの後に聴くと、ドイツオペラの本流にそいつつも、タンホイザー→ローエングリン→リングへと続くワーグナーの革新性がよくわかる。
オーケストラも手探りの状態から目覚めてきた感じで、オイリアンテではばりっととした決然たる音が楽しめた。
それでもって、いよいよ楽しみにしていたシュトラウス。ダナエの愛をやるなんざ、なんて洒落たセンスなんだろう。ルイージお得意の演目だから、是非レコーディングして欲しい。
若杉さんの日本初演を聴いたときに、徹底して聴きこんだオペラ。筋は荒唐無稽ながら、シュトラウス熟練の音楽はきわめて美しい。 この曲にいたって、ドレスデンの美音が全開になった感がある。
日頃親しんだシュトラウスサウンドを、ドレスデンの実演で聴けるという喜び。
素晴らしい音がどんどん私の体に溶け込んできて、私の全神経は開放され、中空に舞うかのような思いだ。ちょうど温泉につかった時に、「あぁ~気持ちいい~」と、心の底から言葉が出るように、例えればそんな気持ちになってしまった。
多少の省略はあったものの、「ダナエの愛」は聴衆に美しい音楽として受け入れられたはずだ。ユピテルのケテルセンの熱演もよかった。
休憩中に、白ワインを飲んで、このほんわかムードはさらに増長。
だれもが期待した「ワルキューレ」。
字幕がない分音楽に集中したはずだ。
シュトラウスとは違う意味で、私の掌中にある音楽。
ジークムントが歌えちゃうくらいに聴いてきたワルキューレを、ドレスデンで聴けるなんて。
オーケストラが舞台に乗ると、微細な部分までよく見えるし、聴こえる。
今回素晴らしく美しかったのは、ジークムントが水を飲み干す場面のチェロのあまりに美しい甘味なソロ、フンディングの動機でのホルンの音、諦念と悲しみに満ちたウェルズングの動機、ジークムントとジークリンデの二つのアリアの細やかなニュアンスと抒情。
これらをルイージは、これ以上はないくらいに歌いつくし感情を込めて指揮した一方で、歌手が苦しいと思われるくらいに追い込んだり、伸ばしたりして劇性をも強調していたように思う。オペラを知り尽くしたオーケストラあっての技であろうが、この劇性はルイージの天性で、これまで3度、彼の指揮を体験したが、いずれも感じたこと。
根っからの劇場の人なのかもしれない。
でもあの首を大きく振る指揮ぶりは、体への負担が大きいのじゃないかと心配になる。
小柄で華奢で、学者風のルイージ、見た目とは違う情熱と知性の融合された音楽性はこれからどう進化していくのだろうか。
トネリコの木から剣を抜き、白熱していく音楽。ついに、ジークムントの雄たけびとともに、最終場面を迎えるが、ものすごいアッチェランドをかけて素晴らしいエンディングを築きあげた。NHKホールは、ブラボーの嵐に埋め尽くされた。その一声に加担したワタクシ。
歌手もよかったから自然とブラボーしちゃった。
ヘルリツィウスのジークリンデがいい。先般のヴェーヌスでは出番が少なかったが、今日はじっくり聴けた。高音の強さの一方、暖かな声は、かつてのリゲンツァを思わせる素晴らしさ。この馬鹿でかいホールに行き渡る声が、小さな体のどこから出てくるんだろう。
低域が出にくかったのは体調なのか否か不明。(バイロイトでのブリュンヒルデは音声で聴くかぎり完璧だった)
シュミットのジークムントは、「ウェールゼ~!!」では、ルイージが思い切り伸ばすものだから、顔を真っ赤にしての力演は見事だったし、最後のシメの「ウエッズングの血よ栄えあれ」との雄たけびも見事だった。
が、しかし独特の明るいなかにもクセのある声は、相変わらず。
音程のふらつきを感じさせる不安定感が逆に迫力に通じてしまうのもシュミットならではかも。でもルイージとオーケストラが、あまりに雄弁だったから救われていたかも。
リドゥルのフンディングと比べると、青二才のようなシュミット。
この人は、今回サロメのヘロデを歌うが、こうした性格役のほうが似合っているような気が。スキンヘッドの見かけも・・・・・。
演奏会形式でオケを見ながら聴くと、本当に楽しい。
あら、こんな風に演奏してるんだ、あの楽器はあれだったの?などなど。
完全にオペラのオーケストラが舞台に乗って、主役となっていた一夜。
帰宅後の留守録FM音源を聴いたら、全然いい音じゃないか!
あのホールは、生より放送収録用のスタジオじゃないのかね??
でもライブならではの熱気につつまれたNHKホール。
あの場の空気は録音では伝わらない・・・・・。
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コメント
NHKでさっそく放送するらしいので忘れないで録画しなくちゃ・・
>シュミットの
ヘロデ王、新国でみました。似合ってたと思います^^
投稿: edc | 2007年11月16日 (金) 09時14分
euridiceさん、こんにちは。
是非テレビでご覧下さい。
ルイージの見てて心配になるくらいの熱い指揮と、真っ赤かになったシュミットのお顔が見ものですよ。
今回のドレスデンでも、ヘロデは彼ですし、来年の新国も彼です。まさに適役なんですね。
投稿: yokochan | 2007年11月16日 (金) 22時39分