ワーグナー 「タンホイザー」 ドレスデン国立歌劇場公演
ドレスデン国立歌劇場の来日公演初日を冷たい雨が時おり降る横浜で観劇。
ルイージからエトヴェシュへの指揮者の交代に続き、ちょっと期待していたオアフ・ベーアが急病で、降り番のアラン・タイトスにかわった。
席は前から3列目。二列目までの方々は主催者側の手配で席を移動していた。
変な舞台装置で見にくいのかな?と一抹の不安。
演出がコンヴィチュニーというのもその不安に拍車をかける。
だか、序曲からオーケストラの音色、特に弦、そしてホルンが、とても美しくじっくりと楽しめる。肝心の舞台はなんとか見渡せた。次回から文化会館だが、席によっては・・・・。
以下は、自分の記録もこめて書いてしまうが、まだ初日。
これからご覧になる方は、どうぞ飛ばして下されよ。
幕が開き、ヴェーヌスブルクは黄色い内側のお椀を二つにわった中。
小さなタンホイザーの人形がお椀の上の淵から顔をだす。キース・ウォーナーのトーキョーリングの出だしを思いおこす。
この人形をお椀になげいれ、ニンフ達が淵から滑り降りてくる。彼女たちは、赤やオレンジの衣装にグリーンの顔と腕、頭は赤の鬘のへんてこぶり。
そして人形は徐々に大きくなり、ついに等身大に。この人形はもてあそばれ、首がもげちまう。
この様子をタンホイザーは、びくびくおどおどと見ている。
ニンフの親分ヴェーヌスも似たなりでの登場。そんなに怪しくないけれど、目のところが濃いグリーンで妙といえば妙。
彼女に決裂すべくタンホイザーがマリアの名を叫ぶと、お椀が割れ剣を持ったタンホイザーもどきが数人現れ、彼女たちを成敗(?)する。ヴェーヌスやニンフたちはあちこちにごろごろ倒れたまんま。
いついなくなるんだろう?と見ていたが、ずっとそのまんま。
牧童が羽根を1枚生やして清らかに歌っているときも、さらに巡礼者がでてきても。この巡礼者たちも不可思議で、転がっているニンフ達を不思議そうに眺めている。そう、このコンヴィチュニー演出は舞台上のことをすべて表現しないではすまないのかもしれない。領主らの登場のホルンの合図で赤い彼女達はそろそろといなくなった。
この演出では、合唱もかなり細かい演技を個々に強いられるから大変なのだ。
領主達は現在のモードに、一見十字架にもとれる剣を持っている。この剣は全幕を通じて活躍する。
そして、タンホイザーが一番そうだがミンネゼンガー達がみんな軽いノリの動きなのだ。皆に受け入れられたタンホイザーは、抱き着いたり、キスをしたりと大喜び。最後には、全員で例の銀に輝く安っぽい剣を掲げて肩を組んで一列に。
領主の顔を覗き見ていい?と了解をもらってスキップしながら足取り軽く一同退場。これには失笑した。
舞台はこんなでも、オーケストラはまばゆいばかりの素晴らしいクライマックスを築いているところがスゴイ。
2幕では先のお椀の片割れがアーチ状に残され、舞台奥に急な階段状の座席が。エリーザベトは真っ白なドレスで嬉々として登場。晴れやかに歌い、ウォルフラムに連れられタンホイザーがやってきて二重唱となるが、ウォルフラムは去らずに居残り再会の二人と一緒に過ごす。カットされることの多い、ウォルフラムのエリザベートへの恋情のセリフがここで再現されていて、ちょっと驚き。
エリーザベトはドレスの一部を剥ぎ取り白いケープのようにタンホイザーの肩に、タンホイザーは手袋を取りエリーザベトの手に・・・・。
これが歌合戦後、タンホイザーの裏切りで、お互い戻しあうことになる・・・・。
歌合戦の諸国の聴衆は、女性は色とりどりの普段着。みんなドイツのそこらのおばさんみたい。男声は普通のスーツを来たおじさん。
ウォルフラムやヴァルター、ビテロルフが歌うときは、称えるようにして手を掲げているが、タンホイザーが歌うと、手を降ろし、みんな不安げに。
ただ一人エリーザベトだけは逆で、タンホイザーの歌に顔を輝かせ、他に歌には退屈そうにしているのがみえみえなのだ。タンホイザーの軽薄ぶりが目立つ。
事が露見し、エリーザベトがタンホイザーをかばう場面。彼女は舞台の右端で例の剣を抱えて熱く歌う。タンホイザーは打ちひしがれ、床をはいつくばりながらエリーザベトの足元まで向かう惨めな姿だ。
上着を脱ぎタンクトップになり、靴も投げ飛ばしてしまう。
これらを、ほかのミンネゼンガー達が抱えたりして歌う。
「ローマへ」とタンホイザーは、舞台奥の急階段をひとり登ってゆく。
3幕最初のローマ巡礼行でまたオケの素晴らしさを確認。渋さとマイルドさが溶け合って、聞き惚れてしまう。
巡礼帰りの人々は、よろよろ来るのでなく、いきなり舞台中段のステージに走り出てきた。
連中の顔が宇宙人のようだ。よく見ると眼鏡をかけている。熱砂に耐えてきた姿か?
タンホイザーの姿を見出せないエリーザベトは、ウォルフラムの前で、祈りの歌を歌う。
普通は彼女を見送るウォルフラムだが、エリーザベトが一人で去ることがない。
そのまま居残り、夕星の歌を歌うウォルフラムの腕の中で事切れる。
そこへタンホイザーがよろよろと登場。ウォルフラムは、タンホイザーがかつて着ていた上着で彼女を覆う。ローマ物語で、ウォルフラムを脅したりしながら歌うタンホイザー。
もうやけくそ気味のタンホイザーの求めに応じて、ヴェーヌスが現れる。
黒いワンピースにオレンジの上着をだらしなく羽織り、先ほどの急階段からよろよろと降りてくる。手にはウィスキーの瓶をもち飲みながら。捨てられた彼女はアル中のようだ。
ウォルフラムはやめてやめてといいながら、タンホイザーのご一緒に的な誘いや、ヴェーヌスの働きかけにも苦しそう。これまた上着を脱いで、タンクトップ姿になってしまった。
でも力を振り絞って「エリーザベト」と叫び、上着の覆いを取り外すと、茫然とするタンホイザー。ヴェーヌスは、負けを認めて立ち去るかと思ったら、ジワジワとエリーザベトの亡骸に歩みより、彼女を起し、かき抱いてしまった。ここに瀕死のタンホイザーも加わり、二人を抱くかのようなヴェーヌス。
舞台中段ステージには、領主と同僚、民衆たちがまた例の剣を掲げて奇跡を賛美する。
舞台左手には、葉っぱの生えたツルのような枝がチョロリと出ている。
あれれ、ウォルフラムは?と探したら、民衆を書き分けて、先の急階段を登っていくではないか・・・・。こんな状況での幕切れとなった。
う~む・・・・。しばらく拍手できず。
ヴェーヌスとエリーザベトの同質性と、ウォルフラムの恋情と悔恨による旅立ちか・・・。
でもタンホイザーはお調子もので終わりなのか??
正直言って、アイデア満載で舞台の隅々まで眼が離せない。
だが、タンホイザーの深い悩みや後悔、エリーザベトの自己犠牲的な救済の意図が伝わってこない。タンホイザーとウォルフラムの表裏一体性は面白いが。
タンホイザー:ロバート・ギャンビル エリーザベト:アンネ・シュヴァンネヴィルムス
ウォルフラム:アラン・タイトゥス ヴェーヌス:エヴリン・ヘルリツィウス
ヘルマン :ハンス=ペーター・ケーニヒ
ガボール・エトヴェシュ指揮 ドレスデン国立歌劇場管弦楽団
ドレスデン国立歌劇場合唱団
演出:ペーター・コンヴィチュニー
歌手陣はみなアンサンブル的に完璧に出来上がっているメンバーで、穴がない。
ヘルリツィウスのヴェーヌスの強靭でありながら繊細な歌はもったいないくらいだ。
ブリュンヒルデで鳴らした彼女の歌がもっと聴きたかった。小さくて華奢な姿にも驚き。
それでもって、シュヴァンネヴィルムスのエリーザベトが素適過ぎだ。
美しくもかわいい彼女。そのお姿とは裏腹に、熱を帯びた歌唱は誰しも心を打たれたはずだ。2幕の聴かせどころは胸をうった。私もそうだが、周辺で涙をぬぐう姿を感じた!
ギャンビルのタンホイザーもよい。多少の歌い崩しは良しとしよう。
妙に明るいのは、彼の天性なのかしらん。
20年前に、新婚旅行(!)でウィーンに行った時、フォルクスオーパーで「魔笛」を観れた。その時のタミーノがギャンビルだったのだ。あのリリックテノールが重くなって、バレンボイムのもとでタンホイザーを歌った報を聞いたのがもう10年前。
ようやく日本にやってきたわけだ。
タイトゥスはお馴染みすぎて、イメージはウォータンなもんで、ウォルフラムにしては声が立派すぎるかな。他の歌手もみなよし。
合唱の威力には圧倒されっぱなし。その上ちゃんと演技もし、存在感抜群なのだ。
エトヴェシュの指揮は、オーソドックスながらも、オケをよく鳴らしていて、それがドレスデンなものだから、うるさくならずに細かな部分までよく聴き取れた。
メルクルの指揮でも聴いてみたいタンホイザー。
休憩中、ピットには常に楽員がいて、パート同士の確認や合わせの練習に事欠かなかった。この積極性と自主性こそがドレスデンのサウンドが引継がれる秘訣なのだろう。
日常弾きなれた曲でもこれだから。
私は自分では、ワーグナーにかぎっては保守的な聴き手だと思うが、これくらいの演出なら内容なともかく全然OKだな。なによりもわかりやすいのがコンヴィチュニーのいいところであり面白いところ。音楽を邪魔しなけりゃいいの。
横浜の県民ホール前の山下公園。
NHKホールよりもずっと音に真実味がある。
次回はルイージの指揮でワルキューレ1幕とシュトラウス(ダナエの愛!!)、ばらの騎士と続くが、惜しむらくは両日NHKホール。
先月はベルリンのリンデンオーパー、そしてドレスデンに、次週はバイエルン放送響にデッセイ。夢のような毎日がまだ続く。
どこで仕事してんのかな??
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コメント
お晩です。僕は相変わらず「トリスタン」が尾をひいてまして、ホームページの更新がはかどっていません(アバドのときとは違いますが)。
やっぱりコンヴィチュニーの演出、トンでもないもののようですね。「ローエングリン」なんかも女学校まのいじめのようなものでしたから・・・。でも、ドレスデン、ベルリンにいかなかったらきっといったでしょう。やっぱり特別ですね。あのオーケストラは。
投稿: IANIS | 2007年11月12日 (月) 00時46分
IANISさん、毎度どうも。 いやはや、それでも面白かったですよ。新国のオーソドックス型と対象的でしたから、二つ観たことが活きています。ちょっと遊びが過ぎるから、初めてタンホイザーを観る人には原作が歪められてしまったかもしれません。
でも、難しいことを考えず舞台を楽しめる意味ではコンヴィチュニーは最高かもしれませんね。
カーテンコールで出てきたとき、ブーイングとブラボー相半ばでした。
私も参加しましたよ。
ブー〜、ラボーって(笑)オケが素晴らしすぎですよ。
投稿: yokochan | 2007年11月12日 (月) 09時17分
もう始まってたんですね・・
もう数年前になりますけど、
ミュンヘンの来日は一応行きました^^;
やっぱりギャンビルがタンホイザーでした。
投稿: edc | 2007年11月14日 (水) 10時58分
デノケ降板!!!
http://japanarts.cocolog-nifty.com/dresden/2007/11/post_1723_1.html
金返せ~!!!!!!
投稿: さすらい人 | 2007年11月14日 (水) 20時27分
euridiceさん、こんにちは。
ミュンヘンのタンホイザーはメータの指揮のものでしたっけ。
あの時は、ガマンしてマイスタージンガーのみでしたが、ちょっと後味悪く、新国のマイスタージンガーの勝ちでした。
ギャンビルはかなりの大男ですね。
今回のコンヴィチュニー演出では、オバカさん扱いでしたので、妙にしっくり・・・・。
わずか一度のウィーンでリリックな時に接しているので、贔屓目に見てしまうギャンビルです。
タミーノを観たときは、痩せていて王子に相応しい外観と美声でしたが、20年の歳月は大きいです。もちろんワタクシもです(笑)
投稿: yokochan | 2007年11月14日 (水) 23時34分
さすらい人さん、そうなんです!!
まったくもう唖然としましたよ、わたしも。
一番楽しみにした歌手なのに。
ジャパンアーツがいかんのか、本人の体調管理がいかんのか、わかりませんが・・・・。
今回のドレスデンはこの類いが多すぎです。
でも、代役のシュヴァンネヴィルムスは以外にいいですよ。
美人だし・・・。
投稿: yokochan | 2007年11月14日 (水) 23時51分