R・シュトラウス 歌劇「ダフネ」 ハイティンク指揮
R・シュトラウス、オペラシリーズ。全15作中の第13作は、名作「ダフネ」。
今年の2月に、二期会の日本初演上演があった。
あらすじは、その時の記事、こちらをご参照。
1937~40年にかけての作曲。同時期の作品は有名どころはもうないが、日本帝国への祝典音楽(ブリテンを思い起して下されよ)や、渋い歌曲や吹奏楽曲などが残されるのみ。
このダフネと同時期に、連続して次作「ダナエの愛」「カプリッチョ」を作曲し、その後は最晩年の47~48年の「最後の4つの歌」まで、寡黙してしまうこととなる。
終戦との関係を考えざるを得ない。
あのような不幸な戦争さえなければ、シュトラウスのオペラはもう少し書かれていたのかと思うと残念極まりない。
シュトラウスのオペラ作品は、比較的後発に取組まれ、オーケストラ作品を卒業してまで没頭した。それらの作曲の経緯を見ると、いずれも前作と重なり合う形で作曲は複合して進められている。
全作制覇の最後に体系的にレヴューしようと思うが、作曲様式やドラマの背景も大幅に変えながら次々に取り上げていたものの、いくつかのカテゴリーが繰り返されていたようにも思う。そのカテゴリーの幅広さが実に驚くべき多用さなのである。
「ダフネ」は、題材は神話の世界に、音楽は室内的な明晰・透明な地中海的な世界と大音響に満ちた宇宙的な空間を意識させる世界とに、それぞれ位置するカテゴリーにあるオペラ。
ホスマンスタール亡きあとを受けた、シュテファン・ツヴァイクがユダヤ系ということで、国外に去った後、シュトラウスの相棒となったのが、ウィーン人の劇史家ヨーゼフ・グレゴール。
ダフネの草稿を見たシュトラウスは、大いに気に入り、16世紀のイタリア人彫刻家ベルニーニの「アポロとダフネ」像を思いながら構想を練ったという。
そして、グレゴールの台本には何度も注文を付け、自身が思い描くダフネに近づけていった。「邪魔になるものはすべて取り除いてください。最後は月桂冠だけが歌うのです」とシュトラウスは言ったという。
そう、まさにその言葉の通り、音楽は透明感と簡潔さに溢れ、聴くほどに味わいの増す充実したものになっている。言葉の多さは、相変わらずだが、オーケストラが一見単純なようでいて、もの凄いきめ細かくよく動いていて、精妙の限りを尽くしている。
ライトモティ-フも見え隠れしながらも複雑にからみ合いながら変化を続けていく。
シュトラウスの作曲技法、ここに極まれリという感じだ。
先のシュトラウスの言葉通り、最後のクライマックスで、ダフネが自身の望みのとおりに、月桂樹の木に変容を遂げていく場面での音楽は、まさに神がかり的に素晴らしい。
幼なじみロイキッポスの死への深い同情と悔恨、人間じみた欲望の虜となってしまったアポロの後悔と諦念を受けての許し・・・・、ダフネはすべての感情を純化させ、昇華してゆく。涙が出るほど美しく、シュトラウスの書いた最高の音楽のひとつだと思う。
1938年10月、ドレスデンでこの作品を献呈されたベームの指揮により初演。
「モーゼとアロン」が1930年の作品と思うと、シュトラウスの旋律に満ち満ちた音楽は保守的かもしれないが、この汲めども尽きぬ音楽の美しさには敵わない。
ダフネ :ルチア・ポップ アポロ :ライナー・ゴールドベルク
ペナイオス:クルト・モル ゲーア :オルトルン・ウェンケル
ロイキッポス:ペーター・シュライアー
ベルナルト・ハイティンク指揮 バイエルン放送交響楽団
バイエルン放送合唱団
(1982年録音)
初演者ベームの最高の名盤もあるが、今日はハイティンク盤を。
モーツァルトを熟知したベームは、意外なほど軽やかだが、ハイティンクはまるで交響曲を指揮するように重厚な響きを聴かせる。
一転一角を揺るがせもせずに、シュトラウスの書いた譜面を信じ誠実な指揮に徹している。そしてこの朴訥なまでの生真面目で清潔な演奏に、紛れもないシュトラウス・サウンドの一面が鳴り響くのを聴くことができる。
ミュンヘンのオーケストラの、人肌のような暖かさが彩りを添えている。
そして歌手では、間違いなくポップの一人舞台。いや他の歌手もいいが、聴く側がポップの声の素晴らしさに、彼女の声ばかりを聴き求めてしまうのだ。
彼女の声は誰が聴いても、チャ-ミングだし、暖かい。みんなが大好きルチア・ポップ!
この作品の大きな聞かせどころ3つ。
冒頭近く、自然や木々を賛美する長大な歌では初々しくかわいい。
ロイキッポスの死を悼み、女性として、悲しみにくれる歌での胸を打つ切実さ。
最後の変容の場面、人間を超え、澄み切った心境を素晴らしいオーケストラに乗って高みへ昇るかのように歌う・・・・・。
先日、ベルリンのトリスタンでメロートとして登場したゴールドベルク。
ちょっと生硬な感じだが、まずまず。でもベームのキングには比べるべくもない。
ロイキッポスのシュライアーは申し分なし。
冒頭近く、本物のアルペンホルンが朗々と鳴り渡る。EMIらしいこだわりの仕掛け。
EMIは、こうした音源をオクラ入りさせないで、とっとと再発すべきである!!
それと、へっぽこなジャケットは無用。オリジナルで。
こちらは、ベーム盤。ギューデンによる舞台写真がうれしいジャケット。
ウィーン響もきれい。
年内シリーズ完成を目指します。
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コメント
二期会の「ダフネ」日本初演のため、デジタル・プレイヤーに入れて3週間、この演奏を聴き続けていました。
そう、他の歌手はどーでもいいんです!ルチア・ポップの声しか聴こえないのです。ポップの歌だけしか胸に響いてこないんです。
固く結晶しながら華麗で、透明で、けれども温かみがあって・・・。ああっ、早世してしまったのが惜しい!
このポップ累世の名演のCDがお蔵入りになっているなんて、間違えてますっ!
(相当入れ込んでしまった・・・反省)
投稿: IANIS | 2007年11月 4日 (日) 20時08分
IANISさん、毎度お世話になります。
あの初演は、素晴らしかったです。異論はあるかもしれかもしれませんが、あのダンスは余計だったかと。
でも日本人上演もたいしたものだと感心してます。
そしてそして、ここに聴くポップはホンマに素晴らしいですね。
インテルメッツォとこのダフネは、オリジナルジャケットで復活必須であります。
どうもありがとうございました。
投稿: yokochan | 2007年11月 4日 (日) 21時22分