シューベルト 「白鳥の歌」 H・プライ
北から紅葉の便りが降りてきている。私の住む関東はまだまだだけど、北海道から東北・甲信越はそろそろ見頃。
こちらは、昨年の盛岡の公園にて。
青空に紅葉の赤は実に映える。
でも晩秋はまた寂しいものだ。
シューベルト(1797~1828)の死後、編まれた歌曲集「白鳥の歌」。
文字通り、シューベルト死の年に作曲された、レルシュタープ(7曲)、ハイネ(6曲)、ザイドル(1曲)に詩による歌曲を集成したもので、3大歌曲のなかでは、最初から物語性をもって作曲されたものではないが、病にみまわれ、精神的にも鬱屈し苦悩の中にあった作曲者の屈折した心情が滲みでているという意味で、完成された完結感がある。
でもそこにあるのは、水車屋のナイーブな恋する青年でもあり、諦念に満ちた旅人の心境でもありということで、苦しい心境にありながらも、文字通りシューベルトの芸術の集大成といってもいいかもしれない。
あまりに有名な第4曲(レルシュタープ)の「セレナーデ」は、甘味な旋律の裏に悲しみの歌を聴くことは容易である。
そして、13曲(ハイネ)の「影法師」。ピアノの伴奏が不気味な和音を弾き続ける。
歌は、歌でなく独白のようだが、徐々にもりあがり、魂の叫びのような痛烈な様相を呈する。この重さをなんとたたえようか!
ことに、プライの歌はこの曲があまりに重い。つらい。
一転、最終の14曲。唯一のザイドルによる「鳩の使い」は、シューベルトの抒情が戻ってきたようだ。ここで一挙に救いの道を見出すようだ。
足取り軽く、これから楽しい旅に出ようか、と思わせる素晴らしい音楽。
この一曲で、我々聴き手は救われる思いをすることになるであろう。
もしあの人が亡くならなければ・・・の歌手部門で、R・ポップとならんで、ダントツでNO1は、ヘルマン・プライであろう!
万年青年のようなプライが1998年に68歳で亡くなってしまった。
自己抑制も万全の歌手だったから、まだまだ歌えたのに。
オペラではベックメッサーを歌ったりして、性格バリトンとして新境地を拓きつつあった時に。ヴォツェックもやるはずだったのに。そしてドン・ジョバンニやウォータン、ザックスにも挑戦したかもしれないのに・・・・。
本CDは1981年のライブ録音で、ピアノはレオナード・ホカンソンである。
語り口の抜群の巧さ、でも人柄が滲みでたかのような声のよさでもって、頭脳的・小手先的な巧さとは程遠い。ドイツ語の発声も教材にしてもいいくらいに明確で耳に心地よい。
白鳥の歌は、高い音域から、低音までとレンジの広い歌曲集である。
だから、F=ディ-スカウかH・プライのハイ・バリトンがいい。
プライには珍しいくらいに力こぶの入った歌も聴かれるが、気迫と優しさの合い混じった素晴らしい歌唱に数日前から何度も聴きいってしまった。
私はこの曲、FDとプライに加えて、ホッターのいぶし銀も聴いております。
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コメント
yokochanさま こんばんは
歌手で早すぎた死と思うのは、確かに、ルチア・ポップさんとヘルマン・プライさんですよね。プライさんはこれまでの持ち役だけでなく、新たな境地を開いているところでもあったと思うと、あの年で亡くなられたのは、残念でなりませんね~。
ポップさんは何度かオペラを聴く機会がありましたが、プライさんは一度もなかったと思います。
シュベルトの「冬の旅」は持っているのですが、「白鳥の歌」はまだ聴いたことがありません。今度、探してみたいと思っています。
ミ(`w´)彡
投稿: rudolf2006 | 2007年11月 3日 (土) 16時38分
rudolfさん、コメントありがとうございます。
そうですよね!まったくもって不合理な二人の名歌手の死であります。私も、プライは聴けませんでした。無念です。
私は逆に、冬の旅は持ってませんので、この冬には是非ライブラリーに加えたいと思います。
サヴァリッシュ盤が懐かしいです。
投稿: yokochan | 2007年11月 3日 (土) 20時41分