グィネス・ジョーンズ ワーグナー集
今日は、冷たい雨が降った東京。
疲れた内臓に鞭打って、今日も夜の街をさまよい歩く。
新宿の南口、ミロードからサザンテラスまで、グリーンを基調とした美しいイルミネーションが飾られる。
ドーナッツの行列を尻目に盛り場へ急ぐ。
デイム・グィネス・ジョーンズ、このステキな歌手も私の世代にとっては、忘れ難い名歌手。
1936年ウェールズ生まれ、今はもう引退してしまったろうか?息の永い歌手で、60年代から2000年始めまで活躍していた。
私が音楽を聴き始めた70年代初頭、彼女は引っ張りだこで、ベーム、バーンスタインらの録音には必ず起用されたし、バイロイトでもその頃から活躍を始めた。
役柄的に、ニルソンの完全な後継者であるけれど、ニルソンが歌わなくなってしまったジークリンデやマルシャリンも良く歌っていて、ドラマティック・ソプラノばかりとも言えない。
彼女のレパートリーを思いつくままに列挙すると、レオノーレ、ゼンタ、エリーザベト、ヴェーヌス、エルザ、オルトルート、イゾルデ、エヴァ、ジークリンデ、ブリュンヒルデ、クンドリー、サロメ、エレクトラ、マルシャリン、オクタヴィアン、バラクの妻、マクベス夫人、エリザベッタ、デスデモーナ、トゥーランドット、トスカ・・・・・・。
いやはやスゴイ!!
ワーグナーは、すべてのソプラノとメゾのロールをすべて歌っている。
このフレキシヴィリティの高さこそ、彼女の強みでもあるんだ。
ジョーンズの声についてあれこれ言う筋は、必ずしも少なくない。
叫ぶような高域がダメだというのだ。
私は、そうした意見も多少は認めつつも、それ以上に魅力を感じるのが、彼女の中域から低域にかけての神々しいまでの輝きと美しさである。
ジョーンズのイメージは、叫びの高域ではなく、その部分なのだが、ところが実演の素晴らしさに接するとそんなことは言ってらんなくなる。
ハンブルク・オペラで来日の「影のない女」とウィーンとの「イゾルデ」で彼女の舞台に接したが、出演者の中でも一際抜きんでて声が通る。
すべての音域が耳にビンビンと響いてくる。そればかりか、演技派の彼女の迫真性には心打たれるものがあった。バラクの妻の葛藤とイゾルデの怒りと盲目の愛・・・。
本当に素晴らしかった。今でも耳もとにあの時の歌声が残っているくらいだ。
ブーレーズ&シェローのリングにおけるブリュンヒルデでも、まさにそんな彼女の素晴らしさが体験できる。音声だけでなく、彼女の演技を体験することが一番いい。
今日の1枚は、1990年、本国シャンドス・レーベルがこれまでなかったデイム・グィネスのワーグナー集を残してくれたもの。
「タンホイザー」「ローエングリン」「トリスタンとイゾルデ」(前奏曲と愛の死)、「神々の黄昏」(自己犠牲)。全盛期からすると、やや寂しいヶ所もあるが、相変わらず品格と気品に満ちたワーグナーを歌っている。
やはり、イゾルデとブリュンヒルデが素晴らしく、思わず背筋を伸ばさざるを得ない。
ロベルト・パテルノストロ指揮のケルン放送響がかなり立派な演奏だ。
リングも録音しているパテルノストロは、ラテン系のイメージが強いが、ベネチア人を父、ウィーン人を母に持つ、アバドやメータと同じくスワロフスキー門下のオペラの名手である。
すっきりともたれない、今風のワーグナーは実に好ましく聴いた。
こちらの画像は1971年頃、ゼンタを歌ったもの(たぶん)。
あまり大差がないから、CDジャケットはちょいと前のものを使用している様子。
一般には、ギネス・ジョーンズと呼ばれるが、ご本人は、グィネス・ジョーンズと呼んでもらいたいらしい。(Gwyneth Jones)
ステージを離れると、我は強いらしいが、お茶目でかわいい人らしい。
いつまでも元気でいて欲しい大好きな名歌手の一人。
賞味期限が過ぎないうちに、しつこく貼っちまいます。
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コメント
お晩でした。
僕もデイム・グウィネス、好きなんですよ。なんといっても声が強い。演技が上手い。まぁ体型はそれなりだが美しい人だし・・・。シェローの「リング」もグウィネスがいなかったら出来んかったろうなぁ。コアなファンからは目くじら立てられるかもしれませんが、ベームの「トリスタン」のニルソンを今じっくり聴くと、デイム・グウィネスの、豊かな感情表現に驚嘆させられます(東京文化会館の公演収録DVD)。
ああいうイゾルデ、声質は違うけれど、ワルトラウト・マイアーのイゾルデの魁だったと思います。
投稿: IANIS | 2007年12月23日 (日) 01時34分
yokochanさま お早うございます。
グィネス・ジョーンズさん、私も大好きな歌手の一人です。(ウェールズ出身であることを忘れておられないんでしょうか、グィネス)
バーンスタインの『薔薇の騎士』のオクタヴィアンで出会い、クライバーの『薔薇の騎士』では、マルシャリンを聴くことができました。いまだに、あの声は忘れられませんね。
イタリアオペラからヴァーグナーまで、一時期はプリマドンナとして活躍しておられたですよね。確か『ヴァーグナー』の伝記ドラマのようなもので、歌手役で出ておられて、入浴シーンまであったように覚えているんですが(間違いかもしれませんが)。
強靱な歌声だったですね、何年か前、ザルツブルク音楽祭の『三文オペラ』(?)に出ておられたのをテレビで観ました。出てこられただけで。凄い拍手でしたよ~
ミ(`w´)彡
投稿: rudolf2006 | 2007年12月23日 (日) 06時57分
IANISさん、こんにちは。
ほんと、G・ジョーンズを忘れちゃきけませぬね。
シェロー・リングの立役者は、グィネスとマッキンタイアとツェドニクではなかったでしょうか。
ニルソンも大好きなんですが、ちょっと冷徹というか不感症的というか・・・・。
マイアーですか! なるほど、それも言えるかもしらんですね。
投稿: yokochan | 2007年12月23日 (日) 10時35分
rudolfさん、こんにちは。
デイム・グィネスのファンがたくさんいらっしゃって、嬉しいです! もしや、バイエルンと初来日のクライバーをご覧になったんですね。あの時は、サヴァリッシュのワルキューレとドンジョヴァンニもやりましたね。私は指を加えてるだけで行けませんでした。グィネスは、ジークリンデも歌ったのではなかったでしょうか?
ご指摘の映画は、R・バートンのものでしょうか?
ビデオが手元にありますので、見なくては・・・・・!
三文オペラにも出ておられたんですね。
今更ながら、レパートリーの広い歌手だったんですね。
投稿: yokochan | 2007年12月23日 (日) 10時46分
こんにちは。
>G・ジョーンズ
好きな方がたくさんいらしてうれしいです。悪口言う人も少なくないですから・・ ブリュンヒルデはもう絶対彼女が最高です。実際にはガラコンサートだけですけど、ほんとに魅力的でした。
>入浴シーンまであった
ありました・・
投稿: edc | 2007年12月24日 (月) 09時51分
euridiceさん、こんばんは。
G・ジョーンズは、ほんとうはみな好きなんですよ。
そう思います。あの存在感はどうしても否定しようがないものですから。
ガラコンサートは、NBSのものですね。過去数回行ってましたが、彼女やベーレーンス、コロの出た年は行かなかったんです。
うらやまいしいです!
入浴シーン・・・・、今現在クリスマスでもありますし、確認してません(あまり意味はないですが・・・)
頑張りますねぇ。
投稿: yokochan | 2007年12月24日 (月) 21時32分
yokochanさん
>G・ジョーンズは
そうですね。ほんとに否定しようがない存在感だと思います。
>彼女やベーレーンス、コロの出た年は行かなかったんです。
そうですか。でも、残念なことにベーレンスは病気キャンセルだったんです。代わりにエヴァ・マルトンが出演。友情出演とかって言ってました。
投稿: edc | 2007年12月24日 (月) 22時12分
euridiceさん、さっそくありがとうございます。
ベーレンス出なかったんですか。
公演のチラシをずっと未練がましく覚えていたものですから。
ベーレンスも日本ではあまり歌ってませんね。
小沢征爾と新日本フィルの演奏会で、ワーグナーを聴いたことがありますが、あまり覚えてません。
投稿: yokochan | 2007年12月24日 (月) 22時31分
ばらばらと済みません。記事があったのを思い出したので、TBしました。よろしくお願いします。
>ベーレンスも日本ではあまり歌ってませんね。
そうかもしれません。今年の夏、草津でリサイタルを聴くことができて、うれしかったです。記事、リンクします。
投稿: edc | 2007年12月25日 (火) 07時42分
euridiceさん、こんばんは。
TBありがとうございます。
シェロー演出でのホフマン・ジークムントとのやりとりを興味深く拝見しました。
Gジョーンズのブリュンヒルデの素晴らしさとともに、ヴァルキューレの2幕の場面を聴きたくなりました!!
投稿: yokochan | 2007年12月25日 (火) 23時45分