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2008年1月29日 (火)

ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」 ジュリーニ指揮

Giulini_beethoven3 今日は久方ぶりに正統的なドイツの交響曲。
ベートーヴェンの「英雄」をここに取上げるのも昨今の当ブログの流れからいくと稀なこと。
でも長い鑑賞歴の中では、イヤというほど聴いてきたベートーヴェンの交響曲。
久しぶりに聴いてみて、清々しくもキリリとした音楽に心洗われる思いだった。

私はいつも聴いている音楽についてのブログを書くとき、その曲が作られた年と時代背景を意識して調べることにしているが、この英雄交響曲ほど、そんなことをくだくだと述べる必要のない曲はないだろうな。1804年の年号とナポレオンというのふたつだけで、すべてが言いきれるかもしれない。
日本では徳川11代家斎の時代、なんともこの差は大きいもんだ。

カルロ・マリア・ジュリーニが、真の巨匠として脚光を浴び出したのは1975年くらいからだったかしら。ウィーン交響楽団の指揮者に就任し、DGにはシカゴ響とのレコーディングが始まったころ。私の唯一のジュリーニ体験は、その75年のウィーン響との来日公演だった。

アメリカでの活動は、メータの後任としてロスアンゼルス・フィルの音楽監督を引き受けたときにピークに達した。ロスフィルとの組み合わせは、シカゴ以上に新鮮な思いで受け止めることができたもんだが、この「英雄」がその第1弾だったはず。

Giullni 発売当時、即レコードを買って聴いたが、シカゴとの緊張感に満ちた音と異なり、全体に音が冴えないような気がしたのと、妙に響きが拡散して弛緩して感じたものだ。

数年後、DGオリジナルのシリーズで、CD化されたものを聴くてみて、印象がかなり違って聴こえた。

そして今日数年ぶりに聴き直してみて、先に述べたような心洗われるような感銘を受けた。
まず感じたのは、音楽を際立たせるようなその立派な威容。
それは厳しくゴツゴツしたものではなく、豊かな歌心に裏打ちされた伸びやかな姿。
繰返しを行いながら、ゆったりとしたテンポでたっぷり歌い上げるものだから、全曲で57分もかかる。内側をじっくりと見つめながらも、音楽の響きは開放的だと思う。
とりわけ素晴らしく思ったのが、第2楽章の葬送行進曲。
じっくりとかつ、楚々と歌い上げる悲歌は思わず拳に力が入ってしまう。
こんな心のこもって、かつ、眼差しの優しい葬送行進曲なら、「私が死んだら流して欲しい曲リスト」にこの演奏を登録しておきたくなる。
 尻すぼみのようになってしまい、バランスのとりづらい終楽章も立派なもので、大交響曲としての風格に満ちた演奏に感じた。
もういちど、どのように響くか、あのレコードを鳴らしてみたい。自分が大人になったのか?

ちなみに、「死んだらリスト」は、あまりに不吉だから作りたくはないけど、それなりの心境に陥ったら残しておきたいなぁ。
フォーレに、トリスタンに、パルシファルに、神々の黄昏に、ディーリアスに、エルガーの1と2の緩徐楽章に、カプリッチョとダフネとダナエの愛に、ヴェルディ・レクイエムに、マタイに、ハウエルズ楽園に、モーツァルト27番に、ミサソレ・エロイカ・・・・・・・。
何日かかっても終わらない葬式を生前から企画・指示しておけば、嫌がって死なせてくれないだろな。

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コメント

こんにちは。
ジュリーニのDG「英雄」は、私もLPで繰り返し聴きました。

>全体に音が冴えないような気がしたのと、妙に響きが拡散して弛緩して感じたものだ。

確かにそういう感じがしました。シカゴとの筋肉質の演奏と比べると違和感がありました。CDはまだですが、聴く価値ありそうですね。

投稿: 吉田 | 2008年1月30日 (水) 09時29分

吉田さん、こんにちは。
LPでの印象や風評は、ロスフィルだから・・・、ということもあったのですが、DGも不慣れなロス録音のせいだったのかもしれません・・・・。
是非CDでも聴いてみて下さい。
それにしてもジュリーニは高潔でいいですね。

投稿: yokochan | 2008年1月31日 (木) 00時30分

yokochanさま こんばんは

ジュリーニ・ロスフィルの「英雄」良いですよね~
私はLP時代はジュリーニにはまったく無縁で、最近になってようやく聴き始めました。
ロス・フィルとのブラームスもそうですが、明るい響きが新鮮な演奏ですね~。
ミケランジェリとのベトベンのピアノコンチェルトの伴奏も素晴らしいですよね~。

ミ(`w´)彡 

投稿: rudolf2006 | 2008年1月31日 (木) 17時06分

rudolfさん、こんばんは。
出張してまして遅くなりまして申し訳ありません。

ジュリーニは、LP時代とてもよく聴きましたが、CD時代になってソニーレーベルに録音し始めた頃から聴かなくなりました・・・。
EMIとDG時代が好きですね。
そうそう、ミケランジェリとのベートーヴェンは全曲ないのが残念ですが、同じイタリア人同士、いいコンビだったですね。
ウィーン響もよかったです。

投稿: yokochan | 2008年2月 1日 (金) 22時45分

おはようございます。

私も、この「英雄」が好きなのですが、yokochan様と同様に、LPで聴いた時とCDで聴いた時とでずいぶん印象が違いました。
レコードでは(たぶんジュリーニの意向で)長時間であるにも関わらず第2楽章までを片面に詰め込んだからなのか、とか思いました。
(クーヘリックBPOの「英雄」は初出時、第2楽章の中途で面変わりでしたね。)

今、CDで聴くと、重厚でありながら暖かい独特の響きがとても魅力的ですね。

投稿: 親父りゅう | 2008年2月 3日 (日) 10時23分

親父りゅうさま、こんにちは。TBもありがとうございます。
あのLPを聴かれた方は、やはり皆さん同じ印象をお持ちなのですね。CDを買い直さなければ、あのときの印象のまま終わってしまっていたかもしれません。

>重厚でありながら暖かい独特の響き<
ほんと、おっしゃるとおりのいい演奏ですね。
英雄らしくない、でも立派な英雄です。

投稿: yokochan | 2008年2月 3日 (日) 11時26分

こんにちは(^^)。
ジュリーニのライヴご覧になられたとは、大変羨ましいです(^^;。
ワタシはこれまでブラームス4番(VPO)のみ聴いたことがあり、数日前からブルックナー9番(これもVPO)も聴き始めたところです。
氏の演奏は、柔らかくて暖かみがあるな~という印象です。
ちなみにワタシが現時点で好きなエロイカはクレンペラー&フィルハーモニアです。壮大なスケールを感じる演奏と思います。
ジュリーニさんのエロイカは、これとはかなり違うのでしょうね。

投稿: 左党 | 2008年2月 3日 (日) 13時53分

左党さん、こちらでもどうも。
ジュリーニは、イスラエル・フィル、ウィーン響、ロス・フィルと3回、日本に来てます。
ロス・フィルとの来日では、ブルックナーの7番をやってるはずですが、聴きもらしました。
会場の空調が壊れ、熱さの中でのコンサートだったそうです。
オケは上着を脱いでラフな恰好で、ダンディなジュリーニはしっかり燕尾服をきたまま指揮したそうです!

クレンペラーのベートーヴェンは7番しか聴いたことがありません。ご指摘のエロイカ、よさそうですね。
というか、クレンペラーは、全曲を聴いてみなくてはならないと思います。また目標ができました。ありがとうございます。
今宵は、関東でも雪見酒が楽しめそうですね(笑)

投稿: yokochan | 2008年2月 3日 (日) 18時06分

ジュリーニは私にとって忘れられない指揮者の一人です。

1982年5月21日 大阪フェステバル・ホールにおける
ロス・フィルとの来日公演、「悲愴」&「運命」聴きました。
ダンディなジュリーニの容姿そのものの演奏でした。
これは朝日放送にて放送されましたが、未ソフト化です。
ジュリーニへのインタビュー
「良い演奏ではダメだ。より良い演奏ではなくては」
は印象に残っています。

彼は2年後に夫人の病気のため、音楽監督を退任、
その後も看病のため、遠征をせず、これが最後の来日となりました。
まさしく、一期一会・・・

クラシックを聴きはじめた頃に人気急上昇だったのが彼。
実はこの「エロイカ」、発売と同時にLPを買いました
(1990年にLPはすべて売却)
で、まったく感激しませんでした。
やはり、第1・第2楽章を片面に収めたせいもありますが・・・
期待はずれの印象のせいか、いままでCDを買うこともなく…

実は今、32年ぶりにこの演奏をCDで聴いています。
「12歳にわかる音楽じゃねぇ!!」
あ、もちろん、今でも「わかる」ワケではございませんが。
死ぬほど好きな「エロイカ」の好きなCDの1枚になりました。

ジュリーニは自分の音楽を貫き通した人。
チェリビタッケのように求道者的な極端でもなく
あくまで自らの欲求にしたがったのでしょう。
カネや地位を追い求めず、あくまで自分の音楽を追及した彼。
容姿も音楽も生き様もダンデイの一言に尽きます。

投稿: 影の王子 | 2011年10月10日 (月) 23時34分

影の王子さん、こんにちは。
ジュリーニのエロイカへのコメントありがとうございます。
おかげ様で、懐かしくなり少し聴いてみました。
ロスフィルとのコンビは、もっと続いて欲しかったですが、奥さんの病気を理由に辞めてしまったのは、いかにもジュリーニらしいところですね。
後年のCBSへのDGの再録音の数々は、実はあまり聴いておりませんで、シカゴやロスとの一連の録音の方を好みます。

最後の来日をお聴きになられたのは、うらやましいです。その前の同コンビの来日は、招聘元の倒産で、流れてしまいましたが、わたしはその時チケットを買って待っていたのです・・・・。
いくつか残されたロスとのベートーヴェン、EMIへのシカゴ、LSOとのベートーヴェン、これからも大事に聴いていきたいと私も思っております。

投稿: yokochan | 2011年10月12日 (水) 09時22分

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ジュリーニがDGに録音を始めて間もない頃、シカゴ響を振った「展覧会の絵&古典交響曲」が出た(これが最初だったかな?マラ9が最初?いや、ベルマンとのリストだったかな?憶えてない・・・)。 例によって、友人が買った盤を借りて聴いた。 どの音も、他の演奏に比べて微妙に「実在感」に満ちていて、なんか、もう出なくなった歯磨きチューブの中から絞りに絞って中身を出しているような、そんな音の鳴りっぷりだと感じたものだった。 例えば「ピドロ」の中途から入ってくるスネア・ドラム。 あのクレッシェンドの迫り方は、チェリビ... [続きを読む]

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