R・シュトラウス 「ナクソス島のアリアドネ」 関西二期会新国公演
今年の初オペラは、関西二期会が昨年製作した、R・シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」。
新国立劇場の中劇場での上演。私はこちらのホールは初めてだったけど、アリアドネ上演に約1000人のキャパのこのホールはうってつけ。
舞台も近いし、歌手達の声、表情が間近に感じられていい。メインのホールがでっかすぎるんだよな。
今回3列目のほぼ中央の席で、飯守さんがすぐ近くで唸っている。
舞台も隅々まで見渡せて満足だったけど、字幕が舞台の最上部にあって、前列席だと上を仰ぎ見ないと読めない。のけ反るように見てると舞台がお留守になるし、そのまま眠りに入ってしまう危険もある!
私は自慢じゃないけど、内容は把握してるから、舞台を中心に、指揮、オケの面々の観察に集中することにした。
この劇場、今後注意しなくちゃ。
まず書きたいのは、シュトラウスの音楽の素晴らしさ。
軽やかで精妙かつ明快。緻密にあまりにも完璧に書かれているのに、そんなことはこれっぽっちも感じさせない。
ホスマンスタールとの充実した仕事もあって、きっとスイスイすらすらと作曲しちゃったんだろな!劇の方の舞台となる地中海的世界を表現するうえで、かつそうした明晰さを出すうえでシュトラウスは大オーケストラではなく、室内編成のオーケストラに音楽をつけた。
しかも、ハープが2台、ピアノ、チェレスタ、ハーモニウムなどをピットに入れるという大胆な試み。
その涼やかさや透明感をもたらす響きは、劇場でこうして聴くと極めて効果的。
こうしたシュトラウスの音楽に私はまたしても陶然として椅子に縛り付けられたようになってしまうわけだ!
舞台は、奇を衒わず、オーソドックスかつ具象的なもので、結論から印象を述べると、大正解ではないかと。
ヨーロッパの先鋭的な解釈からすると、常套的なのかもしれないが、このあたりの作品はまだまだ我々聴衆からすると馴染みがないから、具象的かつト書きに忠実な演出は嬉しいもの。
でもそれ以上に、舞台の美しさに感心した。
序幕の快活な前奏に続いてほどなく幕が開き、そこはウィーンの資産家の邸宅内の広場風のスペース。真中に水のチョロチョロ流れる泉があり、それを中心に奥が邸宅の窓ガラス、そして左右対称に立つ支柱と、小部屋が並ぶ。その部屋の扉から、ツェルビネッタやプリマやテノール歌手が出入する。でも作曲家にあたえられたスペースは部屋でなく剥き出し。始終出てなくてはならなし、序幕の主役でもあるからしょうがない。
この家の主人とお客の食事を給仕する人々がいったり来たりしていてあわただしい。
支柱や建物の建具や装飾は、ウィーンの世紀末風で美しい。
休憩後のアリアドネ劇の舞台も美しかった。
憂いをたっぷり含んだ前奏が鳴るなか、幕が開き、左右は序幕の建物が2階立て構造。
この対称のシンメトリーは、全曲を通じて効果的であった。
数段の階段の奥は、洞窟の岩間があって、青く眩い地中海が波打っている。
その光景を、客席に背を向ける恰好でアリアドネが物憂げにながめている。
実に美しい。
左右の岩間を出入りする色とりどりの3人のニンフ達。
そして、ハルレキンをはじめとする道化たちは、この場に本当に不自然。
でも音楽がそれを見事につなぎとめる。ハルレキンの歌をニンフのひとりエコーが模倣して歌う。この音楽の運びは天才的としか言いようがない!
道化とツェルビネッタの歌とダンスは、深刻なアリアドネ組との対比もうまくできていたし、歌手たちの演技の素晴らしさやダンスにもびっくり。
そしてバッカスの登場では、岩間から霧が立ち込め、おもむろに、まがまがしい船が登場しバッカスを運んでくる。ちょっと滑稽な雰囲気だが、よく出来た仕掛けだ。
バッカスとアリアドネの二重唱では、夜が訪れ、バッカスの胸にアリアドネが抱かれるあたりから、背景の岩間には星が瞬きはじめる。
やがて情熱的な二重唱が進んでいくと、洞窟の岩は左右に開き、星空はさらに広がる。
左右に残ったバルコニーの2階に作曲家が現れる。これは、この演出の解釈のひとつ。
その脇には、ツェルビネッタが寄り添い、「女は、新しい神(男)が愛を求めてやってきたときは、私達は許すものです・・・」と歌う。
そして、そのバルコニーも左右に後退してゆき、背景は一面の星空。
抱き合うアリアドネとバッカスが、せりあがってゆく。上からは、最初からずっとあった四方に張ったシルクのような布が静かに降りてきて、ふたりを覆って、音楽も静かなエンディングを迎える。
こんな舞台の様子だった。
アリアドネ:畑田弘美 バッカス:竹田昌弘
ツェルビネッタ:日紫喜恵美 作曲家:福原寿美枝
音楽教師:萩原寛明 舞踏教師:北村敏則
ハルレキン:大谷圭介 エコー :森原明日香
ほか・・・
飯守泰次朗 指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団
演出:松本重孝
(2008.1.25@新国中劇場)
関西での上演で、しっかり練り上げられたチームだけに、まったく隙のない素晴らしいアンサンブルを聴かせてくれた。
正直、こんなに充実しているとは思いもよらなかった。
飯守さんの的確かつ情熱的なタクトが、すべてをまとめ上げていた。
こまめに歌手へのキュー出しもおこない、オケに対しても、煽ったり押さえたりと、完全に音楽と舞台の進行を把握した、劇場人としての指揮ぶりだ。
若杉さんと、飯守さんは世界級のオペラ指揮者なのだ。
関西地場の方々なので、初めて接する歌手も多かったが、その実力にはびっくり。
そのなかで、おおいに気にいったのが、作曲家の福原さんとなんといってもツェルビネッタの日紫喜さん。どちらも完全に役に同質化した歌いぶりで、テクニックも万全。
声を聴いてのワクワク感は、ひさしぶりに味わった。
バッカスの竹田氏は、数年前の飯守パルシファルのタイトルロールで聴いた。
甘口でありながら、歌いだしは力強く、東京二期会の樋口氏に似ているタイプ。
アリアドネの畑田さんは、ちょっと声が苦しかった。でも存在感ある歌手に思う。
ほかの歌手の方々、みなさん過不足なく芸達者だし、歌も立派。
純正日本のシュトラウス上演も、ついにここまでの感ありで、嬉しさもひとしおの新国をあとにしたのは、もう10時。
最後の静かなエンディングも拍手にわずらわされることなく、素晴らしい観客。
あと日曜の上演があるが、チケットは売りきれの様子。
こんな素晴らしい上演が、東京では2000人しか楽しめない。もったない。
関西に負けじと、東京の二期会は6月に、このアリアドネを上演する。
ウェルザー=メストのチューリヒの前任、ワイケルトの指揮も注目だし、日本を代表するシュトラウス歌いの佐々木典子さんと横山恵子さんのアリアドネは注目。
こちらもチケット手配済みなんです!
アリアドネの過去記事~シュトラウス・オペラ全曲から
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コメント
大いに楽しまれた様子に、ますます日曜の観劇が楽しみです。18列目なんだけど、端っこだからなぁ。ちょっと残念。でも、日曜日だから仕方ない。
東京ナクソス、こうなったら新国「ペレアス」(コンサート・オペラ。若杉&東フィル)とセットで私も参戦いたします!
投稿: IANIS | 2008年1月26日 (土) 09時18分
こんにちは。良かったみたいですね。私もこれからなんですが、これを見て東京ナクソスどうしようか考えます(まだ買ってないので)。それより、トーキョー・リングがいよいよ控えておりセット券で買っちゃおうかなあとか思案中です。うう、お金が・・・。
投稿: naoping | 2008年1月26日 (土) 10時22分
IANISさん、こんばんは。
一足お先に行ってまいりました。
何よりもオーソドックスであることがよかったです。
東京では聴けない歌手でも実力派がたくさんいるんですね。
辛口の評もあるようですが、私はすべてに肯定的でした。
ただ、オケピットからの音が少しデッドでしたので、オケの響きのバランスが悪く聞こえましたが・・・。
東京二期会も楽しみになりましたね。
なんでまたアリアドネばっかりやるんでしょうかねぇ??
投稿: yokochan | 2008年1月26日 (土) 22時25分
naopingさん、日曜なんですね。
チケット求むの方が並んでますよ。
関西二期会の実力に驚きました。
そして飯守さんは、最高のオペラ指揮者ですよ。
東京ナクソスは、企業スポンサーの付く日は安いです。
私はそれです。が違うキャストでもうひとつ行きたいとも思ってます。
でも新国トーキョーリングを確実にするにはセット券だし・・・
うぅ~お金・・・・。
投稿: yokochan | 2008年1月26日 (土) 22時31分
脱線で申し訳ありませんが、《リング》の話題があったので少し。
確実な情報ではありませんが、新国の《リング》再演にあたり、キース・ウォーナーが来日して稽古をつける予定はないらしいです。
あの演出を彼なしでちゃんと再現できるかどうか、無茶苦茶不安であります。間違いなく、上演の質にも大きな影響となるでしょう。
だれか確かな情報をお持ちの方はいらっしゃいませんか?
もし本当にウォーナー抜きで上演するのであれば、高い金を払ってまで観に行くことはないでしょう。
去年の新国《フィガロの結婚》再演の二の舞だけは勘弁(^^ゞ
投稿: さすらい人 | 2008年2月 2日 (土) 06時53分
さすらい人さま、お世話になります。
そうだとしたら、まさに、えっえ~!って感じですよ。
初演は私もすべて観ましたが、あのこと細かで、情報のぎっしり詰まった演出をキースなしに上演するのは無理ですよ。
やはり、ご本人が来て、前回の焼き直しでなく、見直し部分も含めてしっかりやってもらいたいです。
投稿: yokochan | 2008年2月 2日 (土) 16時28分
脱線しっぱなしと言うのもあれなので(^^ゞ
1/27の公演に行きましたが、正直、退屈な公演でした(-_-)。あらためて、このオペラって難しいのだなって思いました。
まぁ、前日にマリインスキーの充実したホヴァーンシチナを聴いた後だったので、なおさらですね・・・
東京二期会に期待します。
投稿: さすらい人 | 2008年2月 4日 (月) 16時23分
さすらい人さま、本題コメントありがとうございます(笑)
私は、初アリアドネ舞台でしたし、わくわく気分で挑んだものですから、いいとこしか観てませんでした~。
確かに、舞台も歌もオケもさらに上を望みたくはなりますが、私はおおいに楽しめました。
たしかに、難しいオペラですね。まして日本人には。
6月が楽しみであります。
投稿: yokochan | 2008年2月 4日 (月) 23時00分