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2008年1月20日 (日)

ブリテン 「ねじの回転」 デイヴィス指揮

Turn_of_the_screw寒い日曜日、今日はここ関東でも夜から雪になる予報も。
自然は、温暖化という方向へと傾きながらも、夏暑ければ冬はしっかり寒い、という鉄則だけはまだ守ってくれているようだ。

こんな寒空のもと、さらに寒々しくも、冷気も漂うオペラをひとつ。

何が寒いかって、幽霊の登場するオペラだから。
ベンジャミン・ブリテン(1913~1976)の「ねじの回転」。
アメリカに生まれ、英国で活躍した作家「ヘンリー・ジェイムス」が書いた同名の小説に基づくもの。
この小説についての概要やその革新性については、こちらが詳しい。
こちらによれば、かの無意識の心理学を発見・確立した「フロイト」以前にそうした意識の流れを小説に取り入れた、としている。
また、郊外の壮麗な屋敷を舞台とすることから、英国のゴシック・ロマン小説の流れも見て取れるという。
このオペラを楽しんだから、次は小説も手にとってみよう。

ブリテンは、オペラないしは、それに近いジャンルを17作品残したが、「ねじの回転」は第9作目。1954年にヴェネチア・ヴィエンナーレでブリテン指揮するイングリッシュ・オペラ・グループによって初演されている。
20名程度の室内楽団と、ソプラノ、ボーイ・ソプラノ、テノールの登場人物だけの、風変わりな編成。
こうした室内オペラは、3作目で、生涯好んだジャンルでもある。

オペラの題材を選ぶ鋭い視点は、独特のものがあるブリテンだが、この怪しくも救いのない物語は、少年が登場するし、その少年を誘惑する幽霊がテノール、欲求不満の女家庭教師が主役。こうしたいかにも的・ブリテン的な内容に後ずさりしてはならない。
その音楽は、実に緻密に書き込まれていて感心することしきりだし、切れ味と暖か味の混在するブリテンならではの音楽には引き込まれることしきりだ。

プロローグ
  テノール独唱が、ピアノ伴奏を受けて物語の前段を語る。
 若い女教師が、二人の子供の後見人から、高給を約束しつつ、二人の世話を一切任せ、自分は手を引くことを、募集に応じてから聞かされた。
その後見人は、唯一の親族でかつハンサムだった。
家庭教師は、やる気に溢れて申し出を受け入れる。

第1幕
 郊外の邸宅に家庭教師は着任する。そこには、兄マイルズと妹フローラの二人の子供と、家政婦グロース婦人がいるのみ。子供たちは、カワユク美しく、利発で、家庭教師も気にいる。
うまくいくかと思った数日後、マイルズの学校の校長から、暴力をふるったとして退校処分の手紙が来る。
その後、家庭教師は、屋敷の一角の塔に男の姿を認め、恐怖にかられる。
さらに再びその男を見てしまい、グロース婦人に聞くと、かつての使用人のクイントではないかという。クイントは、マイルズをかわいがりすぎていたこと、前任の女教師ジェスルとも親しくしていたが、凍った道路で転倒して死に、ジェスルも自殺した旨を聞かされる。
ある日、マイルズは勉強中に不思議な歌を歌う。
夜、マイルズはベッドから出て、塔の元までクイントに惹き付けられる。
一方、フローラは、邸内の湖のほとりから呼ぶジェスルからも呼ばれている。
二人の幽霊から再び戻ることを約束させられたところで、家庭教師と婦人に見つかり戻される

第2幕
 幽霊二人は、生前と同様に、子供たちを手にいれようと、意気投合している。怪しい会話。
日曜の教会、マイルズは、家庭教師にいつになったら学校に戻れるのか?と語るが、家庭教師は、それを挑戦と感じ、孤独感につつまれる。
ジェスルとの直接対決もあったがますます、困惑し、かつ子供たちを守ろうと決意する家庭教師。禁じられていた後見人への手紙を書くことを決心し、書き上げる。
マイルズから、クイントのことを聞き出そうとするが、クイントはマイルズしか聞こえない声で、口止めしたり、手紙を盗むことを指示する。
 ある日、ピアノの練習中のマイルズ。やたらにうまい。
ところが一緒にいたはずのフローラがいない。
大人二人は、クイントのせいと思い、湖畔に探しに走る。そこで遊ぶフローラと遠くにジェスルの姿を認めた家庭教師はフローラを責める。
フローラは、先生なんか大嫌いと言い、家庭教師は大いに落ち込む。
 その夜、フローラはグロース婦人と過ごし、妙なことを口走るフローラに気がつき、家庭教師のいうとおりの異常に気付き、フローラを連れて去る。
 さて、残った家庭教師とマイルズ。大いに決意し、マイルズからすべてを聞きだそうとするが、マイルズは答えない。さらにクイントは、マイルズを呼び苦しめる。
その狭間で苦しむ少年。
つにに、マイルズは「ピーター・クイント、you devil!」と叫び、教師の胸に飛び込む。
「おおマイルズ、救われたわ。もう大丈夫。二人で彼をやっつけたわ!」と家庭教師。
「おおマイルズ、もう終わりだ。お別れだマイルズ。お別れだ・・・・」とクイント。
「マイルズ、マイルズ、どうしたの?どうして答えないの?」・・・・・。
マイルズを抱きかかえる彼女。彼はこときれていた。彼を静かに降ろし。家庭教師は、かつてマイルズが歌った不思議な歌を寂しく歌う・・・・・。

各幕ともに、8つの場からなっており、それぞれに短い間奏がついている。
この間奏は、プロローグの後の最初の12音技法による前奏曲の変奏曲になっていて、15ある。これらをもしつなぎ合わせて聴いても、非常に凝っていて精妙な作品として出来あがるはずだ。
各役の没頭的な歌も特徴的で、ことにテノールによって歌われる幽霊と、無垢の少年の対比は背筋が寒くなる雰囲気でヒヤヒヤする。思わず、少年、ダメだ頑張れと思いたくなる。
この幽霊は、当然、ブリテンの伴侶ピーター・ピアーズが想定されている訳・・・。
初めて聴いたとき、少年の死は、かなりショックだった。

 家庭教師:ヘレン・ドナート       ジェスル婦人:ヘザー・ハーパー
 クイント :ロバート・ティアー      グローズ婦人:アヴァ・ジュン
 マイルズ:ミッチェル・ジン        フローラ   :リリアン・ワトソン
 語り    :フィリップ・ラングリッジ

   サー・コリン・デイヴィス指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団員
                              (1981年録音)

Davis ブリテンの手を離れて、普遍的な解釈がなされた演奏の典型であろう。
歌手達は皆うまく、妙な思い入れもなく、一編のドラマとして真摯に歌っている。
ことに、ティアーの怪しくも美しい幽霊が素晴らしい。野辺で歌う美しい歌声に誰しも誘い出されてしまうのではないか。
ラングリッジの冒頭の語りも白痴美的にいい。
それと、ドイツものでお馴染みのドナートが、そのイメージをかなぐり捨てたかのような迫真の歌を聴かせている。パミーナやエヴァを歌う彼女とは大違い。
最初は初々しく、そして徐々に状況に飲み込まれてゆき、強い存在となっていく。

デイヴィスの冷徹ぶりが、かえって熱く感じる。この響きは鋭く、雑念を呼ばない。

作曲者の演奏は未聴。ハーディングの映像やCDも視聴してみたい。

家庭教師が見て体験したことは、はたして真実だったのだろうか・・・・・。
何とも怪しくも、不可思議かつ悲しいオペラである。

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コメント

こんばんは。

ブリテンとは違うんですが、いま以前録画してあったコリン・デイヴィスの「ナクソス島のアリアドネ」を観ています。ドレスデン・シュターツオーパーですが、この人のオペラセンスは抜群ですね。
全体を読む力と、パーツパーツでの光らせ方にいつも唸らされます。
ご紹介の「ねじの回転」も、是非聴いてみたいと思います。

投稿: romani | 2008年1月21日 (月) 22時25分

映画仕立てのをテレビで見ました。演奏はこの録音で、俳優が演じているものです。とても奇麗な映画でした。

投稿: edc | 2008年1月21日 (月) 22時44分

すごいですねぇ。ティアーのクイント、ラングリッジが語りですか~。雰囲気出てるんでしょうね。

デイヴィスの振るブリテンもけっこう好きです。とてもドラマチックに聴こえます。

投稿: しま | 2008年1月21日 (月) 22時55分

romaniさん、こんばんは。
デイヴィスのアリアドネは、ナタリーですか?
あれはいいですね。
デイヴィスのオペラものは、どれも秀逸ですね。
若い頃は才気のみで突っ走ってましたが、コヴェントガーデンで経験を積み、伊・独・仏・英、すべてにおいてセンスある指揮ぶりです。
もういい年齢ですので、大巨匠級のはずですが、いつまでも若々しデイヴィスですね。
変なオペラですが、こちらも是非聴いてみて下さい。
ただし、廃盤のようですが・・・・・

投稿: yokochan | 2008年1月21日 (月) 23時08分

euridiceさん、こんばんは。
そうすると、このジャケットの画像が映画なのでしょうか?
このオペラは舞台もそうですが、映像で観るのが一番いいような気がします。
見てみたいですね。

投稿: yokochan | 2008年1月21日 (月) 23時14分

しまさん、こんばんは。
なかなかのキャストでしょ。雰囲気、出まくりですよ。
特に、ティアーの怪しさといったら、あの頭でコレとなると、極め尽くしてます。
ポストリッジが、青白い顔そのままに幽霊になった映像があるらしいんです。気になりますね。
デイヴィスの鬼気迫る指揮も素晴らしいです。

投稿: yokochan | 2008年1月21日 (月) 23時19分

>このジャケットの画像が映画なのでしょうか?
そうですね。たしか同じphilipsからレーザーディスクも出ていました。音楽の映像作品をいろいろ撮っているPetr Weigl監督、1982年制作です。

投稿: edc | 2008年1月23日 (水) 09時45分

euridiceさん、ありがとうございます。
その映像のDVD化が望まれます。
まだまだ知らないオペラ映像がたくさんあって、焦ります!

投稿: yokochan | 2008年1月23日 (水) 22時46分

yokochanさん
思い立って、TV録画を↓に置きました。ずいぶんな数の分割ファイルになってしまいましたので、面倒ですが、よろしければどうぞ。しばらく置いておきますので、ごゆっくり。ちなみに、もうひとつの録画は八千草薫の蝶々夫人です。

http://rapidshare.com/users/BDY15N

分割ファイルはhjsplitで結合してください。
hjsplit は↓にあります。
http://www.freebyte.com/hjsplit/

投稿: edc | 2008年1月24日 (木) 10時01分

euridiceさま、これはこれは、ありがたや!
感謝感激です。今晩は、酒気帯びで遅く、明日はアリアドネ観劇ですので、週末にじっくり楽しませていただきます。
ありがとうございます!!


投稿: yokochan | 2008年1月25日 (金) 00時02分

作曲者の演奏というのが、internet archiveというところにありました。
ききながらこの解説をよんでいます。たいへんためになりました。

投稿: もちだ | 2012年3月17日 (土) 05時00分

もちださん、はじめまして。
コメントどうもありがとうございます。
作者自演盤は、ピーター・ピアーズの怪しいクウィントが聴けてるものですね。

このミステリアスなオペラ、しばらく離れてましたが、こうしてコメント頂戴して、久しぶりに聴いてみたくなりました。
その後、DVDを2種入手してますので、いずれレヴューしたいと思います。

投稿: yokochan | 2012年3月17日 (土) 18時43分

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