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2008年2月19日 (火)

ワーグナー 「ワルキューレ」ヴォータンの告別 テオ・アダム

Odawara 小田原駅に立つ北条早雲の像。
後ろ姿ながら、狡知・知略に長けた早雲の様子が伺える。
高校時代、小田原に通った私であるが、このあたりを通って通学していた。
当時新幹線口には、こんな像はなかった(はず)。
歴史の街に通いながら、そのことや、その街に昔ながらの、おいしいものがたくさんあることを、思い知るのは、大人のオジサンになってから。
「親のありがたみ」がわかる頃と一緒だ・・・・。

Adam_wagner ワーグナー週間。
名バスバリトンの「テオ・アダム」のワーグナー集を聴こう。
ワーグナーは、あらゆる領域の男女のロールに公平に、いい音楽を残したから、各声域の歌手達が、ワーグナーを歌った1枚を残している。
今日の1枚も、その典型で、「さまよえるオランダ人」、「ワルキューレ」、「マイスタージンガー」、「トリスタン」、「パルシファル」から、それぞれ、オランダ人・ヴォータン・ザックス・マルケ王・アンフォルタスの歌が収められていている。

まさに、テオ・アダムが得意中の得意にし、それぞれ全曲録音でも、名指揮者の元で歌っているロール。

テオ・アダムは、1926年ドレスデン生まれ。
ドレスデンの十字架合唱団で少年時代から歌った人だけに、バッハをはじめとする宗教音楽での真摯な歌は定評がある。テノールのシュライアーとも、合い通じる出自。
ワーグナー歌いとしては、50年代からバイロイトに登場し、あらゆる端役で、その名を見出すことができる。
そうした端役から、ローエングリンの伝令士⇒タンホイザーのウォルフラム⇒パルシファルのアンフォルタス⇒オランダ人⇒リングのヴォータン⇒マイスタージンガーのザックス⇒トリスタンのマルケ王⇒パルシファルのグルネマンツ、こんな風にステップアップしていったテオ・アダム。

バスバリトン歌手がワーグナーにおいて歩む道程であるが、アダムほどそのすべてに適性を示し、成果をあげた歌手はいないのでは。
おまけに、ハイティンクのリングでは、アルベリヒまで渋さをもって歌っている。

そんなアダムの最高の歌唱は、やはりヴォータンザックスであろうか!
アダムの声は、すこしアクの強さも感じるが、言葉の明瞭さと一本筋の通った気品とドラマテックな歌いだしが、まったくもって素晴らしい。
最高のヴァータンは、やはりホッターだけれど、アダムは唯一それにせまるヴォータン。
ベームとヤノフスキのリングは、アダムがいなければ成り立たなかったリングだと思う。
ちなみに、好きなヴォータンをあげれば、先のホッター、アダムに、T・ステュワート、マッキンタイア、ニムスゲルン、R・ヘイルなどであろうか。モリスはレヴァインとハイティンク盤をもう少し聴かなくては。

ザックスにおいても、アダムの人格的な投影が等身大になされていて、われらが親方的なザックス像が好ましい。ベルリン・シュターツオーパーの公演で観劇したが、ひときわ舞台に奥行きを与えていたのがアダムのザックスであった。

もう80歳を越えたアダム。歴史の証人のような存在になりつつあるが、ずっと元気でいて欲しいもの。
その思いは、バックをつとめる、スゥィトナーベルリン・シュターツカペレにも大いにいえること。
本録音は、1965年と66年であるが、それらの年、西側ではカラヤンとベルリンフィルがDGで活躍中、ショルティがカルーショーとリングを録音中であった。
そして、バイロイトでは、ヴィーラントの第二次リングがはじまり、ベームとスゥイトナーが交互に指揮を受け持った頃。
ヴィーラント・ワーグナーが目指した、ラテン的なワーグナーの裏腹な帰結として、モーツァルトを演奏するかのような軽やかさと真摯さ。
これを実践できるとしてヴィーラントが指名したのが、ベームにスゥイトナーであろう。
40年も前の録音ながら、その鮮明さに驚くうえ、オーケストラの明晰かつ克明な響きとスピーディな立ち上がりに感嘆してしまう。

こんな素晴らしいワーグナー指揮者迎えていたN響は、今思えばもったいないことをしたものだ。同様に、サヴァリッシュ、シュタイン、これら3人のワーグナー指揮者を常連に戴きながら、舞台上演が皆無だったN響。
その仕組み不足は、今思えば世界的に痛恨の出来事だ。

 ヴォータンの告別は、もう40年あまり夕焼けとともに聴いてきたが、娘を持つ父として、年々重くのしかかってくる音楽になってきた。
決然としつつ、思い切り後ろ髪引かれつつ、振り返るヴォータンに我が身を写しだす境遇になりつつある。
この音楽は、長年聴いてきたホッターやアダムの声が、心に沁みるなぁ~。

観劇3度目となる二期会の舞台で、私は泣くことになるのかなぁ~。

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コメント

yokochanさま お早うございます

テオ・アダムさんのヴォータン、ザックス、いずれも素晴らしいものですね、来日公演ではモツアルトのオペラは聴きましたが、モツアルトは意外に合っていないんですよね、アダムさんに~。でも、ヴァーグナーになると、途端に良くなりますよね。ヴァーグナーのモノローグの夕べ、というリサイタルがあったんですよ。私は終演後、楽屋へ行き、サインと握手をしてもらいました、爆~。

ヴォータンでは、私はジョージ・ロンドンさんが第一位です、その次は、アダムさん、往年の名歌手、フリートリッヒ・ショルさん、それに続いて、スチュアートさんが来ますね~。マッキンタイアさんも。ホッターさんは、カイルベルト盤は凄いです。

去年引退されたんですよね、アダムさん。大きな記事になっているのを外国の新聞で見ました。日本の新聞は出たのかな??
80歳まで現役、凄いことですよね

yokochanさんに勧められたマリア・カラス、買いました
 

ミ(`w´)彡 

投稿: rudolf2006 | 2008年2月20日 (水) 06時02分

八ヶ岳音楽堂で聴いた「冬の旅」は忘れられない思い出です。

投稿: edc | 2008年2月20日 (水) 07時52分

rudolfさん、こんばんは。
飲んだくれてまして遅くなりましたぁ~。
アダムさんのサインをお持ちなんですか!
いやぁ、希少ですね。確かに彼のモーツァルト。ドン・ジョヴァンニにしてもザラストロにしても、声が強すぎるような気がしますね。
やはり、ワーグナーですね。それとリヒターと共演した数々のバッハもいいです。
日本では、引退記事が出なかったように思います。
思い出の歌手には、いつまでも元気にいて欲しいものですね。

カラス、13日は楽しめますよ(笑)

投稿: yokochan | 2008年2月21日 (木) 00時29分

euridiceさん、こんばんは。
八ヶ岳の環境での「冬の旅」!
考えただけでも、胸が一杯になりますね。
素晴らしいご体験に、うらやましさも募ります。
アダムには、70年代のレコード録音もありますね。

投稿: yokochan | 2008年2月21日 (木) 00時34分

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