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2008年3月31日 (月)

ワーグナー 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 クリュイタンス指揮

                                 先週Kuranosuke金曜日のこと、品川で打ち合わせ後、田町まで歩いた。
近道をしようと閑静な高輪の住宅街を歩いていたら、またもや前日訪れた「泉岳寺」の前に出てしまった。

大石内蔵助」の立像をパチリ。

そして、伊皿子坂を歩くとN響の練習場がある。
今日は、高級車がたくさん止まっていて練習日の様子。
と思ったら、楽器を手にした、テレビでお馴染みの楽員が何人か出てきた。練習風景を覗き見たいものだ。

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大石内蔵助じゃないけれど、高潔の中年男性が活躍するオペラが、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。

中世の実在の人物、作家「ハンス・ザックス」は、まさに当時の風習として靴職工として2年間修行を積んだらしい。
その後、ドイツ各地を遍歴し、国民への啓蒙と、道徳の高揚に力を注ぐ詩作活動をし、ルターの新教にも目覚めてゆく。

こんなザックスの大まかな背景を知っておくと、ワーグナーが描いたザックス像が、とてもわかりやすいかもしれない。
旧習に捕らわれず、かといって古きも大切に。愛を忘れず、自己を知り、己を抑え、人を立てる。そんな人物が、民衆の人気を集める。
中世ドイツの「大石内蔵助」は、「ハンス・ザックス」。

Buehne_meistersinger_big トリスタンと二律背反するハ長調の世界、4月のスタートに相応しい調和の調べ。
何度も書くけれど、ロマン派歌劇を「ローエングリン」で極めてしまったワーグナーは、壮大な「リング」に着手し、「ラインの黄金」「ワルキューレ」「ジークフリート」第2幕までを仕上げ、「トリスタン」そして、「マイスタージンガー」に没頭することになる。
「ローエングリン」から「ラインの黄金」への飛躍も驚くべき進化だが、「リング」の狭間の2作の驚異的な完成度、「マイスタージンガー」の長調主体の一見単純ながら複雑な和声法、それがそっくり「ジークフリート」3幕と「神々の黄昏」に引継がれていることに感嘆せざるを得ない。

音がひたすら開放的に向かってしまいかねない「マイスタージンガー」は、意外と完璧な名演がないかもしれない。
ヴィーラント・ワーグナーに請われてバイロイトで活躍した「クリュイタンスのマイスタージンガー」は、表情が明るいだけでなく、細部に目を凝らした緻密な演奏だ。
3幕の高揚感やダンスのリズムの素晴らしさといったらない。
今では、ブーレーズやアバドに代表される、明晰かつクール、そして音がイキイキとして、ドラマをおのずと語るような集中力。
簡潔な舞台で、ヴィーラントがワーグナーの音楽に託そうとしたメッセージは、曇りない明晰さであったろう。そこに複雑な人間ドラマの根源を見出そうとしたのでは。
 戦後の新バイロイトでのマイスタージンガーは、唯一ワーグナー兄弟以外の前世紀の遺物のようなハルトマン演出でスタートした。
B1 そして56年に、ヴィーラントがとりあげたマイスタージンガーは、センセーショナルなものだったらしい。写実的・具象的な背景が不可欠に思われたこの作品に、イマジネーションの世界を持ち込んだ。それは「ニュルンベルクのないマイスタージンガー」と呼ばれたらしい。
現在ならば、そんな「ニュルンベルクのない・・」演出は当たり前だけど。
いくつかの画像でしか確かめられないけれど、今でも新鮮な思いで見ることができる。
昨今の品のない饒舌な演出など薬にしたくもない、ファンタジー溢れる雰囲気だ。

  ザックス:グスタフ・ナイトリンガー  ポーグナー:ヨーゼフ・グラインドル
 フォーゲルゲザンク:フリッツ・ウール ナハティガル:エグモント・コッホ
 ベックメッサー:カール・シュミット・ワルター コートナー:トニ・ブランケンハイム
 モーザー:ヘルマン・ウィンクラー   フォルツ :オイゲン・フックス
 ヴァルター:ワルター・ガイスラー   エヴァ  :エリザベス・グリュンマー
 ダーヴィット:ゲルハルト・シュトルツェ 
 マグダレーネ:ゲオルギーネ・ミランコヴィック

 夜警:アーネスト・ヴァン・ミル

    アンドレ・クリュイタンス指揮 バイロイト祝祭管弦楽団/合唱団
            演出:ヴィーラント・ワーグナー (57年)

どうです?この味のある配役。ワーグナー好きなら、唸らざるをえないでしょ。
ナイトリンガーのザックスですよ。
ナイトリンガー=アルベリヒという図式が完璧に耳の中に出来上がっている。
ベームとショルティのリングをいやというほど聴いてきた自分にとって、古今東西最高のアルベリヒは、ナイトリンガー以外にない。
その彼が、ザックスを歌っているのだ!!
聴いてみると、豊かな声量と輝くばかりの低音で超立派なザックスなのだ。・・・・けれど、でもやっぱりアルベリヒだよ。これが。歌いまわしや、語尾が完全にあのアルベリヒを歌うナイトリンガーのイメージ。
強烈な個性の歌手を、その個性と役柄を同質化して見て、聴いてしまう、その典型だ。
でも、素適なザックスだ。酸いも甘いもかみ分けたような味わいあるザックスなのだ。

もうひとり、強烈なイメージの人といえば・・・・、そう、シュトルツェのダーヴィット。
こちらは、アルベリヒの敵対する弟ミーメのイメージが満載の歌手なのだ。
ダーヴィトは、シュライアーのようなコミカルかつ生真面目なイメージを抱く役柄だけれど、シュトルツェが歌うと、いまひとつ狡猾ながらもおっちょこちょい的な雰囲気になる。
これまた、面白い聴きものだ。
 さらにひとり、グラインドルのポーグナーは、私にはハーゲン刷り込み歌手なので、油断ならない雰囲気の声なのだ。ふふふっ。

グリュンマーの清潔な雰囲気、ブランケンハイムの性格的なコートナー、鬱陶しいくらいに達者なワルターのベックメッサー。みんな面白い。
初めて聴く、ガイスラーのワルターはちょっと野放図だがとてもいい声。
この歌手はイタリアものがいいかも。1918~1979ともう物故しているが、ほかに音源がないのが残念。

50年も前の録音ながら、まずは鮮明な録音。
冒頭にお馴染みのバイエルン放送のアナウンスが入っている。
各幕の終わりには、盛大な拍手も。終幕では、オケが鳴っているのに、興奮した観客の拍手がフライングもクソもないくらいに自然に始まっている。

いろいろマイスタージンガーを聴いた方に是非お薦め。
クリュイタンスのワーグナー、バイロイトではあと「タンホイザー」「ローエングリン」「パルシファル」を指揮している。オルフェオ復刻「タンホイザー」は聴いたので、のこる二つを是非にも聴いてみたい。

舞台では、ベルリン(スウィトナー)、ミュンヘン(サヴァリッシュ、メータ)、新国と4度観劇しているけれど、他の諸作と比べ、しばらく上演に間が空いている。
ウィーンが持ってくる話があったけれど、指揮者のマネジメント筋の高額ギャラ要求で、流れてしまった・・・。

 ヴァルヴィーソ指揮 バイロイト74年盤
 ベルント・ヴァイクル
 

 
 

 

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コメント

yokochanさま お早うございます

クリュイタンスの「マイスタージンガー」
気になっていたんです、「マイスタージンガー」お宅としては、爆~。
やはり良いですか?
最近、サヴァリッシュ盤(ミュンヘン)を廉価盤で手に入れました。まだ聴いていないのですが~。

クリュイタンス盤の歌手 すごいメンバーですね~
驚きです。欲しいな~~ 

ミ(`w´)彡 

投稿: rudolf2006 | 2008年4月 1日 (火) 04時00分

こんにちは。
マイスタージンガーは、2月にようやくCDを購入しました。3回ほど聞きましたが、大好きな曲の一つになりました。
本日の記事はものすごく勉強になります!

投稿: よんちゃん | 2008年4月 1日 (火) 09時20分

rudolfさん、こんばんは。
これいいでしょ!実際、ユニークでとてもよかったです。
ワーグナーフェチの私としても、これで10組目のCDです(笑)ですが、以外に記事にしてないのに気が付きました。
タワレコで3900円で買いました。
値段も魅力です。著作権の50年期限の関係で、ことしあたりは、さらなる名盤が思わず登場するのではないでしょうか!

投稿: yokochan | 2008年4月 1日 (火) 22時57分

よんちゃんさま、こんばんは。
前奏曲だけがやたらに有名ですが、長い全曲も、その前奏曲の延長のようで、すんなり聴ける作品だと思います。
最後のザックスのモノローグで、前奏曲のフレーズがオケに出てくると、もうウルウルとしてしまいます。
お好きになっていただいて、わがことのように嬉しいです!

投稿: yokochan | 2008年4月 1日 (火) 23時01分

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