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2008年3月23日 (日)

R・シュトラウス 楽劇「ばらの騎士」 神奈川県民ホール

Rosen_yokohama_1 横浜で「ばらの騎士」を観劇。オープン戦を横目にスタジアムを通り抜け、県民ホールへ。
昨年から続く「ばら戦争」、通算4回目。
新国・チューリヒ・ドレスデンのこれまでの3作いづれも印象に残る舞台で、いまでもありありと思い出すことできる。

トリをつとめるベルリン・コーミッシェ・オーパーのプロダクションはいかに!
びわ湖ホールと県民ホール、二期会の共同制作ですでに大津では上演済みとのこと。
最大の見物は、アンドレアス・ホモキの演出。
この人の演出、新国で「西部の娘」を見たが、簡潔な装置ながら、人の動かし方が細やかで、演劇性が強いという印象がある。

舞台の様子を。(これから観劇の方、ご覧にならない方が・・・)

第1幕
 舞台の中に屋敷の断面が据えられている。舞台いっぱいではなく、室内は狭い空間。窓ガラスもなく(上部にある天窓は閉じられている)、三方にある扉だけ。真ん中のベッドの下でじゃれあう二人。テーブルがないから、運ばれた食事はベッドの上、あげくのはては床におかれ、マルシャリンはパンをくわえてオクタヴィアンとおふざけ。
 オックス登場に大慌てするも、剣や靴はいつもマルシャリンとオクタヴィアンが隠しもっていて、その様子が観ていて楽しい。執事などの恰好からして、時代設定は作曲者の意図したマリア・テレジアの時代の様子。
オックスは早くも鬘をとり、そのはげ頭を露出させている。
孤児や売り子、イタリア人コンビなどが入ってくるが、その狙いは何故か最初はオックス男爵。そして全員出ていってしまい、イタリア人歌手の歌が始まるのにどうなるかと思ってい
Berlin たら、ひとりマルシャリンが、ロココ調の白いドレスと鬘で現れ、その後から大仰な成りをした歌手が着いてきて、彼女のために例のアリアを歌う。
周囲も暗くなり、ここにマルシャリンの心の転換のポイントを見たホモキの演出は明らか。
 以降、彼女はアンニュイに浸り、戻ったオクタヴィアンにもそっけない。
オクタヴィアンの仕草が、男の私が見てても、ほんといじらしい。
諦念にとらわれるマルシャリンをどう表現するか、この劇の演出の核心でもあるが、ホモキは彼女が何もない舞台に立ち尽くすことで、そのすべてを表現した。

第2幕
 幕が上がると、前幕と同じ設定。ファーニナル家の人々が家具や調度を忙しく運んでいる。ちなみに、時計は最後まで、11時30分のまま。
彼らは、20世紀初頭の衣装で、いつの間にか時代が早まっている。
ゾフィーや父親もダークグレーのスーツやドレスで機能的。
そわそわと、騎士登場を大勢で待つなか、意外やアッサリとオクタヴィアン登場。
黒の軍服姿は、警察官のようで、華やかさはコレッぽちもない。
「銀のばら」は箱に入ったまま手渡され、蓋を開けて覗きこむ次第。
二人で覗き、視線を合わせると、家中の人々がピタリと動きを止めてしまう。
Berlin3 周囲静止したまま、若い二人は夢のように美しいシュトラウスの調べに乗せて二重唱を歌う。
オックス男爵は、その仲間も含め、のっけから粗暴で、いやらしい。ここでも早くも、鬘を脱ぎ捨ててしまうし、ゾフィーにのしかかってしまう。ご機嫌な男爵やファーニナルにくらべ、ゾフィーのショックの表現は並々でない。男爵のワルツにのって、すすり泣くのだ。
 私の大好きな、若い二人の二度目の二重唱は、距離をだんだん縮めながら歌う場面が自然で、その素晴らしい音楽とともにウットリとしてしまう。
 男爵に一撃を加える場面は、なんだかわかんない(見ようによっては、自分から刺されたみたいに)うちに突かれてしまう。その後の騒動は全員出動で、大騒ぎ。
こんな騒ぎは見たことない。ファーニナルと喧嘩したゾフィーは何故か服を脱ぎ捨ててしまい出ていってしまう。
怪我しながらも、ワインで気分がよくなる男爵。舞台は、左に傾き斜めになった。
マリアンデルのニセ手紙のシーンでは、ご機嫌の男爵を、オクタヴィアンとヴァルツァツキが物陰から楽しそうに見ている。

第3幕
 舞台は傾いたまま、でも枠が逆さまになっている。閉ざされていた丸窓がぽっかり空いて下にきていて、かつての出入口は上部にあって、扉は壊れてぶら下がっている。
家具や調度もみな斜めに倒れている。
ここが料理屋の特別室とは思えない。廃墟のようだ。男爵とマリアンデル(オクタヴィアン)は立ち飲みのように、家具の上にワインを置いて酒を飲むし、倒れた家具のドアを開けるとフトンが転がりでてくる。
オクタヴィアンの女の子ぽい動きがとてもかわいい。ワインは2杯、一気飲み、あとはボトルをラッパ飲み。笑える。
お化けや奇妙な動きがあるのでなく、派手な雷鳴が何度もとどろく。その度に、男爵は布団に転がる。当然、ここでも鬘はどこかへいったまま。
仕上げの、本妻と隠し子登場に、舞台上は給仕ばかりか大勢の人々で溢れる。
オクタヴィアンは子供たちの合唱指揮までしている。
警部登場は、ピシッとコートを着た、まるで、ドラマに出てくるような警部。取り調べも部下を伴ない本格的だ。呼ばれたファーニナルは、殺傷事件もあって相当にくたびれたまま。
ゾフィーも下着の上にコートを羽織っただけ。
 そして真打、元帥夫人登場となるが、例の丸窓をかいくぐって出てくるので、威厳がちょっと・・・・。でもこれで、最後のクライマックスにむけてひたひたと感動が高まってゆく。
すべてを悟ったはげ頭の男爵、なかなか往生際が悪い。これを一括するマルシャリンは、かなり厳しく言葉でたしなめるが、態度ではなく、言葉だけでも今日の佐々木さんの歌は凄かった!
 何かが飛んできたかのように、舞台の4人は中空を見る。(いったい何の意図なんだろ?)そして、男爵が大騒ぎで出てゆく場面でも激しく雷鳴がとどろき、全員おおあらわ。
最後の絶美の3重唱、ごちゃごちゃした家具はみな騒ぎのなかで片付けられて、なにもない舞台に3人三様に立ち尽くす。
ゾフィーに近づく元帥夫人。どぎまぎして、仕切りに躓き尻餅をついてしまうゾフィー。
彼女に手を貸し立ち上がらせる元帥夫人。こうしたちょっとした動きに意味がこもっている。「この日が来ることがわかっていた・・・・・」ここでついに、マルシャリンの時間が一挙に現実のものとなった。
ファーニナルを元気づけるのは、馬車で送ること・・、との言葉に若い二人は声をあげて笑う。こんなの初めてだ。なるほどね。
恋人二人は外へ出てしまい、その歌い声がするだけで、舞台にはマルシャリンがひとり。
その歌声を聴き入っていたかと思うと、その場に倒れる・・・、でも気を取り直し、起き上がり鬘を脱ぎ、白いドレスも脱いでしまった。ロココ時代から一挙にほかの人々と共通の時代の人となったかのようだ。
思い出したように、「銀のばら」の箱を片隅から拾いあげると、マホメット君登場。
1幕では、インド風のお小姓だったのに、こんどは、ニューヨークにいるような黒人のカジュアル・ボーイに変身している。
その彼、マルシャリンから箱を受け取り外へ走りでてゆき、それを見送るマルシャリンが舞台に残り、鮮やかな幕切れとなった!

長くなってしまったけれど、自分の鑑賞記録だからもうちょっと。
プログラムのホモキの言葉によれば、時代設定は20世紀初頭。ロココの1幕から始まることで、舞台空間の外側では時間が進行していることを意味付ける、とある。
なるほど、これは秀逸に思う。このオペラの最大のモティーフは、老い(時代)を先行して呼んだ元帥夫人の悩みでもあるのだから。
そして、やたらにみな服を脱いだけれど、元帥夫人は、最後にまとっていたドレスを脱ぐことにより、没落しつつある貴族、そして若いツバメのいた自分からの脱却と新しい一歩を意味していたように思う。終幕の場面では、明るい表情だった。
モハメドが、もう小姓でないのも同じこと。
ゾフィーは、父の言いなりの「よい子」からの脱却なのだろうか。

まだまだいろいろと考えたくなる、面白い舞台。
一挙手一投足がこのオペラすべてに渡って見逃せず、意味がある。
ホモキの舞台は大掛かりな仕掛けはないが、表情や細かな動きまでに気を配った繊細な演出であった。

  元帥夫人 :佐々木典子      オクタヴィアン:林美智子
  オックス男爵:佐藤泰弘       ゾフィー   :澤畑恵美
  ファーニナル:加賀清孝       マリアンネ  :渡辺美佐子
  ヴァルツァッキ:高橋 淳      アンニーナ :与田朝子
  テノール歌手 :上原正敏         ほか

      沼尻竜典 指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団

                 びわ湖ホール声楽アンサンブル
                 二期会合唱団 (3月22日 神奈川県民ホール)

広いけれど、よく声の通るホールに、室内劇風の演出もあって、日本人歌手たちは、全員驚くほどイキイキと演じ、歌った。
先般のワルキューレにもまして、日本人によるドイツオペラもここまで来たかの感が強い。
一番素適だったのが、佐々木さん。バイロイトでも歌った彼女の言語明瞭で、しなやかな歌声はシュトラウスにピッタリ。以前のダナエの愛の感激がまた味わえてうれしい。
そして、林さんのかわいいオクタヴィアンには、お父さん参ったヨ。
もちろん、歌も立派でした。
少しバリトンがかってはいたけれど、声量豊かで、かといって低音もしっかり響かせていた佐藤さん。細やかな表情づけがきれいな澤畑さん
ほかの皆さんも、よかった。

沼尻氏の指揮は、まず無難なものだったけど、演出や歌手たちを考えよくオーケストラをコントロールしていたように思う。
指揮に色香にない分は、神奈フィルのきれいな音が補っていたのではないか。
おかげさまで、毎週のようにこのオケを聴く機会があるが、弦と木管が実にきれいだ。
石田氏は今日は降り番だったが、ピットをのぞくと、いつものメンバーがずらり。
ときおり乱れもあったが、在京の某オケのように致命的にならないところがいい。

今日も、お決まりの涙ひとしずく、の場面は、1幕のマルシャリンの独白、2幕のふたつの二重唱、3幕の三重唱・・・・。

4つの「ばらの騎士」を体験して、ますますこのオペラが好きになってゆく思い。
9月には、アルミンク/新日フィルがセミステージ上演するが、なんと藤村美穂子さんがオクタヴィアン、森麻季ちゃんがゾフィーなのだよ。ついにバイロイトでクンドリーを歌う藤村さん、日本の宝ですよ。

最初から、ゲホゲホしたり、ウェッヘンとか声を発する爺さんがいて気になったが、2幕で指揮者がいざ棒を振ろうというタイミングで、うェ~イ~と大きく一発。
これには、会場うけて沸いた。沼尻さんも、思わずずっこけてたし。ははは。

幕間に、山下公園を散策し、これまでの「ばらの騎士」の舞台などを思い起こしていた。
その比較や感想はまたの機会に。

 
  新国立劇場        シュナイダー指揮
  チューリヒ歌劇場     ウェルザー・メスト指揮
  ドレスデン国立歌劇場  ルイージ指揮
  
  バーンスタイン指揮のCD

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コメント

今回の演出、どうもオリジナルからも、びわ湖公演からもかなり崩れてしまっているらしいです。オリジナルもびわ湖公演も見ていないので、詳細は分からないんですが・・・

最後の場面、あれは女の子のように見えました。そのため、個人的にはあれは、元帥夫人が生まれ変わるのだなととらえました。

歌手では、佐々木が頭一つ抜き出た感じでしたね。林も悪くはなかったけれど、後半厳しそうでした。あまり無理をしてもらいたくはありません。ゾフィー、オックス、ファーニナルはイマイチ。

沼尻ですが、フィガロがあまりにも醜かったので覚悟していたのですが、今回は良くまとめていたとは思います。ただ、シュトラウスらしい薫り高い音楽を引き出すところまではさすがに無理でしたね。こればかりは、いかんともしがたいのでしょうが。

投稿: さすらい人 | 2008年3月23日 (日) 05時08分

よかったでしょう?。
佐々木さん、圧倒的でしたよね。
オーケストラもよかったです。
涙ものの歌もいくつもありました。
ホモキの演出はなんだか殺風景でしたがとっても美しかったです。
1幕の始まりが見られなかったのが残念だったのですが、それでもこんな素晴らしい舞台があの価格で日本で見られるのですよね。
なんだか感無量です。

投稿: yurikamome122 | 2008年3月23日 (日) 16時16分

さすらい人さま、コメントありがとうございます。
びわ湖からも、崩れてしまっているのですか?
まぁ、今回しか知らないゆえ、というか、かなりの完成度にあると思いました。

確かに、最後の子どもは、女の子が演じてました。そしてなるほど、元帥婦人の生まれ変わり・・・、今回のコンセプト、そうか、それもありですね!

歌手はたしかに、佐々木さんが際立ってました。
私も指揮は不安でしたが、むしろ良かったと思いますね。
彼の指揮はもっと聴いてみたいと思います。

投稿: yokochan | 2008年3月24日 (月) 11時23分

yurikamomeさん、コメントありがとうございます。
いやぁ、期待半分で行ったのですが、予想以上に素晴らしかったです。
一場面一場面、謎解きをするかのような思いで個性的な演出を楽しました。
ご指摘の通り、佐々木さんはホント素適なマルシャリンでした!

投稿: yokochan | 2008年3月24日 (月) 11時36分

 僕もベルリンや横浜での上演は見ていませんが、
今回のプロジェクトは演出家のホモキ本人が来日し、
大津と横浜に別れて練習する歌手たちに、
それぞれ稽古を付けたという事実があります。
びわ湖ホールでの上演から“崩れた”部分というのを、
yokochanさんの詳細な報告からは、
僕は読み取ることが出来ません。

 “崩れた”説のネタ元のサイトの見当は付きますが、
信憑性は低いと思われます。

投稿: Pilgrim | 2008年3月25日 (火) 12時53分

Pilgrimさま、コメントありがとうございます。
ココログメンテで、コメント遅くなりました。
演出は、演じる方があるだけに常に変転するものだとは思います。私は、横浜での舞台に非常に満足でしたので、それでよしとしたい思いです。
欲を言えば、ベルリンの劇場を想定した現地プロダクションを観てみたいですね。
いずれにしても優れた舞台が低廉な価格で観れた喜びは大きいです!

投稿: yokochan | 2008年3月26日 (水) 23時02分

はじめまして
 
「ばらの騎士」に惹かれて立ち止まらせていただきました。 
わたくしの母がE・シュワルツコップの元帥夫人をこの上なく愛しておりましてオペラ映画としてのこの作品が上映されるたびに足を運んでおりました。 
幸か不幸かあの美しい姿が脳裏に焼きつきすぎて、わたくしは舞台を観る気持ちになれないのが残念ですが 
こちらのブログを拝見していつか必ずという思いになれました。 
ありがとうございます。 
またお邪魔させてくださいね。

投稿: moli | 2008年12月19日 (金) 16時41分

moliさま、コメントありがとうございます。
「ばらの騎士」に惹かれっぱなしの弊ブログにお立ちよりいただき、感謝感激です。
シュヴァルツコップこそ、私の憧れのマルシャリンでございます。
昨年来、5人の元帥夫人に出会いました。
一生にまたとない機会に存じます。どなたも、あまりに素晴らしい・・・!!
しかし、わたくしもシュヴァルツコプップが別格です。
至芸ともいえる歌唱ですね!

そんななかで、ドレスデンのシュヴェンネヴィルムスがかなりいいです。NHK放送がDVD化されます。

ぜひまたお越しくださいませ。

投稿: yokocahan | 2008年12月20日 (土) 00時47分

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<ベルリン・コミッシェオーパー制作> 2008年2月3日(日)14:00/びわ湖ホール 指揮/沼尻竜典 大阪センチュリー交響楽団 びわ湖ホール声楽アンサンブル 二期会合唱団 大津児童合唱団 演出/アンドレアス・ホモキ 美術/フランク・フィリップ・シュレスマン 照明/フランク・エヴィン 衣裳/ギデオン・ダーヴェイ マルシャリン/佐々木典子 オクタヴィアン/林美智子 ゾフィー/澤畑恵美 オックス男爵/佐藤泰弘 ファーニナル/加賀清孝 侍女マリアンネ/渡辺美佐子 ヴァルツァッキ/高橋淳 アンニー... [続きを読む]

受信: 2008年3月23日 (日) 14時03分

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受信: 2008年3月23日 (日) 16時17分

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