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2008年3月16日 (日)

バッハ ヨハネ受難曲 ヘレヴェッヘ指揮

Imgp3187a 「つくし」がちらほらと見かけられるようになってきた。
タンポポも咲いているし、春がそこまでやってきたようだ。

娘の卒業式があり、そのビデオを見た。みんな泣いてる。
それを見て泣いてしまう父。
このところ、泣きっぱなし。
ただでさえ、花粉で涙目なのに。

それにしても、日本人は最近よく泣く。テレビをつけると泣くシーンがたくさんあるし、本屋行くと、泣ける本まで売っている。
誰はばかることなく涙を流せる世の中になったのだろうか。

Bach_johannes_passion 今年の「復活祭」、イースターは3月23日。
そして、今日の日曜は「枝の主日」といって、イエスがエルサレムに入場した日。
人々が枝を持ってイエスを迎えたという。
映画などでもそんなシーンがあった。
この日より、1週間を聖週間といって、キリスト教の最大のイヴェントのひとつ。

さすがに、クリスマスやバレンタインなどをぱくった日本では、何事もなされない。
むしろお彼岸だし。

われわれ音楽好きだと、イエス受難の聖金曜日にまつわる音楽をいくつか思いおこすことができる。
バッハの受難曲やワーグナーのパルシファルがそう。

そして、本日は、バッハの「ヨハネ受難曲」を聴く。
現存するバッハの受難曲は、「マタイ」と「ヨハネ」の2作品ある。
「マタイ」は無人島にもってゆくCDのトップにランクされるくらいの人類不変の作品であるけれど、「ヨハネ」はそれに比べるとちょっと地味な存在だ。
どちらの受難曲も、それぞれの福音書にテクストを求め、福音書家エヴァンゲリストが朗唱し、イエスやピラトなども登場する。その合間に合唱によるコラールや合唱曲、独唱のアリアなどが挟まり、見事なバランスをとっている。

しかし、劇性において大きな違いがある。
アリアやエヴァンゲリストの比重が大きいマタイに比べて、民衆を歌う合唱の比重が高い。
よって現場の雰囲気が実にリアルなのである。
「あいつも弟子のひとりだ!」とか、「十字架につけよ!」とか・・・・。
 しかも、曲はいきなりユダの裏切りと捕縛というドラマテックな場面から始まり、十字架上で事切れるまでの短時間のドラマを2時間で物語るから、中身が濃い。

本来、ヨハネ伝にはない「ペテロの否認」や「神殿の幕が裂ける」などをマタイ伝から挿入してお決まりの場面を盛り込んで聴き手の心をくすぐる。

それでも、素晴らしいアリアに合唱曲はいくつも盛り込まれていて、「マタイ」と甲乙付け難い魅力がある。
冒頭のたゆたうようなオーケストラの響きにのって歌われる合唱曲は悲劇の予兆たっぷり。
2本のフルートに伴なわれて、イエスに従う信条を歌うソプラノのアリアとその後の、ペテロの否認のエヴァンゲリストの思いを込めた朗唱。
イエスの死を悼み「こと果たされぬ・・・」と歌う沈痛なアルトのアリア・・などなどあげだしたらきりがないくらい。

信者でなくとも、人間の心を歌いこんだバッハの宗教音楽はその謹厳さに素直に感動できると思う。

    福音書家:ハワード・クルック    イエス :ペーター・リカ
    ピラト  :ペーター・コーイ       ソプラノ:バーバラ・シュリック
    アルト  :カスリーン・パトリアッツ  テノール:ウィリアム・ケンドール

     フィリップ・ヘレヴェッヘ指揮 シャペル・ロワイヤル
                       コレギウム・ヴォカーレ
                                    
ヘレヴェッヘのバッハは、どちらかというと軽めで、さらさらと流れてゆく。
ほどよい客観性が、ドラマをより深いものにする効果もあるし、聴く側の想像力も試される結果となる。抒情に満ちたヨハネに過ぎるかもしれないが、リヒターの厳しさばかりでなく、こうしたバッハも好きだ。
本録音は87年、ヘレヴェッヘは後に再録音をおこなっていて、そちらは第2稿を使用しているとのことで、だいぶ音楽の趣きが違うらしい。

週末から、ブルックナー、V・ウィリアムズと立て続けに心に響く音楽を聴いて、そして今日、静かな日曜を過ごすことが出来た。

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コメント

そう、この時節。受難曲のシーズンで、FMでも「パルシファル」は定番でした。
ヘレヴェッヘの受難曲、いいですね。確か以前オペラシティで「マタイ」をやってくれて、それをNHKが収録しておりました。
ところで、「マタイ」と比べ「ヨハネ」は音楽が厳しいです。短いけれど、「マタイ」と比べて「泣き」を許してくれない、その代わり深いところを衝き動かされる感動があるような思いがする不思議な音楽というのが僕の印象。どちらも凄い音楽ではありますね。

投稿: IANIS | 2008年3月17日 (月) 23時29分

>ヘレヴェッヘ
勧められてべートーベンのミサソレムニスを聴いたのがはじめでした。この曲はけっこういろいろ聴いていたのですけど、全然いいと思えなかったのですが、ヘレヴェッへのおかげか、たまたまそういう時だったのか、えらく感動してしまいました。

誘われてバッハのロ短調ミサを聴きに行きましたが、この時は没入とはいかず、残念でした。

投稿: edc | 2008年3月18日 (火) 07時29分

こんにちは。
今週は受難周なんですね。僕は「マタイ」も好きですが、この「ヨハネ」も好きなんです。
でも久しく聞いていないです。棚から取り出してきて聞こうと思います。

投稿: よんちゃん | 2008年3月18日 (火) 09時21分

IANISさん、まいど。
パルシファルは年末に一挙放送されるようになってしまいましたが、数年前まで今の時期の風物詩でしたね。
春から年末への放送移動に伴ない、放送されなかった幻のパルシファルがエッシェンバッハの唯一のバイロイト登場です。
私は、猛然とNHKに抗議しましたが、無視されました・・・・。
>深いところを衝き動かされる感動があるような思いがする不思議な音楽<  おお、まさにその印象ですね。
残酷な合唱の民衆はわれわれの心に潜む心理ですね。


投稿: yokochan | 2008年3月18日 (火) 23時12分

euridiceさま、こんばんは。
わたしも、ヘレヴェッヘのミサソレ、好きです。
すっきりときれいな演奏に思いますし、変に堅苦しいところがなくて好きです。
その延長上のロ短調ミサもCDでの演奏は好きなんですが、ライブはやはり、いろいろと難しいですね。
彼の軽いベートーヴェンもNHKで放映されてますが、妙に肩透かしのところがおもしろく、不思議指揮者に思います。

投稿: yokochan | 2008年3月18日 (火) 23時18分

よんちゃんさま、こんばんは。
今週は受難週なんですが、日本の追われる日々ではなかなか実感できません。
せめて休日はと思い、ヨハネを聴きました。
私もマタイも好きですが、同等にヨハネにも魅力を感じます。
未体験ですが、教会でマタイやヨハネを聞いてみたいと思います。

投稿: yokochan | 2008年3月18日 (火) 23時21分

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