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2008年3月20日 (木)

ワーグナー 「パルシファル」 レヴァイン指揮

Parsifal_levine明日は、聖金曜日。
キリストが十字架に架けられ殉教した日。
多くの日本人には「そんなの関係ない」状態だけれども、私のようなクラヲタ君は、音楽によって節目の日を確認したくなる。

聖金曜日という言葉がまともに使われているのは、ワーグナーの「パルシファル」が随一だろう。
歌劇や楽劇でもなく、舞台神聖祭典劇という、いかにも取っ付きにくいジャンルの表示をまとわせ、バイロイト以外での上演を禁じたワーグナーの意図は
尊大に過ぎるかもしれないが、晩年に到達した宗教的理念の純真な発意でもあろう。
「私の生からの告別」~ワーグナーはこの作品をそう呼んだ。

ワーグナーが、「パルシファル」を発想したのは、パルシファルの息子「ローエングリン」を着想中の時期に遡る。中世の聖杯物語やタンホイザーの登場人物ウォルフラム・フォン・エッシェンバッハの「パルシファル」などを参考にしているという。

聖杯は、いうまでもなく十字架上のイエスの脇腹を刺した槍によってほとばしり出た聖なる血を浴びた杯のこと。
ダヴィンチ・コードなどでもすっかりお馴染みになってしまったが、本来のキリスト教の聖遺物である「聖杯」と「槍」が重要なモティーフとなっている。
そうした宗教の上にしっかり根ざした伝統演出は、聖地バイロイトでもすでに多面的な解釈に姿を変えて受容されているが、さすがに神聖祭典劇ともなると賛否両論を巻き起こすことも多い。
昨年は、観てもないのに、私がことあるごとにこき下ろしている映画監督のシュリゲンジーフ演出がようやく4年で終了した。バイロイト関連じゃないかもしれないが、怒った婆さんが卵を投げつけている面白い動画はこれ
ところが2008年の新演出は、ノルウェー出身の若いシュテファン・ヘルハイムが受け持つ。この人も大胆・過激なヒトらしく、ネットで調べたら音楽まで恣意的にいじってしまうらしいじゃないか・・・・。この夏もまた、バイロイトはすごいブーイングに包まれるのかしらん。
でも、ダニエル・ガッティの指揮は楽しみ。

Parsifal_friedrich 遡ること26年。パルシファル初演100年の演出は、当時東ドイツから呼ばれたゲッツ・フリードリヒ。物議をかもした72年のタンホイザー、美しい79年のローエングリンに続く登場。SF的な要素もあり、密閉された聖堂のような四角い空間の中で行なわれる劇は、脱神聖祭典劇をまさに目指したものかもしれず、意外にその舞台はすんなりと聴衆に受け入れられたようだ。
フリードリヒ演出は、私もベルリン・ドイツ・オペラの公演でいくつか観ているが、何と言っても生涯忘れ得ないのは、タイムトンネルを設えた「リング」だ。
この思い出はいずれ取上げてみたい。
 ただ、このパルシファル演出、指揮のレヴァインは痛烈に批判していて、ファンタジーがないとかなんとか後に散々だったらしい。
ゆったりと大河のような流れの音楽を作り出すレヴァインには、お気に召さなかったのだろう。やはり、メトの絵画的なシェンクの演出じゃないとしっくりこなかったのだろうか。

 アンフォルタス:サイモン・エステス  ティトゥレル:マッティ・サルミネン
 グルネマンツ:ハンス・ゾーティン   パルシファル:ペーター・ホフマン
 クンドリー:ヴァルトラウト・マイヤー  クリングゾル:フランツ・マツーラ

   ジェイムス・レヴァイン指揮 バイロイト祝祭管弦楽団/合唱団
                    合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ
                               (85年7月バイロイト)

Parsifal_friedrich_2 まず何と言っても素晴らしいのが、ホフマンのパルシファル。
ピーンと一本張りつめたような揺るぎのない見事な声は、明晰で曇りないうえ、バリトンのような中域はかげりを帯びている・・・といった具合に、その声はいいことづくめで、音源で聴けるパルシファルとしては最高かもしれない。2幕の「アンフォールタ~ス」には痺れる。
(といいながら、コロ・キング・トーマスもいいけれど・・・)
ついで、マイヤーもこの頃はまだ若くて声の威力がすごいし(叫び声NO1かも)、病めるクンドリーに同情を寄せたくなってしまう。
エステスのアクは強いがこちらの悩める姿の表現力も圧倒的。
ゾーティンは、個性は薄いものの、長年グルネマンツを歌いこんだ安定感は抜群で、声の深みも美しい。バイロイト歴が長いベテランだけど、本当はヴォータンなども歌って欲しかった。ばらの騎士のオックス男爵を舞台で観たことがあるけれど、軽妙さもあるなかなかの役者ぶりに関心した覚えがある。
 それに、マツーラのクリングゾルも私は好きだ。このほの暗い声の性格バリトンもヴォータンを歌っていたらしいので、これまた聴いてみたかったな。

Parsifal_friedrich_3 さて、レヴァインの指揮。いやいやだった(?)とは思えないくらい、落ちついた音楽で、テンポは非常に遅い。クナッパーツブッシュを凌ぐかもしれない。
遅いけれど、弛緩せず、血が通っているし、歌手や合唱に無理のない歌いやすい間合いと緊張感にも満ちている。
もっと進化したパルシファルを我々はたくさん聴いてしまっているから、必ずしもこの指揮に満足は出来ないけれど、バイロイトの温もりある響きと相まって、ゆったりと気持ちのいい演奏には思う。
それにしても、このプロダクションの映像はないものだろうか!!

                      Ⅰ      Ⅱ     Ⅲ
  レヴァイン(バイロイト)     119分   75分    85分
  レヴァイン(メトロポリタン)   112分   78分    82分
  クナッパーツブッシュ(56)   112分   68分    79分 
    ブーレーズ(70)           94分   59分     65分  

パルシファルの過去記事

  ポール・エルミングのワーグナー  
  クナッパーツブッシュ(64年)
  クナッパーツブッシュ(60年)
  クナッパーツブッシュ(56年)
  バイロイト放送2006
  ショルティ(71年)
  エッシェンバッハ(04年)
  
バイロイト放送2005
  クナッパーツブッシュ(58年)
  
飯守泰次朗 東京シティフィル上演

 
  

   

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コメント

yokochanさま こんばんは

向こうは良くも悪くも、はっきりと態度で示しますよね。タマゴを投げつける婆さん、怒っていると思います、爆~ 本気で「私のあの音楽をめちゃくちゃにして、許さないわよ」てな具合ではないでしょうか?

私はミュンヘンで、サバーリッシュの「ローエングリン」を観たのですが、隣のドイツ人の婆さん、話しかけてきて、「あのオルトルート、若いけど良いと思わない?」って。主役のエルザは、ポップさんだったのですが、オルトルート役の歌手(名前を忘れてしまって;;)の方が、拍手も多いし、花は飛ぶで、ヤンヤの喝采でした。

聖金曜日、忘れていました、爆~
バイロイトでの「パルジファル」最長記録は、マエストロ・トスカニーニで、確かまだ破られていないと思うのですが~。一体どんなテンポで歌いまくったのか。一度聴いてみたかったです。

レヴァインのオペラは、まだあまり聴いていません。これからです~。

ミ(`w´)彡 

投稿: rudolf2006 | 2008年3月21日 (金) 02時48分

>聖金曜日という言葉がまともに使われている

パルジファルでこれを知ったときは、内心けっこう
驚きました。

>それにしても、このプロダクションの映像はないものだろうか!!
ほんとに!ですけど、どうもなさそうですねぇ・・

パルジファル関連の記事たくさんあります^^;ので、アドレスのところをリンクしました。緑の文字が関連記事です。

先日の記事をTBします。

投稿: edc | 2008年3月21日 (金) 09時30分

こんにちは。
「パルシファル」は僕が買ったオペラのCDの1枚目か2枚目になる曲で、ものすごく思い入れがあります。
ちなみにカラヤン盤です。すみませんレヴァイン盤は聞いたことがありません。
yokochanさんのブログを拙ブログで勝手に紹介させていただきました。

投稿: よんちゃん | 2008年3月21日 (金) 11時54分

rudolfさま、こんばんは。
あの婆さんはきっと今年も怒りまくるでしょうね(笑)
今年の演出家は露出も多く、激しそうですから。
ミュンヘンのご体験、うらやましいです。
本場でのワーグナー、夢のまた夢ですから・・・。

そう、トスカニーニが最長なんですよね。
あんな竹を割ったような人がワーグナーはいずれもじっくり型で、以外です。
レヴァインもイタリアものは俊足ですが、ドイツ系は遅い。
最近イマイチですが、この頃のレヴァインは凄かったと思います。

投稿: yokochan | 2008年3月21日 (金) 23時26分

euridiceさま、こんばんは。
TBありがとうございます。たくさん拝見しました!
そして、今更ながら、ホフマンはeuridiceさんです!
もう感服です。
あぁ、そうだったのか、と納得の記事ばかりですね。

それにしても、フリードリヒのパルシファルは、写真を見るにつけ、映像で見てみたいものです。
せめて、シュタイン/ウォルフガンクのパルシファルがイェルザレムじゃなくて、ホフマンだったらどんなによかったことでしょうか・・・。

投稿: yokochan | 2008年3月21日 (金) 23時31分

よんちゃんさま、こんばんは。
貴ブログでのご紹介、誠にいたみいります。ありがとうございます。
オペラCDの購入初期がパルシファルとはまたすばらしいですね。私はなんだったでしょうか??バーンスタインのトリスタンだったような・・・。

今、テレビでヨハネ受難曲を観ております。
やはりこの季節には、これらの曲が胸に染みますね。

投稿: yokochan | 2008年3月21日 (金) 23時39分

yokochan さん
>たくさん拝見しました!
たくさん見てくださってありがとうございます。

>シュタイン/ウォルフガンクのパルシファルがイェルザレム
この映像で、パルジファルが派手にこけたのに気がついていらっしゃいますか^^?
記事TBしますので、おっと知らなかった!場合はどうぞ・・

>フリードリヒのパルシファルは、写真を見るにつけ、映像で見てみたい
そう、何度でもそう言いたいです^^!

投稿: edc | 2008年3月22日 (土) 09時20分

euridiceさん、こんばんは。
この映像、一部だけでまだ全部見てないんです・・・。
どっひゃ~、やっちまった、って感じですね(笑)
イエルザレムは、真面目なタイプだから、よけいに気の毒な感じです。
今度じっくり見てみましょう!
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2008年3月23日 (日) 01時31分

今晩は。2008年にユニバーサルのバイロイト名演集33枚組を買ったら、パルシファルはこのレヴァイン盤でした。サヴァリッシュのローエングリンやベームのリングが目当てで買ったのでレヴァインのパルシファルは、今日まで聴く機会がありませんでした。ホフマンのパルシファルの素晴らしさは皆様の書いておられるとおりです。彼はカラヤン盤でもパルシファルをやってますよね。レヴァインの遅いテンポには馴染めませんでした。トスカニーニが最も遅いというのには驚きです。私のベスト・パルシファルはブーレーズと並ぶ快速パルシファルとして知られるケーゲル盤なのですよ。トータル・プレイングタイムはブーレーズとほぼ同じですね。ルネ・コロのパルシファルとテオ・アダムのアンフォルタスが聴けるのも魅力です。レヴァインのパルシファルはメトを指揮したDVDが好きです。タイトルロールがイェルザレムじゃなくてホフマンだったらなーという不満は感じてしまいますが。

投稿: 越後のオックス | 2010年8月15日 (日) 22時15分

越後のオックスさん、こんにちは。
長岡近辺も暑いですか?
残暑お見舞い申し上げます。
例の全集を購入されましたね。
私はバラで全部コンプリートしておりましたので、その安さにちょっとひがんでしまいました(笑)
 レヴァインのバイロイト盤の核は、ご指摘のとおり、ホフマンのパルシファルなのですが、レヴァイン・テンポは、このフリードリヒ演出の初回より聴きなじんでましたので、私は全然OKです。
メト盤のCDも悪くないのですが、ドミンゴとノーマンがどうもしっくりきません。
映像は未視聴ですが、具象的なきれいな舞台のようですね。で、イエルザレムはバイロイトのシュタイン映像とダブりますので、本当にホフマンだったらよかったですね!!
ブーレーズの快速も大好きですよ。
ケーゲル盤は、棚に飾ってありますが、まだ未開封なんです。アダムのグルネマンツが貴重ですし、いずれは聴いてここに取り上げることとなるはずです・・・。

投稿: yokochan | 2010年8月17日 (火) 11時06分

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大指揮者カラヤンの生没年は、1908.04.05-1989.07.16 ですから、今年は生誕100年に当たります。ペーター・ホフマンとカラヤンとの関わりは1979年、翌年のザルツブルグ復活祭音楽祭の「パルジファル」の事前スタジオ録音ではじまりました。ちなみに今年の復活祭は、3月23日です。春分の日の翌日21日が聖金曜日ということになります。 ... [続きを読む]

受信: 2008年3月21日 (金) 09時30分

» ワーグナー「パルジファル」バイロイト音楽祭1981年 [雑記帳]
オペラ鑑賞開始時期に見たのですが、まったく受け付けない状態。一通り流しただけでした。同じ演出の、ペーター・ホフマンがパルジファルの放送録音を、1978年度、1976年度と聞くことができたので、十数年ぶりに再生しました。外国版だけみたいですが、DVDが出るようです。... [続きを読む]

受信: 2008年3月22日 (土) 09時19分

» Wagner “Parsifal” Karajan 1979/80 [音楽鑑賞雑記帳]
初めて「パルジファル」の録音を聞いて感銘を受けたのは、ワーグナーの合唱曲を抜粋で収めたショルティ盤でした。(それ以前に、少なくとも第1幕への前奏曲をいくつか聞いているはずなのですが、まったくその感想が思い出せません。)かの有名な第1幕の舞台転換の音楽から始まるシーンであったのですが、粗筋だけは解説書に掲載されているものの、詳しい歌詞はまったく解りませんでした。それでもなお、ゴットロープ・フリックの名歌唱とともに、ワーグナー・マジックの罠にまんまと嵌ってしまいました (´▽`)... [続きを読む]

受信: 2009年1月 9日 (金) 22時05分

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