« R・シュトラウス ホルン協奏曲第1番 ザイフェルト&メータ | トップページ | ノラ・ジョーンズ Not too late と、トリスタンの夢 »

2008年3月 2日 (日)

エセル・スマイス 「難破船略奪者」 マルティネス指揮

9_3  雪の山形。
降りしきる雪を浴びながら酒場へとさまよい歩くワタシ。

酒とおいしいものを求めるには、どんな苦難もいとわない。
こんな自分が、たいしたもんだ、と思うことがある。
 そんな意欲を仕事に活かせcoldsweats01
内なる声がいつも鳴り響く今日この頃~

6 飲んで、ふらふらとさまよって、どこがどこだか、わからなくなってしまった。
雪のなか、遭難するんじゃないかと思った。
ラーメン屋があったので、いけないと思いつつ避難した。
そこを出たら、また、さまよってしまった。
いつになったらホテルに帰れるんだろcoldsweats02

Smyth_wreckers 今日は、そんな遭難にまつわるオペラを。
イギリスの女流作曲家「デイム・エセル・スマイス」(1858~1944)の「難破船略奪者」(Wreckers)。
すごいタイトルだけれど、「レッカーズ」を邦訳すると、そんな名前や、または逆の難破船救助者という意味も出てくる。
このオペラは、悪い方々の意味。

そして、何気に「スマイス」は、今年生誕100年のメモリアル作曲家である。
ロンドン生まれながら、ライプチヒやウィーンで学んだガチガチの硬派で、ブラームスやワーグナーの影響が聴いてとれるという。
わたしは、このオペラでスマイスを初めて本格的に聴いたが、たしかに古典的な枠を守りながらも、重厚・長大なワーグナー風の勇ましい響きに驚くが、一方、英国音楽に特有の抒情的な歌にも溢れていて、その社会派風の内容とともに、大いに楽しめた。

彼女は、女ブリテンだったらしいが(要は同性愛)、そんなことはさておき、厳格な家庭に生まれ、その反発から生まれた自立心からか単身ドイツで勉学に励み、ロンドンに帰還後、当オペラ(1906年)などを次々に発表して英国楽壇で名を揚げてゆく。
 しかし、さらに別な側面での活躍が彼女の名をさらに高め、そして音楽界から煙たがれれてしまうことになる。当時、ヴィクトリア朝の英国は男性至上主義真っ只中だったが、女性の社会的地位向上の女権運動に身を投じてゆき、やがて自身が投獄までされてしまう。
その主義に殉ずる音楽も書いたし、著作も残した。
 女性が職業としての作曲家で自立しようということ自体が当時は異端であった。
作家のヴァージニア・ウルフとも深い交流があった彼女、まさにフェミニストとして、女性だけのオケを作り指導したりした。そんな彼女の才能だけを見つめ大いに評価し、バックアップしたのが、サー・トーマス・ビーチャムなのだ!
後に、聴覚に障害が出て、執筆活動に専念することとなるが、オペラは6曲も作り、協奏曲・室内楽曲などをたくさん残している。

「年の離れた男性と愛のない結婚をした主人公の女性が、若者と恋に落ち、船を難破させて略奪行為をなし、生計を立てていた村人を裏切り、船を救う。
その行いを攻められ、死を宣告され、やがて満ちてゆく波に飲まれて死を待ちながら、正義と愛を昇華させてゆく」
正義を自ら実行する力強い女性を描いたスマイスならではの社会派オペラ。

超簡単なあらすじ。

第1幕
 舞台は、コーンウォール地方の崖の上に立つ寒村。(そうワーグナー好きなら、トリスタンの殺伐とした故郷ですな。トリスタンは何もないところ、と歌っていましたな。)
村人が集まり、神への賛美とともに助けを求めている。村の長老パスコーは、村人が神への祈りを忘れていると嘆くが、彼は村が略奪行為で生計を立てていることに貧しいことをわかっているがために微妙な立場でいる。
彼の若い妻、サーザはこの夫に愛情を持てないし、村人に教会へ行けと言っている。
灯台守ローレンスの娘エイヴィスは、若い漁師マークに恋していて、かつて愛を約束したはずと、彼に迫る。マークはサーザが好きなので、エイヴィスはサーザを憎むようになる。
そんな中で、獲物の船舶がやってくる。村人は大いに盛上り、踊り狂う。

第2幕
 夜半、マークがサーザへの満たせぬ思いを歌う。
そこへ思いがけず、サーザがやって来て、まるで「トリスタンとイゾルデ」のような濃密な二重唱が歌われ、二人は船を救う信号を出すことにして決行すことで立ち去る。
そこへ現れた、夫パスコーは二人の姿を見て固まってしまい立ち尽くす。

第3幕
 誰かが難破から船を救った。村の掟を破ったのはパスコーだ!極刑だ!として村民裁判が行なわれる。妻を見たパスコーは無言。皆は彼を謀反者として責める。
エイヴィスは、違う、サーザがやったのだ、と疑惑を激しくぶちまける。
そこへ、マークが現れ「私だよ。どうぞ裁いて欲しい。そして極楽浄土へ行きたいのだ」と告白。さらに、サーザも現れ、自分達がやったことと自白。
パスコーは、必死に彼女をとどめるが、サーザは喜んで死を受け入れ、二人違う世界へ行きたい、と信念を歌う。
エイヴィスも嫉妬に狂い、マークは自分と会っていたから無実だ!など叫びまくるが、マークがあっさり否定。
全員が立ち去るなか、二人は歌う。「日の光よ、我らの死を照らせ!海よ、我らを胸まで埋めよ!おお、海よ法悦とともに我らを抱け・・・・」

おそらく、こんな内容であります。
筋としては「アイーダ」や「村のロメオとジュリエット」(ディーリアス)、「ピーター・グライムズ」を足して割ったようなもの。
パスコーとエイヴィスが、旧来の世俗的な存在。マークとサーザが、社会的な自覚をもった存在。

   サーザ:アン・マリー・オーウェンス    マーク :ジャスティン・ラヴェンダー
   パスコー:ピーター・シドホム        エイヴィス:ジュディス・ハワース
   ローレンス:デイヴィト・ウィルソン・ジョンソン   ほか

   オダリィン・デ・ラ・マルティネス指揮 BBCフィルハーモニック
                         ハッダースフィールド合唱協会
                               (1994.7 ロンドン)

ロイヤル・アルバートホールにおける記念碑的な上演。
キューバ生まれ、主として南半球で活躍する女流指揮者マルティネスの、作曲者が乗り移ったかのような指揮があってこそこの演奏が成り立ったかのように思える。
彼女は、初めてプロムスに登場した女流とも書いてある(84年)。
歌手もみな聴き応えある。

Smyth 昨年暮れあたりから、このCDを何度聴いたろうか。ようやく記事に出来るまで聴きこんだ。
全貌の掴みにくい作品ではあるが、正義をまっとうしようとする時に出てくる旋律、序曲の半ばで出てくる、大らかかつ英国的なジェントリーな旋律がともかく素適だ。
最後の死にゆく場面もなかなかに高揚的。

ほかのオペラや、協奏作品も是非に聴いてみたいぞ、スマイス女史。

スーツにネクタイが似合います。

|
|

« R・シュトラウス ホルン協奏曲第1番 ザイフェルト&メータ | トップページ | ノラ・ジョーンズ Not too late と、トリスタンの夢 »

コメント

お久し振りであります(シコシコとホームページのアップにいそしんでおります)。山形で遭難しなくてよかったですね。
しかしまぁ、yokochanさんのオペラを含めたイギリス音楽への情熱には感心します。フランス音楽に対する執心度は僕もある程度の自信はありますが、なかなか音源がなくって・・・。そこへいくとイギリスの人は自国音楽を大切にしますよね。
エセル・スマイスという人は初めて知りました。ストーリー、面白そう。これがまたオペラという難しいジャンルで書かれた(劇場の組織、機構を知るにつれ一筋縄では・・・)というところが凄い。フランスだったらこういう音楽は書かれなかったんじゃないでしょうか。

投稿: IANIS | 2008年3月 2日 (日) 23時43分

IANISさん、こんばんは。
雪国の方からすると笑われてしまいそうですが、雪をみるとそれを踏みしめて、どこまでも歩いていきたくなってしまう習性があります。帰れてよかった。

英国音楽は、シャンドスやハイペリオン、ナクソスの各レーベルの恩恵がはかりしれません。
フランスは、レーベルが数あれど、皆小粒だし、首尾一貫しませんね。
スマイス女史は、なかなか豪気な音楽を書いた人であります。
強い人だったのでしょうねぇ。
フランスには、ブーランジェ女史がいますよね!

投稿: yokochan | 2008年3月 3日 (月) 00時37分

こんにちは。
エセル・スマイス女史は、このオペラの自作自演の序曲しかCD持ってないのですが(激しいです)、全曲盤ってあるんですね~。今度探してみます~。

投稿: naoping | 2008年3月 4日 (火) 20時06分

naopingさん、こんばんは。
このCDは実は中古で見つけたお宝です。
今は廃盤のようです。
劇の内容もおもしろく、国内盤で出したら絶対売れると思うんですけど。2幕はまるでトリスタンですよ!

投稿: yokochan | 2008年3月 4日 (火) 23時00分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/151893/40331722

この記事へのトラックバック一覧です: エセル・スマイス 「難破船略奪者」 マルティネス指揮:

« R・シュトラウス ホルン協奏曲第1番 ザイフェルト&メータ | トップページ | ノラ・ジョーンズ Not too late と、トリスタンの夢 »