ティペット 「我らが時代の子」 プレヴィン指揮
東北、花巻あたりの空。
澄んだ空気が、だんだんと夜気にまじわってゆく。
こうした空の移ろい行くさまを眺めるのがとても好き。
ぼ~っとすることが、近頃の世の中では許されない。
いつも何かをしていなくてはならないし、情報に追われ追いかけられて過ごしている毎日。
空を眺めて、大好きな音楽を一日中聴いて過ごすのが夢だな・・・。
英国の作曲家の一人、 サー・マイケル・ティペット(1905~1998)は、ブリテンより数年早くロンドンに生まれ、そのブリテンより20年以上も長命だった同世代作曲家。
やはり、ブリテンと同じくあらゆるジャンルにわたって作品を残し、オペラや声楽作品を中心に、ブリテンが書かなかった交響曲も4つ作曲した。
さらに、音楽には関係ないところでの共通点は、ブリテンと同じ恋愛思想を持つところと、潔癖なまでの平和主義者であるところ。
良心的兵役拒否者であるところも同じ。
でも、その音楽は、ブリテンが持つある意味親しみやすさとは遠く、むしろ難解でとっつき憎く思われる。
今後ティペットの音楽を、じっくりと聴いていきたいと思っている。
そんな中で、ティペットの最高傑作といえるのが、オラトリオ「我らが時代の子」
1942年、まさに戦争の真っ只中に完成。1944年にロンドンで、ワルター・ゲール(コンサートホール・レーベルで有名)の指揮により初演。
暗雲立ち込めるヨーロッパ、ユダヤ人迫害がドイツで目に見えてひどくなり、1938年、ポーランド系ユダヤ人の国外追放令が出され、それに怒りを覚えたパリ在住のポーランド系ユダヤ人の17歳のヘルシェル・グリンシュパンが、ドイツ大使館に潜入し、職員を射殺してしまう。
これに端を発し、ドイツでユダヤ人排斥が始まることとなった・・・・・。
この出来事を杞憂し、怒りを覚えたティペットは、詩人のT.S.エリオットに原作を書いてくれるように頼んだが、逆にアドヴァイスをもらいながら、自作のテキストを書くこととなった。
シンプルで、短い詩が簡潔に並べられているが、ティペットが考えた構成とその音楽は、あまりにも深いものがあって、その真摯なメッセージに聴き手の心は揺さぶられることとなる。
冒頭で合唱は、「世界は暗闇に突入した。冬の時代に」と歌う。
3部からなるオラトリオの構成は、ヘンデルの「メサイア」をモデルに、第1部では、マイノリティや異端者たちの不幸を歌い、第2部では、我らが時代の子、17歳の少年の思いが歌われる。そして、第3部では、終わることとない嘆きや悲しみを包む希望が感動的に歌われる。
さらに、ティペットは、バッハの受難曲のように曲をすすめる。
バリトン・ソロが、エヴァンゲリストとなり、テノールが少年、ソプラノがその母、バリトンとアルトが伯父と叔母、合唱が聴衆や参加者となる。
これらを紡ぐコラールの役割を、黒人霊歌が担っている。
この緻密な構成に感嘆するとともに、曲の節目や、各部の最後に黒人霊歌が歌われるとき、感動のあまり涙ぐんでしまうこととなる。
第2部で、母が少年を思い嘆くソロに泣かされ、そのあと静かに始まる霊歌「steal away・・・」の場面には心底感動した。
最後の場面では、有名な「deep liver」(深い河)が楚々と歌われ消えるように終わる。
そこに残るのは、救いと希望の光・・・・・。
S:シーラ・アームストロング A:フェリシティ・パーマー
T:フィリップ・ラングリッジ Br:ジョン・シャーリー=クワーク
アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ブライトン音楽祭合唱団
(1986年録音)
プレヴィンのロイヤル・フィル時代の録音は、プレヴィンの優しい眼差しに満ちた心に響く名演。合唱の扱いがうまいのも特質もので、柔らかさと慈愛の光を感じてしまう。
英国の名歌手たちも、素晴らしすぎ。ことに、ラングリッジとアームストロングのやりとりには泣けます。
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