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2008年4月 1日 (火)

ブリテン 「ピーター・グライムズ」 METライブビューイング

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英国音楽=UK・JAPAN2008
METライブビューイング
前から観にいきたいと思っていたが、なかなか機会を捻出できなかった。
だが、演目がブリテンの「ピーター・グライムズ」 となれば、なんとしても時間を作らなくてはならない。
ということで、今日朝からの上演に参加。
六本木ヒルズのTOHOシネマズにて。
10:30~14:00ということだが、実際の上演のタイムスケジュール通りに幕間の休憩があるから、その間に仕事のお電話もOK。

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さらに、毎回名歌手たちが作品や出演者のレポートを行なう。
今日はなんと、「ナタリー・デセイ」だったのだ。
チャーミングな彼女が、出演者・指揮者・演出家・舞台裏方などにインタビューをする。
こちらは、指揮のラニクルズ
知性とユーモアに溢れた彼女が、これでまた好きになった。
まさかこんなところでナタリーに逢えるなんて。

客の入りは、散々だったけれど、映画館のゆったりしたシートで、周りを気にせず思い切り楽しむことができた。

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 CDでは何度も聴いている名作だが、舞台というか映像では初めて。
予想通り、暗く救いのない舞台に仕上がっている。
演出のジョン・ドイルは、このオペラの舞台になった作者クラップの故郷オールドバラに似た漁師町ヘイスティングス生まれで、そこの暗く冷たい海や街を再現させているようだ。

舞台の真中に、床から天井までを埋め尽くす燻されたような木製の家々の壁。
そこに扉がいくつもあり、登場人物達が出入りしたり、姿をあらわしたりする。
最初から最後まで、ほぼ変わらないその光景。
息詰まるような閉塞感を与える。周囲から隔絶された村社会とその監視・密告という無言の掟。アウトローとしての「ピーター・グライムズ」を舞台すべてが追い込んで行くかのようで、映像を見ていてもその緊張感は、息が詰まるような思いだった。
ガラガラの映画館で、こんな暗くも切実な映像を見せられては堪らないだろう。

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 ブリテンお約束の少年も、見ていて胸が詰まるくらいに可哀想。おどおどとしていて、狂気に捕らわれたピーターに追い詰められてゆく。
ピーターが、このドラマの被害者でもあり、加害者でもあるのだが、完全に気の毒な被害者はこの少年だ。
彼の迫真にせまった演技は、涙が出そうになった。

以前ハイティンクのCDを取上げたおり感じたことを再褐。

いやはや、なんという暗澹たる内容であろうか!
弟子を少年に固執するピーターも、何だかブリテンしてるが、まるで「ヴォツェック」のように自らを疎外者として振舞ってしまい、そしてその通り社会からはじき出され、行くところまで行き着いてしまう。
 おまけに、こんなピーターを追い詰めてしまう、社会たる村人たち。事件後は、日常に回帰するだけの第三者だが、なんと恐ろしい加害者たちなのだろうか!

あらためて、ピーターとヴォツェックとの同質性と人のつくる社会の矛盾・恐怖を感じた。
3幕で、人々が無表情に動きを止めて、観客に向かってピーターの名前を激しく叫ぶ場面の緊迫感にはゾォ~としたもんだ。
その後の間奏と、狂乱のピーターが歌う場面は、まさにヴォツェックそのもの・・・・。
映画館で味わう、ブリテンの素晴らしい音楽。

 ピーター・グライムズ:アンソニー・ディーン・グリファー
 エレン:パトリシア・ラチェット 
 バルストロード:アンソニー・マイケルズ・ムーア

 
   ドナルド・ラニクルズ指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団/合唱団

                   演出:ジョン・ドイル

                         (2008.3.15 @MET)

グリファーは初めて見聞きする歌手だが、見た目は体格のいいブリン・ターフェルのよう。
でも繊細でクリアーな声は、神経質な役柄をも歌い出していて、その役柄に没頭した演技も見事なもの。
エレンの同情的な役柄を誠実に歌い演じたラチェットも素晴らしかった。
ほかの歌手たちも、まるで映画俳優のような役者ぶり。
そして、私が常々評価している左利き指揮者のラニクルズの豪放かつ共感豊かな指揮にも惹かれっぱなしだった。
世界中の映画館で見られることを前提にした一連のプロダクションであり、いずれはDVDとしても商業化されるであろう、あらたなオペラハウスの試み。
東京以外の各地のシネコンでも観劇することができ、クラシックの一極集中が避けられることで評価されると思う。
願わくは、客の入りは悪くとも、一過性の試みに終わって欲しくないことだ。

ナタリーが、語っていた。世界中のみなさんに見て欲しい。そして、生の歌とオケの迫力はまた格別なので、お近くのオペラハウスに是非行って欲しいと・・・・。
たしかに、生のオペラと映像とでは感銘の度合いが違うけれど、今の日本では映画によるオペラ布教も重要なことだな。今日も、若いカップルも見受けられてうれしかった。

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さあ、来週は「トリスタンとイゾルデ」だ!
仕事サボろうか?終演が24時覚悟で夜、観るか?

ヒルズから見たミッドタウン方面。

自己リンク

「ピーター・グライムズ」ハイテンク指揮

「4つの海の間奏曲」 ラニクルズ指揮

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コメント

yokochanさん、
今回、「ピーター・グライムズ」を初めて見聴きして、ドラマの進行に与える音楽の力に圧倒されました。
指揮者のラニクルズも初めての体験でしたが、とても気に入りました。ワグナーファンの間では評判の存在だったのですね。
間違ってTBを数回繰り返してしまいました。余分なTBはお手数ですが削除して頂けますか?

投稿: YASU47 | 2008年4月 2日 (水) 21時32分

こんばんは。
「ひょえ~見逃したぁ!!」と落ち込みかけたんですが、5月にアンコール上映があったので、チケットゲットしときました。半休とっていきます(`・ω・´) シャキーン
今からとっても楽しみです。

投稿: しま | 2008年4月 2日 (水) 23時05分

二種類の映像をテレビで見たことがあります。
それぞれジョン・ヴィッカーズ、フィリップ・ラングリッジが主役でした。とにかく暗〜〜いオペラですね。

このオペラ、小学校のとき見せられた白黒映画を思い出させられます。題名は忘れてしまったのですけど、瀬戸内海の貧しい島が舞台。激しい潮流の中で小舟で漁をする漁師たちは男の子を「舵子」として使っているんですけど、これがまあ、奴隷労働。たしか終戦直後の時代設定で、戦災孤児とかを酷使、虐待してるんです。ほんとに酷い話でした。一人の子が盗みの疑いをかけられて村人たちに崖っぷちまで追いつめられるシーン。飛び込んじゃったのがとどまったのか覚えてませんけど、以後、時々夢に見てしまいます・・食べさせてもらえず檻に閉じ込められて、飢えに耐えかねて石を飲み込んで窒息して死んじゃった少年もいました・・ブリテンのオペラは貧困がテーマではないんでしょうけど・・

検索してみたところ、「怒りの島」(1958年)水木洋子原作、久松静児監督作品でした。

投稿: edc | 2008年4月 3日 (木) 10時44分

↑済みません。訂正です。
「怒りの孤島」でした。

投稿: edc | 2008年4月 3日 (木) 10時54分

YASUさん、TB・コメントありがとうございます。
ピーターグライムズ、音楽はよく聴いてましたが、舞台(映像)は初めてでしたので、かなりのインパクトでした。
ブリテンの天才的な作風にあらためて驚きです。
ラニクルズは、オペラに関してはなかなかのツワモノでして、ドイツ各地で叩き上げた本格派です。
新国あたりでも呼んでもらいたい一人ですね。
METの次の大作が楽しみです!

投稿: yokochan | 2008年4月 3日 (木) 23時37分

しまさん、こんばんは。
そうそう、目黒でリバイバル上演がありますよね。
私も、いくつか見逃したものを、仕事サボっていく予定です(へへ)
なかなかに重い内容でしたが、充実感はひとしおでしたよ!

投稿: yokochan | 2008年4月 3日 (木) 23時40分

euridiceさん、こんばんは。
ラングリッジにヴィッカース、映像があるのですか!
観てみたいものです。

ご紹介いただいた日本映画、なんか救いようもなく暗く悲しいですね。
夢に見てしまう気持ち、すごくわかります・・・
どうもかつての漁師の世界は、つらくて惨めなイメージがつきまといますね。
北国のうらぶれた漁師町などに冬場行くとどうしようもなく切ない気持ちになります。
>怒りの孤島< 差別や貧困を描いた社会派映画のようですね。
まさに「ピーターグライムズ」の世界かもしれません。
ピーターは大漁を狙い、金を儲け憧れの女性と一緒になることを夢見てますから。

投稿: yokochan | 2008年4月 3日 (木) 23時53分

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受信: 2008年4月 2日 (水) 21時15分

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