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2008年4月 8日 (火)

ワーグナー 「トリスタンとイゾルデ」 METライブビューイング

Bbtristanisolde_2 METライブビューイング、「トリスタンとイゾルデ」を観劇。@六本木ヒルズ。
18時30分から、2回の休憩をはさんで、終了は23時45分。
劇場だと、場内をぶらぶらしたり、軽く飲んだりするスペースもあって気が紛れるけれど、映画館だと長い休憩が手持ち無沙汰だ。館内では、メトのハウス内を固定カメラで録ったものが流されていて、我々がそうするように、オケピットを覗き込む人などが映されているものの、それをじっと眺めているのも退屈だし・・・・・・。
しょうがないから、白ワインを買ってきて持ち込み、それをミネラルウォーターで割ってチビチビ飲んで過すこととした。

Tristan_2250 毎回、一流歌手によるナビゲーション付がうれしいこのシリーズだが、今回は「スーザン・グラハム」。
理知的で聡明な彼女、ユーモアもたっぷりで、受ける歌手や劇場スタッフらの受け答えも洒落ていて楽しい。
この方は、メットのアシスタント・マネージャーの「サラ・ブリングハースト」で、世界中から歌手を集めたリ、発堀したりしているという。
興味深い内容だったから、長くなるけれど、今回は、本来ベン・ヘップナーが歌う予定であったが、病気で降板し、ベルリンにいた「ロバート・ディーン・スミス」を急遽、呼び寄せたという。
トリスタンをメットクラスで歌えるテノールは、世界に10人くらいしかいないし、どの歌手がどこで何をしているか、すべて把握していなくてはならいのだと。
 今では、リングがカザフスタンや中国、日本でも上演されるようになり、その回数が飛躍的に増えたが、歌手の状況はかわらない。
今はバリトンでも、数年したら立派なヘルデンになるかもしれないし、数年後も見据えて押えていかなくてはならないこと。端役から数年後には、ジークリンデが出てくるかもしれないし、若手の起用も行っていくとのこと。
 ドイツで、歌手の情報提供をしている協力者は、ワーグナーのひ孫エヴァ・ワーグナーだそうな。
こうした大劇場の裏舞台が覗けるのも、ライブビューイングの楽しさ。

  トリスタン:ロバート・ディーン・スミス  イゾルデ:デボラ・ヴォイト
  マルケ王:マッティ・サルミネン     ブランゲーネ:ミシェル・デ・ヤング
  クルヴェナール:アイケ・ウィレム・シュルテ

    ジェイムズ・レヴァイン指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団
                     演出:ディーター・ドルン
                     (2008.3.22 メトロポリタン歌劇場)

Smithrobert_dean_lohengrin_02_2  今回のプロダクションは、数年前の「ディーター・ドルン」の演出によるもので、すでにDVDで出ているものと同じ(はず)。ヘップナーとイーグレンの巨大な恋人同士にレヴァインの指揮で、見た事はないけれど、重量攻勢に目をつぶって聴きたい映像・・・・。

そいいう意味では、今回、D・スミスに代ったことは大変にありがいことで、中肉中背のD・スミスとダイエットに成功したヴォイトの二人は、さほどのガッカリコンビにはなっていないところがよかった。
D・スミスは、時代考証ゆえか、後頭部にお団子のちょんまげを付けていて、見た目がまるで、千代の富士であったことを申し添えておこう。
3幕で、クルヴェナールの胸に倒れていた時、クルヴェナールの胸のバックルかなにかに、そのちょんまげが絡んでしまい、深刻にモノローグを歌いながらも、片手で必死にはずそうとしていた。それに気付いたシュルテのクルヴェナールが、こりゃイカン的な顔を一瞬して、手伝っていたのが実は笑えますた。
 大植英次のバイロイトデビュー時に、トリスタンデビューしたスミスは、なかなか立派なトリスタンになった。決して重い声でなく、力強いヘルデンというイメージでもないが、悲劇的な色合いをもったジークムント系の歌声にシビれる人は多いのではなかろうか。しぼり出すような声が賛否を呼ぶが、私は本人が無理をせずセーブしながら知的な歌い口なので良しとしている。
ジークフリートにはならない系のトリスタン。スミスのレパートリーは、ローエングリン、ジークムント、ヴァルター、最近タンホイザー、アルヴァーロ、レンスキー、シェニエ、グレーミン、皇帝(シュトラウス)など。

Tristan_2213a グラハムと「スージー」と「デビー」と呼び合う、アメリカーンなデヴォラ・ヴォイト
明るく楽しいキャラクターは、幕間でも予裕たっぷり。
そべての音域に余裕が感じられ、声量も豊かなドラマテックソプラノは、その歌唱も大らかでありながら、細部も完璧に歌いこんでいる。テクニックも万全でありがら、人間味豊かな声は、そのほのぼのとした雰囲気と相まって、怒れる人イゾルデというよりは、愛する人イゾルデの味わい。でも病的なまでの一途の盲目の愛ではなくて、女将さん的な、どんとこい的な雰囲気もあったことは事実。
素晴らしい声だけれど、もうすこし陰りや隈取りが欲しいところ。
W・マイヤーや、ステメらの欧州組との違いを、ポラスキなどと同じく感じてしまったがいかに。

昨秋のバレンボイムの公演でも聴いた、ミシェル・デ・ヤング(相変わらず大きい)の情感あふれるブランゲーネ、いい人まっさかりの、シュルテのクルヴェナール。
シュルテは、素晴らしい式武官として活躍したし、ベックメッサーとしても日本で聴くことができた名バリトン。
サルミネンの味わいあるマルケ王は、さすがに歳を感じさせた。もう30年近く歌っているベテランだ。

それ以上、35年に渡ってメットを本拠にするレヴァインも、さすがに風貌は年齢を感じさせる。そして、その巨体は苦しそうではあるけれど、出てくる音楽は重厚さとは異なる意味でのドラマテックでかつオペラテックなもの。弾むような豊かなリズム感もイキイキとした奥行きをドラマに与える。相変わらずのオペラ指揮者レヴァインだが、そろそろ職人芸を脱し、カリスマ感も欲しいかも。

映像を見たのに、演奏のことばかり。
演出については、語れるほど感じることができなかったから。
衣装や小道具は、ケルト風がリアルで、きめ細かく手が込んでいる。
1幕で、イゾルデが、「タントリスの物語」を歌う場面では、旅行箱の中から、船と人形を取り出すし、刃の欠けた剣も出したもんだ。
3幕のカレオールの廃墟では、まるでチェスやゲームのような戦士たちの模型が下からせりあがってきた。
こんな具象的なリアルさがある一方で、舞台装置は、極めて簡潔で、1幕の巨大な帆と、2幕の見張りの塔と箱のように小さく陳腐な厨風の部屋ぐらいしか目立つものはなかった。
 そんな中で一番効果的な存在は、全体にわたって背景をつとめた白いスクリーン状の幕。この幕が、人物の心象や出来事に応じて、いろいろなカラーに染まって舞台を支配していて、これが極めて印象的だった。
だから余計に、先の小道具の具象性が陳腐に感じられることに。
 さらに、この演出を大味にしていたのが、映像技術の饒舌さ。
マルチスクリーンを多用し、フェイドイン・アウトを繰返し、画面をいくつも分割し、舞台上の人物をそれぞれ映しだすなどの小手先の効果を狙いすぎた二次的な演出がなされた。
映像でクローズアップ画面を見ることじたいがそうではあるが、本来の実演舞台とは遠く離れた仕業に思った。
その映像担当監督は、動きが少なく、抽象的な内容が多いから・・・、などと語っていたが、ワーグナーにはそれを補ってあまりある音楽の雄弁さがあるのだから、そんな小手先の所業はそぐわないと思っている。

Hills47 こんな不満も抱きつつも、小さな炎を前に歌われた「愛の死」のヴォイトの歌唱に、涙を止めることができなかった。
アメリカ人歌手抜きでは、もはや考えられないワーグナー歌唱。
サルミネンとシュルテ以外は、すべて米国産。
ここに日中韓がまた入り込もうとしている。
エヴァ・ワーグナーの見立ては、間違いなくグローバルな視点に立っているようだ。

 「トリスタントイゾルデ」過去記事

 大植バイロイト2005
 アバドとベルリン・フィル
 
バーンスタインとバイエルン放送響
 P・シュナイダー、バイロイト2006
 カラヤン、バイロイト1952
 
カラヤンとベルリン・フィル
 ラニクルズとBBC響
 バレンボイムとベルリン国立歌劇場公演

 

 

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コメント

こんにちは。
この前から「トリスタン」を聞き始めています。
自己リンクの記事もも含めて、勉強になります。
僕自身語れるものを何も持っていないので、とりあえず報告のみで。

投稿: よんちゃん | 2008年4月 9日 (水) 08時53分

よんちゃんさま、こんばんは。
ワーグナーの中でも、とりわけ「トリスタン」には夢中にさせられます。今年は、パリオペラ座と飯守氏の二つのトリスタンが上演されます。
かつては考えられない集中ぶりに、嬉しい悲鳴であります。

トリスタンの魔力にじっくりとはまってくださいね(笑)

投稿: yokochan | 2008年4月10日 (木) 01時08分

メトのライブビューイング、昨年はテレビでたくさん見ました。今シーズンのは、NHKさん、放送してくれないのでしょうか。待ってるんですけど・・

このトリスタンは、DVDになってるのを観ました。今回のライブビューイングのほうが映像として絶対に良さそうですね。それにしても、あの丁髷はいただけませんね。ディーン・スミスくん、どこかでも千代の富士に似てると書かれてました。

DVD版メトトリスタンの記事をTBしますので、よろしくお願いします。

投稿: edc | 2008年4月10日 (木) 14時04分

euridiceさん、こんばんは。
NHKさんの、クラシックの対する姿勢がよくわかりませんね。教育テレビで抜粋を放送してお茶を濁すばかりだし、過去の貴重な音源もお蔵入りのまま。

DVD版の巨漢コンビはすさまじいですねぇ。
それに比べると、映画版はかなりマシでした。
やはり、皆さん千代の富士を思ったのですね。
そのクリソツぶりは、真面目そうな風貌と相まって微笑ましいほどでした。
TB楽しく拝見しました!ありがとうございます。

投稿: yokochan | 2008年4月11日 (金) 23時34分

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目下ニューヨークはメトロポリタン歌劇場で上演中の、DVDと同じプロダクション、連続して不運にみまわれているということです。 [続きを読む]

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