NHK交響楽団演奏会 尾高忠明指揮
尾高忠明指揮のNHK交響楽団定期演奏会を聴く。
喧騒の渋谷を一生懸命歩いて坂を行くと汗が出る季節になった。
よいお天気で代々木公園の緑も濃くなり、お目当てのエルガーを聴くにふさわしく、初夏の陽気に気分が高まる。
若者のストリートミュージックに負けずに、早くも脳裡には、こんな緑や涼やかな水の流れのような第2楽章の中間部の爽快な旋律が鳴っていた。
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番
ピアノ:ブルーノ・レオナルド・ゲルバー
エルガー 交響曲第1番
尾高忠明 指揮 NHK交響楽団
(5月17日NHKホール)
ベートーヴェンの3番の協奏曲をライブで聴くのは初めて。しかもえらく久しぶりに聴く。
だからということでもないが、ベートーヴェンの新鮮でみずみずしい音楽に、あらためて感動。万年青年のようなゲルバー。もう大変なベテランだが、まだまだ若々しい。
ロマンあふれる2楽章が、ともかく素晴らしかった。ふくよかで美しいゲルバーのピアノの音色、優しく包みこむかのような尾高さんの指揮。1番や2番の緩徐楽章とともに大好きな場面だな。
両端楽章も、もちろんよかった。ともかく、よく響き混じり気ないピアノ。
時折、唸り声も発するが、激したところの全然ない大人のベートーヴェンは、とても気にいった。
4番も聴いてみたいぞ。
それでもってお待ちかねのエルガーの交響曲第1番。
この曲、以前の記事「クラヲタ生活40周年」の特集、マイフェヴァリット曲の交響曲部門の第1位を飾ったくらいに大好きなのだ。
これまで何度も尾高さんが取り上げてきたけれど、常に聴けなかった。
ついに念願かなって、尾高エルガーの真骨頂を間近に聴くことができた。
何が好きかって、全曲を支配するモットー(循環主題)がまず素晴らしい。
冒頭に、ティンパニの静かなトレモロに導かれて、中音域から始まる主題。
これが徐々に各楽器に広がり、やがてオーケストラによる全奏となる。
この間の盛上りで、もう私の涙腺は破られてしまう。
それから始まる主部の壮大さ、2楽章の滝の流れのような爽やかさ、3楽章の気品に満ちた情熱の歌とホルンが明滅する、そのエンディングの深淵さ。いくつもお楽しみはある。
そしてダイナミックな運びの中に、全曲を懐かしく振り返りつつ、最後に冒頭の主題が全オーケストラで現れる!
ここに至って、私は毎度、涙ちょちょぎれ状態となってしまい、崇高なエンディングを感銘のうちに迎えることとなるわけだ。
尾高さん、渾身の指揮。
譜面台は置きながらも、暗譜で指揮。それも、隅々まで熟知し、この曲が好きでならないとた様子が、その指揮ぶりからも充分伺える。
尾高さんの指揮は、何度も観て聴いてきたけれど、こんなに熱く、気持ちのこもった指揮姿は見たことがないかも。
小柄な姿が、何倍にも大きく見えた。
私も、最初から最後まで、背筋を伸ばして音楽に飲み込まれ、酔いしれたし、涙も流した。
N響の金管の実力は、やはり他のオケと較べると段違いに素晴らしい。
3楽章の終わりのホルンはものの見事に決まっていたし、終楽章のグロリアスな響きも素晴らしい。尾高さんは、最初金管を押さえ気味におもったが、終楽章では全開。
席の関係(1階R)から低弦が響きすぎたかもしれないが、全体のバランスは耳のよい尾高さんならではで、まとまりのよいノーブルなエルガー。
ウェールズ響のCDと異なる点は、尾高さんがテンポを少し揺らしたり、楽器の出入りのメリハリも豊かになったり、そして何といっても自信と情熱を持った指揮棒から生まれる音楽の幅の豊かさ。そしてそこから生まれる音楽することの歓び!
これまで聴いたエルガーの1番で、最高の演奏のひとつだと断言できる。
涙ながらに、最初に、ブラボーの一声を、さりげなくかけたのはわたしだよ。
N響機関紙に、来シーズンプログラムの記載あり。
まずは、今シーズンの12月、J・コウトの指揮で「トリスタン」の前奏曲愛の死に2幕をエーベルツ、ワトソンのバイロイト組で。
12月、デュトワでエディプス王。2月、エリシュカで我が祖国。4月、デ・ワールトでリング抜粋やアルプス・シンフォニー、5月、尾高でエルガーのチェロ協と第2交響曲。
こんな按配なんです。早くも来年も金が・・・・・。
エルガーの交響曲の自己リンク
交響曲第1番
バルビローリ/フィルハーモニア管
大友直人/京都市交響楽団 演奏会
尾高忠明/BBCウェールズ響
ノリントン/シュトットガルト放送響
プリッチャード/BBC交響楽団
交響曲第2番
尾高忠明/読売日本交響楽団
大友直人/京都市交響楽団
大友直人/東京交響楽団
B・トムソン/ロンドン・フィルハーモニー
交響曲第3番
K・デイヴィス/ロンドン交響楽団
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コメント
私は、5月29日、東京オペラシティでのゲルバーのリサイタルを聴きに行きました。ベートーヴェンのソナタ4曲、第8番、Op.13、ハ短調「悲愴」、第14番、Op.27-2、嬰ハ短調「月光」、第21番、Op.53、ハ長調「ヴァルトシュタイン」、第23番、Op.57、ヘ短調「熱情」でした。来日40周年記念で、円熟の味わいに満ちたものでした。
いよいよ、9月のペーター・レーセル、12月のゲルハルト・オピッツのベートーヴェンツィクルスが楽しみになってきました。
投稿: 畑山千恵子 | 2008年7月12日 (土) 19時42分
畑山千恵子さま、コメントありがとうございます。
ゲルバーさん、体も音楽も風格がたっぷりでしたね。
この3番のコンチェルトは、ゲルバーが終始リードする素晴らしい演奏でした。
レーゼルにオピッツ、きっと円熟の名演になることでしょうね!
また感想を是非お聞かせください。
というか、私も聴きに行けばいいのですね(笑)
投稿: yokochan | 2008年7月12日 (土) 22時12分
さて、20日、ペーター・レーゼル、ベートーヴェンツィクルス第1回へ行ってまいりまして、大変うならされてしまいました。曲目は第20番、Op.49-2、ト長調、第17番、Op.31-2、ニ短調「テンペスト」、第29番、Op.106、変ロ長調「ハンマークラヴィーア」でした。始まりと同時に、ペートーヴェンの音楽が鳴り響き、椅子から身を乗り出さんばかりで聴き入っていました。特に「ハンマークラヴィーア」が素晴しいものでした。アンコールがあり、バガテル、Op.126-1、ト長調が味わい深く演奏され、コンサートが終了いたしました。
今、12月のゲルハルト・オピッツ、ベートーヴェンツィクルスが楽しみになりました。今年で最後です。「ハンマークラヴィーア」、どうなるでしょうか。ワクワクします。
投稿: 畑山千恵子 | 2008年9月23日 (火) 20時26分
畑山千恵子さま、こんばんは。
いよいよレーゼル、聴きに行かれたのですね。
なかなかに充実のプログラムで、そのクライマックスが「ハンマークラヴィーア」。
想像するだけで、あの素晴らしい和音が聴こえてきそうです!
レーゼルはレコード時代の記憶しかないのですが、最円熟期を迎えていることでしょうね。
12月のオピッツも素晴らしい「ハンマークラヴィーア」が聴かれることでしょうね。
投稿: yokochan | 2008年9月24日 (水) 00時55分
昨日、紀尾井シンフォニエッタ東京の定期演奏会で、ペーター・レーゼルのベートーヴェン、ピアノ協奏曲第5番「皇帝」を聴いてきまして、こちらも名演でした。ちなみに、2005年、ドレースデン音楽祭での共演で大成功を収めたことが、昨年4月29日の30年ぶりのリサイタル実現、ベートーヴェンツィクルス実現となったわけです。アンコールには、ブラームス、インテルメッツォ、Op.117-1が演奏されました。
指揮はフィンランドのユハ・カンガス、後半のシベリウス「トゥオネラの白鳥」は絶品でしたし、モーツァルト、交響曲第40番も名演でした。
さて、ゲルハルト・オピッツも日フィル定期で、ベートーヴェン、ピアノ協奏曲第3番を演奏します。指揮は旧東ドイツのギュンター・ヘルヴィッヒです。後半、シューベルト、交響曲第8番があり、聴きものですね。こちらもまたまた楽しみとなりました。
投稿: 畑山千恵子 | 2008年9月27日 (土) 19時44分
畑山千恵子さま、こんばんは。
レーゼルの皇帝ですか!
さぞかし立派な演奏だったでしょうね。
紀尾井シンフォニエッタとの共演も興味深いです。
室内オケで聴くシベリウスも、想像するだけで感動してしまいます。
オピッツとヘルヴィヒのコンサートは気になっております。
数少ないドイツ本格派ヘルヴィヒとのベートーヴェンは聴いてみたいものです。
コメントありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年9月28日 (日) 00時11分
昨日、ペーター・レーゼル、ベートーヴェンツィクルス、第2回を聴きに行きました。この日も身を乗りださんばかりで聴いていました。第30番、第23番「熱情」の素晴らしさには感服しました。昨年12月27日、ゲルハルト・オピッツの演奏も素晴らしく、こちらも体が火照ってしまいました。昨日も聴いていて、体が火照ってしまいました。
いよいよ、12月9日、26日、東京オペラシティ、コンサートホールです。「ハンマークラヴィーア」、第30番、楽しみになってきました。
投稿: 畑山千恵子 | 2008年10月 3日 (金) 19時22分
畑山さま、こんばんは。
レーゼルのベートーヴェン、ますます好調のようですね。
昨日は、出張で逃してしまいましたが、レーゼルの弾くシューマンの室内楽をCDで楽しみました。
まさに正統派ドイツのピアノです。
空気も冴える暮れのオピッツ、本当に楽しみですね。
私も都合がつけば行ってみようと思います。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年10月 3日 (金) 23時06分
9日、ゲルハルト・オピッツ、ベートーヴェンツィクルス、第27番、第28番、第29番「ハンマークラヴィーア」を聴いてまいりました。ジワジワ心に染み入るベートーヴェンで名演でした。さて「ハンマークラヴィーア」、メガネを使っていたとはいえ、間伐を入れずに弾き出しました。ペーター・レーゼルは座ったとたんに弾き出したとはいえ、ほとんど変わりなかったというところでしょう。心にジワジワこみ上げてきた名演でした。
12日の日フィル定期での第3番、ギュンター・ヘルビッヒの指揮と相まってか、聴いていて体が熱くなりましたし、後半のシューベルト、交響曲第8番、D.944、ハ長調も名演でした。
あす、第30番、第31番、第32番です。ますます楽しみになりました。
投稿: 畑山千恵子 | 2008年12月25日 (木) 23時04分
畑山千恵子さま、こんばんは。コメントありがとうございます。
そうそう、そうでした。忙しさにかまけて、レーゼルにオピッツのコンサート、すっかり失念しておりました。
年末にベートーヴェンの後期ピアノソナタ、実に相応しいものですね。うらやましい限りであります。
ひょっとすると第九のにぎにぎしさより、ずっと心に響くものがあるでしょうね。
まして、円熟のオピッツですから!
レーゼルのCDも評判が高いですね。
明日の3曲、じっくりとお楽しみください。
いやぁ、いいなぁ。その頃、私は酒気帯びでございます・・・。
投稿: yokochan | 2008年12月26日 (金) 00時26分
26日、第30番、第31番、第32番を聴いてきました。素晴らしい名演で、体が火照ってしまいました。ペーター・レーゼル、ゲルハルト・オピッツ、どちらも甲乙つけ難い演奏です。サインももらってきました。
年が明けたら、ペーター・レーゼルのCDを買って、ゲルハルト・オピッツのものと聴き比べることにしています。
エリック・ハイドシェックとブルーノ・レオナルド・ゲルバーは来日40周年、ペーター・レーゼルとゲルハルト・オピッツは21世紀のドイツ・ピアノ界を象徴するものであったことを見ると、とても意義深いものだったといえましょう。
投稿: 畑山千恵子 | 2008年12月27日 (土) 22時15分
畑山千恵子さま、こんばんは。
いよいよ全曲演奏の千秋楽・後期ソナタ行かれましたね。
今でこそCD1枚に収まってしまう後期3曲ですが、コンサートですときっと巨大な存在として充実した音楽に輪をかけて聞こえるのでしょうね。
サインをもらった畑山さんの気持ち、よくわかります。
そのオピッツに、レーゼル、ハイドシェック、ゲルバー、いずれもかねてより親しんできたベートーヴェン弾きが今や希少な存在となりつつあるように思えますね。
ありがとうございました。
投稿: yokochan | 2008年12月28日 (日) 00時17分