シューマン 「ファウストからの情景」 アバド指揮
コーヒーの焼酎。
サミットの洞爺湖畔にある洋食屋さん「望羊蹄」のブレンド珈琲豆を使用した凝ったお酒。
昨年、仕事で洞爺湖畔に泊まったおり、近くの酒屋で購入。
そしたら、なによ、イオンにも売ってるじゃない・・・・。
お味は、まさにコーヒーで、なかなかクセになるおいしさ。
多量に飲むと眠れなくなりそうだから、夜静かに音楽なんぞ聴きながらチビチビ飲むのがいい。
昨日の神奈川フィル演奏会で聴いたシューマン。その時にわかったこと、今日6月8日は、シューマンの誕生日だということ。
そこで、シューマンの畢生の大作、オラトリオ「ファウストからの情景」を聴くこととしよう。
ゲーテの「ファウスト」を題材にした音楽は非常に多い。人間の野望と贖罪、弱者の救済、といった不変のテーマに幾多の作曲家の筆をとらせることとなった。
ベルリオーズ、グノー、シューマン、リスト、ワーグナー、ボイート、ブゾーニ、マーラーなど。
これらの中にあって、シューマンの作品は、オラトリオという形式もって、一際、地味な存在。
1844年から53年の9年間もかけて悩みつつ作曲した大作は、序曲と全3部からなる2時間あまりの曲。
第1部~グレートヒェンとファウストの恋愛と母を殺し、不実の子を宿し、神に祈りながら亡くなるグレートヒェンを描かれる。
第2部~悔悟に暮れるファウスト、メフィストフェレスとの縁を切ろうと決心する。
そこへ、灰色や憂愁の女たちが現れファウストに取り付く。ファウストは視力を失いつつも
自由の国の建設のために、メフィストフェレス挑み、死を決して亡くなる。
第3部~「ファウストの変容」と題された場面。ファウスト、グレートヒェン、エジプトのマリア、そしてマグダラのマリアらは、聖母マリアを称え救済され天上に上る。
作曲は、第3部から遡るようにしてなされ、途中、机の引き出しにしまいこんでしまうほどに、悩んだらしい。こうして聴くと、第3部が一番聴きやすくシューマンらしい歌謡性に溢れていて、前半のものほど、とっつきが悪く感じる。
そうした場面が、この作品を地味な存在に見せかけているのかもしれない。
私は、アバドのCDで初めてこの作品に触れ、何回か聴くうちに、この作品の味わい深さが、まるで「するめ」を噛むかのような思いで楽しめるようになった。
ブリテンやクレーのレコードは存在したが、ベルリンフィルの音楽監督がその定期で、こうした地味な作品を何度も取り上げるなんて、アバドならではのこと。
アバドは、気に入った作品があると、執念のようにそれを折りあるごとに取り上げ、完璧きわまりない演奏で、それを古今東西の名曲に仕立て上げてしまう。
「シモン・ボッカネグラ」「ヴォッェック」「ボリス・ゴドゥノフ」「ランスへの旅」などの渋い劇作品。マーラーのいくつかの交響曲と「リュッケルト歌曲」、ブラームスの「運命の歌」などもそう。
この「ファウスト」もそれらの中に入る作品。
他の作曲家たちが残したように、このシューマン作品でも、グレートヒェンに切実で素晴らしい歌がある。また、シューマンらしいファンタジー溢れる自然描写もありオーケストラの美しさに合唱が見事に応える。
そして、充実の第3部は、素材も同じくして、「マーラーの千人の交響曲」の第2部を先取りしたような音楽だ!
あまりに美しいマリアを崇拝する博士の賛歌。天上の音楽を描くかのようなハープの音色に乗って歌うバリトンの歌。ここで感動のあまり涙ぐんでしまうことになる。
そして、最後には「神秘の合唱」が感動的に歌われ、静かに曲を閉じる。
さらなる曲の精度や、歌謡性を求めたくなる場面もあるけれど、これがシューマンと思って聴けば過不足なく感じ取れる。
ファウスト、マリア崇拝の博士:ブリン・ターフェル
グレートヒェン:カリータ・マッティラ
メフィストフェーレ:ヤン=ヘンドリック・ローテリング
バーバラ・ボニー、エンドリク・ヴォトリヒ、スーザン・グレアム
ハンス=ペーター・ブロホヴィッツ、イーリス・ヴェルミヨン
クラウディオ・アバド指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
スウェ-デン放送合唱団
エリック・エリクソン室内合唱団
(94.6月ベルリン) 録音当時、すでに病魔が迫っていたかもしれないアバド。
際立った集中力と、歌に対する細心の心配りを持った指揮。
シューマンの文学へのこだわりから生まれたこの作品。その描こうとした人間の弱さや、救済感をアバドは優しい眼差しをももって描ききっていると思う。
素晴らしいメンバーの歌手たちもいい。
ターフェルは神妙で、普段のアクの強さが少なめなのがいい。
シューマンの誕生日に聴いた大作。
シューマンの多様性と、言葉=歌へのこだわりがよく感じられた。
おっと、明日は今度は、息子の誕生日だ。
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コメント
ググっていたらこの記事にヒットしました。
先週末からとり憑かれたかのように聴いていました。
yokochanさまに紹介されて購入した盤ですが、おかげさまで持っているファウストの中では一番好きな盤となりました。
歌とくにソリストたちには妙なクセがなく、ハープの音色に合わさったマリア崇拝の博士も絶品ですが、栄光の聖母によって許され天国に入るところはひたすらもう涙で、ここで何回泣いたことか・・・
。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。
そうですね。
全体を貫く救済感はこの盤が一番です。
そうかぁ、アバド様。
この頃はそういう状態だったのですね。
妙に納得( ´艸`)
トラックバックさせていただいてもいいでしょうか。
投稿: はるりん | 2011年1月16日 (日) 14時46分
はるりんさん、こんばんは。
「ファウストの情景」にはまっているご様子ですね。
お体のことなど、いろいろおありとご察ししてますが、そんな時こそ、こうした音楽は心にしみてきます。
わたしも、体調がどうもすぐれず、仕事も不芳で不安な日々なのですが、その分、音楽に没頭するようにしてます。
歌手のよさと、素直な音楽造りの指揮者では、このアバド盤が一番かもです。
文学と音楽を融合して捉えるのはアバドお得意の分野ですから。
その後、アバドは胃癌から生還して、いまある境地に登りつめた指揮者です。いまだに若いし!!
TB、よろしくお願いいたします。
投稿: yokochan | 2011年1月16日 (日) 23時24分
お早うございます。過去記事に書き込み失礼いたします。遅まきながら小泉さん指揮の第9演奏会観劇お疲れ様でした。
アバド指揮のファウストからの情景、今、第3部を聴きました。第1部、2部はこれからです。美しい音楽ですね!静謐で歌謡性に富んだ音楽です。ゲーテのファウストネタの数ある音楽作品の中でもトップクラスの名作かなーと思ったりしました。今年の7月ごろにソニーのシューマン作品集25枚セットを購入し、アバドのファウストからの情景はその中に入っていました。でもその直後に入院したりしましたので、このシューマンボックスはこれからゆっくり聴くことになりそうです。ブリテン指揮のレコードがあるのですね。アーノンクールやガーディナーや最近だとハーディングも録音していますが、この曲の素晴らしさを世に知らしめた功労者はやはりアバドかもしれませんね。つくづく素晴らしい音楽家を我々はなくしたのだと思います。
余談ですが、メータの60~70年代のデッカ音源を23CDにまとめたボックスが出ますね。私はもう予約しました。だって若き日のメータですものね。チャイコやリストやマーラーはダブってしまうのですが、ドヴォルザークやベルリオーズやブルックナーやシューベルトが若き日のメータで聴きたくて購入することにしました。今から届くのが楽しみです。
投稿: 越後のオックス | 2014年12月22日 (月) 09時06分
越後のオックスさん、こんにちは。
ご指摘のとおり、この隠れた名作を世に広めたのは、アバドの数ある功績のひとつだと思います。
ベルリン時代、何度も、いろんな局面で、この作品を指揮してたアバドが、本当に愛おしく思えるこちらの音盤です。
どんな指揮者が取り上げようと、この演奏を凌駕することは、きっと不可能かとも思います。
わたくしには、アバドの「シモン・ボッカネグラ」と同じような存在ですね。
メータは、相当かぶってるので手が出ませんが、ここでもれた、イスラエルとのチャイ5がどうしても聴きたいところです。
投稿: yokochan | 2014年12月25日 (木) 00時48分