ヴェルディ 「椿姫」 ラ・トラヴィアータ 新国立歌劇場
今朝、東北地方を襲った地震。まだ不明の方もおられ、心配は尽きないが心からお見舞い申し上げます。
こんな時にオペラというのも不謹慎ながら・・・・。
故水野さんではないけれど、いやぁ~、オペラってほんとにいいもんですね!
そんな言葉が思わず言いたくなる。
新国立歌劇場、今シーズン最後の公演、ヴェルディの椿姫を観劇。
椿姫と呼ぶよりは、トラヴィアータと呼んだ方が好きだから、そうします。 実は、ドイツものばかりで、若い頃に夢中になったヴェルディから少し遠ざかっていた私にとって、苦手なオペラのひとつで、いまさら、トラヴィアータでもないだろう、とたかをくくっていた。
何故苦手か?
まずは、台本が弱いのか、登場人物達の描かれかたが浅い。気の毒なのは、ヴィオレッタひとりだけで、浅はかなジェルモン親子に翻弄されっぱなしなのだ。
もう少し親子の心理描写などが深く描かれていれば・・・。
それに付随して、ヴィオレッタに与えられたアリアとメロディは最高だけど、親子のノーテンキなアリアとのギャップが大きい。
あと、ジプシーの歌と闘牛士の歌の居心地の悪さ。
のっけから、こんなこと書いちゃって、このオペラのファンに叱られそうだけど、今日の新国で涙ちょちょぎらしてたのは、どこのどいつだい?アタシだよ!
やはり、舞台で観るとあれやこれは、感じなくなる。なんといっても、泉のように溢れ出すヴェルディの音楽の素晴らしさ。
加えて、アバドのスカラ座時代を支えた演出家の一人、ロンコーニの重厚かつ的確な演出と、3人の優れた主役達に、上岡ワールドともよぶべきユニークなオーケストラ。
3度目のプロダクションらしいが、初見。というか、わたくしトラヴィアータ・生デビューなんです。古い人間なものだから、NHKイタリアオペラの73年公演のテレビ放送が刷り込み。
その時は、スコット、カレーラス、ブルスカンティ-ニというキャストで、カレーラスはデビューしたてのほぼ無名状態。
そんなイタオペ旧世代派には、ロンコーニのオーソドックスな演出は無難でよろしい。
新国自慢のスライド舞台が大活躍。それが、見ていて滑稽にも思えるところも散見されたが、ドラマの連続性をよく機能的に表出していた。
でも、私のようなドイツ派からすると、細切れに起きる拍手には、ちょっと戸惑う。
そっちの方でのドラマと音楽の緊張感の寸断は考え物かも・・・・。
ヴィオレッタ:エレーナ・モシェク アルフレート:ロベルト・サッカ
ジェルモン :ラード・アタネッリ フローラ :林 美智子
ガストン子爵:樋口達哉 ドゥフォール男爵:小林由樹
上岡敏之 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
新国立歌劇場合唱団
演出:ルカ・ロンコーニ
(6.14@新国立劇場)
上岡氏の指揮は、賛否両論あるかもしれない。
テンポの揺れがあり、一定していないし、前奏曲や3幕前奏曲も快速で味気ない。
時には歌手にはおかまいなしに、、前倒ししてしまうカ所もあった。
それでも私が気にいったのは、各所にデリケートともいうべきニュアンス豊かな場面も多々あったということ。
一例で言えば、ヴィオレッタのモシュクとの合意に基づく共同作業やに思うが、このオペラの見せ場、2幕での身勝手親父ジェルモンとのやりとりで失意に暮れるヴィオレッタが苦しげに歌う場面。そこでのオーケストラは、極限までにピアニシモで押さえ、唯一オーボエのみがヴィオレッタの歌をなぞる。この場面の美しさといったらなかった。
それと、同じ幕でのアルフレートとの別れのシーン。ここでは思い切りテンポを落とし、ヴィオレッタの思いのたけを表わすかのような表現。私の涙腺はダム決壊状態だったのはいうまでもない。
全体の完成度という点では、課題があるかもしれないが、表現意欲に溢れた上岡氏、作秋聴いたヴッパータールの繊細で長大なブルックナーの指揮者であることを思い起させてくれた。もっとこの人のオペラを、いろいろと聴いてみたいものだ。
東フィルもいつになく精度の高い素晴らしさだった。
モシュクのヴィオレッタが、とても素晴らしかった。
きれいで繊細な高音は、聴くわれわれ観客誰をも唸らせてしまったと思う。
その声をホールの隅々に響かせていたのは、上岡氏のオケの押さえ方でもあったかと。
モーツァルト歌いの印象のあった、サッカのアルフレートはとても音楽的でよかったし、アタネッリの見た目、兄のようなジェルモンもいい声を響かせていた。
それと、横浜の「バラ騎士」で一挙にファンとなった、林美智子さんの存在感。樋口氏も同様で、他の諸役を、日本の実力派たちが固めていて万全の舞台であった。
気が付くと、すっかり感激して楽しんでいる自分。文句言うんじゃなかった。
でも、次回は、もう少し斬新な舞台が見たい。
ジェルモンが実は、ヴィオレッタに目が眩んで、横取りしようとしまうとかね・・・・。ありそう。
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コメント
いやー、すっかり涙腺が刺激されたyokochanさんのお顔が目に浮かぶよーですよ。CDだったらクライバーの圧倒的演奏が耳たこになっていて、少々のことでは満足できないだろう、とたかをくくっていたあっしでありんしたが、実際の舞台を観てみると、ヴェルディの音楽の舞台進行と完全にシンクロした無駄のない書法が、オペラの生理としか呼びようのない完璧な出来に、驚きを禁じざるを得ませんでした。
やっぱりオペラはヴェルディにとどめを刺しますヨ。ドイツ・オペラは、「オペラ」とは別物です。
ワーグナーの音楽とはまるで違う、舞台がなければ存在し得ないものなんですからねぇ。ワーグナーやシュトラウスは別に舞台がなくとも成立しますから。
とはいうものの、歌手の出来には・・・?!モシュクはそれなり。でも、にっくき親父のジェルモンはもっと老けていて意地悪くってもよかった(いや、そうあるべき)し、サッカのアルフレードはヴィリャゾン(フレミングとのDVD)のように、田舎出の垢抜けたところのない部分が欲しかった。
演出もスライド舞台は面白かったけれど、どれだけ劇の本質的部分にかかわっていたかは疑問だし。
オーケストラは繊細では良かった部分も多かったけれど、煽る部分には・・・。
と、いろいろ書いてはきたものの、やっぱりステージで観るヴェルディはサイコーです。もっといろいろなステージを観てヴェルディ体験を重ねなければ。そういう意味で、新国の存在って有難いです。
投稿: IANIS | 2008年6月15日 (日) 08時29分
こんにちは。同じ日だったんですね。私は3階席でしたが、幕間はあちこち歩き回ってシュークリーム食いまくっていました。どこかですれ違ったかもしれませんね♪
>細切れに起きる拍手には、ちょっと戸惑う。
ワーグナー好きの方は皆さんそのように仰いますね。
ヴェルディ派の私にとっては、アリアや重唱の一つ一つが「採点」なので、その都度の拍手が楽しみでたまらんのです。「やんや、やんや~」って感じかナ。
でも今回の指揮は、そういう“伝統的な”?ヴェルディを目指していたのではないらしく、それを察知してか拍手も控えめでしたね。私もほとんど拍手は入れませんでした。
>極限までにピアニシモで押さえ、唯一オーボエのみがヴィオレッタの歌をなぞる。
ここは本当に美しかったです。一瞬プッチーニなんじゃないかと思ったくらいで(笑)
TBよろしくお願いします。
投稿: しま | 2008年6月15日 (日) 11時37分
こんにちは。
三度目にして初めて泣けました・・^^;;
>細切れに起きる拍手
特に悲劇では考え直したほうがいいと思います。
TB、よろしくお願いします。
投稿: edc | 2008年6月15日 (日) 15時03分
IANISさん、行ってきました、泣いてきました。
2・3幕はアルコールの力も借りてましたが、はからずも涙が。
まったくおっしゃるように、ヴェルディはステージがつきもの。
ワーグナーやシュトラウスは、音楽だけでも完結してますし、だからこそ、いろんな演出のつけいるところなんでしょうね。
上岡流儀は、それなりに楽しみましたよ。
それより驚きは、東フィルの普通の充実ぶりです。ソロヴァオリンもよかったですし、手の内に入った作品なのでしょうか。
来シーズンのリゴレットをセット券に入れなかったのが、実は悔やまれたりしてます。
先般のお話のように、主要作は観ておかねばなりませぬね。
新国の効用は大ですね!
投稿: yokochan | 2008年6月15日 (日) 21時17分
しまさん!こんばんは。
ブログ模様替えされましたね。実は、わたくしの自宅のパソコンの設定がまずいのか、そもそもの機種が古いのか、文字が読めなくなっちまいました。
ですから、携帯で拝見しました。コメント・TBは明日会社から毎度のこっそり作戦で伺いますね。
私も3階席でしたよ。モシェクの声に感嘆をあげるご婦人の声が近くに聞こえましたから、かなりお近くにいたのかもしれませんぞ。
久しぶりの新国、あのシュークリームやスゥイーツ、オードブルはいつから登場したのでしょう。
すっかり、皆さんリラックスして、オペラを楽しむ風潮が根付いた感じ。
そう、演出はオーソドックスですが、音楽はちょっとドイツよりかなとも思いました。
苦手なトラヴィアータを、涙ながらにすっかり楽しみました!
投稿: yokochan | 2008年6月15日 (日) 21時53分
euridiceさま、こんばんは。
TBありがとうございます。しっかりご覧になってますね。
そして、3度目にしての涙!
わたしなんざ、初トラヴィアータでコレですから、情けない。
記事にも書きましたが、若くしてイタオペから遠ざかってしまいましたものですから、ろくな舞台経験がありません。
まだ観ぬボエームやバタフライは、どうなってしまうのでしょうか。恥ずかしいことになりそうです・・・・。
あの拍手、そうですね、悲劇まっしぐらの3幕あたりは、ない方がいいかもですね。
投稿: yokochan | 2008年6月15日 (日) 22時02分
こんばんは。TBありがとうございました。
私もTBさせていただきたかったのですが、どうもうまく反映されないようだったので、名前のところに記事URLのリンクを埋め込ませていただきます。
そのうち新国などでバッタリお会いできるといいですね♪
投稿: しま | 2008年6月16日 (月) 23時50分
しまさん、こんばんは。TBお手数かけました。
どうしてなんざましょう??
次回は、トゥーランドットですね。
パリオペラ座は、トリスタンなんです。
ロンドン・パリは当面予定がございませんもので。
渡航、気をつけて下さいませ。
投稿: yokochan | 2008年6月17日 (火) 00時35分
yokochanさんに影響を受け、私も初めて
新国劇場に行きました。6月16日の平日でしたが
客席は満席でした。ヴィオレッタの歌声がホール
全体になりひびいていました。私もがらになく
涙ぐんでしまいました。オペラは麻薬みたいな
感じで、一つ見終わるとまた行きたくなって
しまいます。
投稿: 風車(かざぐるま)2号 | 2008年6月18日 (水) 19時07分
風車(かざぐるま)2号さま、コメントどうもありがとうございます。
最終日に行かれたんですね!!
新国立劇場のシーズン最後の日だけに、きっと有終を飾るすばらしい舞台だったでしょうね。
涙ぐむお気持ち、私も同じです。
ドラマと主人公への観る側の感情移入。そこに素晴らしい音楽があるものですから、オペラは人を惹きつけてやまないのでしょうね。
オペラの毒を味わっていただきましたからには、是非とも次なる舞台に足をお運びください。
秋のシーズンオープニングの「トゥーランドット」は是非ともご覧いただくことをお薦めします。
新国の回し者ではありませんよ(笑)
投稿: yokochan | 2008年6月18日 (水) 23時08分