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2008年7月26日 (土)

「日本の思ひ出」 エリカ・ヘルツォーク

Yuri_2子供のころの夏の思い出は、匂いの記憶がついてまわる。
 海と山に囲まれていたから、潮の香りと、カブト虫たちが集まる樹液の匂い、そして山に咲く山ユリの濃厚な香り。
実家の周りも開発されてしまったから、そんな夏の香りも遠い記憶の中。
でもヒグラシの鳴き声を聴いたりすると、ひとっ風呂浴びて、冷えたビールに枝豆だい。
 日本人でよかった。

Memoire_of_japan_erika まるで、演歌を思わせるようなジャケット。
彼女は、エリカ・ヘルツォークさんという生粋のクラシック系のピアニスト。

昨年、当ブログでもそのデビューアルバムをご紹介済みで、しっかりした演奏が大いに気にいった。
 私の知り合いが、ある会で一緒に食事をして、とても美しい人ですよぅ、とその彼に教えられたことから、彼女のHPから直接アルバムを購入した。
何度かメールのやり取りなどもしたが、とても気配りの細やかな優しい方であります。
そして、堪能な語学も活かして、外来有名音楽家の通訳やアテンドなどでも活躍中。

彼女の経歴を、前回の記事からそのまま転用します。
「外交官のドイツ人を父、音楽家・俳人の日本人を母として、日本に生まれピアノを学ぶ。
10歳で、父の転勤で渡欧。ルクセンブルク、ドイツ(ヴァイマール)、オーストリア(ザルツブルク)などで学び、2001年に帰国。」
ルクセンブルクの音楽院では最年少主席卒業だし、F・リスト音楽院でも主席卒業。
さらに彼女の音楽の幅を豊かにしていると思われるのは、ザルツブルクのモーツァルテウム音楽大学で、ハルトムート・ヘルと白井光子夫妻から、歌曲伴奏をみっちりと学んでいること。

1作目「ためいき」では、有名曲のオンパレードだったが、2作目のメジャーレーベル本格デビュー盤は、クラシック作曲家たちによる世界の国家のピアノ曲版を集めたもの。
こちらも、オリンピック企画として次月紹介予定。
そして、3作目が日本の音楽にインスパイアされた欧米作曲家たちの作品集。
エリカさんも、花魁姿でジャケットを飾る大胆かつユニークな1枚が出来上がった!

Memoire_of_japan_erika2

収録された曲は、右のジャケットのとおり。
欧米のジャポニズムの到来は、開国後から明治維新あたりからの波だが、その頃からほぼ現在にいたるまでの欧米作曲家による日本由来のピアノ作品が13作品収められている。

日本に滞在した経験を持ったか、日本にやたら魅せられてしまった、いずれも日本を愛した人たちである。
初めて聞く名前の作曲家もいるが、解説を読むと日本の各地にしっかり根付いた方々もいて、とても親近感を感じる。

日本を題材にした音楽といえば、喋々夫人に代表されるオペラがいくつかあって、そちらの方が世界的なスタンダートになっているが、それらはよくも悪くも、日本風なだけであって、妙な演出を施された場合、滑稽なくらいにマヌケな舞台に成り果ててしまう・・・・。

日本の四季や風物を描くのであれば、ピアノに代表される器楽の方がほんわかとして、かつ繊細、機知に富んだ音楽が表出されていいのではないかしら。
あくまで、イメージの世界だが、ここに登場する作曲家たちは、ドビュッシーのように日本への憧れだけで、思い描いたのでなく、実際に日本を感じて、もしかしたら日本人以上に日本している音楽を書いた。

これらの中で気にいったのは、アメリカ人ラブハムの「虫の歌」。
われわれ日本人が好む「赤蜻蛉」「蛍」「鈴虫」「蝉」などを日本的な感じ方で音楽にした。
そこに付けられた詩もまた心に響いてくる。
「赤蜻蛉」~「紅色の薄い羽が窓辺を飛び、遠い湖と水田の眺めを運んでくる」
「蝉」~「人生は儚い。気ままに歌い、そして楽しい歌で夜を忘れよう・・・・」

それとロシアのヴィノグラドフの「六段」。この人も日本に定住した人らしいが、六段の調べとスクリャービンの神秘和音のコラボレーション音楽は、私の心にピピッとくる!

Yosinobu2 大指揮者ワインガルトナーも日本を愛し、先般ご紹介した静岡の慶喜公の屋敷にかかる橋を渡る女性を見て作曲したという・・・。
その画像はこちら。
クリックしてご覧あれ。
 若きキーシンの即興的な「浜辺の歌」がトリで演奏されてます。

エリカさんの鮮やかなピアノで、はじめて日の目をみたこれらの曲が実に新鮮に蘇える。
打鍵が素晴らしく明確で、その完璧な技巧に裏打ちされた音楽への熱い共感。
購入以来、何度も聴いているが飽きがこない。
夜静かに、ヘッドホンで緑茶割りなどを飲みながらしみじみと聴いている。

Erika 日本人の心を持った作曲家たちに、同じく日本人の心をもった素適なピアニスト。
そして、聴くわれわれは「日本の思い出」をそれぞれの胸に持った日本人。

前回記事で、「きっと、ユニークな地位を確保し大成する、素適なピアニストに思う。」な~んて予測したとうり、彼女は流行にぶれない、しっかりした歩みをし始めているようだ。
エリカさん、今度は、お得意のシュヴァーンの音楽を聴かせてください。

 前回記事
  ヘルツォーク エリカ 「ためいき」

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コメント

ブログに、またまた素敵なコメントを写真付きで載せて頂いて、ありがとうございます!!光栄に思いますし、CDを今回も気に入っていただけてとても嬉しいです。「日本の思い出」は、私の魂(日本と西洋の)がこもっている大切な宝物です。 シュヴェーン先生のCDも、いつか是非作りたいと思って自分の中で温めています。 これからも頑張りますので、応援していてください。

エリカ    追伸7月11日の東京新聞に、大きく記事が載りました。是非読んでみてください。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2008071102000104.html

投稿: ヘルツォーク エリカ | 2008年8月 8日 (金) 16時31分

エリカさん!こんばんは。
こちらにまでお越しいただきコメントを頂戴し、こちらこそ光栄です。思ったままを稚拙な文章にしてしまいかえって恐縮しております。
 とても素適なCDが出来上がりましたね。
本文にも書きましたが、夜、時おり取り出しては、ナイトキャップのお供に聴かせていただいております。
そして、東京新聞の記事、拝見しました。
取り上げられた秘曲とのエリカさんの出会いの喜び、宮山プロデューサーの発掘のご苦労が、とてもよくうかがえました。
 たとえは異なるかもしれませんが、マーラーの境遇とかつてのエリカさんの境遇が符合するように思いました。
そしてマーラーは、いまや作曲家の中でダントツの人気ものです。
 
さらなる、ご活躍を期待しております。
コンサートの企画などございましたらそちらも期待しております。
そしてシュヴァーン先生の音楽もいつしかお聞かせくださいね。
オリンピックにちなみまして、近々もう1枚ご紹介させていただきます。
ありがとうございました。

投稿: yokochan | 2008年8月 8日 (金) 23時22分

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