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2008年7月13日 (日)

チャイコフスキー 「エフゲニー・オネーギン」 レヴァイン&ショルティ

Tschaikowsky_eugene_onegin_levineチャイコフスキー(1840~1893)は、未完のものも含めてオペラを11作も残しているが、それらの中で今でも盛んに上演されて人気があるのは、「エフゲニー・オネーギン」と「スペードの女王」の2作品。
あと強いてあげれば、「イオランタ」「オルレアンの少女」「マゼッパ」ぐらいか・・・。

単にオペラと呼ばずに、チャイコフスキーは「抒情的情景」と名付けた。
作曲は、交響曲第4番と相前後する頃で、文通上の精神的支柱となっていたフォン・メック婦人の励ましもあってこの大作は完成したという。
熱烈に求愛された女性との短い結婚生活と破局によってダメージを受け、作曲が中断したそうだ。
原作は、プーシキン。「スペードの女王」もプーシキンだし、「ルスランとリュドミラ」「ボリス・ゴドゥノフ」「皇帝サルタン」「モーッァルトとサリエリ」などもそう。
ロシアオペラに次々と題材を送り込んだプーシキンもなかなか破天荒な人生だった由。

Onegin_bolshoi その交響曲ほどに、オペラは熱心に聴いてはいないのは、うにゃむにゃ聴こえるロシア語の持つ雰囲気がちょっと苦手なせいもある。
かつて万博の年、ボリショイオペラが大挙来日し、ソ連邦の威信を掛けたゴージャスな舞台を繰り広げた。
「オネーギン」「スペードの女王」「ボリス」「イーゴリ公」の4作品を、ロストロポーヴィチ、ロジェストヴェンスキー、シモノフらが指揮した。
テレビで、オネーギンとボリスを観たことが、はるか彼方の印象として残っている。こちらが文化会館での公演の模様。柱は本場では丸い支柱だったが、上野では見せかけのみ・・・。
音源としては、DGのレヴァイン盤しか所有しないが、舞台や映像は未体験。
9月の二期会公演のチケットを押さえたものの、演出はなんと「コンヴィチュニー」だ。
何をやらかしてくれるか、大いに楽しみだけど、オーソドックスな舞台も頭にいれておかなくてはなるまいと思い、ショルティ指揮のオペラ映画のDVDを購入した次第。

1820年頃のロシアの農村と終幕はサンクトペテルブルク。
ナポレオンを撃退した乗っている頃のロシアの貴族社会。

第1幕
 田舎の領主の娘、タチャーナとオリガは美人姉妹。母と乳母ともに、夏のテラスで楽しんでいるところへ、オリガと恋仲のレンスキー公が、友人オネーギンを連れてやってくる。
タチャーナは、一目でオネーギンに恋心を感じてしまう。
その晩、タチャーナは寝付かれずに、オネーギンへの告白の手紙をドキドキしながらしたため、翌朝乳母に手渡す。乳母は、不安そうである・・・。
 そしてオネーギンが、やってきて、庭で待つタチャーナに、説教じみた話をして、自分は結婚には向かない人間だといって去る。ショックに立ち尽くすタチャーナ。

第2幕
 タチャーナの命名日、客人たちが集まり大パーティ。
有名なワルツやマズルカが踊られる。フランスからやってきた爺さんがクープレを歌ったりする。オネーギンは、タチャーナの腕をとり、ワルツを踊るが、すぐに他の男性に渡してしまう。次に、レンスキーの腕から、オリガを取って、二人楽しそうに踊りまくる。
嫉妬に狂うレンスキーとそれがわからないオネーギンとの間でいさかいが始まり、オネーギンはレンスキーに「狂っている」と言い、侮辱されたレンスキーは決闘を申し込む。
 雪の日の早朝、決闘の場。
レンスキーは、「わが春の黄金の日々よ、どこへいってしまったのか・・・」と嘆き歌う。
遅れてきた、オネーギン。二人の心内をお互いが歌いあう。後悔と回顧は、もう手遅れ。
古式にのっとりピストルで打ち合うが、レンスキーが倒れ絶命する。
茫然とするオネーギン。

第3幕
 サンクトペテルブルクの広大な館の大広間。
これまた有名なポロネーズで、紳士淑女たちが踊る。
オネーギンが何も得られなかった放浪の末に、主クレーミン公に誘われ、この宴に姿をあらわす。そこに現れた、公爵夫人は高貴な姿となったタチャーナ。
目を疑うオネーギンに、グレーミン公は結婚の経緯とその幸福を歌う。
公に紹介され、お互いかつてご近所だったことを認めあい、二人は離れる。タチャーナは努めて冷静さを装っているが心中おだやかでない。
一人になったオネーギンは、今更ながらにタチャーナへの熱い思いを燃え上がらせる。
なんて野郎だ!
 応接間に押しかけ、その思いを切々と歌うオネーギンに、何度も心が打ち負かされそうになるタチャーナ。でも最後は、きっぱりと、今の夫を思いオネーギンをしりぞける。
「何たる不名誉、苦しみ、哀れな運命よ!」オネーギンは走り去る・・・・。

  タチャーナ:ミレルラ・フレーニ  オルガ:アンネ・ゾフィー・オッター
  オネーギン:トーマス・アレン   レンスキー:ニール・シコフ
  グレーミン公:パータ・ブルチュラーゼ ラリーナ:ローズマリー・ラング
  トリケ:ミシェル・セネシャル

  ジェイムズ・レヴァイン指揮ドレスデン国立歌劇場管弦楽団/合唱団
                           (87年録音)
Tschaikowsky_eugene_onegin_solti_2
こちらは、オペラ映画版DVD。
音源はショルティコヴェントガーデンのメンバーによるものを使用し、専門の役者が口パクで、本場のロケーションを行なったもの。(実際はミュンヘンらしいが、雪の光景はロシアのイメージそのもの)
74年頃の録音だったかと思う。
豪気なショルティが、チャイコフスキーの抒情オペラを録音するなんて・・・・と思ったが、実際は小沢が舞台で成功したプロダクションだったらしい。

この映画版は、実にゴージャスかつリアル。
最初に味わうならば、こうした美しいドラマの背景があった方がいい。
チャイコフスキーの音楽とロシアの光景は切ってもきれないから。農民たちのダンスや林檎を摘む娘たち、美しい夏の野原に、朝焼けの光景。
豪華な大広間に舞踏会、おいしそうな食事に酒のグラス(!)、決闘の場面での雪の草原。馬車で遅れてやってくるオネーギンにあわせて、雪がちらつき始める。
ほんとうに、美しい映像で、原作の原典ともいえるかもしれない。
プーシキンがあえて背を向けた、貴族社会の裏に泣く民衆の姿は全くなく、終始上流階級社会での出来事であることが超リアルに描かれている。
そこに矛盾を感じ、振舞ってしまうオネーギンとそれが出来なかったレンスキー。
純朴なロシアの少女から、一躍トップレディになってしまうタチャーナ。
そんな様子が、このDVDではありありと楽しめる。

  タチャーナ:テレサ・クビアク    オルガ:ユリア・ハマリ
  オネーギン:ベルント・ヴァイクル  レンスキー:ステュワート・バロウズ
  グレーミン公:ニコライ・ギャウロウ ラリーナ:アンナ・レイノルズ
  トリケ:ミシェル・セネシャル

   ゲオルグ・ショルティ指揮コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団
                   ジョン・オールディス合唱団

Tschaikowsky_eugene_onegin_solti2 非ロシア系の歌手と指揮、オーケストラによる演奏はそれぞれ甲乙つけがたい。
難点はどちらの演奏も綺麗にまとまりすぎていることか。
ロストロポーヴィチあたりの演奏がCDに復刻されないものだろうか。
でもドレスデンのくすんだ響きは、なかなかに魅力的で、レヴァインのオペラティックな指揮が巧みに雰囲気をかもし出している。
 歌手では、フレーニがピカいちで、ぬくもりある優しい女性と揺れ動く心象を歌いだしていて群を抜いた存在感を示している。チャイコフスキーは、タチャーナを主人公に見立ててもいるから尚更に聴こえる。
 オネーギンは、アレンヴァイクルもどちらもいい。身勝手ぶりでは、アレン卿の方が一枚上で、ヴァイクルは紳士的。シコフバロウズも、ともに粘っこい歌いぶりがまさに適役。
ギャウロウの声には痺れるし、両盤登場のセネシャルのKY的な歌も味がありすぎ。

それにしても、いい旋律が満載のオペラ。
タチャーナの「手紙のアリア」、レンスキーの決闘を前にしたアリア、グレーミン公のおのろけアリア、ワルツにマズルカにポロネーズ、合唱の数々。
面白いところでは、繰返しの魔術で、一度聴いたら忘れられない場面もある。
1幕の農民の合唱が盛り上がってゆき、最後は爆発するが、私にはどう聞いても「まいど、まいど、まいど、まいど、ま~いど!」と聞こえる。こりゃ忘れらんないよ。

さて、コンヴィチュニー先生、どう料理してくれますか?

  

 

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コメント

おはようございます。
オネーギンはききどころもありますし、ヴェルディよりも踊りの部分がバレエ大国を思わせますね。

私も二期会のオネーギン観に行く予定です。
楽しみですね

投稿: おぺきち | 2008年7月14日 (月) 09時07分

アレンと聞けばしゃしゃり出てくる私ですが、このオペラは得意ではなく、レヴァインのCDも通しては1回しか聴いてないんですよー;;;
シコフの歌唱は心に残っていますけど。

>「まいど、まいど、まいど、まいど、ま~いど!」
えっ、そうでしたっけ!!
そんなスゴいネタがあったとは。今晩あたり、もう1回挑戦してみます(`・ω・´) シャキーン

投稿: しま | 2008年7月14日 (月) 20時51分

おぺきちさん、こんばんは。
チャイコフスキーの音楽は、わかっっちゃいるけど、はまってしまう魔力がありますね。
このオペラも、おっしゃるとおり、お約束の絢爛たるバレエの情景がいくつかあります!!
今回のDVDでは、そのあたりの豪華な様子が見事に描かれてました。
映画の良さで言えば、そうした場面での、タチャ-ナの戸惑いとレンスキー公の苛立ちが、並行して映されていて、圧巻でした。

二期会の上演、きっと読替え上演となるでしょうから、心して楽しみたいと思います。
楽しみましょう!

投稿: yokochan | 2008年7月14日 (月) 22時41分

しまさん、こんばんは。
このオペラのタイトルロールとは裏腹に、タチャーナとレンスキーに聞かせどころがある気がします。
シコフ氏の熱い歌は、スゴイと思います。

でも、まいど・・・、と聞こえてしまうと、もう他がいけませんや。あと、3幕のクライマックス(1場の終わりくらいのしつこいくらいのオケの繰返しも笑えてしまいます・・)。
チャイコフスキーは、ブリテンと同じ趣向の方ですが、フレーズの繰返しの「くどさ」が似ております・・・・。

投稿: yokochan | 2008年7月14日 (月) 22時50分

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