ルネ・パペ オペラアリア集「神・王・悪魔」
名古屋の居酒屋の名店「大甚」。
池波正太郎も愛した老舗は、大勢でも一人でも、味わい深い酒が飲める。
男は黙って一人暖簾をくぐり、セルフサービスで摘みをチョイスし、年期の入った木のテーブルで樽酒の燗をたしなむ。
あっさりした肴をあてに、猪口に酒を注ぎ、2本も飲めばおあいその声をかける。
名物のご主人が、そろばんで計算してくれる。
男は、黙って夜の街へ消えてゆくのであった。
今日、HMVへ仕事の合間に涼みにいったら、DGと専属契約をした「ルネ・パペ」の初アルバムが発売されていたので、即購入した。
昨日は昨日で、新宿タワーに涼みにいったら、片隅のワゴンに@500円バーゲンコーナーがった。CDはイマイチだったけれど、DVDで4枚、都合2000円のお買い上げ。
「ゲオルギュー&アラーニャの映画トスカ」「ボリショイのボリス」「クレスパンのリサイタルEMI」「バルビローリ&ボストン響のブラ2とディーリアス」
ふっふっふ。思わずニンマリの超お買い得。
バス歌手は男の世界。
余計なことは歌わない。
ベタベタと愛も歌わない。
苦渋とたくらみ満ちた役柄が多い。
若い妻に裏切られる役も多い。
ドラマの鍵を握る、影の主役も多い。
そんなロールをしっかり集めたのが、このルネ・パペのアルバム。
「神」・「王様」・「悪魔」のタイトルどうり、独・伊・仏・露・東欧の各オペラから、そうした役柄を歌っている。
「悪魔(魔法使い)」・・・・グノー「ファウスト」、ボイート「メフィストフェーレ」
ベルリオーズ「ファウストのごう罰」
オッフェンバッハ「ホフマン物語」
ルビンシュタイン「デーモン」 ドヴォルザーク「ルサルカ」
「神」・・・・・・・・・・・・・・・ワーグナー「ラインの黄金」
「王様」・・・・・・・・・・・・・ヴェルディ「ドン・カルロ」、ワーグナー「トリスタン」
ムソルグスキー「ボリス・ゴドゥノフ」
バス:ルネ・パペ
セバスティアン・ヴァイグレ指揮 ドレスデン・シュターツカペレ
今年2月のホヤホヤの録音。
昨秋、実演で接したマルケ王が、やはり堂に入った名唱。まろやかな美声に、堂々とした威厳と気品が漂う。若さも感じさせるこのマルケには、嫉妬心も感じさせる。
それと、フィリッポ2世の素晴らしさ。かつてのギャウロウもかくやと思わせる深々とした声に、老人というよりは、妻の愛を得られない壮年男性の悩みを感じさせ、妙に納得。
「ルサルカ」に「ボリス」のスラヴものも、思いのほかよい。
幻想的なドヴォルザークの音楽からボヘミアの森と泉が目に浮かぶような暖かな声。
悲壮感からは遠く、実に音楽的なボリス。もがき苦しんで悩んで死ぬんじゃなくて、もっと現代的にスマートな死に様を見せてくれるかのよう。
かのルビンシュタインの音楽は珍しいという以上に、なかなかロマンテックな曲だ。
欲をいえば、真面目男のパペゆえ、メフィストフェレス系では、洒脱さというか、軽さが欲しい気がする。
まだ44歳のパペ、これからますます深みを増してゆくことだろうし、声域が広いから、ウォータンやザックスも期待できる。それと、リートの分野での活躍も楽しみ。
バイロイトで活躍中のヴァイグレの指揮が、雰囲気豊かなシュターツカペレから実にいい音色を引き出している。ドレスデンはパペの出身地だけに、かつてのテオ・アダムのようにドイツの名バスとして今後とも共演を重ねていって欲しい。
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