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2008年8月 4日 (月)

プッチーニ 三部作~「ジャンニ・スキッキ」 パッパーノ指揮

Sengaku_cat 今日のにゃんこ。
その「ねこ」は、とあるお寺にいらっしゃった。

私が声をかけると、何も言わずに「にゃんだ!」と睨み返してきた。
睨み合いは数分続き、こちらが負けてしまった。
不敵な「ねこ」であった。
実はこれ、かの赤穂浪士ゆかりの泉岳寺にいた「ねこ」でござるよ。
そんな不屈の闘志あふれる、今日のにゃんこでした。

Puccini_il_trittico_pappano_2 プッチーニの3部作の3作目は、ブッフォの「ジャンニ・スキッキ」。
ダンテの「神曲」では「天国」に相当する劇。
ワーグナーが「マイスタージンガー」、ヴェルディが「ファルスタッフ」と、歴代のオペラの先達が熟練の域に達したときに奥の深い喜劇を書いた。
プッチーニも60歳になり、悲喜こもごもの3部作の最終3作目に唯一の喜劇を書いた。

笑い」は、やはりオペラ作曲家たちの到達する最終局面であり、愛憎や悲劇をすべて味わい尽くした後の境地は、終始シリアスなシンフォニスト達と人間ドラマを見据えた立脚点の違いを感じる。
人間が主役のオペラ=ドラマだからこその世界ゆえ。

激情と熱情の相まった「外套」、宗教的な神秘感のある「アンジェリカ」、そして「ジャンニ・スキッキ」はいきいきとした人間ドラマであり、愛憎や宗教からもほど遠い。
フィレンツェの街が主役と化しているところも特徴的で、マイスタージンガーにおけるニュルンベルクと同じかも。
中世風の旋法を音楽に使ったり、歌手達の多様な歌いまわしも実験的ですらある。
そんな作曲技法が嫌味になって聴こえないのがプッチーニならではだし、何と言っても、聴く我々の心を捉えて離さないように、しっかりと素適なアリアが盛り込まれている。
誰しもが愛してやまない「私のお父さん」である。相方テノールにもフィレンツェを称えた名アリアがあるし、主役のスキッキにも「ファルスタッフ」ばりのアリアが用意されている。

1299年のフィレンツェ。ブオーゾ・ドナーティの家にて。

朝のドナーティ家、当主ブオーゾはすでに亡く、一族が取り囲んで神妙に泣いたふりをしている。膨大な遺産を期待する面々が、巷の噂の寄付ということを聞きつけて集結している。
きっと遺言状があるだろうということで探しだしてみると、噂どおりの全額教会寄付。
坊主だけが潤うと、一同は大騒ぎに。
そこで、リヌッツィオは、許婚の父ジャンニ・スキッキに知恵を借りようと提案するが、策士だとして賛同を得られない。
そこへスキッキと娘のラウレッタ登場。貪欲な一同に呆れ、こんな奴らに協力したくないと、ソッポを向いてしまうスキッキ。
しかし、愛娘が「私のお父さん」のアリアを歌い、父の心をメロメロにしてしまう。

「私は、この人が好きなの・・・・、愛の指輪を買いに行きたいの・・・、もし愛することがだめなのならば、ポンテヴェッキオに行きます。そこで身を投げます。恋が私の心を燃やし苦しめるの、どうぞ神様死なせて下さい、お父さま、どうぞお哀れみを・・・」こんな掟破りの歌を娘に歌われたら、お父さんどうしよう。

「さあ、遺言状を貸してごらん」と、スキッキ。
この一族以外に誰も当主の死は知らない。では、自分がブオーゾになるまでと、そこへ、医師が回診にやってくるが、声音を使って見事にやり過ごすスキッキ。
自分がなり代わって遺言状を書き換えるまでよ!と巧みなアリアを歌う。
一同は感嘆し、それぞれの相続の思惑をスキッキに語りまくる。スキッキは、もしこの語りがバレたら法的には一同は手首をちょん切られると警告。ははっ!
 やがて公証人がやってくる。
すべての遺言のたぐいは今破棄し、これより語ることが唯一の遺言と、偽ブオーゾは声音で語りだす。遺産のそれぞれを一族の思いのままに語り、小さくブラボーを得る。
そして、一族の関心のハイライト、フィレンツェの勇壮な自宅と製材所、ロバと資産価値の高そうなアイテムは、なんと親友の「ジャンニ・スキッキ」に、とのたまう。
苦虫をかみ締める一族たち。公証人には、頭のなかで今考えたことを言ってるだけですよと言い、公証人は大いに賛同して去る。
 さて大騒ぎの一族、とんでもない泥棒、ごろつき、うそつきと悪態の限り、スキッキは私の地所から出てゆけ!一族は「あぁ」、スキッキは「出てゆけ」の応酬。
 騒ぎをよそに、恋の成就に熱くなる二人の恋人がフィレンツェを称える。
スキッキは語りで口上を述べ幕となる。

スキッキの洒落た口上はこうだ。「皆さん、ブオーゾの資産がうまく処理できましたかどうか。こんなやり口で、私は地獄の憂き目に会うでしょうが、偉大なるダンテのお許しを得て今宵お楽しみいただけましたらお許しください。どうぞ、情々酌量のうえ」

このオペラでの台詞以外の声は、当主ブオーゾの亡くなった時の偽りの嘆息と、スキッキにやられた時の口惜しい嘆息。3作ともに異なる嘆き。素晴らしすぎ。
人間のあさましさや、情の厚さを見事に描ききり、それに軽妙かつ精妙細やかな音楽を施したプッチーニ。もしかしたら、この短い作品はプッチーニ最高のオペラかもしれない。

 ジャンニ・スキッキ:ホセ・ファン・ダム  ラウレッタ:アンジェラ・ゲオルギュー
 リヌッツィオ:ロベルト・アラーニャ    ツィータ:フェリシティ・パーマー
 シモーネ:ルイジ・ローニ ほか

ファルスタッフとザックス、それにこのジャンニ・スキッキを録音しているのは、F=ディースカウと、このファン・ダムのみではなかろうか。
いつも生真面目な印象を与えるファン・ダムだが、このスキッキは水を得た魚のように縦横に振舞っていて、なかなかの芸達者ぶりである。理が勝さることもなく、その面白さ・味わい深さに、私は思わず快哉を叫びたくなってしまった。
恋人役の美女・イケメン夫婦はいずれも素敵だし、一族・医者・司法書士の取り巻き連中も楽しい。
例によって、パッパーノの明るく快活な演奏もいい。

久しぶりに、3部作を順を追って聴いてみたが、実に楽しかった。
そして、オペラ作曲家としてのプッチーニの天才性にあらためて脱帽。
痒いところに手が届き、こちらの心情はくすぐられっぱなし。
8月10日に、文化会館で3部作上演があります。行ってきます。

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コメント

>泉岳寺のネコ
いかにも・・の面構え!
かっこいいですねぇ・・

>ファン・ダム
ジャンニ・スキッキ
小澤指揮の公演で見ることができました。
とっても楽しかったです。


投稿: edc | 2008年8月 5日 (火) 06時27分

euridiceさま、こんばんは。
いい面構えですよね、このにゃんこさんは。
ある程度距離をおいて睨み合いましたが、なかなかのものでした。
小沢さんのヘネシーオペラですね。ファン・ダムの生の舞台は未経験だけに羨ましいです。
このコンビ、オランダ人も上演しましたね。

投稿: yokochan | 2008年8月 5日 (火) 23時42分

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